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高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 日本老年医学会・2015・201 ページ · 老年・精神・薬物療法
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「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に該当する

薬剤の一般名と医薬品コード一覧

2018 年3 月12 日

利用にあたって

1.作成の経緯

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」が作成されて以降、高齢者の薬物療法に関する研究および診療などに利用されるようになった。なかでも「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」は、注意喚起や処方薬の見直しなどに利用されることも多い。しかしながら、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」には薬物の一般名にしても、すべて列挙されているわけではなく、利用者によって該当薬の選択が異なる事例もみられた。また、具体的にどの薬剤がリストに該当するのか明確にしてほしいという要望等も寄せられた。そこで、下記の研究班および研究協力者により、上梓されている薬剤で該当するものをすべて選択し、さらに電子的利用が可能なようにコード(薬価基準収載医薬品コードと国際的なATC コード)を付す作業を行った。最終的に、日本老年医学会ならびに日本老年薬学会の承認を経て、それぞれの学会ホームページに公開することとなった。

2.利用方法本一覧はエクセルで作成されており、研究者、薬局、保険者等による電子的な利用を念頭に作成された。その他、高齢者の服用薬が「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に該当するかどうか個々に確認したい場合に、マニュアルで照合することにも利用できる。

3.利用上の注意本一覧下段および「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に記載されているリストの<使い方>に従い、特に一般の方が目にしても自己中断をしないように十分な指導を行う点などに留意して利用いただきたい。また、本一覧上段にある<利用上の留意点>にも注意いただきたい。2017 年2 月時点に薬価収載されている医薬品を対象としており、参照いただいた時点で発売中止になっている可能性もある。そのような点を含めて、要修正箇所をみつけられたら、是非とも日本老年医学会あるいは日本老年薬学会事務局へ連絡いただきたい。皆様のご意見もいただきながら適宜アップデートしていく予定である。
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<作成メンバー>日本医療研究開発機構研究費「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関する研究」研究班■研究代表者秋下雅弘  東京大学医学部附属病院老年病科■分担研究者(五十音順)荒井秀典  国立長寿医療研究センター大井一弥  鈴鹿医療科学大学薬学部大河内二郎 介護老人保健施設竜間之郷大野能之  東京大学医学部附属病院薬剤部恩田光子  大阪薬科大学社会薬学・薬局管理学研究室小島太郎  東京大学医学部附属病院老年病科杉浦伸一  同志社女子大学薬学部医療薬学科髙瀬義昌  たかせクリニック溝神文博  国立長寿医療研究センター矢野育子  神戸大学医学部附属病院薬剤部山浦克典  慶應義塾大学薬学部医療薬学・社会連携センター山口 潔  ふくろうクリニック等々力楽木宏実  大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学

■研究協力者(五十音順)野村香織 東京慈恵会医科大学分子疫学研究部赤沢 学 明治薬科大学公衆衛生・疫学研究室石井伸弥 東京大学医学部附属病院老年病科(株)データホライゾン
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分類薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の場合は無記載)対象となる患者群(すべて対象となる場合は無記載)推奨される使用法該当する一般名(2017年2月)薬価基準収

載医薬品コードATCコード

オキシペルチン1179011 N05AE01クロカプラミン塩酸塩1179030 N05AXクロルプロマジンフェノールフタリン酸塩1171005 N05AA01クロルプロマジン塩酸塩1171001 N05AA01スピペロン1179015 N05ADスルトプリド塩酸塩1179032 N05AL02ゾテピン1179024 N05AX11チアプリド塩酸塩1190004 N05AL03チミペロン1179026 N05ADネモナプリド1179036 N05ALハロペリドール1179020 N05AD01ピパンペロン(フロロピパミド塩酸塩) 1179006 N05AD05ピモジド1179022 N05AG02フルフェナジンマレイン酸塩1172009 N05AB02プロクロルペラジンマレイン酸塩1172010 N05AB04プロペリシアジン1172005 N05AC01ブロムペリドール1179028 N05AD06ペルフェナジン1172006 1172007 N05AB03ペルフェナジンフェンジゾ酸塩1172004 N05AB03ペルフェナジンマレイン酸塩1172013 N05AB03モサプラミン塩酸塩1179035 N05AX10レボメプロマジンマレイン酸塩1172014 N05AA02アセナピンマレイン酸塩1179056 N05AH05アリピプラゾール1179045 N05AX12オランザピン1179044 N05AH03クエチアピンフマル酸塩1179042 N05AH04クロザピン1179049 N05AH02パリペリドン1179053 N05AX13ブロナンセリン1179048 N05AXペロスピロン塩酸塩水和物1179043 N05AXリスペリドン1179038 N05AX08アルプラゾラム1124023 N05BA12エスタゾラム1124001 N05CD04エチゾラム1179025 N05BA19オキサゾラム1124013 N05BAクアゼパム1124030 N05CD10クロキサゾラム1124014 N05BA22クロチアゼパム1179012 N05BA21クロラゼプ酸二カリウム1124015 N05BA05クロルジアゼポキシド1124028 N05BA02ジアゼパム1124017 N05BA01トフィソパム1124026 N05BA23トリアゾラム1124007 N05CD05ニトラゼパム1124003 N05CD02ニメタゼパム1124004 N05BAハロキサゾラム1124005 N05CD

定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限の使用にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリールなど)はパーキンソン病に禁忌。オランザピン、クエチアピンは糖尿病に禁忌。

長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限る

認知症患者全般

認知症患者全般

抗精神病薬定型抗精神病剤定型抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)

抗精神病薬非定型抗精神病剤非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザビン、アリピプラゾール、クエチアピン、ぺロスピロンなど)

睡眠薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジア

ゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン

系睡眠薬・抗不安薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬

「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に該当する薬剤の一般名と医薬品コード一覧<コード利用上の留意点> 2017年2月時点に薬価収載されている医薬品を対象とした。ただし、2017年3月末収載削除が予定されていたトリプロリジンは除外した。成分がWHO ATCに登録されていない場合は、上位の医薬品クラス((4th level, chemical subgroup)化学的分類)を記載した。感冒薬など短期使用の医薬品、注射剤、外用剤、は除外した。ガイドラインに掲載されたインスリンは、スライディングスケールによる投与方法に注意を払うという意図のため、コード化作業から除外した。配合剤のうち成分の組み合わせを表現したATCコードの特定ができない場合は※として、別途示した、
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フルジアゼパム1124019 N05BA17フルタゾラム1124024 N05BAフルトプラゼパム1124027 N05BAフルニトラゼパム1124008 N05CD03フルラゼパム塩酸塩1124002 N05CD01ブロチゾラム1124009 N05CD09ブロマゼパム1124020 N05BA08メキサゾラム1124025 N05BAメダゼパム1124021 N05BA03リルマザホン塩酸塩水和物1129006 N05CDロフラゼプ酸エチル1124029 N05BA18ロラゼパム1124022 N05BA06ロルメタゼパム1124010 N05CD06エスゾピクロン1129010 N05CF04ゾピクロン1129007 N05CF01ゾルピデム1129009 N05CF02アミトリプチリン塩酸塩1179002 N06AA09アモキサピン1179001 N06AA17イミプラミン塩酸塩1174006 N06AA02クロミプラミン塩酸塩1174002 N06AA04ドスレピン塩酸塩1179027 N06AA16トリミプラミンマレイン酸塩1174005 N06AA06ノルトリプチリン塩酸塩1179004 N06AA10ロフェプラミン塩酸塩1174004 N06AA07エスシタロプラムシュウ酸塩1179054 N06AB10パロキセチン塩酸塩水和物1179041 N06AB05フルボキサミンマレイン酸塩1179039 N06AB08塩酸セルトラリン1179046 N06AB06

スルピリドスルピリドスルピリド可能な限り使用を控える。使用する場合には50mg/日以下に。褐色細胞腫にスルピリドは使用禁忌スルピリド1179016 2329009 N05AL01

トリヘキシフェニジル塩酸塩1169001 1169002 N04AA01ビペリデン塩酸塩1162001 N04AA02ピロヘプチン塩酸塩1169003 N04AAプロフェナミンヒベンズ酸塩1163002 N04AA05プロフェナミン塩酸塩1163001 N04AA05

プロメタジン塩酸塩4413002 R06AD02

プロメタジンヒベンズ酸4413002 R06AD02

プロメタジンメチレンジサリチル酸塩4413002 R06AD02

マザチコール塩酸塩水和物1169004 N04AA10コルチゾン酢酸エステル2452001 H02AB10

デキサメタゾン2454002 H02AB02

トリアムシノロン2454003 H02AB08ヒドロコルチゾン2452002 H02AB09プレドニゾロン2456001 2456002 H02AB06ベタメタゾン2454004 H02AB01メチルプレドニゾロン2456003 H02AB04ベタメタゾン d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2459100 ※

消化管出血

慢性安定期のCOPD患者

抗うつ薬三環系抗うつ薬

睡眠薬

漫然と長期投与せず、減量、中止を検討する。少量の使用にとどめる

可能な限り使用を控える

長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限る

長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限る

アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミン

など、すべての三環系抗うつ薬

フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬

SSRIは慎重投与

可能な限り使用を控える。代替薬:L-ドパ

使用すべきでない増悪時、III期以上の症例や入院管理が必要な患者で、プレドニゾロン40mg/日を5日間投与が奨められる

抗うつ薬SSRIパロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、エスシタロプラム

抗パーキンソン病薬抗パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ビペリデン

ステロイド経口ステロイドプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンなど

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン

睡眠薬ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
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アスピリン3399007 B01AC06

クロピドグレル硫酸塩3399008 B01AC04シロスタゾール3399002 B01AC23チカグレロル3399011 B01AC24チクロピジン塩酸塩3399001 B01AC05プラスグレル塩酸塩3399009 B01AC22アスピリン ジヒドロキシアルミニウムアミノアセタート 炭酸マグネシウム3399100 ※アスピリン クロピドグレル硫酸塩(再掲) 3399101 ※アスピリン ランソプラゾール3399102 ※アスピリン(再掲) 1143001 3399007 N02BA01 B01AC06アスピリン ジヒドロキシアルミニウムアミノアセタート 炭酸マグネシウム(再掲) 1143010 3399100 ※アスピリン クロピドグレル硫酸塩(再掲) 3399101 ※アスピリン ランソプラゾール(再掲) 3399102 ※

アスピリン3399007 B01AC06

クロピドグレル硫酸塩3399008 B01AC04シロスタゾール3399002 B01AC23チカグレロル3399011 B01AC24チクロピジン塩酸塩3399001 B01AC05プラスグレル塩酸塩3399009 B01AC22アスピリン ジヒドロキシアルミニウムアミノアセタート 炭酸マグネシウム3399100 ※アスピリン クロピドグレル硫酸塩(再掲) 3399101 ※アスピリン ランソプラゾール3399102 ※アピキサバン3339004 B01AF02エドキサバントシル酸塩水和物3339002 B01AF03ダビガトランエテキシラートメタンスルホン塩酸3339001 B01AE07リバーロキサバン3339003 B01AF01ワルファリンカリウム3332001 B01AA03

アゾセミド2139008 C03CAトラセミド2139009 C03CA04ピレタニド2139007 C03CA03ブメタニド2139004 C03CA02フロセミド2139005 C03CA01エプレレノン2149045 C03DA04スピロノラクトン2133001 C03DA01

アルプレノロール塩酸塩2123002 C07AA01アロチノロール塩酸塩2123014 C07AAカルテオロール塩酸塩2123005 2149025 C07AA15ナドロール2123015 C07AA12

ニプラジロール2149021 C07AA

ピンドロール2123009 2149011 C07AA03ブフェトロール塩酸塩2123006 C07AAプロプラノロール塩酸塩2123008 2149014 C07AA05ウラピジル2149020 C02CA06テラゾシン塩酸塩水和物2149023 G04CA03ドキサゾシンメシル酸塩2149026 C02CA04ブナゾシン塩酸塩2149015 C02CAプラゾシン塩酸塩2149002 C02CA01

心房細動患者

上部消化管出血の既往のある患者

気管支喘息、COPD

アスピリン

ジゴキシン2113003 2113004 C01AA05

長期間(12ヶ月以上)の使用は原則として行わず、単独投与とする

長期間(12ヶ月以上)の使用は原則として行わず、単独投与とする

気管支喘息やCOPDではβ 1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。カルベジロールは、心不全合併COPD例で使用可(COPDの増悪の報告が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)

可能な限り使用を控える。代替薬: (高血圧)その他の降圧薬(前立腺肥大症)シロドシン、タムスロシン、ナフトピジル、植物製剤など

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)

利尿薬ループ利尿薬

アルドステロン拮抗薬

ジギタリスジゴキシン

スピロノラクトン、エプレレノン原則として使用せず、抗凝固薬の投与を考慮するべき

フロセミドなど

ジゴキシン0.125mg/日以下に減量する。高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮する

必要最小限の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する。

>0.125mg/日での

使用可能な限り使用を控える。代替薬として他の抗血小板薬(クロピドグレルなど)使用する場合は、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストールなどの胃保護薬を併用(適応症に注意)

適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う。特にK高値、腎機能低下の症例では少量の使用にとどめる

アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール抗血小板薬

アスピリン

複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)

複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用

β遮断薬非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール

α遮断薬受容体サブタイプ非選択的α1受容体遮断薬テラゾシン、プラゾシン、ウラピジル、ドキサゾシンなど
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d-クロルフェニラミンマレイン酸塩4419002 R06AB04アリメマジン酒石酸塩4413003 R06AD01クレマスチンフマル酸塩4419008 R06AA04クロルフェニラミンマレイン酸塩4419001 4419003 R06AB04ジフェンヒドラミン4411001 R06AA02シプロヘプタジン塩酸塩4419005 R06AX02ヒドロキシジンパモ酸塩1179019 N05BB01ヒドロキシジン塩酸塩1179005 N05BB01プロメタジン塩酸塩(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10プロメタジンヒベンズ酸(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10プロメタジンメチレンジサリチル酸塩(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10

ホモクロルシクリジン塩酸塩4419006 R06AE

ベタメタゾン d-クロルフェニラミンマレイン酸塩(再) 2459100 ※シメチジン2325001 A02BA01ニザチジン2325005 A02BA04ファモチジン2325003 A02BA03ラニチジン塩酸塩2325002 A02BA02ラフチジン2325006 A02BA08

ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩2325004 A02BA06

プロクロルペラジンマレイン酸塩(再掲) 1172010 N05AB04プロメタジン塩酸塩(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10プロメタジンヒベンズ酸(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10プロメタジンメチレンジサリチル酸塩(再掲) 4413002 R06AD02 D04AA10メトクロプラミド2399004 A03FA01

緩下薬酸化マグネシウム酸化マグネシウム腎機能低下高用量の使用は避ける。低用量から開始し、血清Mg値をモニターする。血清Mg値上昇時は使用を中止する代替薬:他の作用機序の緩下薬酸化マグネシウム2344002 2344009 A02AA02 A06AD02

アセトヘキサミド3961001 A10BB31グリクラジド3961007 A10BB09グリクロピラミド3961002 A10BBグリベンクラミド3961003 A10BB01グリメピリド3961008 A10BB12クロルプロパミド3961004 A10BB02トルブタミド3961006 A10BB03グリメピリド ピオグリタゾン塩酸塩3969101 A10BD06ブホルミン塩酸塩3962001 A10BA03メトホルミン塩酸塩3962002 A10BA02メトホルミン塩酸塩 アログリプチン安息香酸塩3969105 A10BD13メトホルミン塩酸塩 ビルダグリプチン塩酸塩3969104 A10BD08メトホルミン塩酸塩 ピオグリタゾン塩酸塩3969100 A10BD05ピオグリタゾン塩酸塩3969007 A10BG03ピオグリタゾン塩酸塩 アログリプチン安息香酸塩3969103 A10BD09ピオグリタゾン塩酸塩 グリメピリド(再掲) 3969101 A10BD06メトホルミン塩酸塩 ピオグリタゾン塩酸塩(再掲) 3969100 A10BD05アカルボース3969003 A10BF01ボグリボース3969004 A10BF03ミグリトール3969009 A10BF02ミチグリニドカルシウム水和物 ボグリボース3969102 ※イプラグリフロジン L-プロリン3969018 A10BKエンパグリフロジン3969023 A10BK03カナグリフロジン水和物3969022 A10BK02ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物3969019 A10BK01トホグリフロジン水和物3969021 A10BKルセオグリフロジン水和物3969020 A10BK

心不全患者、心不全既往者には使用しない。高齢者では、少量から開始し、慎重に投与する

腸閉塞などの重篤な副作用に注意する

すべてのSGLT2阻害薬可能な限り使用せず、使用する場合は慎重に投与する

可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では必要最小限の使用にとどめる。

可能な限り使用を控える

アカルボース、ボグリボース、ミグリトール可能な限り使用を控える

可能であれば使用を控える。代替薬としてDPP-4阻害薬を考慮

可能であれば使用を控える。高齢者に対して、メトホルミン以外は禁忌

すべてのH1受容体拮抗薬(第一世代)

SGLT2阻害薬

制吐薬制吐薬メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジン

スルフォニル尿素(SU)薬クロルプロパミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、グリメピリド

ブホルミン、メトホルミン

α-グルコシダーゼ阻害薬

ピオグリタゾンチアゾリジン薬

ビグアナイド薬

糖尿病薬

糖尿病薬

H2受容体拮抗薬H2受容体拮抗薬すべてのH2受容体拮抗薬

H1受容体拮抗薬(第1世代)第1世代H1受容体拮抗薬
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インスリンスライディングスケールによるインスリン投与すべてのインスリン製剤高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控えるスライディングスケール以外はインスリンは投与する-

オキシブチニン(経口)オキシブチニン可能な限り使用しない。代替薬として他のムスカリン受容体拮抗薬オキシブチニン塩酸塩2590005 G04BD04

イミダフェナシン2590013 G04BDソリフェナシンコハク酸塩2590011 G04BD08トルテロジン酒石酸塩2590012 G04BD07フェソテロジンフマル酸塩2590015 G04BD11プロピベリン塩酸塩2590007 G04BD06アセメタシン1145003 M01AB11アンピロキシカム1149030 M01ACアンフェナクナトリウム水和物1147006 M01ABイブプロフェン1149001 M01AE01

インドメタシン1145001 1145002 M01AB01

インドメタシンファルネシル1145005 M01AB01エトドラク1149032 M01AB08エモルファゾン1148004 N02BGオキサプロジン1149026 M01AE12ザルトプロフェン1149029 M01AE

ジクロフェナクナトリウム1147002 M01AB05

スリンダク1149015 M01AB02チアプロフェン酸1149025 M01AE11チアラミド塩酸塩1148001 N02BGナブメトン1149027 M01AX01ナプロキセン1149007 M01AE02

ピロキシカム1149017 M01AC01

ブコローム1149009 M01AXプラノプロフェン1149010フルフェナム酸アルミニウム1141004 M01AG03

フルルビプロフェン1149011 M01AE09

プログルメタシンマレイン酸塩1145004 M01AB14メフェナム酸1141005 M01AG01メロキシカム1149035 M01AC06モフェゾラク1149033 M01AX

ロキソプロフェンナトリウム水和物1149019 M01AE

ロルノキシカム1149036 M01AC05

1.使用をなるべく短期間にとどめる。2.中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールの併用を考慮3.中止困難例では、消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど) a. その場合も可能な限り低用量を使用b. 消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮

1.使用をなるべく短期間にとどめる。2.中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールの併用を考慮3.中止困難例では、消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど) a. その場合も可能な限り低用量を使用b. 消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮

すべてのNSAIDS NSAIDS非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

すべてのNSAIDs NSAIDs非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)低用量から使用前立腺肥大症の場合はα1受容体遮断薬との併用必要時、緩下剤を併用する

過活動膀胱治療薬

ムスカリン受容体拮抗薬ソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシン、塩酸プロピベリン、オキシブチニン経皮吸収型

[参考]特に慎重な投与を要する薬物のリスト(「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」より) <対象> 75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢慢性期、特に1か月以上の長期投与を基本的な適用対象とする。利用対象は、実地医家で、特に非専門領域の薬物療法を対象とする。薬剤師、服薬管理の点で看護師も利用対象とする。

<使い方> •「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」のフローチャートに従って使用する。•常に用量調整と注意深い経過観察を行い、薬物有害事象が疑われる場合は減量・中止を検討する。•一般の方が目にしても自己中断をしないように十分な指導を行う。•各ステップにおいて、個々の病態と生活機能、生活環境、意思・嗜好などを考慮して、患者・家族への十分な説明と同意のもと、最終的に直接の担当医が判断する。
p.8
安全な薬物療法

ガイドライン

◇ 編集 ◇

日本老年医学会日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班

の高者齢
p.9
作成メンバー

■   研究代表者

秋下雅弘東京大学大学院医学系研究科加齢医学■   分担研究者(五十音順)

荒井秀典国立長寿医療研究センター荒井啓行東北大学加齢医学研究所老年医学分野石井伸弥東京大学大学院医学系研究科加齢医学岩﨑 鋼社会医療法人将道会総合南東北病院江頭正人東京大学医学部附属病院教育・研修部大類 孝東北大学加齢医学研究所高齢者薬物治療開発寄附研究部門小島太郎東京大学大学院医学系研究科加齢医学鈴木裕介名古屋大学大学院医学系研究科地域包括ケアシステム学須藤紀子杏林大学医学部高齢医学高山 真東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科鳥羽研二国立長寿医療研究センター古田勝経国立長寿医療研究センター堀江重郎順天堂大学医学部泌尿器科学松井敏史杏林大学医学部高齢医学水上勝義筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ健康システム・マネジメント科学専攻楽木宏実大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学■   研究協力者(五十音順)

青木裕章順天堂大学医学部泌尿器科学猪阪善隆大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学竹屋 泰大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学冨田尚希東北大学加齢医学研究所老年医学分野溝神文博国立長寿医療研究センター

日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究 研究班および日本老年医学会・高齢者薬物療法のガイドライン作成のためのワーキンググループ
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■   査読者(学会・団体名五十音順) [全国老人保健施設協会] 大河内二郎 介護老人保健施設竜間之郷[日本高血圧学会]小原克彦愛媛大学[日本呼吸器学会]金子 猛横浜市立大学医学部呼吸器病学[日本骨粗鬆症学会]宗圓 聰近畿大学医学部奈良病院整形外科・リウマチ科[日本在宅医学会]山中 崇東京大学医学部在宅医療学拠点[日本消化器病学会]中島 淳横浜市立大学肝胆膵消化器病学[日本循環器学会]山下武志心臓血管研究所百村伸一自治医科大学さいたま医療センター[日本神経学会]浦上克哉鳥取大学武田 篤仙台西多賀病院中島健二鳥取大学神経内科(2015年9月13日より)冨本秀和三重大学神経内科(2015年9月13日より) [日本腎臓学会]柏原直樹川崎医科大学[日本糖尿病学会]鈴木 亮東京大学糖尿病代謝内科学[日本動脈硬化学会]木下 誠帝京大学内科学[日本東洋医学会]飯塚徳男山口大学医学部附属病院漢方診療部[日本泌尿器科学会]横山 修福井大学泌尿器科学[日本リウマチ学会]杉原毅彦東京都健康長寿医療センター膠原病リウマチ科[日本薬学会]鈴木洋史東京大学医学部附属病院薬剤部[日本老年精神医学会]角 徳文香川大学精神神経医学

■   作成相談者

吉田雅博国際医療福祉大学化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科
p.11
目次

I ガイドライン改訂にあたって ...................................................................................................... 6

II 高齢者薬物療法の注意点

1 薬物有害事象の回避 .................................................................................................................................... 12 2 服薬管理・支援と一元管理 ............................................................................................................... 17

III 高齢者の処方適正化スクリーニングツール ............................................. 22

「特に慎重な投与を要する薬物」のリスト「開始を考慮するべき薬物」のリストIV 領域別指針

1 精神疾患(BPSD、不眠症、うつ病) ....................................................................................... 40 2 神経疾患(認知症、パーキンソン病) ....................................................................................... 52 3 呼吸器疾患(COPD、肺炎) ............................................................................................................... 68 4 循環器疾患(抗不整脈薬、抗血栓薬、心不全) ............................................................ 76 5 高血圧 ........................................................................................................................................................................... 89 6 腎疾患(腎不全[CKD]) ........................................................................................................................ 95 7 消化器系疾患(便秘、GERD) ...................................................................................................... 101 8 糖尿病 ........................................................................................................................................................................ 112 9 脂質異常症 ......................................................................................................................................................... 117 10 泌尿器疾患(排尿障害[過活動膀胱、前立腺肥大症]) .................................... 120 11 筋骨格疾患(骨粗鬆症、関節リウマチ) .............................................................................. 130 12 漢方薬・東アジア伝統医薬品 ...................................................................................................... 139 13 在宅医療 ............................................................................................................................................................... 152 14 介護施設の医療 ............................................................................................................................................. 156 15 薬剤師の役割 ................................................................................................................................................... 165
p.12
I

ガイドライン改訂に

あたって
p.13
ガイドライン改訂にあたって

目的と経緯

本ガイドラインは、高齢者で薬物有害事象の頻度が高く、しかも重症例が多いことを背景として、高齢者薬物療法の安全性を高める目的で2005年に初めて作成された。今回はその10年振りの全面改訂で、この間に発表された「高齢者に対する適切な医療提供の指針」[1]の骨子も受けた改訂を目指した。2013年4月に、長寿科学総合研究事業「高齢者の薬物治療の安全性に関する研究(H25-長寿-一般-001)」研究班(平成27年に日本医療研究開発機構研究費へ移行)が日本老年医学会「高齢者薬物療法のガイドライン作成のためのワーキンググループ」を兼ねる形で作成グループが結成された。CQ(クリニカルクエスチョン)とキーワードの選定、検索式の設定による系統的レビューを行い、Minds2014で推奨されているGRADEシステムに準じた方法(表1)でガイドラインを策定することとした。特に推奨度の決定では、常識的なことは研究課題にならないというエビデンスの盲点と高齢者ではエビデンスが乏しい点を考慮して、エビデンスが不十分でも、推奨度を積極的に判定するべく研究グループ内で討議と投票を重ねた結果をコンセンサスとして取り入れた。また、安全性に主眼を置く点で治療ガイドラインとは異なる主旨のガイドラインであるが、有効性のエビデンスや疾患別ガイドラインも参照してリスク・ベネフィットバランスを検討するよう心がけた。

本ガイドラインの特徴として、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と「開始を考慮するべき薬物のリスト」の2つの薬物リストの作成が挙げられる。前者は、前回のガイドラインで「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と称したものの改訂版で、米国のBeers基準[2]、欧州のSTOPP(Screening Tool of Older personʼs Potentially inappropriate Prescriptions) [3,4]と対比される。欧州のグループはSTOPPと同時にSTART(Screening Tool to Alert doctors to the Right Treatment) [3,4]を発表しており、上記リスク・ベネフィットバランスの観点から今回は「開始を考慮するべき薬物のリスト」の作成を追加した。

領域の設定と系統的レビュー

高齢者の薬物療法で遭遇する頻度の高い疾患・病態に、特別な配慮が必要な医療現場を加えて、1)精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2)神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3)呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4)循環器疾患(血栓症、不整脈、心不全)、5)高血圧、6)腎疾患、7)消化器疾患(GERD、便秘)、8)糖尿病、9)脂質異常症、10)泌尿器疾患、11)筋・骨格疾患(骨粗鬆症、関節リウマチ)、12)漢方薬、13)在宅医療、14)介護施設の医療、15)薬剤師の役割の15領域を設定し、系統的レビューを行った。前回2005年のガイドラインと比べると、糖尿病、脂質異常症(以上2つは内分泌・代謝疾患から変更・分割)、腎疾患、筋・骨格疾患、在宅医療、介護施設の医療、薬剤師の役割を新設した。

I
p.14
ガイドライン改訂にあたって

I

文献データベースは、MEDLINE、Cochrane、医中誌(一部領域で不使用)の3つを使用した。既存の章については2005~2013年の論文を対象とし、新設章では1972~2013年(医中誌は収載開始の1983年以降、また薬剤師の役割はヒット件数が多く1989年以降)を対象として検索した。CQは各領域の病態、安全性および安全性と比較した治療効果をアウトカムとし、各領域に関連するキーワードのほか、高齢者を共通キーワードとして検索式を立てた。テストサーチの後、タイトルなどから論文の一次選択を行い、次に一次選択論文の抄録か

表1 本ガイドラインにおけるエビデンスの質・推奨度の評価方法●評価手順:総体エビデンスの質1. サマリー/薬剤リストに対する引用文献・参考文献を挙げる2. サマリー/薬剤リストごとに、グレードを下げる評価・上げる評価を行う※評価は研究デザインごとに行い、エビデンスの質はRCT「高」、観察研究「低」から開始● グレードを下げる5要因の評価:該当する場合、エビデンスの質を下げる● グレードを上げる3要因の評価:該当する場合、エビデンスの質を上げる3. グレードの上げ下げの結果から、最終的なエビデンスの質が決定研究デザインエビデンスの質(スタート地点)グレードを下げる

5要因の評価グレードを上げる

3要因の評価エビデンスの質(Quality of Evidence)

RCT高からスタートバイアスのリスク非一貫性非直接性不精確さ出版バイアス※RCTでは行わない高/中/低/不十分

観察研究低からスタートバイアスのリスク非一貫性非直接性不精確さ出版バイアス効果の程度が大きい用量・反応勾配すべての交絡因子バイアスのリスク:研究にバイアスのリスクがあるか非一貫性:研究によって治癒効果の推定値が大きく異なる・ばらつきがあるか非直接性:CQと評価される研究との間に臨床状況・集団・条件などの相違があるか不精確さ:その研究が十分なサンプルサイズ/イベント数を含んでいるか出版バイアス:専門家としての知見に基づいて評価(先行研究があれば、そこでの評価結果を用いる) ●評価手順:推奨度サマリーの内容、薬物リストについて、強く推すか・弱く推すかを“強”または“弱”で示す(「推奨する」、「推奨しない」の記載は行わない)。以下の決定要因について「はい」に該当する項目が多いほど、推奨度は「弱」になる。

推奨の強さの決定要因推奨度

望ましい効果と望ましくない効果のバランスが不確実強/弱エビデンスの質が低い患者の価値観や好みの不確実さ、あるいは相違正味の利益がコストや資源に見合うかどうか不確実

(参考 相原守夫:GRADEシステム. http://grade-jpn.com/)
p.15
ら採択論文を決定した。続いて、採択論文を精読の上、構造化抄録を作成し、それに基づいてCQと回答からなる箇条書きのサマリー、領域別の薬物リストおよび解説文を執筆した。検索対象時期以降に発表された論文など、担当者が執筆に必要と考えたハンドサーチ論文については、作成グループ内の承認を経て採用とした。一次選択論文数は合計7,377件(492件/領域)、採択論文数は合計2,098件(140件/領域)、ハンドサーチ論文は合計187件であった(表2)。以上の作業のうち、検索式の作成、文献検索、検索論文の管理等の補助作業は一般財団法人・国際医学情報センターに委託した。

査読から完成まで

以上の過程により作成された原案は、作成グループ内の相互査読、メール審議を含むグループ会議での議論を経て外部査読用原稿として修正された。この過程で、領域別の「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と「開始を考慮するべき薬物のリスト」を統合し、領域間の整合性を取る形で全体版の「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と「開始を考慮するべき薬物のリスト」を作成した。その後、領域別に各専門学会に査読を依頼し、査読意見を反映した修正と確認を経て、最終原案を作成した。平成27年4月1日から4月24日まで日本老年医学会のホームページでパブリックコメントを募集し、必要に応じて意見への回答と対応

表2 章別採択論文数

項目細目一次選択論文採択論文ハンドサーチ

論文

MEDLINE Cochrane 医中誌計MEDLINE Cochrane 医中誌計

1 精神疾患BPSD 212 202 251 665 91 38 23 152 31不眠150 65 212 427 45 14 25 84うつ167 172 160 499 61 50 7 118 2 神経疾患抗認知症薬216 143 359 40 37 46 123 47パーキンソン病147 122 269 45 47 52 144 3 呼吸器疾患肺炎、COPD 197 102 120 419 16 9 7 32 14 4 循環器疾患抗血栓薬、抗不整脈薬169 136 162 467 51 25 0 76 13心不全薬232 146 336 714 50 29 14 93 5 高血圧139 150 44 333 53 38 16 107 2 6 腎疾患CKD 86 99 116 301 22 36 15 73 4 7 消化器疾患GERD、便秘など105 51 63 219 83 36 44 163 27 8 糖尿病155 136 291 41 42 83 3 9 脂質異常症177 125 302 139 57 196 3 10 泌尿器疾患164 144 110 418 164 23 20 207 17 11 筋・骨格疾患骨粗鬆症、RA 235 168 313 716 71 26 14 111 12 12 漢方薬241 60 202 503 45 12 0 57 7 13 在宅医療92 65 57 214 25 22 19 66 1 14 介護施設の医療77 17 52 146 77 17 37 131 4 15 薬剤師の役割43 32 40 115 43 31 8 82 2総計3,004 2,135 2,238 7,377 1,162 589 347 2,098 187採択論文がすべて本文に引用されたわけではない。引用文献数については各章の本文を参照。
p.16
ガイドライン改訂にあたって

Iしたガイドラインの修正を行った。なお、パブリックコメントのまとめと回答は日本老年医学会のホームページに公開した。

利益相反(COI)の確認、公開とエビデンスの質および推奨度の決定への配慮

COIに関しては、日本内科学会および関連学会の「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」に基づいて作成された日本老年医学会のCOIの細則(平成24年6月28日改正版)に沿って、作成メンバー、査読者、作成相談者全員より高齢者の薬物療法に関与する企業との間の経済的関係につき、下記の基準で利益相反状況の申告を得た。(1)委員ならびにその配偶者、一親等の親族が個人として定められた基準の報酬を得た企

業・団体役員報酬など(年間100万円以上)、株式(年間100万円以上または当該株式の5%以上保有)、特許使用料(年間100万円以上)、講演料(年間50万円以上)、原稿料(年間50万円以上)、研究費(治験、共同研究、受託研究など、年間200万円以上)、旅費・贈答品など(5万円以上) (2)委員の所属部門と何らかの産学連携活動を行っている企業・団体

奨学(奨励)寄付金(年間200万円以上)、企業などが提供する寄付講座への所属

日本老年医学会COI委員会委員長が全員の申告内容を確認し、該当がある申告内容を無記名で抽出した。次いで、該当がある申告内容のリストをCOI委員会(申告者を除く)で審査し、ガイドライン作成の上で申告内容に問題がないことを確認した。

また、薬物リストおよび各領域のサマリーにおけるエビデンスの質と推奨度の決定に際しては、各項目に関連するCOIの該当がある作成メンバーはその議決に加わらないこととし、議決に参加したメンバーの8割以上の承認をもって決定とした。

ガイドラインにおけるCOI公開方法としては、他学会のガイドラインを参考に、申告のあった企業名を下記の通り公開する。対象期間は、作成メンバーについては作成作業を開始した2013年の前年、2012年1月1日から2014年12月31日の3年間、査読者については査読を行った2015年の前年、2014年1月1日から2014年12月31日の1年間、作成相談者については相談を始めた2014年の前年、2013年1月1日から2014年12月31日の2年間とした。企業名は2015年4月現在の名称とした(五十音順)。なお、中立の立場にある出版社等の企業・団体は含まない。

記

(1)委員ならびにその配偶者、一親等の親族が個人として定められた基準の報酬を得た企

業・団体旭化成ファーマ(株)、あすか製薬(株)、アステラス製薬(株)、アストラゼネカ(株)、アボットジャパン(株)、(株)イービーエムズ、エーザイ(株)、MSD(株)、大塚製薬(株)、小野薬品工業(株)、キッセイ薬品工業(株)、杏林製薬(株)、協和発酵キリン(株)、グラクソ・スミスクライン(株)、興和創薬(株)、小林製薬(株)、塩野義製薬(株)、(株)資生堂、シュプ
p.17
リンガー・ジャパン(株)、第一三共(株)、大正製薬(株)、大正富山医薬品(株)、大日本住友製薬(株)、大鵬薬品工業(株)、武田薬品工業(株)、田辺三菱製薬(株)、中外製薬(株)、(株)ツムラ、帝人ファーマ(株)、日本イーライリリー(株)、日本新薬(株)、日本光電工業(株)、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)、ノバルティスファーマ(株)、バイエル薬品(株)、久光製薬(株)、ファイザー(株)、フェリング・ファーマ(株)、ブリストル・マイヤーズ(株)、持田製薬(株) (2)委員の所属部門と何らかの産学連携活動を行っている企業・団体

旭化成ファーマ(株)、アステラス製薬(株)、アストラゼネカ(株)、エーザイ(株)、MSD(株)、大塚製薬(株)、小野薬品工業(株)、キッセイ薬品工業(株)、協和発酵キリン(株)、グラクソ・スミスクライン(株)、塩野義製薬(株)、スギホールディングズ(株)、第一三共(株)、大日本住友製薬(株)、大鵬薬品工業(株)、武田薬品工業(株)、田辺三菱製薬(株)、中外製薬(株)、(株)ツムラ、帝人ファーマ(株)、東和薬品(株)、日本セルヴイエ(株)、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)、ノバルティスファーマ(株)、ファイザー(株)

文献

[1] 厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「高齢者に対する適切な医療提供に関する研究」研究班.高齢者に対する適切な医療提供の指針.日老医誌 2014; 51: 89-96. [2] American Geriatrics Society 2012 Beers Criteria Update Expert Panel: American Geriatrics Society updated Beers Criteria for potentially inappropriate medication use in older adults. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 616-31. [3] Gallagher P, Ryan C, Byrne S, et al: STOPP (Screening Tool of Older Person's Prescriptions) and START (Screening Tool to Alert doctors to Right Treatment). Consensus validation. Int J Clin Pharmacol Ther 2008; 462: 72-83. [4] O'Mahony D, O'Sullivan D, Byrne S, et al: STOPP/START criteria for potentially

inappropriate prescribing in older people: version 2. Age Ageing 2015; 44: 213-8.
p.18
II

高齢者薬物療法の注意点
p.19
薬物有害事象の回避

高齢者薬物療法の注意点

1

高齢者における薬物有害事象の頻度と特徴

高齢者では、若年者に比べて薬物有害事象(adverse drug events:広義の副作用。薬物アレルギーなど確率的有害事象のほかに、薬効が強く出すぎることによって起こる有害事象や血中濃度の過上昇によってもたらされる臓器障害なども含む)の発生が多い。急性期病院の入院症例では、高齢者の6~15%に薬物有害事象を認めており[1~3]、60歳未満に比べて70歳以上では1.5~2倍の出現率を示す。また、米国のナーシングホームでは、1年当たり15~ 20%の薬物有害事象出現率であった[2]。外来症例では、自己申告あるいはカルテ調査といった手法に頼らざるを得ないが、それでも高齢者では、1年当たり10%以上の薬物有害事象が出現するとされる[2]。

高齢者の薬物有害事象は、精神神経系や循環器系、血液系などの多臓器に出現し、重症例の多いことが特徴である[1]。高齢入院患者の3~6%は薬剤起因性であり[4]、長期入院の要因ともなる[5]。

高齢者の疾患・病態上の特徴の多くが薬物有害事象につながるが(表1)、特に、薬物動態の加齢変化に基づく薬物感受性の増大と、服用薬剤数の増加が有害事象増加の二大要因である。

表1 高齢者で薬物有害事象が増加する要因多くの因子が高齢者における薬物有害作用増加に関連しており、表にまとめた。そのうち最も重要なのは、薬物動態の加齢変化に基づく薬物感受性の増大と、服用薬剤数の増加である。

疾患上の要因複数の疾患を有する→多剤併用、併科受診慢性疾患が多い→長期服用症候が非定型的→誤診に基づく誤投薬、対症療法による多剤併用機能上の要因臓器予備能の低下(薬物動態の加齢変化)→過量投与認知機能、視力・聴力の低下→アドヒアランス低下、誤服用、症状発現の遅れ社会的要因過少医療→投薬中断

薬物動態と薬力学の加齢変化

薬物の血液・組織濃度の変化、つまり薬物動態(pharmacokinetics;PK)と組織レベルでの反応性(薬力学、pharmacodynamics;PD)が薬効を左右する。薬物動態は、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)のADMEと略称されるステップにより規定され、生理機能の加齢変化に伴って以下のように影響を受ける。

II
p.20
高齢者薬物療法の注意点1薬物有害事象の回避

II

● 薬物吸収

消化管機能は加齢により低下するが、鉄やビタミン剤などを除き、加齢による薬物吸収への影響は少ない。● 薬物分布

細胞内水分が減少するため、水溶性薬物の血中濃度が上昇しやすい。逆に脂肪量は増加するため、脂溶性薬物は脂肪組織に蓄積しやすい。また、血清アルブミンが低下すると、薬物のタンパク結合率が減少し、総血中濃度に比して遊離型の濃度が上昇することに注意が必要である。● 薬物代謝

代謝は主に肝臓で行われ、肝血流、肝細胞機能の低下により薬物代謝は加齢とともに低下する。特に、肝代謝率の高い薬物では血中濃度が上昇しやすい。● 薬物排泄

排泄は主に腎臓から尿中へ行われるが、薬物によっては肝臓から胆汁中へ排泄される。腎血流量は加齢により直線的に低下するため、腎排泄型の薬物では血中濃度が増加する。閉塞性黄疸では胆汁排泄型の薬物は禁忌である。● 薬力学

血中濃度は同じでも加齢に伴い反応性が変化する薬物がある。β遮断薬やβ刺激薬に対する感受性低下、ベンゾジアゼピンなどの中枢神経抑制薬、抗コリン系薬物に対する感受性亢進などが挙げられる。● 薬物相互作用

特に薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)を介した相互作用が問題となることが多い。CYPには多くのタイプがあるが、CYPにより代謝される薬物と、同一のCYPの活性を阻害あるいは誘導する薬物との併用により代謝が影響を受け、効果増強や効果減弱を引き起こすことがあるため注意が必要である。

投与量の調節

先に述べたような薬物動態の加齢変化の結果、高齢者では代謝低下による最大血中濃度(Cmax)の上昇や排泄低下による半減期(t1/2)の延長から薬物血中濃度が上昇しやすい。肝代謝能をみる簡便な臨床検査はない。腎排泄能はクレアチニンクリアランス(Ccr)または推算糸球体濾過量(eGFR)がよい指標になるが、多くの薬剤添付文書ではCcrが推奨されている。ただ、Cockcroft & Gault式による推定CcrおよびeGFRは、サルコペニアなど筋肉量の少ない場合には腎機能を過大評価する可能性があるため、シスタチンCを用いた推算式が有用である。なお、eGFR(mL/min/1.73m2)は平均的な体格として算出されているため、高齢者のように体格が小さい場合は、個々の患者の体表面積(A)に基づいた値(eGFR×A/1.73)に修正する必要がある。

実際の投与に際しては、腎機能や体重などから投与量を設定するとともに、高齢者では少量(一般成人量の1/3~1/2程度)から開始して、効果と有害事象をチェックしながら増量
p.21
する心がけが重要である(表2)。ただ、肺炎などの急性病態は例外で、最初から十分量を投与しないと治療のタイミングを失うことに留意する。薬物によっては血中濃度をモニターしながら投与量を決定する。長期投与中に腎機能や肝機能の変化から薬物中毒が出現してくる場合もあり、定期観察と投与量の見直しは不可欠である。つまり、高齢者で長年同じ薬剤を使用している場合、その間に代謝・排泄能が低下していることを考慮して、減量や薬物の変更を行うことも有害事象の予防には大切である。また、薬物同士の相互作用により、薬物動態や反応性が変化することがあるので、処方変更の際には効果がこれまでより強く出る、あるいは逆に弱くなることがある。とにかくよく知らない薬物の処方に際しては、必ず添付文書で注意事項や代謝・排泄経路を確認する。

多剤併用(polypharmacy)の問題点

一疾患当たりの処方薬物数は年齢でそれほど変化しないようだが、高齢者は多病ゆえに多剤併用になりやすい。老年科外来の多施設調査[6]では平均4.5種類、レセプト調査[7]では70歳で平均6種類以上服用していた。では、多剤併用にどのような問題があるのだろうか?まず明らかなのは薬剤費の増大であり、自己負担分の薬剤費を支払う患者側にとっても、国民医療費のレベルからも重要である。同時に、服用する(あるいはさせる)手間という意味でのQOLの問題も無視できない。高齢者で、より問題が大きいのは、薬物相互作用および処方・調剤の誤りや飲み忘れ・飲み間違いの発生確率増加に関連した薬物有害事象の増加である。有害事象に直接つながらなくても、多剤処方に起因する処方過誤や服薬過誤は医療管理上問題である。

薬剤数とこれらの問題との関係は本来連続的であり、何剤から多剤と呼ぶかについて厳密な基準はない。また、1種類でも服用回数や1回の服用錠数が多ければ影響は大きくなる。しかし、高齢入院患者で薬剤数と薬物有害事象との関係を解析した報告[8]によると、6種類以上で薬物有害事象のリスクは特に増加するようである(図1)。また、外来患者で薬剤数と転倒の発生を解析した研究[9]では、5種類以上で転倒の発生率が高かった。これらの結果と高齢者に対する処方の実態から考えると、5~6種類以上を多剤併用の目安と考えるのが妥当であろう。海外では5種類以上をpolypharmacyと定義する研究が多い。

表2 薬物動態からみた対処法薬物動態の加齢変化の結果、高齢者では半減期(t1/2)の延長や最大血中濃度(Cmax)の増大が起こりやすく、総じて薬効が強く出ることが問題となる場合が多い。投薬に際しては、このような高齢者の特性を理解して処方量を調節する必要がある。最も重要な点は、少量投与、できれば成人常用量の1/2〜1/3から開始し、徐々に増量する心がけである。最大血中濃度の増加→投与量を減らす

半減期の延長→投与間隔を延長する臓器機能(腎、肝)の測定血中濃度の測定・少量投与から開始する・長期的には減量も考慮
p.22
高齢者薬物療法の注意点1薬物有害事象の回避

II

多剤併用の対策

まず、多剤併用を回避するような処方態度を心がけることが大切である。表3に基本的考え方を示す。若年成人や前期高齢者で示された予防医学的エビデンスを、目の前の後期高齢者や要介護高齢者に当てはめることは妥当か? ほかに良い薬がないという理由で、症状の改善がみられないのに漫然と継続していないか? 患者の訴えに耳を傾けるのではなく、それほど効くとも思われない薬を処方することで対処していないか? 食事、運動や睡眠などの生活習慣に見直す点はないか? 特に考慮すべき点は、薬剤の優先順位である。

例えば10種類の薬剤を服用している患者がいれば、理論的には1~10番まで優先順位があるはずであり、本来、主治医は優先順位を決定できなければならない。そのためには、日

図1 多剤処方と薬物有害事象および転倒の発生リスク

(Kojima T, et al: Geritr Gerontol Int 2012; 12:

425-30.より引用) (Kojima T, et al: Geriatr Gerontol Int 2012; 12:

761-2.より引用)

(%)

(%)

1)薬物有害事象の頻度2)転倒の発生頻度

1~3 4~5 6~7

薬剤数(種類)

東大病院老年病科入院データベース(n=2,412)都内診療所(n=165)

薬剤数(種類)

8~9 10以上0 1~2 3~4 5~6 7~8 9以上

* * * * * *

20

10

0 60 40

20

0

表3 多剤併用を避けるために多剤併用はどのようにしたら改善できるであろうか?ただの数合わせで、処方薬を減らすことは論外である。表に示した点にしたがって、各薬剤の適応を再考してみることを勧める。特に、処方薬剤に優先順位をつけて、必要性の低いものを中止する努力が最も求められる。予防薬のエビデンスは妥当か?

対症療法は有効か?薬物療法以外の手段は?優先順位は?
p.23
頃から患者としっかり向き合い、病態だけでなく生活状況まで把握しておく必要がある。そして優先順位に基づいて、もし処方薬を6種類までに抑えたいと考えたら、7番目以下の薬剤が見直しの対象ということになる。有害事象らしいが原因薬剤の特定が困難な場合や、服薬管理能力が低下している(あるいは低下しそうな)場合など、とにかく薬剤数を減らしたいときには、まず症例に基づき、次に本ガイドラインの特に慎重な投与を要する薬物のリストなどを参考にして、優先順位を判断することが望ましい。

薬剤を中止する場合には、投与する場合と同様、少しずつ慎重に行うことがポイントである。一気に何種類も中止すると、病状が変化した場合にどの薬剤が関係していたのか判断が難しくなるし、有害事象の出現リスクも高くなる[1]。

最後に、薬物有害事象の予防・診断・治療のための注意点を表4にまとめた。

引用文献

[1] 鳥羽研二, 秋下雅弘, 水野有三ほか: 薬剤起因性疾患. 日老医誌 1999; 36: 181-5. [2] Rothschild JM, Bates DW. Leape LL: Preventable medical injuries in older patients. Arch Intern Med 2000; 160: 2717-28. [3] 秋下雅弘, 寺本信嗣, 荒井秀典ほか: 高齢者薬物療法の問題点:大学病院老年科における薬物有害作用の実態調査. 日老医誌 2004; 41: 303-6. [4] Lazarou J, Pomeranz BH, Corey PN: Incidence of adverse drug reactions in hospitalized patients: a meta-analysis of prospective studies. JAMA 1998; 279: 1200-5. [5] Kojima T, Akishita M, Kameyama Y, et al: Factors associated with prolonged hospital stay in a geriatric ward of a university hospital in Japan. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 1190-1. [6] Suzuki Y, Akishita M, Arai H, et al: Multiple consultations and polypharmacy of patients attending geriatric outpatient units of university hospitals. Geriatr Gerontol Int 2006; 6: 244-7. [7] 寳滿誠, 松田晋哉: 福岡県の某健康保険組合における老人保健制度医療対象レセプトの解析. 外来診療における個人単位分析,多科・重複受診に関するレセプト解析. 日本公衆衛生雑誌 2001; 48: 551-9. [8] Kojima T, Akishita M, Kameyama Y, et al: High risk of adverse drug reactions in elderly patients taking six or more drugs: analysis of inpatient database. Geriatr Gerontol Int 2012; 12: 761-2. [9] Kojima T, Akishita M, Nakamura T, et al: Polypharmacy as a risk for fall occurrence in geriatric

outpatients. Geriatr Gerontol Int 2012; 12: 425-30.

表4 薬物有害事象の予防・診断・治療のための注意点1.危険因子□ 多剤服用(6種類以上)、他科・他院からの処方□ 認知症、視力低下、難聴などコミュニケーション障害□ 抑うつ、意欲低下、低栄養□ 腎障害、肝障害(慢性肝炎、肝硬変) 2.定期モニター□ 薬剤服用(アドヒアランス)、薬効の確認□ 一般血液検査:肝障害、腎障害、白血球減少など□ 薬物血中濃度(必要なもの) 3.診断□  意識障害、食欲低下、低血圧など、すべての新規症状について、まず薬物有害作用

を疑う□  新規薬剤服用に伴う皮疹、呼吸困難では薬物アレルギーを疑う

4.治療□ 原因薬剤の中止・減量;場合によってはすべての薬剤を中止して経過を観察。中止

により原病が悪化することがあり注意□  薬物療法:症候が重篤な場合、対症療法として行う

薬剤性胃炎に対しては、予防的投薬も考慮
p.24
高齢者薬物療法の注意点2服薬管理・支援と一元管理

II

高齢者薬物

高齢者薬物

II

II

服薬管理・支援と一元管理

高齢者薬物療法の注意点

2 II

服薬管理能力の把握

高齢者では、多剤併用に服薬管理能力の低下が加わって、服薬アドヒアランスが低下しやすい。いくら良い薬を処方しても、きちんと服用しなければ十分な効果が得られないばかりか、中途半端な服薬は薬物有害事象の危険にもつながる。

高齢者では、多剤服用、認知機能障害、うつ状態、自覚的健康感が悪いこと、医療リテラシーの低いこと、独居などが、アドヒアランスの低下と関連することが報告されている[1~3]。ほかにも、難聴は用法や薬効に対する理解不足、視力低下や手指の機能障害はシートからの薬剤の取りこぼし、紛失を招きやすいので、服薬管理能力に直結する老年症候群として主疾患にとらわれず、把握しておく必要がある。さらに、高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment;CGA)を用いて、認知機能や日常生活動作(ADL)、生活環境を評価することが服薬管理能力の把握につながる。

服薬管理能力の低下は、認知症で最も早期にみられる症状の1つであるが、外来の会話から、このレベルの認知機能障害に気づくのは難しい。高齢者で飲み残しが多そうな場合には、認知機能のスクリーニング検査だけでも行うとよい。さらに、残薬を全部外来に持参させてカウントし、あるいは家族に生活状況と残薬をチェックしてもらって、服薬状況を把握する必要がある。期待した薬効の得られない場合にも、薬剤を追加する前にきちんと服薬しているかどうかを確認するべきである。

手段的ADLの評価に服薬管理が含まれ、自立/介助を要する/全面的に依存の3段階で評価するが、自己管理していることと本当にできることは異なるので注意を要する。基本的ADLが低下すると、当然、服薬管理にも影響してくるので、基本的ADLの評価も重要である。また、生活環境の評価は、服薬介助を含めた介護力、薬剤費を支払う経済力などを把握するのに必要である。

服薬管理を考えた処方の工夫

服薬管理能力に問題があると考えられる症例では、服用状況を確認しながら薬剤と服用方法を決定していく慎重な態度が望まれる。現在は服薬管理能力が保たれ、一見アドヒアランスに問題がない症例でも、表1[4]のような処方の工夫をすることで、服薬を簡便にし、将来的なアドヒアランス低下を防ぐことにつながると考えられる。

各系統の薬剤はなるべく単剤で、しかも1日1回の服用ですむようにすることが望ましい。まず、第一選択薬を十分量まで、しかし有害作用の発現には注意しつつ使うこと。血圧など各疾患のコントロールが不十分でも、中途半端な用量で、すぐ併用に移行するのは避けるべきである。増量の効果が期待できそうにないなら、むしろ同系統の他剤か他系統の
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薬剤に切り替えてみる。それらの試みの後でも、病状管理が不十分であれば併用を考慮するが、合剤を使うことで実質的に1剤にすることも可能である。合剤と各成分を2剤として服用した場合を比べた無作為比較試験のメタアナリシス[5]では、合剤により26%のアドヒアランス改善が認められると報告されているが、その効果は併用薬が多いほど大きいようであり[6]、多剤併用例では特に導入を考慮する。また、病状が安定していれば、2剤を1剤にまとめる、1日2回の服用を1日1回にするなど、服用の簡便化を試す価値は十分ある。その1回も、介護者の都合に合わせて朝や夜、あるいはヘルパーの来る昼にまとめるといった検討をしたい。

一包化調剤は、自己管理でアドヒアランスや服薬管理能力に問題がある場合だけでなく、介護者が服薬管理する場合にも手間を省く意味で有効である。この際も、なるべく服用回数を減らす工夫をする。

服薬管理と服薬支援:医薬協働

外来診察だけで、服薬状況を把握するのは容易でない。アドヒアランスの確認には、患者にすべての残薬を持参していただき、カウントするのが本来の方法である。しかし、現実にはそのような時間的余裕はない。また、誰にでも多少の飲み忘れはあるが、どの薬はいくつ余っているということを自分から申告する患者はほぼ問題ない。アドヒアランスが著しく低下している患者は、認知機能障害のため、飲み忘れが頻繁にあってもその自覚がない、あるいは飲むと体調が悪い、飲む前から副作用が心配といった理由で、自己中断しているような患者である。こういった状況が、患者から医師に直接伝えられることはまれであるが、家族や介護士、看護師、薬剤師には、あるとき発見され、またはふと漏らすことがある。その情報をキャッチできるよう、日頃からメディカルスタッフや家族と良好な関係を築いておくことが重要である。

そのためにも、メディカルスタッフから情報をもらうだけでなく、医師からも積極的に

表1 アドヒアランスをよくするための工夫服薬数を少なく降圧薬や胃薬など同薬効2〜3剤を力価の強い1剤か合剤にまとめる服用法の簡便化1日3回服用から2回あるいは1回への切り替え食前、食直後、食後30分など服薬方法の混在を避ける介護者が管理しやすい服用法出勤前、帰宅後などにまとめる剤形の工夫口腔内崩壊錠や貼付剤の選択一包化調剤の指示長期保存できない、途中で用量調節できない欠点あり緩下剤や睡眠薬など症状によって飲み分ける薬剤は別にする服薬カレンダーの利用(日本老年医学会: 健康長寿診療ハンドブック. 2011.より引用)
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高齢者薬物療法の注意点2服薬管理・支援と一元管理

II

病態や処方理由などの医学的情報を伝える必要がある。処方情報を共有するツールとして「お薬手帳」があるが、処方変更の理由や病名、検査値などをお薬手帳に記入すると、調剤や疑義照会、薬局での指導に随分役に立つ。残薬も、診察室より薬局に持参するほうが患者も気楽なので、そのように指示して残薬カウントを薬剤師に依頼するという方法もある。図1に示すような飲み忘れを防ぐための支援ツールも、アドヒアランス低下が心配な症例では積極的に導入するべきだが、医師も薬剤師も他人任せにせず、自ら働きかけてほしい。

図1 飲み忘れを防ぐための支援ツールアドヒアランスに問題がある症例では、処方薬と服用回数をなるべく少なくするともに、図のように一包化調剤を指示して服薬の簡便化を図る。また、患者に対しても1食事と一緒に薬を準備する、2血圧測定したら降圧薬を服用するなど、健康管理とセットにする、3 ピルケースを用意し、外出に持参する、といった指導を行うほか、日常生活機能障害のある症例では、家族・介護者を含めた指導を行い、4服薬カレンダーや服薬チェックシートの利用、5家族による服薬確認、を取り入れていくことが必要である。

1.一包化

2.服薬カレンダー3.お薬ケース
p.27
一元管理に向けて

疾患別専門医療を受けることが、最善の医療のように思われがちであるが、高齢者にとっては必ずしもそうではない。過少でも過剰でもない適切な医療、および残された期間の生活の質(QOL)を大切にする医療が最善の医療であると、日本老年医学会の立場表明[7]でも述べられている。そのような最善の医療を目指した適切な薬剤変更は、多くの診療科に受診していては困難である。要介護あるいはフレイルな高齢者では、かかりつけ医がハンドルを握り、徐行してでも安全運転を目指すことが大切なのは自明である。処方を一元管理し、治療目標や生活状況を考えながら治療薬の取捨選択を行い、必要な場合に疾患別専門医に意見を求めればよいのである。

処方を一元化するのが困難な場合、せめて調剤薬局は一元化したい。かかりつけ薬局で患者の処方情報はすべて把握し、重複処方や併用禁忌、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」該当薬等をチェックし、疑義照会が適切にできるような体制にすべきである。服薬指導や残薬確認、お薬相談もかかりつけ薬局ならではの重要な機能である。薬局の一元化ができない場合の最後の砦が「お薬手帳」であるが、お薬手帳すら何種類も持っている高齢者がいる。一元化と早期の電子化が渇望される。

引用文献

[1] Gellad WF, Grenard JL, Marcum ZA: A systematic review of barriers to medication adherence in the elderly: looking beyond cost and regimen complexity. Am J Geriatr Pharmacother 2011; 9: 11-23. [2] Campbell NL, Boustani MA, Skopelja EN, et al: Medication adherence in older adults with cognitive impairment: a systematic evidence-based review. Am J Geriatr Pharmacother 2012; 10: 165-77. [3] Kuzuya M, Enoki H, Izawa S, et al: Factors associated with nonadherence to medication in community-dwelling disabled older adults in Japan. J Am Geriatr Soc 2010; 58: 1007-9. [4] 日本老年医学会: 健康長寿診療ハンドブック. 2011. [5] Bangalore S, Kamalakkannan G, Parkar S, et al: Fixed-dose combinations improve medication compliance: a meta-analysis. Am J Med 2007; 120: 713-9. [6] Gerbino PP, Shoheiber O: Adherence patterns among patients treated with fixed-dose combination versus separate antihypertensive agents. Am J Health Syst Pharm 2007; 64: 1279- 83. [7] 日本老年医学会:「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」.日老医誌2012;

49: 381-6.
p.28
III

高齢者の処方適正化スクリーニングツール
p.29
「特に慎重な投与を要する薬物」 のリスト「開始を考慮するべき薬物」のリスト

高齢者の処方適正化スクリーニングツール

III

高齢者の薬物有害事象を防ぐための一般的注意点や領域別指針が本ガイドラインには記載されている。そのなかで、主要な薬物および使用法については、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と、「開始を考慮するべき薬物のリスト」に列記した。

リストの意味

「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の目的は、まず薬物有害事象の回避であり、次いで服薬数の減少に伴うアドヒアランスの改善である。リストの薬物は、系統的レビューの結果に基づいて、高齢者で重篤な有害事象が出やすい、あるいは有害事象の頻度が高いことを主な選定理由とし、高齢者では安全性に比べて有効性に劣る、もしくはより安全な代替薬があると判断された薬物である。一部の薬物については、十分なエビデンスがなくても、各種ガイドラインを参照しつつリスク・ベネフィットバランスを検討し、作成グループのコンセンサスによってリストに含めた。逆に、明らかに問題のある薬物でも、実際にほとんど使われないものはリストから省いた。リスト以外の薬物でも、高齢者では有害事象が出やすいことに注意するべきである。「開始を考慮するべき薬物のリスト」の目的は、高齢者に対する過少医療の回避である。そのため、系統的レビューの結果から高齢者でも有用性が高いと判断されるにもかかわらず、医療現場での使用が少ない傾向にあると判断された薬物を主に選定した。対象「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」では、高齢者でも特に薬物有害事象のハイリスク群である75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル*1[1]あるいは要介護状態の高齢者を主な対象とした。また、急性期~亜急性期は専門治療が必要な場合が多く、薬物療法にも裁量の余地が大きいため、慢性期、特に1カ月以上の長期投与を基本的な適用対象とした。ただし、前期高齢者に対する投与や短期投与であっても、リストの薬物により有害事象の危険が高まることは確かであり、十分に注意する必要がある。「開始を考慮するべき薬物のリスト」は、高齢者全般を対象とするが、各薬物の推奨される使用法に記載された病態と注意事項を参考に個々に適応を検討する。

リストおよび本ガイドラインは実地医家向けに作成されており、主たる利用対象は実地医家である。特に非専門領域の薬物療法に利用することを対象としている。また、医師とともに薬物療法に携わる薬剤師、服薬管理の点で看護師も利用対象となる。*1 フレイル(frailty):加齢に伴い、ストレスに対する脆弱性が亢進した状態で、筋力低下、動作緩慢、易転倒性、低

栄養のような身体的問題、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を抱えた要介護状態の前段階を指す。
p.30
高齢者の処方適正化スクリーニングツール

III

図1  「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の使用フローチャート1

リストにある薬物を処方している

推奨される使用法の範囲内か範囲内

疑わしい範囲外

困難非薬物療法があれば導入

慎重に継続

減量・中止は可能か可能減量・中止

ある有効

有効*

効果不十分

代替薬に変更代替薬の継続

慎重に継続新規薬剤への切り替え

治療歴における有効性と副作用を検証使用中の薬物を含めて最も有効な薬物を再検討

代替薬はあるか

ないまたは患者の不同意

*:予防目的の場合、期待される効果の強さと重要性から判断する

効果はあるか

図2  「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の使用フローチャート2

リストにある薬物の新規処方を考慮している

非薬物療法による対応

困難、効果不十分

ある有効

効果不十分

代替薬に変更代替薬の継続代替薬はあるか

ないこの薬物について期待される有効性と副作用を検討

禁忌についての確認

患者・家族への説明と同意

推奨される使用法の範囲に注意して開始する

図3  「開始を考慮するべき薬物のリスト」の使用フローチャート

リストにある薬物が対象となる病態があるのに処方されていない

禁忌となる合併症

確認できる

期待できない

~不明

ある

副作用など処方しない合理性が病歴から確認できるか

確認できない

ない

薬物により病態やQOLの改善・安定が期待できるか

期待できる

推奨される使用法の範囲に注意して開始する処方しない
p.31
リストの使い方

薬物有害事象の疑いがある場合、薬物有害事象の予防や服薬管理を目的に処方薬を整理したい場合、また新規処方を検討している場合に2つのリストを利用できる。ただし、リストはあくまでスクリーニングツールであることに注意する必要がある。実際に処方薬物を変更する場合には、図1~3のフローチャートにしたがって慎重に検討を行う。薬物の中止に際しては、突然中止すると病状の急激な悪化を招く場合があることに留意し、必要に応じて徐々に減量してから中止する。

以上のように、本リストは基本的に医師が処方とその見直しに利用することを念頭に作成されたが、高齢者医療にかかわる他の職種も使うことが可能である。特に、高齢者の薬物療法における薬剤師の役割は、今後ますます大きくなると考えられ、処方提案を含めた薬学的管理に是非とも活かしていただきたい。看護師についても、服薬管理のチェックに際してリストを参照することは、医師や薬剤師に相談するうえで有用な情報を提供してくれるであろう。

実地診療以外に,リストを医学研究あるいは施設評価に用いることが可能である。米国のBeers基準[2]は、1991年に初版が発表されて以来、介護施設や医療機関、地域在住高齢者を対象とした薬物使用の実態調査や介入研究で広く利用されている。

リストの利用対象としていない方々への注意とお願い

本来の対象ではないが、一般の方も、自分や家族の処方薬について確認したい場合にリストを参照することができる。ただし、処方薬が「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に該当するのを目にした場合には、自己中断してしまう危険がある。薬を中止すると病状が悪化して危険な場合があるため、ご自身やご家族が服用中の薬に不安があっても、自己中断はせずに必ず医師や薬剤師に相談していただきたい。特に専門的治療を受けている場合、リストに載っている薬剤の使用も専門的見地に基づくことが多いことに留意いただきたい。リストを仲立ちに担当医と適切なコミュニケーションを取ることが良好な患者・医師関係の構築に役立つと期待する。

ケアマネジャーなどの介護職も介護利用者の服薬内容とリストを照合することは可能だが、気になる点がある場合は必ず医師か薬剤師に相談していただきたい。

課題と展望

リストの導入により、特定の薬物の有害事象リスクを減らすだけでなく、多剤併用の減少を介してアドヒアランスの改善、相互作用とそれに関わる全般的な有害事象の減少といった効果をもたらすことが期待される。

一方、このようなリストの存在は担当医の決定権を弱める可能性を有し、結果的に高齢者の過少医療につながる危険性もはらむ。また,薬物の選定に信頼性の高いエビデンスがない場合があることも問題である。したがって、高齢者の医療事情および薬効と安全性のエビデンスを適正に反映するよう、リストの適用範囲と薬物の種類は定期的にupdateする必要がある。参照した多くの文献は海外のものであり、わが国ではリストの薬物による薬
p.32
高齢者の処方適正化スクリーニングツール

III

物有害事象を示すデータは乏しい。今後、わが国でも高齢者の薬物有害事象を含めた薬物使用のアウトカム評価を研究していく必要がある。

リストの利用にあたっては、個々の患者の病態と生活機能、生活環境、意思・嗜好などを考慮して、患者・家族への十分な説明と同意のもと、最終的には直接の担当医が判断するべきものであることを申し添える。

文献

[1] フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント.Available at http://www.jpn-geriatsoc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf [2] American Geriatrics Society 2012 Beers Criteria Update Expert Panel: American

Geriatrics Society updated Beers Criteria for potentially inappropriate medication use in older adults. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 616-31.
p.33
高齢者の処方適正化スクリーニングツール

■特に慎重な投与を要する薬物のリスト

対象:

・75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者。・慢性期、特に1カ月以上の長期投与を基本的な適用対象とする。・利用対象は、実地医家で、特に非専門領域の薬物療法を対象とする。・薬剤師、服薬管理の点で看護師も利用対象となる。使い方:

・別添のフローチャートに従って使用する。・常に用量調整と注意深い経過観察を行い、薬物有害事象が疑われる場合は減量・中止を

検討する。・一般の方が目にしても自己中断をしないように十分な指導を行う。・ 各ステップにおいて、個々の病態と生活機能、生活環境、意思、嗜好などを考慮して、

患者・家族への十分な説明と同意のもと、最終的に直接の担当医が判断する。

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

抗精神病薬抗精神病薬全般定型抗精神病薬(ハロぺリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)非定型抗精神病薬(リスペリドン、

オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、ペロスピロンなど)認知症患者全般錐体外路症状、過鎮静、認知機能低下、脳血管障害と死亡率の上昇。非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限の使用にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はパーキンソン病に禁忌。オランザピン、クエチアピンは糖尿病に禁忌エビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6]

睡眠薬ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限るエビデンスの質:高推奨度:強[1] [7] [8] [9] [10]

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン転倒・骨折。その他ベンゾジアゼピン系と類似の有害作用の可能性あり漫然と長期投与せず、減量、中止を検討する。少量の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [8] [11] [12]
p.34
高齢者の処方適正化スクリーニングツール

III

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

抗うつ薬三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなど、すべての三環系抗うつ薬認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [8] [13] [14] [15] [16] [17]

SSRIパロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、エスシタロプラム消化管出血消化管出血リスクの悪化SSRIは慎重投与エビデンスの質:中推奨度:強[18]

スルピリドスルピリドスルピリド錐体外路症状可能な限り使用を控える。使用する場合には50mg/日以下に。褐色細胞腫にスルピリドは使用禁忌エビデンスの質:低推奨度:強[19]

抗パーキンソン病薬パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ビペリデン認知機能低下せん妄過鎮静口腔乾燥便秘排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控える代替薬:L-ドパエビデンスの質:中推奨度:強[1] [8] [13] [20] [21] [22]

ステロイド経口ステロイド薬プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンなど慢性安定期のCOPD患者呼吸筋の筋力低下および呼吸不全の助長、消化性潰瘍の発生使用すべきでない増悪時、III期以上の症例や入院管理が必要な患者では、プレドニゾロン40mg/日を5日間投与が勧められるエビデンスの質:高推奨度:強[23] [24] [25]

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)抗血小板薬アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール心房細動患者抗凝固薬のほうが有効性が高い。出血リスクは同等原則として使用せず、抗凝固薬の投与を考慮するべきエビデンスの質:高推奨度:強[26] [27]

アスピリンアスピリン上部消化管出血の既往のある患者潰瘍、上部消化管出血の危険性を高める可能な限り使用を控える。代替薬として他の抗血小板薬(クロピドグレルなど)使用する場合は、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストールなどの胃保護薬を併用(適応症に注意)エビデンスの質:高推奨度:強[1]
p.35
分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)複数の抗血栓薬(抗血小

板薬、抗凝固薬)の併用療法出血リスクが高まる長期間(12カ月以上)の使用は原則として行わず、単独投与とするエビデンスの質:中推奨度:強[27] [28] [29]

ジギタリスジゴキシンジゴキシン>0.125 mg/日での使用ジギタリス中毒0.125mg/日以下に減量する。高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮するエビデンスの質:中推奨度:強[1] [8] [30] [31]

利尿薬ループ利尿薬フロセミドなど腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常必要最小限の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する。適宜電解質・腎機能のモニタリングを行うエビデンスの質:中推奨度:強[32] [33] [34] [35] [36] [37] [38] [39]

アルドステロン拮抗薬スピロノラクトン、エプレレノン高K血症適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う。特にK高値、腎機能低下の症例では少量の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [33] [38] [39] [40] [41] [42] [43]

β遮断薬非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール気管支喘息、COPD呼吸器疾患の悪化や喘息発作誘発気管支喘息やCOPDではβ 1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。カルベジロールは、心不全合併COPD例で使用可(COPDの増悪の報告

が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)エビデンスの質:高推奨度:強[23] [44] [45] [46]
p.36
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III

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

α遮断薬受容体サブタイプ非選択的α 1受容体遮断薬テラゾシン、プラゾシン、ウラピジル、ドキサゾシンなど起立性低血圧、転倒可能な限り使用を控える。代替薬: (高血圧)その他の降圧

薬(前立腺肥大症)シロドシン、タムスロシン、ナフトピジル、植物製剤などエビデンスの質:中推奨度:強[1] [37] [47]

第一世代H 1

受容体拮抗薬H1受容体拮抗薬(第一世

代)すべてのH1受容体拮抗薬(第一世代)認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [8] [15] [48] [49]

H 2受容体拮抗薬H2受容体拮抗薬すべてのH2受容体拮抗薬認知機能低下、せん妄のリスク可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [50] [51] [52] [53] [54]

制吐薬制吐薬メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジンドパミン受容体遮断作用により、パーキンソン症状の出現・悪化が起きやすい可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [21] [55] [56]

緩下薬酸化マグネシウム酸化マグネシウム腎機能低下高Mg血症高用量の使用は避ける。低用量から開始し、血清Mg値をモニターする。血清Mg値上昇時は使用を中止する。代替薬:他の作用機序の緩下薬エビデンスの質:低推奨度:強[57] [58]

糖尿病薬スルホニル尿素(SU)薬クロルプロパミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、グリメピリド低血糖とそれが遷延するリスク可能であれば使用を控える。代替薬としてDPP-4阻害薬を考慮エビデンスの質:中推奨度:強[1] [38] [59]

ビグアナイド薬ブホルミン、メトホルミン低血糖、乳酸アシドーシス、下痢可能であれば使用を控える。高齢者に対して、メトホルミン以外は禁忌エビデンスの質:低推奨度:弱[60] [61] [62] [63]チアゾリジン薬ピオグリタゾン骨粗鬆症・骨折(女性)、心不全心不全患者、心不全既往者には使用しない。高齢者では、少量から開始し、慎重に投与するエビデンスの質:高推奨度:強[64] [65] [66] [67] [68] [69] [70] [71]
p.37
分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

糖尿病薬α-グルコシダーゼ阻害薬アカルボース、ボグリボース、ミグリトール下痢、便秘、放屁、腹満感腸閉塞などの重篤な副作用に注意するエビデンスの質:中推奨度:弱[72]

SGLT2阻害薬すべてのSGLT2阻害薬重症低血糖、脱水、尿路・性器感染症のリスク可能な限り使用せず、使用する場合は慎重に投与するエビデンスの質:低推奨度:強[73]

インスリンスライディングスケールによるインスリン投与すべてのインスリン製剤低血糖のリスクが高い高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[1]

過活動膀胱治療薬オキシブチニン(経口)オキシブチニン尿閉、認知機能低下、せん妄のリスクあり。口腔乾燥、便秘の頻度高い可能な限り使用しない。代替薬として他のムスカリン受容体拮抗薬エビデンスの質:高推奨度:強[1] [74] [75]

ムスカリン受容体拮抗薬ソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシン、塩酸プロピベリン、オキシブチニン経皮吸収型口腔乾燥、便秘、排尿症状の悪化、尿閉低用量から使用前立腺肥大症の場合はα1受容体遮断薬との併用。必要時、緩下剤を併用するエビデンスの質:高推奨度:強[1] [74] [75] [76] [77] [78] [79] [80] [81] [82] [83] [84] [85] [86]
p.38
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III

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者

群(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

非ステロイド性抗炎症薬( N S A I D s ) NSAIDsすべてのNSAIDs腎機能低下、上部消化管出血のリスク1.使用をなるべく短期間にとどめる2.中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールの併用を考慮3.中止困難例では、消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど) a.   その場合も可能な限り低用量を使用b.   消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮エビデンスの質:高推奨度:強[1] [8] [87] [88] [89] [90] [91] [92] [93] [94] [95] [96] [97]
p.39
■開始を考慮するべき薬物のリスト

対象:

・高齢者全般の中で、推奨される使用法の対象について注意事項を参考に個々に検討する。・利用対象は、特に慎重な投与を要する薬物のリストと同様。リストの使い方:

・別添のフローチャートに従って使用する。・使用上の注意は、特に慎重な投与を要する薬物のリストと同様。

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の場

合は無記載)推奨される使用法(対象となる病態・疾

患名)注意事項エビデンスの質と

推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

抗パーキンソン病薬L-ドパ(DCI配合

剤)レボドパ・カルビドパ配合剤、レボドパ・ベンセラジド配合剤精神症状あるいは認知機能障害を合併するか、症状改善の必要性が高い高齢パーキンソン病患者。1日量150mgから開始し、悪心・嘔吐などを観察しながら増量し至適用量にする運動合併症(ウェアリングオフ、ジスキネジア、on-off )の発生が用量依存的に誘発されるため注意する。急な中断により、悪性症候群が誘発されることがあり注意する。閉塞隅角緑内障では禁忌エビデンスの質:高推奨度:強[21] [98]

インフルエンザワクチンインフルエンザワクチン高齢者での接種が勧められる。特に、呼吸・循環系の基礎疾患を有する者に勧められる本剤成分によるアナフィラキシー既往歴を有する患者では禁忌エビデンスの質:高推奨度:強[23] [99]肺炎球菌ワクチン肺炎球菌ワクチン高齢者での接種が勧められる。特に、呼吸・循環系の基礎疾患を有する者に勧められる。インフルエンザワクチンとの併用が勧められる副作用として局所の発赤、腫脹など。再接種時に反応が強く出る可能性があり注意するエビデンスの質:高推奨度:強[23] [100] [101] [102]

A C E阻害薬ACE阻害薬心不全誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と肺炎の

既往を有する高血圧)高K血症(ARBとは併用しない。アリスキレン、アルドステロン拮抗薬との併用に注意)空咳エビデンスの質:高推奨度:強[45] [103] [104] [105] [106] [107] [108] [109] [110]

アンジオテンシン受容体拮抗薬( A R B ) ARBカンデサルタン心不全に対してACE阻害薬に忍容性のない場合に使用。低用量より漸増高K血症(ACE阻害薬とは併用しない。アリスキレン、アルドステロン拮抗薬との併用に注意)心不全に保険適用のないジェネリックもあるため適応症に注意エビデンスの質:高推奨度:強[111] [112]
p.40
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III

分類薬物(クラス

または一般名)代表的な一般名(すべて該当の場

合は無記載)推奨される使用法(対象となる病態・疾

患名)注意事項エビデンスの質と

推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

スタチンスタチンプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン冠動脈疾患の二次予防、および前期高齢者の冠動脈疾患、脳梗塞の一次予防を目的に使用する筋肉痛、CK上昇糖尿病の新規発症エビデンスの質:高推奨度:強[113] [114] [115] [116] [117]

前立腺肥大症治療薬受容体サブタイプ選択的α 1受容体遮断薬シロドシン、タムスロシン、ナフトピジル前立腺肥大症による排尿障害特に尿閉の既往がある場合(尿閉後の使用でカテーテル再留置率が減少)起立性低血圧、射精障害に留意エビデンスの質:高推奨度:強[118] [119] [120] [121]

関節リウマチ治療薬DMARDsメトトレキサート活動性の関節リウマチの診断がついたとき薬剤の選択は関節リウマチの活動状態や個々の患者の全身状態による。高齢者では薬物有害事象や易感染性の危険性が高まるため、治療開始前および開始後定期的にモニタリングを行う。ペニシラミンは高齢者に対して、原則禁忌であるエビデンスの質:高推奨度:強[8] [122] [123] [124]

引用文献

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高齢者の処方適正化スクリーニングツール

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p.46
IV

領域別指針
p.47
精神疾患

領域別指針

1 IV

BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイド

ラインまたは文献

抗精神病薬全般定型抗精神病薬(ハロぺリドール、

クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)、非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、ペロスピロンなど)認知症患者全般錐体外路症状、過鎮静、認知機能低下、脳血管障害と死亡率の上昇。非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限の使用にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はパーキンソン病に禁忌。オランザピン、クエチアピンは糖尿病に禁忌エビデンスの質:中、推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6]

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

CQ:BPSDに対して抗精神病薬を使用する場合の注意点は?抗精神病薬の使用は必要最低限の量と期間にとどめる。(エビデンスの質:中、推奨度:強)定型抗精神病薬は、非定型抗精神病薬と比べて錐体外路症状、傾眠などの副作用が多くみられるため使用はできるだけ控える。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1 サマリー

薬物リスト
p.48
領域別指針1精神疾患

IV

認知症の症状は、認知機能障害、BPSD(behavioural psychological symptoms of dementia)、身体・神経障害に大別される。BPSDは幻覚、妄想、うつ、不安、焦燥、興奮、攻撃性、徘徊をはじめ、多彩な症状が含まれる。BPSDは、患者本人の苦痛はもとより、介護者の心理的、身体的負担を増し、在宅生活を困難にする。BPSDに対しては、誘因の検索やその対応、ケアの工夫、環境調整、介護保険を介した福祉サービスの活用など非薬物的介入をまず行う。日本神経学会の「認知症疾患治療ガイドライン2010」[7]や「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」[8]、海外の代表的なガイドライン[9,10]でも、BPSDに対する薬物療法の前に非薬物的介入を実施することが記載されている。またコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンがBPSDに効果を認めたとする報告もあり[11,12]、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」[8]では、コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンで改善しない場合、抗精神病薬の使用を検討する、としている。

以上の対応で改善がみられない場合、BPSDに対する対症治療薬が検討される。BPSDに対して抑肝散や抗てんかん薬などが用いられる場合がある。抑肝散は、メタ解析の結果から、認知症患者の興奮、攻撃性、幻覚、妄想などの効果が報告され、抗コリン症状や錐体外路症状がみられない[13]。ただし抑肝散のBPSDに対する効果については、プラセボ群を対照とした比較試験は実施されていない。また抑肝散の使用に当たっては生薬として含まれる甘草による低K血症に注意が必要である。抗てんかん薬のうち,バルプロ酸の興奮や攻撃性に対する効果は、オープン試験レベルでは多数報告されているが、RCTでは否定的な結果となっている。またカルバマゼピンはアレルギー反応が出現しやすいため注意が必要である。

緊急度の高いBPSDに対しては抗精神病薬の使用が慎重に検討される。抗精神病薬は古くから使用されてきた定型抗精神病薬と比較的新しい非定型抗精神病薬に大別される。非定型抗精神病薬は、ドパミン受容体とともにセロトニン5HT2A受容体に対する遮断作用を有し、定型抗精神病薬に比して錐体外路系副作用が出現しにくい特徴がある。

精神病症状や興奮、攻撃性などのBPSDに対してはリスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ペロスピロンなどの効果が報告されている[2,7,8,14]。日本神経学会の「認知症疾患治療ガイドライン2010」や厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」においても幻覚、妄想、攻撃性、焦燥に対して非定型抗精神病薬が治療選択肢として記載されている。また社会保険診療報酬支払基金が設置している審査情報提供委員会の「医薬品の適応外使用に係わる保健診療上の取り扱い」平成23年9月第9次提供事例において、クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関して、「原則として、器質的疾患に伴う せん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。」という検討結果が出されている[15]。ただし、抗精神病薬の治療効果の程度は大きくないとする報告や効果を否定する報告もみられる[16]。また対象のほとんどはアルツハイマー型認知症で、一部、血管性認知症や混合型を対象とした研究結果はあるものの、DLBなどそのほかの認知症疾患の検討結果はきわめて少ない。

解説
p.49
BPSDに対して非定型抗精神病薬を使用することにより錐体外路症状、傾眠、尿路系合併症のリスクが知られている[2]。またメタ解析の結果から、死亡率や脳血管障害のリスクが高まることが報告されている[1~3]。投与量が多いことや使用期間が長いことが副作用のリスクを高めることから[3]、BPSDに非定型抗精神病薬を使用する場合、必要最低用量、かつできる限り短期間の使用にとどめる。定型抗精神病薬のうちハロペリドールは幻覚・妄想に使用を考慮してもよいとされるが[7]、定型抗精神病薬の効果は非定型抗精神病薬に大きな違いはみられず、死亡率や脳血管障害のリスクも非定型抗精神病薬と同様で[1,4]、錐体外路症状や傾眠などの副作用の発現が多いとされることから[5]、できるだけ使用を控える。チアプリドがBPSDに使用される場合がある。しかし1980年代の報告が主で、かつ実臨床より高用量の試験が多くエビデンスに乏しい。また錐体外路系の副作用のリスクもあり、注意が必要である。

抗精神病薬の使用に際して注意すべき身体合併症がある。痙攣が頻発するケースでは痙攣の閾値を下げるリスクがあるため、抗精神病薬は使用を控えるべきであり、このような場合、前述したバルプロ酸やカルバマゼピンなどの抗てんかん薬が用いられる。抗精神病薬は、循環器系への影響もあり、心不全、心筋梗塞、狭心症、不整脈などの心疾患をもつ例では慎重に用いるべきである[1]。低血圧や徐脈から失神をきたす場合がある。また非定型抗精神病薬は耐糖能異常を引き起こすことがあり、オランザピンとクエチアピンは糖尿病をもつ患者に対しては使用禁忌である。オランザピンは、狭隅角緑内障、尿閉、便秘を悪化するリスクもあり、これらの症状をもつ場合も慎重さが求められる[17]。

レヴィ小体型認知症(DLB)は、精神病症状を高頻度に認め、抗精神病薬の投与が必要と思われる場面も少なくない。しかしDLBの診断基準にも挙げられているように、抗精神病薬に対する過敏性を認め、副作用が非常に出現しやすいため、薬物療法には特に注意が必要である。DLBのBPSDに対しては、抗精神病薬のなかで錐体外路症状が最も軽度のクエチアピンを用いることがある。しかしDLBに対するクエチアピンの効果を否定する報告がある[18]。ブチロフェノン系定型抗精神病薬はパーキンソン病で禁忌である。このため DLBをはじめパーキンソン症状がみられる場合、特に慎重な投与が必要である。「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」[8]ではDLBのBPSDに対して、コリンエステラーゼ阻害薬が第一選択薬に挙げられている。また抑肝散[19]の効果が報告されている。

高齢者に対するベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用により、過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下などの有害事象がみられることがある[1]。日本神経学会の「認知症疾患治療ガイドライン2010」では、中等度以降の認知症患者の不安症状に対する使用は推奨されないとされ、認知症の不安症状にリスペリドン、オランザピン、クエチアピンが選択肢として挙げられている[7]。

認知症の経過中にしばしばうつ状態が認められる。AD患者のおよそ2~3割、DLB患者の5割にうつ状態がみられ、なかにはうつ病エピソード(DSM-V)を満たすうつ状態もみられる。認知症のうつ状態も非薬物的対応が有効な場合が多いが、薬物療法が必要な場合、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」[8]では、コリンエステラー
p.50
領域別指針1精神疾患

IV

ゼ阻害薬を用い、改善しない場合に抗うつ薬の使用を検討することとしている。ADのうつ状態に対する薬物療法の効果については、三環系抗うつ薬を含めたメタ解析では有効とされているが、選択的再取り込み阻害薬(SSRI)については有効と無効の報告があり、メタ解析では、効果は否定されている[20]。またセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)については、オープン試験の結果、有効とする報告はみられるもののRCTやメタ解析などエビデンスレベルの高い報告はみられない。三環系抗うつ薬は認知機能をさらに悪化させるリスクがあり、できる限り使用を控える。
p.51
不眠症

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当

の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象となる

場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンスの質と

推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合、必要最低量をできるだけ短期間使用に限るエビデンスの質:高、推奨度:強[1] [21] [22] [23] [24]非ベンゾジアゼピン系睡眠薬ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロン転倒・骨折。そのほかベンゾジアゼピン系と類似の有害作用の可能性あり漫然と長期投与せず、減量、中止を検討する。少量の使用にとどめるエビデンスの質:中、推奨度:強[1] [24] [25] [26] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

高齢者は若年成人に比べて睡眠中、徐波睡眠の割合が減少し、浅いノンレム睡眠の割合

CQ:高齢者の睡眠薬治療で注意するべきことは何か?ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬は、認知機能低下、転倒・骨折、日中の倦怠感などのリスクがあるので可能な限り使用は控え、特に長時間作用型は使用するべきでない。(エビデンスの質:高、推奨度:強)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬にも転倒・骨折のリスクが報告されており、漫然と長期投与せず、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1 サマリー

薬物リスト

解説
p.52
領域別指針1精神疾患

IV

が増加する。このため中途覚醒が多くなり全睡眠時間は短縮化し、臥床している時間のうち実際に眠っている時間の割合(睡眠効率)が悪化する。午睡はさらに夜間の睡眠状態を悪化させる。このため高齢になると不眠者の割合が増加する。うつ病、せん妄、restless leg症候群、呼吸困難を起こす呼吸器疾患、瘙痒の激しい皮膚疾患、泌尿器疾患などの精神あるいは身体疾患は高齢になると頻度が増加するが、これらの疾患は不眠の原因となる。またステロイド製剤、抗パーキンソン病薬をはじめとする薬剤もしばしば不眠の原因となりうる。したがって不眠の対応の第一は、不眠の原因を検索し該当するものがあればそれに対応することである。

明らかな原因が見当たらない不眠症に対しては、非薬物療法と薬物療法の2つの選択肢がある。薬物療法の前に、定時の離床および就寝、朝方の日光浴、散歩などの適度な運動、午睡時間の制限、就寝前の過剰な水分摂取を控える、アルコール、ニコチンなどの制限、静穏な寝室環境などの睡眠衛生指導を行う。また睡眠時間制限法、刺激制御法、不眠に対する認知の仕方を修正する認知の再構成法などの睡眠に対する認知行動療法が睡眠の持続に有効なことが示されている[27]。認知行動療法の実施には相応の知識と技術を要するとの配慮から、日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」[28]では、常用量で治らない不眠症患者に対して適応を考慮するとしているが、同時に第一選択療法として、もしくは薬物療法との併用療法としても有効であることが記載されている。

薬物療法を実施する場合は、リスクとベネフィットのバランスを考える必要がある。高齢者では若年者に比較して睡眠薬の副作用のリスクが相対的に高く、リスク・ベネフィット比が低下することを考慮した薬剤選択、用量設定をすべきとされる[28]。薬物療法を検討する場合でも、非薬物療法を併用することがより有効と報告されている[29]。睡眠薬の選択に際しては、作用時間が短く、筋弛緩作用や抗コリン作用の少ない薬剤を選択する。

メタ解析の結果、60歳以上の不眠症患者に対して睡眠薬は、睡眠の質、総睡眠時間、夜間中途覚醒回数などに効果を認める。ただし効果の大きさは比較的小さい[23]。睡眠薬の種類は、バルビツール系、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)、メラトニン受容体作動薬に大別される。このうちバルビツール系薬剤(ペントバルビタール、アモバルビタール)は、ふらつきなどの副作用が出やすく、また中止によって痙攣などの離脱症状が誘発されやすいため現在ほとんど使用されない。使用を控えるべき薬剤にも挙げられている[1]。

現在、ベンゾジアゼピン受容体作動薬が最もよく用いられている。ベンゾジアゼピン受容体作動薬にはベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系薬剤がある。高齢者は、ベンゾジアゼピン系薬剤の感受性が高まり代謝・排泄も遅延するため、副作用が現れやすい。ベンゾジアゼピン系薬剤の投与により、認知機能の悪化、転倒、骨折など精神運動活動の低下、日中の倦怠感、せん妄などのリスクがある[1,23]。特に新規に投与された場合、認知機能障害を認める場合、移動に介助を必要とする場合は注意が必要とされる。長時間作用型(フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム)は使用を控えるべき薬剤とされる[1]。クワゼパムは、ω1選択性が高いため筋弛緩作用が弱く、高齢者の不眠症に有効との報告があるが、やはり長時間作用型薬物であることから、慎重に投与すべき薬剤である。一方、短時
p.53
間作用型であってもトリアゾラムは、服用時の健忘や遅延再生の障害が認められるため慎重に投与すべき薬剤である。ベンゾジアゼピン系薬剤のなかでは、短時間作用型で、しかも直接グルクロン酸抱合されるために、代謝が加齢による影響を受けにくいロルメタゼパム(0.5~1mg)の効果が報告されている[30]。また睡眠衛生指導の単独実施に比較してロルメタゼパムを併用したほうが有効との報告がある[31]。なお、ベンゾジアゼピン系薬剤は日中の不安、焦燥に用いられる場合があるが、高齢者では上述した副作用のリスクがあり、可能な限り使用を控える。使用する場合、最低必要量をできるだけ短期間の使用に限る。海外の高齢者薬物療法に関するガイドラインの1つであるSTOPPでも4週間以内の使用にとどめることとしている[24]。

非ベンゾジアゼピン系薬剤には、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンがあるが、いずれもω1受容体に選択性が高いことから筋弛緩作用が弱い。超短時間作用型のゾルピデムやゾピクロンは高齢者に対する効果が示されている。エスゾピクロンはゾピクロンの光学活性体である。エスゾピクロンについても、高齢者の不眠症に対する効果や忍容性が報告されている[32]。このため日本睡眠学会のガイドラインでは、非ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が推奨されている[28]。ただし非ベンゾジアゼピン系薬剤においても転倒、骨折のリスクが報告されている[25,26]。これらの報告を受けて、海外の高齢者薬物療法に関するガイドラインは、非ベンゾジアゼピン系薬剤を高齢者に対して使用を避けるべき薬物に含めている。Beers基準では、非ベンゾジアゼピン系薬剤は高齢者に対してベンゾジアゼピン系と類似の有害作用の可能性があるため漫然と長期投与しないことが推奨されている[1]。STOPPでも転倒のリスクを高めることが予測される薬剤として、有害事象の発現と有意に関連する薬物のリストに挙げられている[24]。さらにベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系は呼吸抑制や眼圧上昇のリスクがあり、呼吸機能が高度に低下した患者や急性狭隅角緑内障の患者には禁忌である。本ガイドラインは75歳以上のフレイル高齢者を主な対象としているため、非ベンゾジアゼピン系薬剤も特に慎重に投与すべき薬剤に挙げた。なお睡眠薬の中止は、長期使用による依存もあって実際には容易でなく、減量や切替などさまざまな工夫が必要である。減量・中止の具体的方法は、上述したガイドライン[28]を参考にしていただきたい。

メラトニン受容体作動薬ラメルテオンは、これまでの睡眠薬とは全く作用機序が異なり、ベンゾジアゼピン受容体作動薬でみられた副作用が生じにくい可能性がある。また高齢者に対する効果もRCTで示されているが、プラセボと比較して睡眠潜時の短縮に有意差を認めないとするメタ解析の報告もある[33]。また本剤は主にCYP450の1A2で代謝される。このため1A2を強く阻害するSSRIのフルボキサミンとの併用は禁忌である[34]。さらに最近オレキシン受容体阻害作用を有するスボレキサントが上市された。海外データでは高齢者の入眠や睡眠持続効果がみられている[35]。ただしラメルテオンやスポレキサントの高齢者に対するデータは乏しく、安全性や有効性についての評価には今後のエビデンスの蓄積が必要である。

なお認知症の睡眠障害に対して薬物療法のエビデンスは乏しい。認知機能の悪化をきたすリスクがあり、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与には慎重さが求められる。抑肝散やトラゾドンの効果が報告されている[36,37]。
p.54
領域別指針1精神疾患

IV

うつ病

特に慎重な投与を要する薬物のリスト薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンスの質と

推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなどすべての三環系抗うつ薬認知機能低下、せん妄、便秘、口腔内乾燥、起立性低血圧、排尿障害悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高、推奨度:強[1] [24] [38] [39] [40] [41] [42] SSRIパロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、エスシタロプラム消化管出血出血のリスクSSRI は慎重投与エビデンスの質:中、推奨度:強[43]スルピリドスルピリド錐体外路症状可能な限り使用を控える。使用する場合には50mg/日以下に。褐色細胞腫にスルピリドは使用禁忌エビデンスの質:低、推奨度:強[44] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

CQ:高齢者のうつ病に対する抗うつ薬使用上の注意点は?三環系抗うつ薬は、他の薬剤に比べて抗コリン作用が強いため高齢発症のうつ病に対して特に慎重に使用するべきである。(エビデンスの質:高、推奨度:強) SSRIも高齢者に対して転倒や消化管出血などのリスクがあり、これらのハイリスク群に対する使用には特に注意が必要である。(エビデンスの質:中、推奨度:強)スルピリドは、錐体外路症状が発現しやすいため可能な限り使用を控えるべきである。(エビデンスの質:低、推奨度:強)

1 サマリー

薬物リスト
p.55
高齢者はうつ病のリスクが増加する。海外文献を含めた16の報告から55歳以上における地域住民の大うつ病の頻度は2%前後(0.4~10%)、気分変調性障害などの軽症のうつ状態は10%前後(2.4~14.8%)と報告されている[45]。高齢者のうつ病には、身体的不調の訴えが多い、不安や焦燥が目立つ、精神病症状を伴うことがまれではない、物忘れや思考力が低下しやすい、などの特徴がある。一見、認知症と思えるような病像を呈したり(仮性認知症)、認知症の前駆状態であることもある。特にレヴィ小体型認知症はうつ状態で発症することが多い。

高齢者のうつ病は、病因が多因的であり、脳の老化、脳血管障害、脳由来神経栄養因子の低下などの生物学的要因や、配偶者、友人、健康、地位、経済力などの喪失体験、社会的孤立、介護負担など心理、社会面の要因がさまざまに組み合わさり出現することが多い。したがって高齢者のうつ病の治療には、心理社会的要因への対応や臨床症状の個人差に応じたきめ細かな対応が重要である。

高齢者のうつ病に対しても抗うつ薬が用いられる。抗うつ薬の種類は、三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリンなど)、四環系抗うつ薬(マプロチリン、ミアンセリン、セチプリン)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなど)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、ミルナシプラン、デュロキセチンなど)、モノアミン酸化酵素阻害薬、そのほかの抗うつ薬(トラゾドン、ミルタザピンなど)と多岐にわたる。このうち高齢者にうつ病に対して三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI、トラゾドン、ミアンセリン、ミルタザピンなどの効果が報告されている。

高齢者のうつ病に対しても抗うつ薬は有効である。55歳以上のうつ病に対するRCTのメタ解析から、抗うつ薬はプラセボに比較して有意な効果を認めた(RR=1.304;95%CI:1.l50 -1.479;p<0.001) [46]。ただしこの報告では、65歳以上(平均年齢73.5±3.0歳)の6つのRCTのメタ解析では、抗うつ薬とプラセボの効果に有意差はみられなかった。また55歳以上のうつ病治療に関するメタ解析の結果、抗うつ薬の寛解率(OR=1.36;95%CI:1.07-1.73)はプラセボと比較して有意差を認めるが[47]、三環系、SSRI、そのほかの抗うつ薬のグループに分けてプラセボと比較した場合、寛解率に有意な差はみられなかった。またSSRIとSNRI、三環系の比較では、効果に違いはないことが報告されている[48]。一方、副作用をみると、三環系抗うつ薬は、SSRIと比較して抗コリン症状(便秘、口腔乾燥、認知機能低下など)や、眠気やめまいなどが高率でみられ、副作用による中止率もSSRIと比較して三環系抗うつ薬の方が有意に多いと報告されている。パロキセチンとクロミプラミンの比較[38]のほか、メタ解析においても同様のことが示されている[39]。以上の結果から、これまでのガイドライン[1,24]においても、高齢のうつ病患者に対して、三環系抗うつ薬は特に慎重に使用する薬物に挙げられている。このほか、痙攣、緑内障、心血管疾患、前立腺肥大による排尿障害などの身体症状がある場合、多くの抗うつ薬が慎重投与となる。三環系とマプロチリンは緑内障と心筋梗塞回復初期には禁忌であり、三環系抗うつ薬とエスシタロプラムはQT延長症候群に禁忌である。また抗うつ薬の使用が転倒リスクを上げることが報告されて

解説
p.56
領域別指針1精神疾患

IV

いる[49,50]。低用量の三環系抗うつ薬を処方された場合に比べて、SSRIやそのほかの抗うつ薬(ミルタザピン、トラゾドンなど)を処方された高齢者の方が死亡、脳卒中、転倒、骨折などのリスクが高かったという報告がある[51]。またSSRIは上部消化管出血[43]や脳出血[52]のリスクを高めることが報告されている。特に非ステロイド性抗炎症薬や抗血小板薬との併用は注意が必要である。したがって、比較的安全と考えられているSSRIだが高齢者に用いる際には副作用に十分な注意が必要である。また、SSRIは薬剤代謝酵素チトクロームP450を強く阻害する場合があり、併用禁忌の薬剤も挙げられている。またSSRIは、薬剤を消化管腔側に排出し、薬剤の吸収を制限しているP糖蛋白を阻害することが知られている。その結果SSRIはP糖蛋白を基質とする薬剤の血中濃度を上昇させ、副作用が出現する可能性がある[53]。高齢者は多剤が併用されていることが多いため、SSRIの使用に当たっては併用薬にも注意が必要である。

食欲不振がみられるうつ状態の患者にしばしばスルピリドが使用された。しかしスルピリドはパーキンソン症状や遅発性ジスキネジアなどの錐体外路症状発現のリスクがあり[44]、使用はできるかぎり控えるべきである。もし使用する場合、少量を短期間の使用にとどめる。

なお本稿は高齢で初発したうつ病を想定している。すでにそれ以前から継続的に治療されているうつ病患者にとっては、治療経過上、最も適した治療薬が継続されるべきことはいうまでもない。また自殺念慮や精神病症状を認めるなど重症のうつ病では三環系抗うつ薬がより有効な場合や抗精神病薬の併用が必要な場合がある(日本うつ病学会が「大うつ病性障害」の治療ガイドラインhttp://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/) [54]。このような重症例は専門医に紹介するべきである。

引用文献

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領域別指針1精神疾患

IV

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mood_disorder/
p.59
神経疾患

領域別指針

2 IV

認知症(中核症状)

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、choline esterase inhibitors、memantine、neuroleptics; antipsychotics、benzodiazepines、barbiturates、antidepressive agents、donepezil、rivastigmine、galantamine、memantine、nicergoline

CQ:高齢の患者に使用すると認知機能障害(せん妄・認知機能低下・認知症)をきたす可能性のある薬物には何があるか?抗コリン作用をもつ薬物[フェノチアジン系などの抗精神病薬、三環系抗うつ薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、第一世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、頻尿治療薬など]は、認知機能障害と関連するため減量または中止を検討する。(エビデンスの質:中、推奨度:強)向精神薬(抗不安薬、抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ薬)は抗コリン作用と同様、認知機能障害と関連する可能性がある。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)特に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、オキシブチニンは、せん妄・認知機能低下・認知症発症に関連することが強く示されている。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:コリンエステラーゼ阻害薬は精神症状(激越、落ち着きのなさなど)の出現・悪化と関連するか?すべてのコリンエステラーゼ阻害薬で激越・落ち着きのなさなどの精神症状の有害事象報告がある。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱)しかしながら、病態自体の悪化や環境変化などによっても精神症状は出現・増悪するため、コリンエステラーゼ阻害薬の中止・減量の判断には注意を要する。CQ:NMDA拮抗薬(メマンチン)を安全に使用するために注意することは何か?メマンチンの副作用としては、めまい、ふらつき、便秘、傾眠が高頻度にみられる。特に腎機能障害を有する患者において生じやすいため注意が必要である。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

1

2

3サマリー
p.60
領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記

載)対象となる患者群*

(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイドラインまたは

文献

三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなど、すべての三環系抗うつ薬認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ピペリデン認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控える代替薬:L-ドパエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [8] [9] [10]オキシブチニン(経口)オキシブチニン尿閉、認知機能低下、せん妄のリスクあり。口腔乾燥、便秘の頻度高い可能な限り使用しない。代替薬として他のムスカリン受容体拮抗薬エビデンスの質:高推奨度:強[1] [11] [12]ヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)すべてのH1受容体拮抗薬(第一世代)認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [5] [13] [14]ヒスタミンH2受容体拮抗薬すべてのH2受容体拮抗薬認知機能低下、せん妄のリスク可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめるエビデンスの質;中推奨度:強[1] [15] [16] [17] [18] [19]ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキザゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下長時間作用型は使用するべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用するべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合、最低必要量をできるだけ短期間使用に限るエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [20] [21] [22] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

薬物リスト
p.61
開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

神経領域では、認知症とパーキンソン病に焦点を当ててレビューを行った。いずれも高齢者においては、その薬物療法が何らかの有害事象につながるリスクが高く、取り上げる必要性が高いと判断した。

高齢者で認知機能障害が疑われる場合、疾患の症状ととらえる前に薬物の有害事象が合併している可能性を検討することが重要である[13,15]。これは生理的予備能力の低下や複数疾患の合併・多剤併用など、薬物が認知機能障害を生じるリスクを高める要因が高齢者で多くみられるためである[23]。ただし実際には、薬物が認知機能障害の単一の原因となるよりも、アルツハイマー病などの認知機能低下をきたす基礎疾患に重畳する場合が多いことに注意する必要がある[13,24]。

薬物の有害事象としての認知機能障害(drug-induced cognitive impairment)は、さまざまな状態や症状として把握されうる。軽微な認知機能低下は把握されにくく、関連しうる要因が複数ある場合には薬物の影響を判断することが難しくなる[23]。臨床的には、1注意力低下が目立つ、2薬物使用と時間的に関連が疑われる認知機能障害の経時的変化がみられる、3せん妄に類似した症状を呈する場合がある、4薬物中止により認知機能障害が改善する、5薬物の過剰投与により認知機能障害が悪化する、ことが気づきのポイントとして挙げられている[25]。

Drug-induced cognitive impairmentの研究では、アウトカムとして「せん妄」、「認知機能低下」、「認知症発症」のいずれかが設定されている。「せん妄」は幅広い薬物が関連する可能性がある。せん妄発症要因の中で直接因子として位置付けられる薬物は、症状改善の介入ポイントとして重要である。せん妄の成因として薬物が関与している割合は12%から39%と報告されている[26]。「認知機能低下」については、memory、attention、reaction time、executive functionなどのテストバッテリーの評価で同定されるもので臨床研究以外では同定されにくいが、「転倒」や「交通事故」として報告される可能性があり注意が必要である[23]。また薬物が認知機能に及ぼす影響は患者の状態により異なることが多く、フレイルな高齢者では幅広い薬物が関連する可能性がある。一貫して認知機能障害との関連が示唆される薬物を把握しておく必要がある[13]。

高齢の患者に認知機能障害を生じやすい薬物として最も重要なのは、抗コリン作用をもつ薬物である。抗コリン作用をもつ薬剤は数多く存在するが、認知機能障害との関連で重要なものとして、フェノチアジン系等の抗精神病薬[13]、三環系抗うつ薬[27]、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬) [10]、第一世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬[13]、ヒスタミンH2受容体拮抗薬[16,18,28]、頻尿治療薬[29]が挙げられる。単独では抗コリン作用が大きくなくても、併用することで抗コリン作用が増加し、認知機能障害を生じやすくなることに注意が必要である。抗コリン作用をもつ薬剤による記憶障害は短期間の投与では可逆的で投与中止により

解説
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領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

改善すると言われているが、抗コリン作用の累積が認知症の新規発生リスクに関連する可能性が示唆されている[30]。服用薬物の抗コリン作用の強さの指標があり参考となる[8,31]。

向精神薬(抗不安薬、抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ薬)は抗コリン作用と同様、認知機能障害と関連する可能性が示されている[13,21,22]。

個々の薬物では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬[22]とオキシブチニン[29]について、せん妄・認知機能低下・認知症発症との関連を示す報告が揃っている[13]。認知機能障害との関連に言及されている薬物はほかにも副腎皮質ステロイド[13,32]、抗てんかん薬[13,33]、オピオイド[13,34,35]などがある。

軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)は、1本人や家族から認知機能低下の訴えがある、2認知機能は正常とはいえないが認知症の診断基準も満たさない、3複雑な日常生活動作に最低限の障害はあっても、基本的な日常生活機能は正常、を満たす状態と定義され、成因は複数存在する[36]。このためMCIに対する薬物療法の効果を画一的に論ずることは困難である。MCIの段階で保険適用が正式に認められている薬物はない。

アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease;AD)の認知機能低下(中核症状)に対する薬物には、コリンエステラーゼ阻害薬(ChE阻害薬)3剤(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)がある。

ChE阻害薬の副作用には、コリン作動性神経の末梢での賦活に伴う副作用[消化器症状、心血管系症状、全般的な症状(疲労感・体重減少等)]と中枢での賦活に伴う副作用(神経症状)がある[37]。ChE阻害薬に関するRCT全体のメタアナリシスでは、報告された有害事象は49種類で、プラセボ群よりも有意に多かったものは、「腹痛」、「異常な夢」、「食思不振」、「衰弱」、「下痢」、「めまい」、「疲労」、「頭痛」、「不眠」、「こむら返り」、「嘔気」、「むくみ」、「失神」、「振戦」、「嘔吐」、「体重減少」と報告されている[38]。ChE阻害薬3剤の承認時安全性データ(ドネペジルについては、再審査終了時の安全性データも含む)の発生割合をみると、代謝および栄養障害、神経障害、胃腸障害が共通して報告されている[39~42]。リバスチグミンは経皮吸収であることから、胃腸障害の発生頻度が低く、かわりに皮膚障害の発生頻度が高くなっている[43]。「消化器症状」は最も頻度の多い副作用であり、投与初期に発現することが多い。嘔気・嘔吐・食思不振などはある程度連用すると慣れが生じ消失することが多いとされる[44]が、症状が重篤な場合は減量や休薬を検討する。「呼吸器症状」は、コリン作動性神経の末梢での賦活に伴うairway obstructionの結果生じると予想される一方、地域住民のコホート調査で、ChE阻害薬を新規に開始したCOPD患者と使用していない患者との間でCOPD増悪や、何らかの呼吸器症状で病院を緊急受診した割合は変わらなかったという報告がある[45]。「精神症状」の有害事象がChE阻害薬3剤で報告されており議論となっている。ドネペジルについては承認時・再審査終了時の総計4,083名(軽度から高度のAD)のうち、落ち着きのなさ(0.49%)、激越(0.61%)、不眠症(0.54%)が報告されている[39]。発生頻度を他のChE阻害薬と単純に比較することは、(対象数が少ないことや高度ADが含まれないことなどから)難しいが、報告されている精神症状の種類には違いがない。また承認時データの安全性報告では、どの薬剤でも精神症状の発生頻度はプラセボとの有意な差は確認されておらず[38]、
p.63
臨床試験でもプラセボ群と精神症状の発生割合に差はみられていない[46]。治験や臨床試験データの結果だけで精神症状の有無を判断することは難しいが、薬剤投与とは関係なく病態自体に起因するものや環境変化等の心理面に起因するものも多いと推測され、ChE阻害薬との因果関係は、現時点では定かではない。

NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)は、めまい、ふらつき、便秘、傾眠の頻度が多いが、特に腎機能障害を有する患者において生じやすいため注意が必要である[47]。高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/分未満)のある患者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与し、維持量は1日1回10mgとする[48]。

中核症状に対する有効性は、これらの薬剤間に大きな差は認められない。ChE阻害薬3剤は、コリン作動性神経の賦活を通じて認知機能障害の進行を抑制する点で共通するため、安全性の観点から併用は避ける。中等度から高度のアルツハイマー型認知症に対し、コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンは安全に併用可能であることを示唆するデータが示されている[49]。効果が不十分な場合にChE阻害薬を増量すべきか、ほかのChE阻害薬に切り替えるべきか、NMDA受容体拮抗薬の併用を開始すべきかについては十分なエビデンスがいまだ存在しない。

血管性認知症(vascular dementia;VaD)の中核症状に対し、ChE阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が有効である、というランダム化比較試験(RCT)の報告がある[50,51]。これは、1虚血性病変によるアセチルコリン神経投射路の障害が認知機能に影響を及ぼしている可能性や、2ADの合併が多いことによると思われる。しかし現時点で有効性の根拠は十分ではなく、本邦で保険適用は認められていない[52]。

レヴィ小体型認知症(DLB)の中核症状に対し、ドネペジルの有効性・安全性がランダム化比較試験(RCT)で報告され[53,54]、保険適用が認められている。ガランタミン[55]、リバスチグミン[56]、メマンチン[57,58]でも有効である可能性を示唆する報告はあるが、根拠が十分とは言えず保険適用は認められていない。

継続使用しているコリンエステラーゼ阻害薬・NMDA受容体拮抗薬について、薬剤の適正使用の観点から漫然と投与せずに終了を考慮する基準を設ける必要がある。基準としては、1進行したアルツハイマー型認知症の患者のうち、意志疎通が図れない、寝たきりの状態または身体症状が悪化した患者[39]、2明らかに薬剤の効果が認められなくなった場合[59]、3何らかの有害事象を発生した場合[60]、が挙げられている 。ただしコリンエステラーゼ阻害薬を中止した際に腸閉塞を発症したとの報告[46]やdiscontinuation syndromeについての報告[61]があり、注意を要する。

引用文献

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IV

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領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

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p.67
パーキンソン病

CQ:高齢者でパーキンソニズムを生じやすい薬物の種類と対処の注意点は何か?薬剤性パーキンソニズムを生じる代表的な薬剤として抗精神病薬が挙げられ、特にベンズアミド系薬剤に注意する必要がある。(エビデンスの質:低、推奨度:強)抗うつ薬、抗不整脈薬、血圧降下薬(Ca拮抗薬)、抗潰瘍薬(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)、抗てんかん薬、抗腫瘍薬、抗真菌薬などもパーキンソニズムを出現・悪化させることがある。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱)急性・亜急性に進行したパーキンソニズムをみた場合には、薬剤性パーキンソニズムの出現、合併の可能性を考慮すべきである。CQ:高齢のパーキンソン病患者の運動症状に対する薬物療法の原則は何か?パーキンソン病(PD)患者の運動症状に対する中心的な薬剤はL-ドパとドパミン受容体刺激薬であるが、パーキンソン症状に対する効果が高いことと高齢者で精神症状の頻度が高いことから、高齢のPD患者の治療はL-ドパを中心に行うのが原則である。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:高齢のパーキンソン病患者で注意を要するパーキンソン病治療薬はあるか?抗コリン薬はPD治療薬の中でも最も古典的な薬剤であるが、高齢者ではイレウス・尿閉・認知機能障害・幻覚を生じやすいため、注意を要する。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:高齢のパーキンソン病患者の精神症状に対する薬物療法の注意点は何か?精神症状がPD治療薬の使用に起因するものでないかをまず検討する。抗精神病薬を用いる場合、パーキンソニズムの悪化、過鎮静・起立性低血圧・便秘など高齢者で注意すべき副作用があり、必要最小限の使用にとどめる。(エビデンスの質:中、推奨度:強)定型抗精神病薬に比べて、非定型抗精神病薬、特にクエチアピンはパーキンソニズムの悪化が比較的少ないが、投与量が多くなるとパーキンソニズムが悪化するので注意が必要である。

1

2

3

4サマリー
p.68
領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ピペリデン認知機能低下、せん妄、過鎮静、口内乾燥、便秘可能な限り使用を控える代替薬:L-ドパエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]制吐薬メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジンドパミン受容体遮断作用によりパーキンソン症状の出現・悪化が起きやすい可能な限り使用を控えるエビデンスの質:低推奨度:強[1] [5] [8] [9]抗精神病薬全般定型抗精神病薬(ハロぺリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、ペロスピロンなど)認知症患者全般錐体外路症状、過鎮静、認知機能低下、脳血管障害と死亡率の上昇。非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限の使用にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)は パーキンソン病に禁忌。オランザピン、クエチアピンは糖尿病に禁忌エビデンスの質:中推奨度:強[1] [10] [11] [12] [13] [14] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

CQ:レビー小体型認知症や認知機能の低下を伴う高齢のパーキンソン病患者に対し、コリンエステラーゼ阻害薬を使用することは、運動症状悪化の観点から避けるべきか?コリンエステラーゼ阻害薬は、理論的にパーキンソニズムを悪化させる可能性がある。しかし実際の発生頻度が少ないことや、総合的な運動障害スコアの増悪が臨床試験では確認されないことから、レビー小体型認知症や認知機能の低下を伴う高齢のPD患者で一律に避ける必要はない。(エビデンスの質:中、推奨度:弱)

5

薬物リスト
p.69
開始を考慮するべき薬物のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の

場合は無記載)推奨される使用法注意事項エビデンスの

質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

L -ドパ(DCI配合剤)レボドパ・カルビドパ配合剤、レボドパ・ベンセラジド配合剤精神症状あるいは認知機能障害を合併するか、症状改善の必要性が高い高齢パーキンソン病患者。1日量150mgから開始し、悪心・嘔吐などを観察しながら増量し至適用量にする運動合併症(ウェアリングオフ、ジスキネジア、on-off)の発生が用量依存的に誘発されるため注意する。急な中断により、悪性症候群が誘発されることがあり注意する。閉塞隅角緑内障では禁忌エビデンスの質:高推奨度:強[5] [15] L-ドパが対象となる疾患・患者群:精神症状あるいは認知機能障害を合併する高齢パーキンソン病患者。

神経領域では、認知症とパーキンソン病に焦点を当ててレビューを行った。いずれも高齢者においては、その薬物療法が何らかの有害事象につながるリスクが高く、取り上げる必要性が高いと判断した。

パーキンソン症候群は、振戦・無動・筋固縮・姿勢反射障害のうち2つ以上の症状がみられる状態であり、特発性パーキンソン病以外に脳血管性パーキンソニズムや薬剤性パーキンソニズムが原因となる頻度が年齢とともに高くなる。このため高齢者にパーキンソン症候群が見られた場合は、薬剤性パーキンソニズムの可能性を考慮することが重要である[16]。薬剤性パーキンソニズムは、60%が薬剤を服用開始後1カ月以内に、90%は3カ月以内に発症し、数日ないし数週単位で急速に進行するのが特徴である[17]。パーキンソニズムが急激に悪化した場合には、薬剤性パーキンソニズムの出現・合併を疑う必要がある。薬剤性パーキンソニズムでは、ジスキネジア、アカシジアを伴うことが多い[9,18]。また、副作用が発生しやすい条件として、高齢であることに加え女性・使用薬剤の量が多いなどが挙げられる[9,18]。症状の特徴として静止時振戦が少ないこと、左右差が少ないことが挙げられるが、臨床症状のみで薬剤性か否かを判断するのは困難であり、疑った場合には原因になると報告のある薬物の投薬を受けているかを知ることが重要である[9,17]。Liverpool University Neuroleptic Side- Eff ect Rating Scale(LUMSERS)は、一般の方を含め神経内科医でなくても薬剤性パーキンソニズムの存在を予測するのに役立つことが示されている指標である[19,20]。この指標は全体で51の項目からなるが、41項目が副作用に関するもので、10項目が皮膚症状に関するものである。この中で錐体外路症状に関する項目だけを評価するだけでも早期発見に役立つとされ、7項目からなる具体的なチェックリストが示されている[18]。各項目0から4点の判定で、6点を超えたら薬剤性パーキンソニズムを考慮したほうがよいとされている。評価には、いつも一緒に暮らしている家族のもつ印象が重要であるとされている[18]。

約80%のドパミンD2 受容体が遮断されるとパーキンソニズムが出現するといわれる[21]。

解説
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2 神 経 疾 患

IV

したがって薬剤性パーキンソニズムの原因として、ドパミンD2受容体遮断作用のある薬物はパーキンソニズムを出現・悪化させる可能性を常に意識する必要がある。原因として最も頻度の高い薬物は抗精神病薬である[8,9,17,22]。フェノチアジン系[23]、ブチロフェノン系[24]、ベンザミド系[25]などの定型抗精神病薬はいずれも強いドパミン受容体遮断作用がある。一方、クエチアピンなどの非定型抗精神病薬は60%程度のドパミンD2受容体遮断で本来の効果を発揮でき、パーキンソニズムが出るほどまで薬物濃度を上げなくてよいため錐体外路症状が出にくいことが特徴である。ただし大量投与や高齢者、認知症を有する患者では錐体外路症状が出現することがまれではない[26]。ベンザミド系では、スルピリドのように向精神薬として以外に、胃腸機能調整薬や制吐薬としても用いられるものがあり注意が必要である[25]。制吐目的にメトクロプラミドを慢性的に投与され、薬剤性パーキンソニズムを誘発、もしくはパーキンソン病が悪化している患者がしばしばみられる。ベンザミド系の薬剤のうち、ドンペリドンは脳内移行がきわめて低いため、パーキンソニズムの発現・増悪頻度は低く制吐目的での食前投与が代替として考えられる[17]。ただしパーキンソニズム発現の報告はないわけでなく[8]、また高齢者では重篤な心室性不整脈・心臓病死の報告もあるため漫然と投与することは控えるべきである。抗精神病薬以外では、中枢・末梢性交感神経抑制型降圧薬(レセルピン・メチルドパ)が、D2受容体を直接遮断しないもののモノアミンの枯渇により降圧効果をもたらすことから、薬剤性パーキンソニズムを含む錐体外路系副作用を生じやすい[27]。

ドパミンD2受容体遮断作用がない薬剤でもパーキンソニズムが生じる可能性がある。抗うつ薬(SSRI) [8,9,17,18]、Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム) [8,9,17,18,28]、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(アリメマジン、ヒドロキシジン) [8,17]、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(ファモチジン、シメチジン) [17,18]、抗てんかん薬(バルプロ酸) [8,9,17,18]、抗腫瘍薬(シタラビン、シクロフォスファミド) [9,17,18]、頻尿治療薬(プロピベリン) [18]、免疫抑制薬(シクロスポリン) [17,18]、気分安定薬(リチウム) [8,17]、抗真菌薬(ファンギゾン) [8,9,17,18]などでパーキンソニズム発生が報告されている[8]。抗精神病薬に比べると頻度は少ないものの、高齢者でよく使用される薬剤を含むため注意が必要である。

薬剤性パーキンソニズムの治療としては、原因薬剤の中止が原則である。精神症状などにより中止困難な場合、できるだけ非定型抗精神病薬に変更を考慮する。原因薬剤を中止してからパーキンソニズムが完全に消失するまでに通常数カ月を要する[9]。完全に消失しないで持続することもあるが、これは元々パーキンソン病になる傾向があった人に症状が出たという仮説と関連する。医薬品を中止し、薬剤性パーキンソニズムになった患者の経過を長期に追ったところ、48例中5例[29]、72例中6例[30]で、パーキンソン病になり治療を受けているという結果がある。この頻度は一般人口がパーキンソン病になる確率より有意に高く、パーキンソン病になる傾向があったほうが、薬剤性パーキンソニズムになりやすいと結論している。

パーキンソン病の運動症状に対する早期治療は、症状の程度、日常生活の不自由さ、職業を勘案して開始するが、薬物療法を早期に開始することによって死亡率を上げたり、運動合併症や認知症の頻度が高まったりすることはないため、診断が確定したらドパミン補
p.71
充治療の導入を遅らせないことが大原則である[31]。非高齢者と比較して、高齢者では運動症状の進行が早い傾向があり、またジスキネジアを生じる率が低いことから、高齢者や認知機能障害・精神症状を合併する患者では、L-ドパ[32](特に末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害薬配合剤(decarboxylase inhibitor;DCI)との合剤から開始することが推奨される[33]。これは、ドパミン受容体刺激薬[34]の有害事象である日中過眠、突発的睡眠、幻覚・妄想などが高齢者ではしばしば問題となることが理由とされる[15]。悪心・嘔吐など有害事象の有無を観察しながら増量し至適用量を模索する[35]。

ドパミン補充療法の導入がすでに一定期間行われている進行期では、運動合併症(症状の日内変動・不随意運動など)の対処が主となる。症状の日内変動(特にウェアリングオフ)に用いられる薬剤のほとんどはドパミン刺激薬[34]であり、幻覚・妄想を生じる可能性がある。幻覚・妄想症状は、抗コリン薬・アマンタジン・セレギリン・ドパミン受容体刺激薬(非麦角系、麦角系)・エンタカポン・ゾニザミドの順に生じやすい。発生した幻覚・妄想に対して何らかの行動を起こしてしまう場合、直近に加えた薬剤の影響を考察したうえで、この順に薬剤量を調整する[36]。近年、貼付剤(ロチゴチン)やドパミン刺激を介さない治療薬(アデノシンA2受容体拮抗薬)など新たな薬剤が利用可能となっているが、高齢者でどう用いるべきかいまだ十分なエビデンスがない。MAOB阻害薬(セレギリン)はトラゾドン以外の抗うつ薬との併用は禁忌であり、抗うつ薬の開始はセレギリン中止後14日以上空ける必要がある[37]。腎機能が低下している場合、腎排泄であるアマンタジンとプラミペキソールは用量の調整を考慮する[34]。抗コリン薬[5]はパーキンソン病治療薬の中でも最も古典的な薬剤であるが、高齢者では前述の幻覚に加えてイレウス・尿閉・認知機能障害を生じやすいため、注意を要する[4,6]。

幻覚・妄想等の精神症状は、パーキンソン病自体に起因することに加え、治療に用いられる薬物の多くが精神症状を誘発することにより発現する。このため、パーキンソン病の薬物治療を受けている高齢患者が精神症状を発症した場合、新たに薬物を追加する前に、まずパーキンソン病治療薬の使用に起因するものでないか検討する必要がある[36]。パーキンソン病治療薬を手順[35]に従って調整をしても幻覚・妄想に対して何らかの行動を起こしてしまう場合、症状緩和を目的とした薬物の追加使用を検討する。精神症状の緩和には抗精神病薬が多く用いられるが、ドパミンD2受容体遮断によるパーキンソニズムの悪化に注意が必要である[10,38~40]。非定型抗精神病薬、特にクエチアピンは定型抗精神病薬に比べパーキンソニズムの悪化をきたしにくい。非定型抗精神病薬の中では、リスペリドン>オランザピン>クエチアピン>クロザピン(低用量ではオランザピン>リスペリドン)の順に錐体外路症状が出現しやすくなるとされている[36]。パーキンソン病の幻覚、妄想に対しては、クエチアピン12.5mg~25mg/日程度であれば、ほとんどパーキンソニズムを悪化させることなく精神症状を改善しうる[36]。ただし、クエチアピンでも投与量が多くなるとパーキンソニズムを悪化させること[10,38~40]、レビー小体型認知症においては、非定型抗精神病薬においても、定型抗精神病薬と同様の反応が生じる可能性があることに注意が必要である[41,42]。またクエチアピンは糖尿病患者で使用禁忌である。

コリンエステラーゼ(ChE)阻害薬は、錐体外路障害のある患者では線条体のコリン系神
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領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

経を亢進することにより、パーキンソニズムを誘発または増悪する可能性が否定できない。パーキンソン病認知症(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病における認知機能障害(CIND-PD)に対するChE阻害薬の有効性、安全性および忍容性を評価するシステマティックレビューが報告されている[43]。ChE阻害薬投与の有効性は、PDDについては全般的な評価・認知機能・行動障害・日常生活動作について認められるものの、DLBやCIND-PDに対する効果は不明とされている。安全性・忍容性については、ChE阻害薬の投与を受けた患者の方が有害事象を経験する傾向が強く、脱落しがちとされている。有害事象は、リバスチグミンを服用した患者で多くみられ、ドネペジルを服用した患者では差がなかったとされている。パーキンソン病の症状として、特に振戦が投与群では多く報告されているものの、UPDRS(総合および運動機能)スコアに対して有意な影響は与えていない。また投与群のほうがプラセボ群より死亡例が少なかったと報告されている[43]。

ChE阻害薬のうち、ドネペジルは、唯一国内でDLBの適応を取得している。Probable DLB患者142例を対象としたドネペジルの臨床第三相試験の治験期24週までの有害事象および副作用の発現率は5mg群、10mg群の投与群間で大きな違いは認められていない。パーキンソン症状の発現率は5mg群4.3%(2/47例)、10mg群10.2%(5/49例)であったが、両群ともにUPDRS partIIIによる運動障害スコアの増加はみられていない[44,45]。治験期24週以降のオープンラベル長期投与試験(全被験者に10mgを投与)におけるパーキンソン症状に関する有害事象は12.5%(12/96例)で、いずれも軽度または中等度、かつ非重篤であったと報告されている。また、長期投与に伴いUPDRS partIIIが経時的に増加する傾向はみられていない。ただし、UPDRS partIIIのベースライン点数が高い集団で、本事象の発現率が高い傾向が認められている。また抗パーキンソン病薬を併用する部分集団で、本事象の発現率がやや高く、UPDRS partIIIもわずかに増加する傾向がみられている[44,45]。

引用文献

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領域別指針

2 神 経 疾 患

IV

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p.75
呼吸器疾患

領域別指針

3 IV

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、pneumonia、COPD、aspiration、prevention、non-smoking、drug therapy、adverse event

CQ:慢性安定期のCOPD患者における全身性ステロイド薬の投与は推奨されるか?慢性安定期のCOPD患者における全身性ステロイド薬の投与は、呼吸筋の筋力や機能を低下させ呼吸不全を助長したり、消化性潰瘍の発生を高めるため使用すべきでない。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:COPD患者における非選択的β遮断薬の使用は安全か?非選択的β遮断薬は、気管支の攣縮を引き起こしたり徐脈にすることが知られており、投与を控えるべきである。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:COPD患者におけるインフルエンザワクチンの接種は推奨されるか?インフルエンザワクチンは、COPDの増悪頻度を抑制し、かつインフルエンザや肺炎による入院および死亡を減らすことから、すべてのCOPD患者での接種が勧められる。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

1

2

3サマリー
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領域別指針

3 呼 吸 器 疾 患

IV

呼吸器領域においてはCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;慢性閉塞性肺疾患)ならびに肺炎の2疾患に焦点を当ててレビューを行った。その理由として、COPDならびに肺炎はいずれも加齢とともに罹患率および死亡率が上昇し、超高齢社会が進むわが国で今後ますます問題となる代表的疾患だからである。COPDの治療においては薬物療法が中心となりかつ長期にわたるため、高齢者の特性を踏まえた戦略が重要である。本項では、レビューの結果を踏まえつつ高齢者における薬物療法上の留意点について述べたい。

安定期COPD治療薬として、吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、吸入ステロイド(ICS)/LABA配合薬、徐放性テオフィリンが用いられる。

LAMAは、息切れが強くQOLの低下したもしくは増悪を繰り返すCOPD患者に有効でCOPD治療の第一選択薬として推奨されている。LAMAは閉塞隅角緑内障の患者では禁忌であるが、開放隅角緑内障の患者では投与可能なので使用前に眼科受診が勧められる[1]。また、前立腺肥大症の患者では時に排尿困難を助長する可能性があるので注意して使用する。ほかに、以前抗コリン薬のチオトロピウムのソフトミスト製剤が心血管イベントの増加をもたらす可能性が指摘されたが、2013年10月に発表された大規模比較試験(TIOSPIR trial)で否定され吸入用カプセル同様に安全性が確認された[2]。LAMAのその他の副作用として時に口渇が認められる。

LABAもLAMA同様にCOPD治療の第一選択薬として推奨されている。特に、インダカテロールは1日1回の吸入で済むためアドヒアランスの低下したCOPD患者での使用が推奨される。β2刺激薬共通の副作用として頻脈、手指の振戦、吸入後の酸素濃度の低下、低K血症、睡眠障害などが知られており注意しながら使用する[3]。高血圧、狭心症、甲状腺機能亢進症、糖尿病合併COPD患者ではβ2刺激薬の使用に際し、併存疾患の増悪に注意する。

ICSは、COPDの病期分類のおおむねIII期以上(対標準1秒量:%FEV1<60%)で増悪を繰り返す患者において増悪頻度を減少させQOLの悪化を抑制することが期待され[4]、気管支拡張薬に併用(上乗せ)して用いられる。わが国では現在、ICS単剤での適用を有していないため、保険適用であるICS/LABA配合薬として用いられる。近年注目されている高齢COPD患者に多い喘息合併COPD(Asthma-COPD Overlap Syndrome;ACOS)では特に推奨される。ICS/LABA配合薬には、増悪の抑制ならびに呼吸機能の低下抑制効果が確認されているが、いくつかの研究で吸入ステロイド薬による肺炎リスクの上昇が報告されており、使用後の肺炎の増加に注意が必要である[5]。吸入ステロイド薬の副作用としての嗄声、口腔カンジダ症、咳嗽は合剤でも認められ、うがいの励行は重要である。

テオフィリン製剤は、気管支拡張作用のほかに呼吸筋力の増強効果もありCOPDでの使用が勧められるが、血中濃度の治療域と中毒域が近接しており使用に当たり注意が必要である。副作用としての消化器症状(嘔気)は治療域でも生じうるが、中毒域では嘔気に加え、頭痛、不眠、頻脈、痙攣、不整脈等の重篤な症状が出現しうる。特に、高齢者では薬物代謝が低下しており中毒を生じやすいので、血中濃度をモニタリングしながらの使用が勧められる[1]。

経口ステロイド薬に関して、慢性安定期のCOPD患者において有益性はなく、呼吸筋の

解説
p.77
筋力や機能を低下させ呼吸不全を助長したり消化性潰瘍の発生を高めるため使用すべきでない[1]。COPD増悪時にはII期以下の症例で低酸素血症が出現した場合およびIII期以上の症例では使用を考慮すべきであるが、なるべく短期の使用にとどめる。最近、米国のNational Emphysema Treatment Trialのデータ解析で、慢性安定期の経口ステロイド薬の長期投与が死亡リスクを高めることが報告された[6]。

心房細動、心不全および虚血性心疾患合併COPD患者ではβ遮断薬が投与されることがあるが、非選択的β遮断薬は気管支の攣縮を引き起こしたり徐脈にすることが知られており投与を控えるべきである[1,7~9]。推奨される代替薬は選択的β1遮断薬で、呼吸機能上1秒量の低下は少ないことが明らかにされている[1,9]。

マクロライド系薬にはCOPD患者における好中球性気道炎症を抑える効果および気道分泌抑制効果が確認されており、急性増悪の予防薬として期待される[1,10,11]。しかし、マクロライド系薬は心電図上QT延長から不整脈を引き起こすことも知られ、特に高齢者では多病、多薬から薬物相互作用の頻度が高いため使用には注意が必要である。また、非結核性抗酸菌症の場合にはマクロライド単剤投与となれば耐性化を誘導する危険性があり、投与前に喀痰検査等で肺非結核性抗酸菌症を否定しておく。

65歳以上に対するインフルエンザワクチンの接種は、COPDの増悪頻度を有意に抑制し、インフルエンザや肺炎による入院を30%減少させ、死亡率を50%減らすことが確認されており、すべてのCOPD患者で接種が勧められる[1,12]。また、肺炎球菌ワクチンも高齢者の肺炎発症を減らし[13]、65歳未満の患者で%FEV1が40%未満のCOPD患者の肺炎を減少させ、接種が勧められる[1,14]。
p.78
領域別指針

3 呼 吸 器 疾 患

IV

肺炎検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、COPD、aspiration、prevention、non-smoking、drug therapy、Adverse event、ACE-inhibitors、amantadine、cilostazol、swallowing refl ex、cough refl ex、anti-acid、majortranquilizer、oral-care

CQ:定型抗精神病薬および抗コリン作用を有する薬物の投与は肺炎の発症に関与するか?認知症患者のBPSDには、抗精神病薬が使用されることも多い。認知症高齢者の肺炎は誤嚥性が圧倒的に多く、肺炎のリスクのある認知症患者では嚥下機能を低下させる定型抗精神病薬の投与は可能な限り控える。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強)また、パーキンソン病治療薬のトリへキシフェニジルやピペリデンおよび鎮痙薬のブスコパンやコリオパンなどの抗コリン作用を有する薬物は、口腔乾燥、便秘、過鎮静から誤嚥性肺炎の頻度を高めるため、可能な限り使用を控える。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:誤嚥性肺炎ハイリスクの高齢高血圧患者におけるACE阻害薬の投与は推奨されるか? ACE阻害薬は、誤嚥性肺炎ハイリスクの高齢高血圧患者において肺炎の予防効果を有し、投与が勧められる。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:肺炎のハイリスク高齢者において、肺炎球菌ワクチンの接種は推奨されるか?肺炎球菌ワクチンの接種は、COPDなど肺炎のハイリスク高齢者において肺炎の発症頻度を抑制することから、接種が勧められる。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

1

2

3サマリー
p.79
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象となる場合は無記

載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンスの質と

推奨度参考にしたガイド

ラインまたは文献

経口ステロイド薬プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンなど慢性安定期のCOPD患者呼吸筋の筋力低下および呼吸不全の助長、消化性潰瘍の発生使用すべきでない。増悪時、III期以上の症例や入院管理が必要な患者では、プレドニゾロン40mg/日を5日間投与が勧められるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [4] [6]非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール気管支喘息、COPD呼吸器疾患の悪化や喘息発作誘発気管支喘息やCOPD ではβ 1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。カルベジロールは、心不全合併COPD 例で使用可(COPDの増悪の報告が少

なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)エビデンスの質:高推奨度:強[1] [7] [8]

[9]

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名推奨される

使用法注意事項エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

インフルエンザワクチン高齢者での接種が勧められる。特に、呼吸・循環系の基礎疾患を有する者に勧められる本剤成分によるアナフィラキシー既往歴を有する患者では禁忌エビデンスの質:高推奨度:強[1] [12]肺炎球菌ワクチン高齢者での接種が勧められる。特に、呼吸・循環系の基礎疾患を有する者に勧められる。インフルエンザワクチンとの併用が勧められる副作用として局所の発赤、腫脹など再接種時に反応が強く出る可能性があり注意するエビデンスの質:高推奨度:強[1] [13] [14] [24] ACE阻害薬心不全誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と肺炎の既往を有する高血圧)高K血症(ARBとは併用しない。アリスキレン、アルドステロン拮抗薬との併用に注意)、空咳エビデンスの質:高推奨度:強[8] [17] [20] [23]

薬物リスト
p.80
領域別指針

3 呼 吸 器 疾 患

IV

医療・介護関連肺炎(Nursing & Healthcare-associated pneumonia;NHCAP)は、発症状況からみた肺炎の分類の中で最も頻度が高いもので、「過去90日以内の入院歴のある患者、長期療養型病床群もしくは介護施設からの患者、在宅介護・血管内治療患者のいずれかに発症した肺炎」と定義され、その診断ならびに治療は今後ますます重要になる[15]。NHCAPの治療において重症度ではなく治療区分が採用されており、palliative careも重要である[15]。NHCAPも含め高齢者の肺炎の大部分が誤嚥性肺炎であるといわれ[16,17]、起炎菌として肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、クレブシエラ、黄色ブドウ球菌(MSSA)、緑膿菌、嫌気性菌などが重要である[18]。治療に際し選択すべき抗菌薬として、これらの菌に有効かつ強力な抗菌活性を有するβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬、カルバペネム系薬、ニューキノロン系薬もしくはマクロライド系薬の使用が勧められる[17,18]。ペニシリン系薬では、造血器、腎、肝障害に注意する。ニューキノロン系薬およびカルバペネム系薬の副作用として痙攣などの中枢神経症状があるが、特に腎機能障害、低アルブミン血症、脳血管障害および変性疾患を有する高齢者では、血中濃度が上昇しやすく痙攣を起こしやすいので用量を調節する。マクロライド系薬およびニューキノロン系薬では、QT延長から重篤な不整脈を生じる可能性があり注意して使用する[19]。

高齢者の市中肺炎でも不顕性誤嚥の関与が明らかにされている[17,20]。不顕性誤嚥は,脳血管障害のなかでも大脳基底核病変を有する人に多く認められる。大脳基底核の障害はこの部位にある黒質線条体から産生されるドーパミンを減少させ、その結果、知覚神経のサブスタンスP(SP)の合成を低下させ不顕性誤嚥を引き起こす。薬物として、脳内ドーパミン作動神経に影響を及ぼす薬物が嚥下の良し悪しに関与する。抗精神病薬はドーパミン作動神経末端においてD2受容体を遮断するものが多く嚥下反射時間を延長させる可能性がある。特に、定型抗精神病薬の使用で嚥下反射時間が延長することが明らかにされており、高齢者では可能な限り使用を控える[21]。これまで抗精神病薬には認知症を有する高齢者での使用に際し心血管疾患の合併が報告されているが、嚥下機能を悪化させ誤嚥性肺炎のリスクも高める[21]。また、高齢者でも時に睡眠薬として使用されるベンゾジアゼピン系抗不安薬については、明らかな嚥下反射時間の延長は認めないが、高齢者での使用にあたってはリスクとベネフィットを慎重に見極めなければならない[21]。

嚥下にはコリン作動性神経も関与し、抗コリン薬の投与で嚥下反射が抑制される[22]。よって、抗コリン作用を有する薬物は高齢者で誤嚥のリスクになりうる。また、高齢者で抗コリン薬を用いると元来低下している唾液の分泌がさらに低下し嚥下困難を助長し、また腸管の蠕動運動を低下させ便秘を悪化させることによって腹圧の亢進から胃食道逆流を招き、胃内容物の誤嚥を生じやすくする可能性があり、投与を慎重に見極めなければならない[20,22]。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)はSPの分解酵素の1つであり、降圧薬のACE阻害薬を投与すればSPの分解も阻害される。そのため、咽頭および喉頭・気管粘膜のSPの濃度が高くなり、嚥下反射および咳反射が正常化し肺炎の発症を予防する[8,17,20,23]。

解説
p.81
嚥下反射の低下した脳血管障害患者にL-ドパを点滴投与したところ嚥下反射が著明に改善した。また、大脳基底核からのドーパミン遊離促進薬であるアマンタジンには、肺炎の予防効果が確認されている[17,20]。

シロスタゾールは、抗血小板作用とともに脳血管拡張作用をもつ日本で開発された薬物であり、その投与が脳梗塞の再発を予防し、かつ肺炎発症率を40%に低下させることが確認されている[17,20]。

胃運動を改善し食物の胃食道逆流を予防するモサプリドクエン酸塩の食前投与が、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)施行患者において、肺炎の予防効果を有しかつ生命予後も有意に改善させた[17]。

これまで、漢方薬の半夏厚朴湯を脳変性疾患患者に投与すると嚥下反射時間が短縮されることが明らかにされており、長期療養型病院に入院中の患者に半夏厚朴湯を投与した結果、非投与群に比べ肺炎の発症が有意に抑制されることが明らかにされている[17]。

不顕性誤嚥が防げない場合でも、肺炎球菌ワクチン投与によって宿主の免疫能が高まれば、肺炎発症の機会は少なくなると考えられる。実際、ADLの低下した肺炎のハイリスク高齢者では、ワクチン投与が有効であった[1,24]。また、インフルエンザウイルス感染症はCOPD患者で肺炎発症のハイリスク因子であり、65歳以上に対するインフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザや肺炎による入院を30%減少させ、死亡率を50%減らすことが確認されており、ワクチン投与を積極的に推奨すべきと考える[1,12]。

引用文献

[1] 日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版. メディカルレビュー社,東京,2013. [2] Wise RA, Anzueto A, Cotton D, et al: Tiotropium Respimat inhaler and the risk of death in COPD. N Engl J Med 2013; 369: 1491-501. [3] Dahl R, Chung KF, Buhl R, et al: Effi  cacy of a new once-daily long-acting inhaled beta2-agonist indacaterol versus twice-daily formoterol in COPD. Thorax 2010; 65(6): 473-9. [4] Global Initiative for Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease. updated 2015. [5] Ferguson GT, Anzueto A, Fei R, et al: Effect of fluticasone propionate/salmeterol (250/50 microg) or salmeterol (50 microg) on COPD exacerbations. Respir Med 2008; 102(8): 1099- 108. [6] Horita N, Miyazawa N, Morita S, et al: Evidence suggesting that oral corticosteroids increase mortality in stable chronic obstructive pulmonary disease. Respir Res 2014;15: 37. [7] Krum H, Roecker EB, Mohacsi P, et al: Effects of initiating carvedilol in patients with severe chronic heart failure: results from the COPERNICUS Study. JAMA 2003; 289: 712-8. [8] 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2014.ライフ・サイエンス出版,東京, 2014. [9] Jabbour A, Macdonald PS, Keogh AM, et al: Diff erences between beta-blockers in patients with chronic heart failure and chronic obstructive pulmonary disease: a randomized crossover trial. J Am Coll Cardiol 2010; 55(17): 1780-7 [10] Herath SC, Poole P: Prophylactic antibiotic therapy for chronic obstructive pulmonary disease (COPD). Cochrane Database Syst Rev 2013; 11: CD009764. [11] Restrepo MI, Anzueto A: Macrolide antibiotics for prevention of chronic obstructive pulmonary disease exacerbations: are we there yet? Am J Respir Crit Care Med 2014; 190: 1-2. [12] Nichol KL, Nordin JD, Nelson DB, et al: Effectiveness of influenza vaccine in the community-
p.82
領域別指針

3 呼 吸 器 疾 患

IV

dwelling elderly. N Engl J Med 2007; 357(14): 1373-81. [13] Bonten MJ, Huijts SM, Bolkenbaas M, et al: Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med 2015; 372(12): 1114-25. [14] Alfageme I, Vazquez R, Reyes N, et al: Clinical efficacy of anti-pneumococcal vaccination in patients with COPD. Thorax 2006; 61: 189-95. [15] 日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会:医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン. 東京, 2011. [16] Teramoto S, Fukuchi Y, Sasaki H, et al: High incidence of aspiration pneumonia in communityand hospital-acquired pneumonia in hospitalized patients: a multicenter, prospective study in Japan. J Am Geriatr Soc 2008; 56: 577-9. [17] 嚥下性肺疾患研究会:嚥下性肺疾患の診断と治療. ファイザー, 東京, 2013. [18] 日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会:成人院内肺炎診療ガイドライン.東京,2008. [19] Morganroth J, Dimarco JP, Anzueto A, et al: A randomized trial comparing the cardiac rhythm safety of moxifl oxacin vs levofl oxacin in elderly patients hospitalized with community-acquired pneumonia. Chest 2005; 128(5): 3398-406. [20] Solh AA, Saliba R: Pharmacologic prevention of aspiration pneumonia: a systematic review. Am J Geriatr Pharmacother 2007; 5(4): 352-62. [21] Wada H, Nakajoh K, Satoh-Nakagawa T, et al: Risk factors of aspiration pneumonia in Alzheimer's disease patients. Gerontology 2001; 47(5): 271-6. [22] Jia YX, Li JQ, Matui T, et al: Neurochemical regulation of swallowing reflex in guinea pigs. Geriatr Gerontol Int 2001; 1: 56-61. [23] Arai T, Sekizawa K, Ohrui T, et al: ACE inhibitors and protection against pneumonia in elderly patients with stroke. Neurology 2005; 64: 573-4. [24]  Kawakami K, Ohkusa Y, Kuroki R, et al: Eff ectiveness of pneumococcal polysaccharide vaccine

against pneumonia and cost analysis for the elderly who receive seasonal infl uenza vaccine in Japan. Vaccine 2010; 28: 7063-9.
p.83
循環器疾患

領域別指針

4 IV

抗不整脈薬

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、antiarrythmia、adverse events

CQ:抗不整脈薬の継続はどのように判断する?効果(症状の改善、再発予防など)の明らかでない抗不整脈薬は、継続が必要かどうか見直しすべきである。(エビデンスの質:低、推奨度:弱) CQ:高齢者におけるジギタリスの安全性はどうか? >0.125mg/日の投与は、ジギタリス中毒をきたすリスクが高く、使用を避ける。(エビデンスの質:高、推奨度:強) 0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮する。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)

1

2サマリー
p.84
領域別指針4循環器疾患

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象となる場合は

無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンスの質と

推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

ジゴキシンジゴキシン>0.125mg/日での使用ジギタリス中毒0.125mg/日以下に減量する高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮するエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4]非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール気管支喘息、COPD呼吸器疾患の悪化や喘息発作の誘発気管支喘息やCOPDではβ 1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。カルベジロールは、心不全合併COPD例で使用可(COPDの増悪の報告が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)エビデンスの質:高推奨度:強[5] [6] [7] [8] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

不整脈の薬物療法の考え方は、近年大きく変化している。抗不整脈薬の役割を明らかにするため行われたCASTやAFFIRMなどの臨床試験の結果などをふまえて、不整脈そのものよりも基礎にある心疾患や心機能障害への対応が重視されるようになっている。一方で、ICDやアブレーションなどの非薬物療法の有効性も示され、広く普及している。現在、不整脈の薬物療法は、症状の軽減が主な目的となっている。実際、期外収縮は治療することがほとんどなくなり、上室頻拍、心房粗動など多くの不整脈がカテーテルアブレーションで治癒できるようになり、致死性の心室性不整脈にはICDの植え込みが効果をあげている。したがって、抗不整脈薬を用いる状況といえば、そのほとんどは有症状の発作性心房細動ということになる。

欧州心臓病学会の心房細動ガイドラインによれば、抗不整脈薬治療は症状を軽減する目的で行うものであり、抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、心外性副作用はしばしば生じるものであるから、抗不整脈薬の選別は効果よりもまず安全性を指針とすべきである、

薬物リスト

解説
p.85
とされている。抗不整脈薬をいつ始めて、どのように効果判定を行い、いつ中止するのかについての一定の見解はないが、症状の軽減効果の認められない抗不整脈薬は、潜在的な有害事象の発症も考慮した場合、継続の必要性はないと考えられる。

心房細動の心拍数調節にジゴキシンが使用されることがある。ジゴキシンは腎排泄性の薬剤であり、高齢者ではジギタリス中毒に注意する必要がある。実際に、介護施設入所者における心不全患者について検討したところ、26%の患者に潜在的なジギタリス中毒の可能性があると報告され[2]、処方にあたっては心拍数や心電図、血中濃度の計測を定期的に行う必要がある。STOPP/STARTやBeers基準2012などの高齢者薬物療法ガイドラインに準じて0.125mg/日を超える使用は控えることが重要である。

β遮断薬も心房細動の心拍数調節に使用されることがある。高齢心不全患者に対しカルベジロールとビソプロロールの最大用量への増量の忍容性を比較したCIBIS-ELD trial[9]では、12週間後に両群とも25%前後と少ないながらも異常なく増量することができており、合併症に配慮しつつ使用することができると思われる。一方でストップ/スタートで示される通りCOPD患者に対する非選択的β遮断薬は気管支攣縮をきたす恐れがあり、中止すべきである。

引用文献

[1] American Geriatrics Society 2012 Beers Criteria Update Expert Panel: American Geriatrics Society updated Beers Criteria for potentially inappropriate medication use in older adults. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 616-31. [2] Misiaszek B, Heckman GA, Merali F, et al: Digoxin prescribing for heart failure in elderly residents of long-term care facilities. Can J Cardiol 2005;21(3):281-6. [3] O'Mahony D, O'Sullivan D, Byrne S, et al: STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 2. Age Ageing 2015; 44: 213-8. [4] Digitalis Investigation Group: The eff ect of digoxin on mortality and morbidity in patients with heart failure. N Engl J Med 1997; 336: 525-33. [5] 日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版. メディカルレビュー社,東京,2013. [6] 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2014.ライフ・サイエンス出版,東京, 2014. [7] Krum H, Roecker EB, Mohacsi P, et al: Effects of initiating carvedilol in patients with severe chronic heart failure: results from the COPERNICUS Study. JAMA 2003; 289: 712-8. [8] Jabbour A, Macdonald PS, Keogh AM, et al: Diff erences between beta-blockers in patients with chronic heart failure and chronic obstructive pulmonary disease: a randomized crossover trial. J Am Coll Cardiol 2010; 55(17): 1780-7. [9] Düngen HD, Apostolovic S, Inkrot S, et al:Titration to target dose of bisoprolol vs. carvedilol in

elderly patients with heart failure: the CIBIS-ELD trial. Eur J Heart Fail 2011;13(6):670-80.
p.86
領域別指針4循環器疾患

IV

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、anticoagulants、antipatelets、bleeding、adverse events

CQ:心房細動患者に対して抗血小板薬の投与は有効か?脳梗塞ならびに全身血栓塞栓症の発症リスク低減効果は、抗凝固薬の有効性が高く、抗凝固薬の投与を考慮するべきである。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:加齢は、抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)服用者において大出血の危険因子になるか?抗血栓薬服用患者において、年齢が高いことは大出血の危険因子である。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法は、大出血の危険因子か?複数の抗血栓薬の併用療法は、単独療法に比べて大出血のリスクを上昇させるため、長期間にわたる複数の抗血栓薬投与は原則として行わず、単独投与とする。(エビデンスの質:中、 推奨度:強) CQ:抗凝固薬服用患者における大出血の危険因子は何か?抗凝固薬服用患者において高血圧、腎障害、肝障害、脳卒中の既往、出血の既往または出血性疾患、不安定なPT-INR(ワルファリン)、高齢(75歳以上)、抗血小板薬(またはNSAIDs)の併用、が大出血リスクと関連する。(エビデンスの質:高、推奨度:強)高齢の抗凝固薬服用患者では、加えて、がん、転倒の既往、薬剤数が多いこと、が大出血リスクと関連する。(エビデンスの質:中、推奨度:弱) CQ:抗凝固薬の間で、大出血リスクに違いはあるか?高齢の心房細動患者において、ダビガトラン(220mg/日)とワルファリンは、大出血リスクは同等である。リバーロキサバンもワルファリンと大出血リスクは同等である。アピキサバンは、ワルファリンよりも大出血リスクが低い。(エビデンスの質:中、推奨度:弱)

1

2

3

4

5サマリー
p.87
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

抗血小板薬アスピリン、

クロピドグレル、シロスタゾール心房細動患者抗凝固薬のほうが有効性が高い。出血リスクは同等原則として使用せず、抗凝固薬の投与を考慮するべきエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2]

アスピリンアスピリン上部消化管出血の既往のある患者潰瘍、上部消化管出血の危険性を高める可能な限り使用を控える代替薬として他の抗血小板薬(クロピドグレルなど)使用する場合は、プロトンポンプ阻害薬やミソプロストールなどの胃保護薬を併用(適応症に注意)エビデンスの質:高推奨度:強[3]複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法出血リスクが高まる長期間(12カ月以上)の使用は原則として行わず、単独投与とするエビデンスの質:中推奨度:強[2] [4] [5] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

非心原性脳梗塞の既往をもつ患者または冠動脈疾患患者に対して、抗血小板薬の投与により、心血管イベントの発症リスクを低下させることができる。また、冠動脈ステント挿入後の患者は、抗血小板薬の2剤併用療法により、ステント血栓症のリスクを低下させることができる。さらに心房細動をもつ高齢患者に対して抗凝固薬の投与により、脳梗塞ならびに全身性血栓塞栓症の発症リスクを低下させることができ,その効果は抗血小板薬を有意に上回る[6]。高齢者では、これらの心血管疾患発症の絶対リスクは一般成人よりも高く、主要な死因となるだけでなくADLを損なう原因になることから、ハイリスクの高齢者に対する抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の適応は積極的に検討しなければならない。ただし、その際に、必ず考慮しなければならないことは、抗血栓薬投与による出血リスクの上昇である。常に抗血栓薬投与によって得られるベネフィット(虚血イベント発症リスク低下)と

薬物リスト

解説
p.88
領域別指針4循環器疾患

IV

リスク(出血イベント発症リスク上昇)のバランスを評価しなければならない。高齢であること自体が、最も重要な抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)による出血リスクの予測因子の1つである[7]。また、複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法は、出血リスクを大幅に上昇させるため[8]、できるだけ避けるべきであり、冠動脈ステント挿入後など投与せざるをえない場合でも不必要に長期間投与することは望ましくない。一方で複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法によって得られるメリットは、単独投与と比較して限定的である。

ワルファリン服用中の患者の出血リスクの予測因子として、高血圧、腎障害、肝障害、脳卒中の既往、出血の既往または出血性疾患、不安定なPT-INR、高齢(75歳以上)、抗血小板薬(またはNSAIDs)の併用、が知られている[9]。これらの因子をスコア化しHAS-BLEDスコアとして出血リスクの評価に広く使われている。また、高齢患者の場合、抗凝固薬服用中の大出血の予測因子として、がん、転倒の既往、薬剤数が多いことも報告されている[10,11]。

最近、心房細動に伴う心原性脳梗塞の予防を目的とした抗凝固療法として、直接トロンビン阻害薬や第Xa因子阻害薬などのNOAC(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants)が広く用いられている。臨床試験の結果からは、高齢者においては、ダビガトラン(220mg/日)とワルファリンは、大出血リスクは同等であり[12]、リバーロキサバンもワルファリンと大出血リスクは同等である[13]。アピキサバンは、ワルファリンよりも大出血リスクが低い[14]。NOACは、各薬剤で程度の差はあるものの腎臓で排泄されるため、高度の腎障害患者には禁忌であり、出血リスクを考慮した上で抗凝固療法の適応があると判断される場合は、ワルファリンを使用する。

引用文献

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p.89
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according to age for stroke prevention in atrial fi brillation: observations from the ARISTOTLE trial. Eur Heart J 2014;35(28):1864-72.
p.90
領域別指針4循環器疾患

IV

心不全

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、heart failure、diuretic、beta blocker、ACE inhibitor、angiotensin receptor blocker、adverse drug reaction、oxygen、adverse events、fall、nocturia、dizziness、depression、ARB

CQ:高齢心不全患者に対するループ利尿薬処方の注意点は何か?心不全患者に対するループ利尿薬の長期投与では、予後の悪化や骨量減少が報告されており、低用量にとどめる必要がある。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)高用量のループ利尿薬により腎機能悪化や起立性低血圧、電解質異常などのリスクが増大する。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:高齢心不全患者に対してもβ遮断薬は有効かつ安全か? β遮断薬(保険適用はビソプロロールとカルベジロール)は高齢者心不全に対しても予後の改善効果があり、一般には安全である。非選択的β遮断薬(カルベジロールを除く)は保険適用もなく、気管支喘息、COPD患者では、呼吸器疾患の悪化を認める恐れがあり中止すべきである。それ以外の高齢患者においても慎重に使用する。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:高齢者でもACE阻害薬やARBは若中年者同様に心不全で推奨されるか? ACE阻害薬は高齢者の心不全治療に有用な薬剤であり、推奨される。(エビデンスの質:高、推奨度:強)しかしながら、高K血症が起こりやすいためすべての高齢者において、ARBを含む他のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の薬剤との併用は避ける。ARBはACE阻害薬が使用できない場合の代替薬として、ACE阻害薬同様に使用する。(エビデンスの質:高、推奨度:強)また、利尿薬を服用している患者では、これらの薬により腎機能低下のリスクが高まることに注意を要する。(エビデンスの質:中、推奨度:弱) CQ:高齢心不全患者に対して抗アルドステロン薬は安全か?すべての高齢者に対し高用量での抗アルドステロン薬の使用は高K血症が起こりやすいため、安全に使用するためには適宜、電解質やモニタリングをしながらの使用である。高K血症や腎機能低下の症例では、少量での使用にとどめることが推奨される。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1

2

3

4サマリー
p.91
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当

の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

ジゴキシンジゴキシン>0.125mg/日での使用ジギタリス中毒0.125mg/日以下に減量する高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮するエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4]ループ利尿薬フロセミドなど腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常必要最小限にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する適宜電解質・腎機能のモニタリングを行うエビデンスの質:中推奨度:強[5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12]アルドステロン拮抗薬スピロノラクトン、エプレレノン高K血症適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う特にK高値・腎機能低下の症例では、少量の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[4] [6] [11] [12] [13] [14] [15] [16]非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール気管支喘息、COPD呼吸器疾患の悪化や喘息発作誘発気管支喘息やCOPDではβ1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討するカルベジロールは、心不全合併COPD例で使用可(COPDの増悪の報告が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)エビデンスの質:高推奨度:強[17] [18] [19] [20]チアゾリジン薬ピオグリタゾン骨粗鬆症・骨折(女性)、

心不全心不全患者、心不全既往者には使用しない。高齢者では、少量から開始し、慎重に投与するエビデンスの質:中推奨度:弱[21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28]

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

薬物リスト
p.92
領域別指針4循環器疾患

IV

開始を考慮するべき薬物のリスト薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記載)推奨される

使用法(対象となる病態・疾患名)注意事項エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

ACE阻害薬心不全誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と

肺炎の既往を有する高血圧)高K血症(ARBとは併用しない。アリスキレン、K保持性利尿薬との併用に注意)、空咳エビデンスの質:高推奨度:強[20] [29] [30] [31] [32] [33] [34] [35] [36]

ARBカンデサルタン心不全に対してACE阻害薬に忍容性のない場合に使用。低用量より漸増高K血症(ACE阻害薬とは併用しない。アリスキレン、K保持性利尿薬との併用に注意)心不全に保険適用のないジェネリクもあるため適応症に注意エビデンスの質:高推奨度:強[37] [38]

心不全に対するジギタリスの有用性はDIG trial[1]により明らかとなったが、介護施設入所者における心不全患者について検討したところ、26%の患者に潜在的なジギタリス中毒の可能性があると報告され[2]、処方にあたっては心拍数や心電図、血中濃度の計測を定期的に行う必要がある。STOPP/START[3]やBeers基準2012[4]などの高齢者薬物療法ガイドラインに準じて0.125mg/日以上の使用は控えることが重要である。また、0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮する。

ループ利尿薬は日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドラインにおいてNYHAII度以上の患者に対してClass 1としているが、症候性心不全に対する体液貯留緩和のためには必須の薬剤であり、エビデンスの構築が難しいことから、エビデンスレベルはCとなっている。ループ利尿薬を使用している患者は非内服群と比較して重症であるのは当然であるが、ループ利尿薬の慢性使用は予後が悪化することが示されており[5~7]、DIG trial[1]のサブ解析ではループ利尿薬内服群で非内服群と比較し死亡でハザード比(HR)1.50(p=0.003)、心不全入院でHRが1.48(p=0.005)と高いことが示された[5]。わが国のJCARE-CARDでも高齢患者でループ利尿薬を内服していた群では、総死亡や心臓死、さらに全死亡と再入院の合算でHR 1.236(p=0.040)と有意差な増大が認められた[7]。病状の改善とともにループ利尿薬は減量や中止を試みるべきと考えられる。

さらに、ループ利尿薬は高齢者において骨量を減少させることが報告されている。男性では利尿薬の非使用例、間歇使用例、常用例の3群に分割したところ、平均4.6年の間に大腿骨骨密度がDXA法でそれぞれ平均-0.33%、-0.58%、-0.78%減少していた[8]。女性においても平均4.4年の間に大腿骨DXA法で非使用例では-0.70%、常用例では-0.90%と有意

解説
p.93
に減少した[9]。この研究における多変量解析での最も骨密度に影響の強い要因はループ利尿薬の使用であった。ループ利尿薬の使用においては、骨量減少や骨折への配慮が必要である。

β遮断薬はUS Carvedilol study[39]やCIBIS-II[40]、COPERNICUS[12]などのエビデンスにより軽症から重症までの慢性心不全に頻用されるようになった。高齢心不全患者に対しカルベジロールとビソプロロールの最大用量への増量の忍容性を比較したCIBIS-ELD trial[41]では、12週間後に両群とも25%前後と少ないながらも異常なく増量することができており、合併症に配慮しつつ使用することができると思われる。しかしながら、気管支喘息、COPD患者に対する非選択的β遮断薬は気管支攣縮をきたすおそれがあり、中止すべきである。一方でカルベジロールは非選択性であるが、COPD合併心不全で1秒量低下が認められるもののCOPD自体は増悪しなかったとの報告もあり[20]、また心不全予後改善効果のエビデンスが多いことから、特に慎重な投与を要する薬物には含めず、有効性と安全性に配慮しながら慎重に使用する。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は初期(ステージA)より推奨される薬剤であり、高齢者においても高齢ハイリスク患者において心不全発症予防効果[30,31]や予後の改善効果[32,37]があるため、初期(ステージA)からの開始が推奨される。腎機能低下例については慎重投与が必要で、特に腎機能障害(クレアチニンクレアランス30mL/分/m2未満)を有する高齢心不全患者では忍容性の低下が認められた[33]。ARBについても、心筋梗塞後の患者を中心に行われたVALIANT研究における高齢者の検討では、バルサルタンの平均使用用量は加齢に伴い65~74歳、75~84歳、85歳以上でそれぞれ256±100mg、240±110mg、221±118mgと著しい差は認められず、ACE阻害薬との併用がない群では高K血症の頻度は高齢者でも約2%にとどまった[38]。高齢心不全患者においても安全に使用される薬剤と考えられる。

アルドステロン拮抗薬のスピロノラクトンも心不全に有用な薬剤であるが、高齢者では高K血症の頻度が13.4%~18%と高く[13~15]、中央値25mgの用量においても高齢者では高K血症に伴う入院や死亡が多く認められたとする報告[15]もあり、Beers基準2012に記載のとおり25mgより高用量で高K血症の頻度が高くなると考えられるが、使用にあたっては適宜、血清K値や腎機能のモニタリングを行いながら、高K血症の症例に対しては特に少量の使用にとどめるようにする。エプレレノンもEMPHASIS-HFにて75歳以上では腎機能障害や高K血症を発症するリスクの上昇が報告されており、同様に注意が必要な抗アルドステロン薬である[16]。

高齢者では心不全とうつの合併頻度が高く、うつは心不全の増悪因子である。その一方で治療薬である抗うつ薬についても服用中の患者において心不全が増悪することが報告されている。抗うつ薬開始12週後のうつや心イベントがSSRIのセルトラリン投与群とプラセボ群で有意差がなかったとする報告のみならず[41]、抗うつ薬を処方されているNYHA分類のII度、III度の患者においてむしろ死亡率が有意に増大する(HR 1.49)とする報告[42]がある。一般的には高齢の心不全患者においては抗うつ薬により心血管イベントの発症率が高いことに留意する必要があり、特に三環系抗うつ薬は心筋梗塞回復初期およびQT延長症候群に禁忌で、ルジオミールは心筋梗塞回復初期には禁忌である。
p.94
領域別指針4循環器疾患

IV

また、糖尿病治療薬のチアゾリジン薬には心不全のない患者においても心不全を発症させる危険性が報告されており[21,27]、心不全患者、心不全の既往者には使用すべきではない。それ以外の高齢者では少量から開始する。

引用文献

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p.95
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p.96
領域別指針

5 高 血 圧

IV

高血圧

領域別指針

5 IV

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、contraindication、contraindicated、antihypertensive(drug or agent or treatment)、 (treatment or management) of hypertension、hyponatremia、hypokalemia、 hypopotassemia、electrolyte abnormality、angiotensin II receptor antagonist、 angiotensin II receptor blocker、 ARB、angiotensin converting enzyme inhibitor、 ACE inhibitor、 ACEI、diuretic、dehydration、calcium channel blocker、calcium channel antagonist、 CCB、edema and adverse、fall、alpha blocker、 alpha1 blocker、 α-blocker、beta blocker、 β-blocker、antihypertensive(drug or agent or treatment)、 (treatment or management) of hypertension

CQ:高齢者高血圧に対し、禁忌、および比較的禁忌となる薬剤はあるか?短時間作用型ニフェジピンは高齢者において慎重な投与が必要であり、原則として使用しない。(エビデンスの質:高、推奨度:強) β遮断薬は、高齢者において禁忌や使用上の注意が必要な場合が多く、慎重に投与する。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:Ca拮抗薬による浮腫の頻度は、高齢者で高いか? Ca拮抗薬の種類により浮腫の頻度は異なるか? Ca拮抗薬による浮腫の頻度が高齢者で増加することを示す明らかなエビデンスはない。またCa拮抗薬の種類によって浮腫の頻度が異なるかについては、一定の見解が得られていない。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱) CQ:高齢者の転倒と降圧治療に関連はあるか? 転倒を起こしやすい降圧薬はあるか?高齢者の降圧治療は開始早期に転倒リスクの増加と関連する。転倒リスクの高い高齢者では、α遮断薬は使用を避け、使用する場合は少量より漸増する。(エビデンスの質:中、推奨度:弱)起立性低血圧を有する場合は、降圧利尿薬の中止または減量を考慮する。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)

1

2

3サマリー
p.97
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当

の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンスの質と

推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

受容体サブタイプ非選択的α1受容体遮断薬テラゾシン、プラゾシン、ウラピジル、ドキサゾシンなど起立性低血圧、転倒可能な限り使用を控える代替薬:(高血圧)その他の降圧薬(前立腺肥大症)タムス

ロシン、シロドシン、ナフトピジル、植物製剤などエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3]

ループ利尿薬フロセミドなど腎機能低下起立性低血圧、転倒、電解質異常低用量の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する。適宜電解質・腎機能のモニタリングを行うエビデンスの質:中推奨度:強[2] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]非選択的β遮断薬プロプラノロール、カルテオロール気管支喘息、COPD呼吸器疾患の悪化や喘息発作の誘発気管支喘息やCOPDではβ1選択的β遮断薬に限るが、その場合でも適応自体を慎重に検討する。カルベジロールは、心不全合併COPD例で使用可(COPDの増悪の報告が少なく心不全への有用性が上回る。気管支喘息では禁忌)エビデンスの質:高推奨度:強[11] [12] [13] [14] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

CQ:高齢者高血圧において、合併症のある場合の積極的適応となる薬剤はあるか?誤嚥性肺炎の既往(不顕性を含む)のある患者では、ACE阻害薬が推奨される。(エビデンスの質:中、推奨度:強)骨粗鬆症患者では、他に積極的適応となる降圧薬がない場合、サイアザイド系利尿薬が推奨される。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)

4

薬物リスト
p.98
領域別指針

5 高 血 圧

IV

開始に考慮するべき薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当

の場合は無記載)推奨される使用法(対象となる病態・

疾患名)注意事項エビデンスの

質と推奨度エビデンスの

質と推奨度

ACE阻害薬心不全誤嚥性肺炎ハイリスクの高血圧(脳血管障害と肺炎の既往を有する高血圧)高K血症(ARBとは併用しない。アリスキレン、アルドステロン拮抗薬との併用に注意)、空咳エビデンスの質:高推奨度:強[13] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22]

高血圧領域においては転倒やCa拮抗薬による浮腫、水・電解質異常に焦点を当て、系統的レビューを行った。高血圧は加齢とともに増加し、わが国では前期高齢者の66%、後期高齢者の80%が高血圧に罹患していると報告されている。高齢者においても高血圧は心臓病、脳卒中などすべての循環器疾患の共通で最も重要な危険因子の1つであり、多くの長期介入試験により降圧薬治療の有効性が確認されている。しかしながら、高齢者は一般に多病であること、病態が非定型であることなどから、年齢が同一であっても生理機能の個人差が大きく、特に後期高齢者では非高齢者とは異なる病態生理的変化を示す。高齢者高血圧の薬物治療にあたっては、これらの特徴をよく理解した上で個別に実践することが大切である。ここではレビューの結果を踏まえ、高血圧治療ガイドライン(JSH2014)を基準とし、高齢者高血圧における薬物療法上の留意点について述べる。

2014年4月、高血圧治療ガイドラインが改訂された[13]。高齢者でも原則として140/90mmHg以上の血圧レベルを降圧薬治療の対象として推奨するが、十分なエビデンスがない後期高齢者のI度高血圧やフレイルを合併する高齢者に対しては個別に判断する。いずれの場合も非薬物療法を積極的に行うことが必要である。一般に高齢者は薬物有害事象のハイリスク群であることも念頭に置く。新ガイドラインの具体的なポイントは、1後期高齢者やフレイルを合併する高齢者では、副作用の発現や臓器障害に留意し、QOLに配慮しながら緩徐なスピードで降圧すること、2降圧目標を75歳未満では140/90mmHg未満、75歳以上では150/90mmHgとすること、3合併症を伴う場合は個々の症例に最も適した降圧薬を選択すること、4積極的適応がない場合の降圧薬治療の第一選択薬は、非高齢者と同様、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬(サイアザイド類似利尿薬を含む)とし、一般に常用量の1/2量から開始すること、5降圧効果不十分な場合はこれらの併用を行うこと、の5点である。

現在、適応症に高血圧症を含むにもかかわらず、降圧薬としてほとんど使用されない薬物がある。短時間作用型ニフェジピン、中枢性交感神経抑制薬、および末梢性交感神経抑

解説
p.99
制薬がこれらに該当し、過降圧やうつなど高齢者に対して好ましくない有害事象が多いため、慎重な投与が必要である[1]。またヒドララジンなどの古典的血管拡張薬も、一般に頭痛、動悸、頻脈、浮腫がみられるほか、劇症肝炎の報告もあり肝障害者への投与は禁忌である。これらの薬剤は原則として高齢者には使用しない。

高齢者の水・電解質代謝における生理的変化の1つに、内分泌系および腎機能低下による体液量調節の障害、および電解質ホメオスタシスの易破綻性があげられ、降圧利尿薬は高齢者に対して水・電解質異常を引き起こしやすい。サイアザイド系利尿薬は第一選択薬であるものの、低Na血症、低K血症、低Mg血症、およびビタミンDやカルシウム製剤との併用による高Ca血症に注意が必要である。抗アルドステロン薬では高K血症に注意が必要である。その他の降圧薬が非高齢者に比し電解質異常を起こしやすいことを示すエビデンスはない。高齢者高血圧に対しアリスキレンとリシノプリルの有効性と安全性を直接比較したRCTでは、アリスキレンはリシノプリルと同程度の有効性と安全性を持ち、認容性も良好であったが、高K血症の頻度が高かった(1.9% vs. 0%) [23]。アリスキレンはRA系阻害薬が積極的適応となる病態にもかかわらずARBやACE阻害薬が使用できない高齢者には良い適応になるが、高K血症に注意をする必要がある。ループ利尿薬は腎機能低下例やサイアザイド系利尿薬との併用などに用いられるが、詳細は心不全の項(p. 83)を参照のこと。

Ca拮抗薬による浮腫の頻度が高齢者で増加することを非高齢者と直接比較調査した研究はなく、したがって、高齢者でCa拮抗薬による浮腫の頻度が増加することを示す明らかなエビデンスはない。また、Ca拮抗薬の種類によって浮腫の発現頻度が異なるかについては、60歳以上の収縮期高血圧患者195名を対象に、アムロジピンとマニジピンの降圧作用を比較したRCTの報告がある。結果は同程度の降圧レベルでアムロジピン群での浮腫の発現率が高かったが(9.1% vs. 23.7%)、マニジピン群で利尿薬の投与が多かったことから、一定の見解は得られなかった[24]。

新規に降圧薬を開始された高齢者では、治療開始早期の転倒リスクが増加することが54万人規模の地域住民を対象とした観察研究で示されている。治療開始後45日間の転倒リスクはコントロール期間を対象とした相対発症率IRR(incidence rate ratio)=1.69(95%CI: 1.57-1.81)であり、ARBを除いたCa拮抗薬、ACE阻害薬、降圧利尿薬、β遮断薬で増加し、特に開始後14日間ではIRR=1.94(95% CI:1.75-2.16)と高く、すべての降圧薬で転倒リスクが増加した[25]。高齢者に対しては、新規降圧薬開始時のみならず、降圧薬増量時にも転倒リスクについて配慮すべきであると考えられる。さらに、α遮断薬は初回投与現象として起立性低血圧によるめまい、動悸、失神を認める。転倒リスクの高い高齢者では使用を避け、やむを得ず使用する場合は少量より漸増する。また起立性低血圧を有する場合は、α遮断薬は原則として使用せず、利尿薬も中止または減量を考慮することが必要である。

一方、高齢者の降圧薬選択に影響を与える病態として、誤嚥性肺炎と骨粗鬆症が注目されている。ACE阻害薬は咳反射を亢進し、高齢者の誤嚥性肺炎を減らすことが報告されており、誤嚥性肺炎の既往のある患者では、ACE阻害薬が推奨される。また、80歳以上高齢者高血圧を対象としたHYVETでは実薬群の基礎薬として利尿薬(インダパミド)が用いら
p.100
領域別指針

5 高 血 圧

IV

れ、同群で有意な骨折の減少を認めた。骨粗鬆症患者では、他に積極的適応となる降圧薬がない場合、腎でのCa再吸収を亢進させるサイアザイド系利尿薬が推奨される[13]。またβ遮断薬の積極的適応は高齢者でも考慮されるべきであり、心不全や心筋梗塞後の高齢者などには他に禁忌がない場合、呼吸器疾患の悪化や徐脈性不整脈の出現などに注意しながら、積極的に投与する。

引用文献

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p.102
領域別指針6腎疾患:腎不全( C K D )

IV

腎疾患腎不全(CKD)

領域別指針

6 IV

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、chronic kidney disease、CKD、renal failure、angiotensin II receptor antagonist、angiotensin II receptor blocker、ARB、angiontensin converting enzyme inhibitor、ACE inhibitor、ACEI、diuretics、non-steroidal anti-infl ammatory drug、NSAIDs、contrast agent、contrast dye、hyponatremia、hyperkalemia、hypercalcemia、hyperuricemia、high uric acid、dehydration/ volume depletion、osteoporosis

CQ:NSAIDs投与は腎機能低下のリスクを高めるか?高齢者では軽度の腎機能低下を認めることが多く、NSAIDsはさらに腎機能を低下させるリスクが高いため、長期間の使用や常用は避け、使用する場合は低用量とする。(エビデンスの質:高、推奨度:強)なお、COX-2選択性NSAIDsやNSAIDsに含まれないアセトアミノフェンについても腎障害に対する安全性は確立していない。いずれも使用量は最小限にとどめるべきである。(エビデンスの質:低、推奨度:弱) CQ:NASIDsは電解質異常のリスクがあるか? NSAIDsは腎機能低下以外に、自由水クリアランスの低下をきたすため、低Na血症に注意する。(エビデンスの質:低、推奨度:弱) CQ:降圧薬治療中の高齢者は、NSAIDs投与により腎障害のリスクが高まるか? NSAIDs、RA系阻害薬、利尿薬を併用した場合は、腎機能低下や低Na血症のリスクが増大する。(エビデンスの質:中、推奨度:弱 ) CQ:高齢者に対するアルドステロン拮抗薬は安全に使用できるか?高齢者では軽度の腎機能低下を認めることが多く、RA系阻害薬やアルドステロン拮抗薬服用により高K血症や腎機能低下のリスクが上昇する。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:高齢心不全患者への利尿薬の投与は腎機能低下のリスクを高めるか?高齢心不全患者では、高用量のループ利尿薬やアルドステロン拮抗薬により腎機能低下のリスクが増大する。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1

2

3

4

5サマリー
p.103
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象となる

場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンスの質と

推奨度参考にしたガイドラインまたは

文献

NSAIDsすべてのNSAIDs腎機能低下、上部消化管出血のリスク1. 使用をなるべく短期間にとどめる2. 中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストール併用を考慮3. 中止困難例では、消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど) a. その場合も可能な限り低用量を使用b. 消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮エビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13]ループ利尿薬フロセミドなど腎機能低下起立性低血圧、転倒、電解質異常低用量の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する適宜電解質・腎機能のモニタリングを行うエビデンスの質:中推奨度:強[14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21]アルドステロン拮抗薬スピロノラクトン、エプレレノン高K血症適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う特に、K高値、腎機能低下の症例では少量の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [15] [20] [21] [22] [23] [24] [25] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

CQ:高齢心不全患者への利尿薬とRA系阻害薬の併用投与は安全か?利尿薬を服用している高齢心不全患者では、RA系阻害薬服用により腎機能低下のリスクが高まる。(エビデンスの質:中、推奨度:弱)

6

薬物リスト
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領域別指針6腎疾患:腎不全( C K D )

IV

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

腎疾患領域では、急性腎障害および水電解質異常に焦点を当ててレビューを行った。高齢者は除脂肪体重および体水分量が減少しており、潜在的に腎機能が低下している。したがって、薬物動態的に薬剤性急性腎障害のハイリスク群であり、その発症の予防および早期発見が重要である。また、高齢者では尿細管機能も低下しており、水電解質異常をきたしやすい。ここでは、レビューの結果を踏まえつつ、高齢者における薬物療法の注意点として、急性腎障害ならびに水電解質異常に対する留意点を述べる。なお、腎機能が低下した高齢者に腎排泄性の薬物を使用する場合は、体表面積補正をしない推算糸球体濾過量[estimate glomerular fi ltration rate;eGFR(mL/分)]で評価して、薬物の減量や投与間隔の延長を行う。筋肉量の少ない高齢者では、血清シスタチンCを用いた推算GFRを用いて腎機能を評価する。

非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-infl ammatory drugs;NSAIDs)は高齢者で使用頻度の高い薬物である。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害によりプロスタグランジン(PG)産生を抑制する。正常血行動態下の正常腎組織におけるPGの産生量は低いが、脱水等による有効循環血漿量の減少により腎血行動態が悪化すると、交感神経系の活性化、カテコールアミンやレニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensin system:RAS)活性化による血管収縮に拮抗する作用を有する血管拡張性PGの産生が腎で亢進し、腎血流量(renal blood fl ow;RBF)・ GFRが維持されるような代償機構が働く[26]。しかし、このような病態でNSAIDs服用によりPG産生が低下するとRBF、GFRが低下する。このような変化はNSAIDs服用数時間後に起こるが、中止により前値に回復する。しかし、GFRの低下に気づかず、継続服用していると虚血性の尿細管細胞壊死に陥る。高齢者では軽度の腎機能低下を認めることが多く、NSAIDsはさらに腎機能を低下させるリスクが高いため、長期間の使用や常用は避け、使用する場合は低用量とする。腎機能が正常の高齢者でも常用により腎機能が低下するリスクは高いため、できるだけ低用量とすることが望ましい。なお、高齢者を対象とした臨床研究でCOX-2選択性と非選択性のNSAIDsに腎障害に対する影響に有意差はない[27]。アセトアミノフェンはNSAIDsには含まれていないが、腎障害に対するアセトアミノフェンの安全性については、一定の見解が得られていない。アセトアミノフェンもNSAIDsと同様に腎障害のリスクが高いという報告もあり[28]、COX-2選択性NSAIDsやアセトアミノフェンについても使用量は最小限にとどめるべきである。

RA系阻害薬は、同等の降圧レベルであっても、他の降圧薬よりも、尿蛋白減少効果が強く、腎障害の進展を抑制する。これは、RA系阻害薬が糸球体輸出細動脈を拡張させて糸球体内圧を低下させることが大きな要因である。したがって、糖尿病合併CKD患者および軽度以上の蛋白尿を呈する糖尿病非合併CKD患者では、RA系阻害薬が第一選択となる。CKD合併高血圧症の高齢者の大半は、蛋白尿が陰性もしくは軽度でGFRが低下した患者であり、このような患者の腎機能低下の要因は動脈硬化による腎硬化症もしくは虚血性腎症

解説
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が多いと推定され、このような患者では必ずしも糸球体内圧は上昇していない。高齢者ではCKD患者の5~22%が動脈硬化性腎動脈狭窄症を合併していると報告されており、過度の降圧では、腎糸球体への灌流圧が低下することにより、急性腎障害をきたす可能性がある。また、血圧低下が軽度であっても、RA系阻害薬の使用により、糸球体内圧の過降圧をきたし、正常血圧急性腎障害をきたすことがあり、注意を要する[29]。心不全を有する高齢者では、アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme;ACE)阻害薬使用により腎機能悪化のリスクが高いことが報告されているが[30]、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensinIIreceptor blocker;ARB)でも同様のリスクがあると考えられ、RA系抑制薬を使用する場合は、低用量から開始することが望ましい。高齢者では、RA系の低下に伴い高K血症をきたしやすい。アルドステロン拮抗薬により高K血症が増加したことや、RA系阻害薬同士の併用やRA系阻害薬と直接的レニン阻害薬の併用により、高K血症のリスクが増加することも報告されている[31]。

サイアザイド系利尿薬は、高齢者でも有用性が報告され、高齢者でも第一選択薬の1つである。特に、骨粗鬆症を有する患者では積極的な使用が推奨されている。高齢者は低Na血症をきたしやすいが、サイアザイド系利尿薬が作用する遠位尿細管は、能動的にNaClが管腔内から間質へと輸送される尿の希釈部であり、かつ、有効循環血漿量低下に伴うADH分泌亢進により、サイアザイド系利尿薬を服用していると、さらに低Na血症になりやすい[32]。

サイアザイド系利尿薬が骨粗鬆症患者で積極的な使用が推奨されているのは、腎でのCa再吸収を亢進させるからである。しかし、高齢者では骨粗鬆症の治療として、多量のビタミンDやカルシウム製剤を処方されていたり、サプリメントとして服用したりすることにより、高Ca血症をきたすことがある。サイアザイド系利尿薬とビタミンDやカルシウム製剤の併用により、高Ca血症による腎機能低下を示すことがあり、注意を要する。

高齢者における低K血症の出現頻度は、若年者に比し明らかに高率である。食欲不振やうつ病によるK摂取不足、吸収不良や下痢・嘔吐による消化管からの喪失などの全身状態に加えて、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の連用によるK喪失や、甘草やグリチルリチンなどの長期服用により偽性アルドステロン症が関与する。

引用文献

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領域別指針6腎疾患:腎不全( C K D )

IV

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in the elderly. J Am Soc Nephrol 1994; 5(4): 1106-11.
p.108
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

消化器系疾患

領域別指針

7 IV

便秘検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、constipation、saline laxatives、stimulant laxatives、chloride channel activators、Chinese traditional herbal medicine

CQ:便秘の原因となる薬物にはどのようなものがあるか?抗コリン薬[ムスカリン受容体拮抗薬、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬、定型抗精神病薬、H1受容体拮抗薬(第一世代)など]は、過活動膀胱やパーキンソン病、うつ病、蕁麻疹などの疾患の治療薬として使われるが、認知機能低下やせん妄のリスク、過鎮静、口内乾燥、便秘、排尿症状の悪化などの有害事象をもたらす。したがってこれらの薬剤は可能な限り使用を控える。代替薬がある場合は代替薬に変更する。代替薬がない場合は必要最小限の使用にとどめる。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:浸透圧下剤は安全か?酸化マグネシウムは忍容性の高い浸透圧下剤であるが、高齢者では腎機能低下により高Mg血症のリスクが増大する。用法用量を厳守し、かつ低用量から始める。開始後は血清マグネシウム値をモニターする。血清Mg値上昇や高Mg血症による症状出現時は使用を中止し、他の作用機序の緩下剤への変更を検討する。なお、酸化マグネシウムは活性型ビタミンD3との併用で高Mg血症を起こすなど、多くの併用注意薬があることにも留意して使用する。(エビデンスの質:低、推奨度:強) CQ:刺激性下剤は安全か?刺激性下剤は数時間で効果が現れ、排便回数や便の硬さなど排便状態を改善させるが、一方、腹痛や水様下痢便による電解質異常・脱水などの有害事象の発生頻度も高い。長期連用により耐性や習慣性が生じるため、漫然と連用することは厳に慎むべきである。他剤との併用や用量を工夫し、あくまで頓用で使用すべきである。(エビデンスの質:低、推奨度:強)

1

2

3サマリー
p.109
特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者群*

(すべて対象となる場合は無記載)主な副作用・理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

抗精神病薬全般定型抗精神病薬(ハロぺリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)非定型抗精神病薬(リスペリドン、

オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、ペロスピロンなど)認知症患者全般錐体外路症状、過鎮静、認知機能低下、口内乾燥、便秘、脳血管障害と死亡率の上昇非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)はパーキンソン病に禁忌。オランザピン、クエチアピンは糖尿病に禁忌エビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6]

三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなどすべての三環系抗うつ薬認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [7] [8] [9] [10] [11] [12]パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ビペリデン認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控える代替薬:L-ドパエビデンスの質:中推奨度;強[1] [7] [8] [13] [14] [15] H1受容体拮抗薬(第一世代)すべてのH1受容体拮抗薬(第一世代)認知機能低下、せん妄のリスク、口腔乾燥、便秘可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [7] [10] [16] [17]酸化マグネシウム酸化マグネシウム腎機能の低下高Mg血症高用量の使用は避ける。低用量から開始し、血清Mg値をモニターする。血清Mg値上昇時は使用を中止する代替薬:他の作用機序の緩下薬エビデンスの質:低推奨度:強[18] [19]

薬物リスト
p.110
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

ムスカリン受容体拮抗薬ソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシン、プロピベリン、オキシブチニン経皮吸収型口腔乾燥、便秘、排尿症状の悪化、尿閉低用量から使用。前立腺肥大症の場合はα 1遮断薬との併用。必要時、緩下剤を併用するエビデンスの質:高推奨度:強[1] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29] [30] [31] [32] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

消化器系疾患領域では胃食道逆流症(GERD)および便秘、特に慢性便秘に焦点を当ててレビューを行った。GERD・慢性便秘ともに加齢に伴い増加する疾患である。加齢に伴う生理的変化はGERDや慢性便秘の一因となるが、高齢者でよくみられる疾患の治療薬がGERDや便秘を増悪させることも多い。これらの症状の持続が高齢者のQuality of lifeを低下させることもよく知られていることである。ここではレビューの結果を踏まえてGERD・慢性便秘の薬物療法の注意点について述べる。

高齢者の慢性便秘では、併存疾患の治療薬が原因となっていることがある。便秘の原因となる薬物は大きく抗コリン薬とそれ以外の薬物に分けられる。高齢者で主に問題となるのは抗コリン薬である。抗コリン薬[ムスカリン受容体拮抗薬[33,34]、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬、定型抗精神病薬、H1受容体拮抗薬(第一世代)など]は、過活動膀胱やパーキンソン病、うつ病、蕁麻疹などの疾患の治療薬として使われるが、認知機能低下やせん妄のリスク、過鎮静、口内乾燥、便秘、排尿症状の悪化などの有害事象をもたらす[10]。また認知症患者への抗コリン薬は脳血管イベントや死亡率を上昇させることも報告されている。したがってこれらの薬剤は可能な限り使用を控える。代替薬がある場合は代替薬に変更する。代替薬がない場合は必要最小限の使用にとどめ、必要に応じて下剤の併用を検討する[1,7,17]。

便秘の薬物療法は、基本的に食事・生活指導を行っても改善が難しいときに行うセカンドラインの治療である。主な便秘治療薬には膨張性下剤(カルメロース、カンテン)、浸透圧下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース)、刺激性下剤(センナ、ダイオウ、ピコスルファートナトリウム)、クロライドチャネル・アクチベーター(ルビプロストン)がある。

解説
p.111
浸透圧下剤や刺激性下剤は本邦では使用頻度の高い薬物である。これらの薬物については小規模で入院・介護施設入所高齢者を対象とした19のRCT、Parallel trial、Cross-over trialで排便回数や便硬度の改善が報告されており、これらのtrialでは薬物による重篤な有害事象の報告はない[35~38]。しかし酸化マグネシウムの長期服用や高用量投与で高Mg血症を起こすことがある。特に腎機能低下例では血清Mg値が上昇しやすいため、定期的な血液検査や高Mg血症による悪心・嘔吐、血圧低下、徐脈、筋力低下、傾眠といった症状の出現を注意深く観察する必要がある[18,19]。また酸化マグネシウムは活性型ビタミンD3製剤との併用で高Mg血症を起こしやすくするほか、テトラサイクリン系抗菌薬・ニューキノロン系抗菌薬・ビスホスホネート・セレコキシブ・ロスバスタチン・ラベプラゾール・ガバペンチン・ポリカルボフィルカルシウム・高K血症改善イオン交換樹脂などの薬物との併用でこれらの薬物の作用を減弱させるなど、併用注意薬が多い。他剤との併用による有害事象の出現や薬物効果の減弱に注意して使用すべきである。ラクツロースについては便秘改善のエビデンスはあるものの本邦では慢性便秘での保険適用はなく、高アンモニア血症の治療・予防、産婦人科術後の排ガス・排便促進に使用が限定されている。

刺激性下剤は服用後数時間で効果が出るが、電解質異常や脱水、腹痛が出やすく[39]、長期連用による耐性および習慣性が問題となる[19]。薬物を増量する前に便秘のタイプの正しい評価や食事・生活習慣の見直しは必要であろう。また本邦における便秘の治療では緩下剤などをベースに用いて、刺激性下剤の使用をできるだけ頓用とし必要最小限にとどめること、そして連用・濫用による習慣性の誘発を避けるよう工夫すべきである[40]。

膨張性下剤はその水分保持能力により便の量を増すことで腸管を刺激し、腸管通過を促進するとされている。エビデンスレベルは低いが、大腸通過時間正常の軽度の慢性便秘でまず使用される下剤である。ただし作用発現までに時間がかかる難点がある。膨張性下剤使用時は機械的腸閉塞を避けるため多量の水分摂取が必要となる。そのため夏場の脱水になりやすい時期の使用や寝たきりなど、虚弱な高齢者に使用するときは十分な水分管理と同時に効果についてのモニタリングが必要となる[41]。

クロライドチャネル・アクチベーターであるルビプロストンは、小腸粘膜上のタイプ2クロライドイオンチャネルを活性化し、小腸腸管内腔へのクロライド輸送により浸透圧を生じさせ腸管内腔への腸液の分泌を促進する。その結果、便の水分含有量が増え柔軟化、腸管内輸送が促され便秘を改善する。ルビプロストンについては質の高いRCTがなされており[42~44]、65歳以上の高齢者サブグループの解析でも排便回数や排便にまつわる症状を有意に改善し、かつ有害事象(主に嘔気)も若年者に比べ高齢者で発生頻度が低いと報告されている[36]。ルビプロストンは本邦では発売後の使用経験の短い薬物であるが、その効果、忍容性から患者背景に応じて使用を検討すべき薬物と考える[45~47]。

引用文献

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p.112
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

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p.114
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

GERD

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、gastroesophageal refl ux disease、functional gastrointestinal disorders、proton pump inhibitors、Histamine 2-receptor antagonists、selective 5-HT4 agonists

CQ:PPIは高齢者のGERDの第一選択薬か?高齢者において、GERDの初期治療(4~8週)では、PPIがヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)やProkineticsよりも優れた食道炎の治癒、症状の改善をもたらすことから、第一選択薬と考えられる。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)は安全か? H2RAは対象となる高齢者において認知機能低下、せん妄を引き起こすリスクがあるため、可能な限り使用を控えることが望ましい。高齢者では腎機能が低下しているものが多く、腎排泄型の本剤は血中濃度が持続する可能性が高いため、H2RAが必要な場合は少量から慎重に投与する。(エビデンスの質:中、推奨度:強)。CQ:高齢者においてPPIの長期維持療法は安全か? PPIは有効で安全性が高いとされる一方、近年PPIの長期投与による骨折のリスクや、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)のリスクが高まることが報告されている。しかし、これらの報告はPPIによる初期治療や長期維持療法の必要な高齢者へのPPI投与を否定するものではない。骨折のリスクに関しては、PPI長期使用よりも、骨粗鬆症以外に大腿骨頸部骨折のリスクのある患者への、新たなPPI投与で骨折のリスクが高くなることが報告されている。このためリスクのある患者への新規投与は慎重に、可能な限り控えることが望ましい。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱)一方、CDIに関しては、PPI服用者では非服用者に比べリスクが上昇するため、難治性GERD、重症の食道炎、Barrett食道炎などGERDの長期維持療法が必要な症例や、NSAIDs内服により出血リスクの高い症例などを除いては、8週を超えるPPIの投与および常用量を超える投与は控える。(エビデンスの質:中、推奨度:強)。

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特に慎重な投与を要する薬物のリスト薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記載)対象となる患者群*

(すべて対象となる

場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

H2受容体拮抗薬すべてのH2受容体拮抗薬認知機能低下、せん妄のリスク可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では必要最小限の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

GERDの治療目的は、GERD症状の改善、QOL(quality of life)の改善、GERDによる貧血・出血・食道狭窄・Barrett食道およびBarrett食道癌発生など合併症を予防することである。

GERDの治療薬には、プロトンポンプインヒビター(PPI:オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど)、H2RA(ファモチジン、ラニチジン、シメチジンなど)、消化管運動改善薬(モサプリド)、制酸薬(スクラルファート、アルギン酸塩)などがある。GERDの薬物療法については多数のRCTがなされており、PPIはGERDの初期治療において、H2RAや消化管運動改善薬、制酸薬に比べ、有意に自覚症状や内視鏡的食道炎を改善することが報告されている[7~9,26]。高齢者のみを対象とした報告はないものの、対象者の約60%を65歳以上の高齢者が占める研究が多いことから、GERDの第一選択薬となるのは高齢者でもPPIである。GERDの初期治療以外にも、PPIは治療抵抗性の逆流性食道炎や難治性GERDの長期維持療法・再発予防においてもその有効性が示されている[10~13,25]。また、非びらん性胃食道逆流症(non-erosive refl ux disease;NERD)による自覚症状の改善[23,24]やGERDの非定型症状である非心臓性胸痛や咽喉頭逆流症(laryngopharyngeal refl ux disease; LPRD)、咽喉頭異常感症、慢性咳嗽、滲出性中耳炎などの症状改善にも有用性が報告されている[14~16]。

PPIは主にCYP2C19で代謝されるため、同じ経路で代謝される薬物との併用で相互作用が生じる。ジアゼパム、フェニトイン、ワルファリン、ジゴキシン等との併用でこれらの薬物の血中濃度が上昇する。逆にクロピドグレルとの併用ではクロピドグレルの血中濃度を下げる[17]。高齢者では併存疾患に対しこれらの薬物を服用している患者も多い。日本では2014年11月時点でオメプラゾール(OPZ)、エソメプラゾール(EPZ)、ランソプラゾール

薬物リスト

解説
p.116
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

(LPZ)、ラベプラゾール(RPZ)の4種類のPPIが使用可能であるが、代謝におけるCYP2C19の寄与率は各PPIにより異なる。RPZは非酵素的代謝経路が存在するためCYP2C19の影響を比較的受けにくい。またEPZもOPZに比べCYP2C19の寄与率が低い。上記のようなCYP2C19を代謝経路とする薬剤とPPIの併用においては、相互作用を少なくするためCYP2C19の影響の少ないPPIを選択するとよい。

H2RAとりわけシメチジンは肝臓の薬物代謝酵素P-450(CYP1A2, CYP2C9, CYP2D6, CYP3A4など)を阻害して、これらの酵素で代謝・排泄される薬剤の血中濃度を上昇させる。したがってワルファリンやベンゾジアゼピン系薬剤、抗てんかん薬、抗うつ薬、β遮断薬、抗不整脈薬などP-450で代謝される薬物との併用時には、これらの薬剤の作用が強く出る可能性があり、注意が必要である[18]。高齢者は他科や他院から複数の薬剤を処方されていることも多い。処方前にお薬手帳などで処方薬を確認しておくと、相互作用による有害事象を防ぐことにつながる。

GERDの初期治療はPPI常用量を8週間、NERDの場合は4週間投与する。再発再燃を繰り返す難治例では維持療法(半量など)が認められているが、中止時期に関する明確な指標はない。

PPIは有効で安全性が高いとされる[28]一方、近年PPIの長期投与による骨折のリスクや、クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)のリスクが高まることなどが報告されている[19,20]。しかし、これらの報告は、PPIによる初期治療や長期維持療法の必要な高齢者へのPPI投与を否定するものではない[29]。骨折のリスクに関しては、PPI非服薬者および過去の服薬者をコントロールとした10の観察研究のメタ解析[30]から、PPI服薬者では有意に大腿骨頸部骨折のリスクが高くなることが報告された(OR:1.25,95%CI:1.14-1.37,p<0.00001)。PPIの用量については、高用量・低用量ともに骨折のリスクとなるが、服薬期間については、短期間のPPI服薬は有意に骨折のリスク上昇させる(OR:1.24,95%CI:1.19-1.28,p <0.00001)が、長期間のPPI服薬では骨折のリスクに有意差は認められなかった(OR:1.30, 95%CI:0.98-1.70,p=0.06)ことが報告された。Corleyらは2年以上PPIあるいはH2RAを内服していた群とコントロール群を比較したCase-control study[31]で、大腿骨頸部骨折のリスクはPPI群でH2RA群より高く(PPI:OR;1.30,95%CI:1.21-1.39,H2RA:OR;1.18, 95%CI:1.08-1.29)、PPI/H2RA群ともに高用量群(≧1.5pills/日, OR:1.41,95%CI:1.21 -1.64)で低用量群(<0.74pills/日, OR:1.12, 95%CI;0.94-1.33)より骨折のリスクが高くなると報告している。さらにPPI使用により骨折のリスクが高くなるのは、長期間服薬している者ではなく、骨粗鬆症以外に少なくとも1つ以上の骨折のリスク(アルコール中毒、関節炎、糖尿病、腎疾患、ステロイド使用)のある症例であると報告した。大腿骨頸部骨折のリスクのある患者に対してPPIを新規投与することは、骨折のリスクを高くすると考えられるので、可能な限り投与を控えることが望ましい。一方、PPIとCDIの関係については、PPI非服薬者をコントロールとした42の観察研究のメタ解析[32]があり、PPI服薬が有意にCDIのリスクとなる(OR:1.74, 95%CI:1.47-2.85, p<0.001)ことが報告された。H2RAやPPIと抗菌薬との併用との比較では、PPIに比べてH2RAのほうがCDIのリスクは低いこと(OR:0.71, 95%CI:0.53-0.97),PPIと抗菌薬の併用はPPI単独に比べてCDIのリスクが高
p.117
くなること(OR:1.96, 95%CI:1.03-3.70)が報告された。安全性が高いといわれているPPIであっても、高齢者では骨折やCDIのリスクが上昇するため[33~35]、安易なPPIの新規投与は控えること、また難治性GERD・重症の食道炎・Barrett食道炎などGERDの長期維持療法が必要な症例や、NSAIDs内服により出血リスクの高い症例などを除いては、8週を超えるPPIの投与および常用量を超える投与は控えるべきである[27]。

GERDの治療薬としてH2RAも使用される。とりわけnocturnal gastric acid breakthrough (NAB)を訴える症例ではH2RAを就寝前に投与すると効果的なことがある。 しかし高齢者では腎機能が低下しているものが多く、腎排泄型の本剤は血中濃度が持続し有害事象の生じる可能性が高い。また高齢者、特に入院中の高齢者ではH2RAによるせん妄[2~5]、認知機能低下[6]などの有害事象が報告されており、可能な限り使用を控える。H2RA投与が必要な場合は少量から慎重に投与し、必要最小限の使用にとどめる。頻度は低いが、H2RA使用中に、再生不良性貧血、汎血球減少、血小板減少や白血球数減少などの造血障害が生じることがある(0.1~5%未満)。定期的に血液検査を行い、これらの徴候がみられたらH2RAを中止する。

引用文献

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p.118
領域別指針

7 消 化 器 系 疾 患

IV

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糖尿病

領域別指針

8 IV

検索Key Word aged、elderly、senile、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、Sulfonylurea、biguanide、glinide、α-glucosidase inhibitor、DPP-4、glitazone、insulin、GLP-1

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の場合

は無記載)対象となる患者群*

(すべて対

象となる場合は無

記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考に

したガイドラインまたは文献

非定型抗精神病薬リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン糖尿病血糖値上昇のリスク糖尿病患者に対してオランザピン、クエチアピンは禁忌エビデンスの質:中推奨度:強[1]

CQ:SU薬のなかで、高齢者でより低血糖のリスクが高い薬剤はあるか? SU薬のなかでは、グリベンクラミドによる低血糖が有意に多く、アセトヘキサミド、クロルプロパミドとともに使用を控えるべきである。他のSU薬については慎重に投与すべきである。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:高齢者へのメトホルミンの投与は安全か?高齢者では乳酸アシドーシスのリスクが高く、メトホルミンは慎重に投与すべきである。特に75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要であり、原則として新規の患者への投与は推奨されていない。ただし、海外のガイドライン等では異なる見解もみられる。(エビデンスの質:低、推奨度:弱) CQ:チアゾリジン薬は、骨粗鬆症、心不全のリスクを上げるか?チアゾリジン薬は骨折(女性)、骨粗鬆症、心不全のリスクを上げるため、少量から開始し、慎重に投与すべきである。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

1

2

3サマリー

薬物リスト
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領域別指針

8 糖 尿 病

IV

スルホニル尿素薬(SU薬)クロルプロパミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、グリメピリド低血糖とそれが遷延するリスク可能であれば使用を控える代替薬としてDPP-4 阻害薬を考慮エビデンスの質:中推奨度:強[2] [3] [4]ビグアナイド薬ブホルミン、メトホルミン低血糖、乳酸アシドーシス、下痢可能であれば使用を控える高齢者に対して、メトホルミン以外は禁忌エビデンスの質:低推奨度:弱[5] [14] [15] [22]チアゾリジン薬ピオグリタゾン骨粗鬆症・骨折(女性)、心不全心不全患者、心不全既往者には使用しない高齢者では、少量から開始し、慎重に投与するエビデンスの質:高推奨度:強[6] [7] [8] [9] [16] [17] [23] [25] α-グルコシダーゼ阻害薬アカルボース、ボグリボース、ミグリトール下痢、便秘、放屁、腹満感腸閉塞などの重篤な副作用に注意するエビデンスの質:中推奨度:弱[10] SGLT2阻害薬すべてのSGLT2阻害薬重症低血糖、脱水、尿路・性器感染症のリスク可能な限り使用せず、使用する場合は慎重に投与するエビデンスの質:低推奨度:強[11]スライディングスケールによるインスリン投与すべてのインスリン製剤低血糖のリスクが高い高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、可能な限り使用を控えるエビデンスの質:中推奨度:強[2] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

75歳以上の高齢者およびフレイルな高齢者に対する糖尿病治療薬の使用は、低血糖のリスクを考慮し、慎重に行うべきである。糖尿病治療薬としてはスルホニル尿素薬(SU薬)をはじめ、高齢者においても多くの薬剤が使用できる。しかし、高齢者はシックデイに陥りやすく、また低血糖を起こしやすいため注意が肝要である。糖尿病高齢者に対する糖尿病治療に関するレビューの結果を踏まえて、高齢者に対する糖尿病治療の留意点を述べる。なお、現在投与中の薬剤に関しては、副作用に注意しながら、慎重に投与を継続してもよいと思われるが、可能であれば、代替薬への変更を考慮する。

同じSU薬であるグリベンクラミドとグリクラジドを比較したRCTにおいてHbA1cの低下効果はグリクラジドのほうが大きかったが、低血糖、体重増加、心血管イベントの発症

解説
p.121
はいずれもグリベンクラミド群で多かった[12]。別のRCTでは空腹時血糖、HbA1c、血清脂質について両群間に有意な差はなかったが、低血糖の頻度に関してはグリベンクラミド群において有意に多く、13時から17時の間に最も多かった。さらにメトホルミンとトルブタミドを比較したRCTにおいては、トルブタミド群では、体重が有意に増加したが、メトホルミン群で有意に減少した[13]。

メトホルミンによる症例対照研究において乳酸値の上限を超えた患者は非高齢者に比べ、高齢者において有意に多かった(31.7% vs. 22.4%, p=0.02) [14]。DPP-4阻害薬と通常治療(SU薬またはグリニド)を比較した症例対照研究において、低血糖発作の頻度が1回以上あった患者の頻度はそれぞれ6.4%、20.1%、重篤な低血糖発作の頻度はそれぞれ0.1%、2.4%でいずれも有意差を認め (p<0.001)、DPP-4阻害薬のほうが安全性が高いことが示された[15]。

チアゾリジン薬(TZD)、メトホルミン、SU薬服用者の観察研究の結果、TZD服用者のほうがメトホルミン服用者に比べ、1.31倍(95%CI:0.98-1.77)、SU薬服用者に比べ、1.21倍(95%CI:0.94-1.55)骨折の頻度が高い傾向にあったが、有意差はなかった[9]。別の4年間の観察研究の結果、女性においてTZD服用者は非服用者に比べ、骨密度の低下を認めたが、男性においてはその傾向は明らかではなかった[8]。しかしながら、高齢者のみの研究ではないがADOPT研究の追記では[16]、ロシグリタゾンによる骨折リスクの増加が指摘され、PROactive研究でもピオグリタゾン服用女性での骨折増加が報告されている[25]。また、Lokeらによるメタ解析の結果、TZD(ピオグリタゾンまたはロシグリタゾン)は女性において、骨折リスクを2.23倍増加させた。しかし、男性ではリスク上昇はなかった[17]。

心不全を有する糖尿病患者の症例対照研究において、1年間の死亡率を解析するとTZD群30.1%、メトホルミン群24.7%、それ以外での治療群では36.0%であり、TZD群、メトホルミン群の死亡率は有意に低かった[6]。

DPP-4阻害薬に関しては他の薬剤に比べ、低血糖など副作用は少ない傾向にあり、他剤との比較試験では、いずれも安全性に優れていた[18,19]。しかしながら、SAVOR-TIMI53においてDPP-4阻害薬saxagliptinによる心不全入院の増加が認められた[20]。したがって、心不全の既往を有する高齢者に対するDPP-4阻害薬の投与は慎重であるべきである。最も最近発表されたTECOSによれば、sitagliptinによる心血管イベントの増加は、65歳以上のサブグループでも、心不全のイベント数でも認められていない[21]。

以上の文献レビューの結果に、学会および添付文書の情報を加えてまとめる。まず、SU薬のうちアセトヘキサミド、クロルプロパミドおよびグリベンクラミドの投与は避けるべきであるが、グリメピリドを含む他のSU薬についてもその使用はきわめて慎重でなければならない。低血糖が疑わしい場合には減量するべきである。

添付文書によれば、メトホルミンを除くビグアナイド薬は高齢者に禁忌となっており、メトホルミンは高齢者には慎重投与となっている。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから、乳酸アシドーシスのリスクが高いと考えられる。もっとも、Cochrane reviewのメタ解析ではメトホルミンによる乳酸アシドーシスの増加は観察研究の結果認められず[24]、アメリカ老年医学会のガイドラインではFirst lineとして推奨されている[22]。したがって、定期的に腎機能、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量
p.122
領域別指針

8 糖 尿 病

IV

の調節や投与の継続を検討すべきである。特に75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要であり、原則として新規の患者への投与は推奨されていない。

チアゾリジン薬は骨折(女性)、心不全のリスクを上げるため[17,23]、心不全患者、心不全の既往者には使用すべきではない。それ以外の高齢者では少量から開始する。

α-グルコシダーゼ阻害薬は、高齢者において下痢、腹部膨満などの副作用が多く認められるため [10] 、腸閉塞などの重篤な副作用に注意する。

Beers基準2012年版によれば、高齢者におけるインスリンのスライディングスケールは、高血糖性昏睡を含む急性病態を除き、効果が低いわりに低血糖発作が多いため、推奨されない。なお、スライディングスケールとは、血糖値に応じてあらかじめ決めておいたインスリン量を投与する方法である。

SGLT2阻害薬については、「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」から高齢者への投与は慎重に適応を考えたうえで開始すること、発売から3カ月間に65歳以上の患者に投与する場合に全例登録が必要であること、脱水防止について十分に対策を講じること、利尿薬との併用は推奨されないことなど、注意喚起がなされている。一方、最近のEMPA-REG OUTCOME試験[26]では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンによる心血管疾患の二次予防効果が示され、しかも、65歳以上で効果が顕著であった。有害事象については、全体で尿路感染症の発現に差はなかったが、陰部感染は男女ともエンパグリフロジン群に有意に多かった。いずれにしろ、高齢者におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性はまだ明らかでなく、本ガイドラインの対象となる患者群においては上記の注意事項に従うことがより優先されると思われる。

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[11] SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会:SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation (2014年8月29日改訂). Available at http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/fi lemanager/connectors/ php/transfer.php?file=/uid000025_7265636F6D6D656E646174696F6E5F53474C5432 2E706466 (参照2014-12-18). [12] Tessier D, Dawson K, Tétrault rault JP, et al: Glibenclamide vs gliclazide in type 2 diabetes of the elderly. Diabet Med 1994;11(10):974-80. [13] Josephkutty S, Potter JM: Comparison of tolbutamide and metformin in elderly diabetic patients. Diabet Med 1990;7(6):510-4. [14] Ito H, Ohno Y, Yamauchi T, et al: Efficacy and safety of metformin for treatment of type 2 diabetes in elderly Japanese patients. Geriatr Gerontol Int 2011;11(1):55-62. [15] Penfornis A, Bourdel-Marchasson I, Quere S, et al: Real-life comparison of DPP4-inhibitors with conventional oral antidiabetics as add-on therapy to metformin in elderly patients with type 2 diabetes: the HYPOCRAS study. Diabetes Metab 2012;38(6):550-7. [16] Kahn SE, Haff ner SM, Heise MA, et al; ADOPT Study Group: Glycemic durability of rosiglitazone, metformin, or glyburide monotherapy. N Engl J Med 2006; 355: 2427-43. [17] Loke YK, Singh S, Furberg CD: Long-term use of thiazolidinediones and fractures in type 2 diabetes: a meta-analysis. CMAJ 2009; 180(1):32-9. [18] Karyekar CS, Ravichandran S, Allen E, et al: Tolerability and effi  cacy of glycemic control with saxagliptin in older patients (aged≧65 years) with inadequately controlled type 2 diabetes mellitus. Clin Interv Aging 2013;8:419-30. [19] Doucet J, Chacra A, Maheux P, et al: Effi  cacy and safety of saxagliptin in older patients with type 2 diabetes mellitus. Curr Med Res Opin 2011;27(4):863-9. [20] Scirica BM, Bhatt DL, Braunwald E, et al: SAVOR-TIMI 53 Steering Committee and Investigators. Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med. 2013;369(14):1317-26. [21] Green JB, Bethel MA, Armstrong PW, et al; TECOS Study Group: Effect of Sitagliptin on Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2015, in press. [22] American Geriatrics Society Guidelines for Improving the Care of the Older Adult with Diabetes Mellitus: 2013 Update. [23] Erdmann E, Charbonnel B, Wilcox RG, et al; PROactive investigators: Pioglitazone use and heart failure in patients with type 2 diabetes and preexisting cardiovascular disease: data from the PROactive study(PROactive 08). Diabetes Care 2007; 30(11): 2773-8. [24] Salpeter SR, Greyber E, Pasternak GA, Salpeter EE: Risk of fatal and nonfatal lactic acidosis with metformin use in type 2 diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev 2010; 14(4): CD002967. [25] Dormandy J, Bhattacharya M, van Troostenburg de Bruyn AR; PROactive investigators: Safety and tolerability of pioglitazone in high-risk patients with type 2 diabetes: an overview of data from PROactive.Drug Saf 2009; 32(3): 187-202. [26] Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al; EMPA-REG OUTCOME Investigators: Empagliflozin,

Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2015 in press.
p.124
領域別指針9脂質異常症

IV

脂質異常症

領域別指針

9 IV

検索Key Word aged、elderly、senile、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、statin、fi brate、niacin、ezetimibe、probucol、resin、eicosapentaenoic acid

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

なし。

開始を考慮するべき薬物のリスト薬剤(クラスまたは

一般名)代表的な一般名(商品名)すべて

該当の場合は

無記載推奨される使用法(対象となる病態・

疾患名)注意事項エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイドライン

または文献

スタチンプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン冠動脈疾患の二次予防、および前期高齢者の冠動脈疾患、脳梗塞の一次予防を目的に使用する筋肉痛、CK上昇、糖尿病の新規発症エビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5]

CQ:スタチンは高齢者における心血管イベント発症リスクを低下させるか?スタチンは前期・後期高齢者における二次予防、前期高齢者における一次予防、において心血管イベント発症リスクを低下させる。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:スタチンは高齢者において新規糖尿病発症リスクを増やすか?スタチンは高齢者において糖尿病の新規発症を有意に増やすため、糖尿病の発症に注意しながら使用する。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

1

2サマリー

薬物リスト
p.125
本ガイドラインの対象は主として75歳以上の高齢者およびフレイルな高齢者であることを考えると、脂質低下薬によるエビデンスは十分ではなく、心血管疾患の一次予防を目的としてこれらの高齢者に脂質低下薬を使用することは、原則推奨できない。脂質異常症に対する薬物療法に関するレビューの結果、特に慎重な投与を考慮すべき薬物に該当するエビデンスはなかった。これは、スタチン以外の脂質低下薬による臨床試験がほとんどないためである。しかしながら、75歳以上でも心血管疾患の二次予防目的で用いるスタチンは、フレイルの有無にかかわらず、開始を検討すべき薬剤に該当する。65歳から74歳のフレイルな高齢者に対しては、生活習慣の指導に重点を置きながら、二次予防、高リスクの一次予防ともに開始を検討すべきである。フレイルな高齢者の場合には、特に栄養状態や身体活動性の変化に留意する。

本項では、システマティックレビューの結果を踏まえて、高齢者に対する脂質異常症治療の留意点を述べる。高齢者においても脂質異常症は心血管イベントと関連するため、動脈硬化性疾患予防ガイドラインが提唱している包括的リスク評価に基づく治療方針の決定が必要であるが、後期高齢者の一次予防患者にリスクチャートによる絶対リスク評価は適用されない。前期高齢者においては、絶対リスクが高く、高LDLコレステロール血症を示す場合には、スタチンが第一選択薬として推奨される。スタチンのみでLDLコレステロールが十分に低下しない場合には、エゼチミブの投与を考慮する。

高齢者のみのメタ解析において、スタチン治療はプラセボと比較して総死亡を15%(95% CI:7-22%)、冠動脈疾患死を23%(95%CI:15-29%)、致死性・非致死性心筋梗塞を26%(95%CI:22-30%)、致死性・非致死性脳卒中を24%(95%CI:10-35%)減少させた[2]。CTTのメタ解析では、75歳以上の高齢者でも有意にリスク低下を認めた[3,4]。しかしながら、70歳から82歳の高齢者を対象としたPROSPER試験において、スタチンの二次予防効果は認められたものの、一次予防に対する効果は有意ではなかった[5]。したがって、75歳以上の高齢者に対するスタチンの新規投与は、二次予防に限定すべきである。

スタチン治療によるがんの発症は、プラセボに比べ1.06(0.95-1.18)倍で有意の変動ではなかった。AST、ALTの3倍以上の上昇、CKの10倍以上の上昇、試験中止といった有害事象はスタチンとプラセボで差がなかった。しかしながら、筋痛や消化器症状は有意にスタチン群で多かった[2]。糖尿病の新規発症に関しては65歳以上でもスタチン群で有意に多かった。スタチンは、高齢者においても糖尿病の新規発症を有意に増やすが、心血管イベント抑制効果のほうが大きい。なお、スタチンによりサルコペニアが増加するかについては、明確なエビデンスが得られなかった。開始した脂質異常症治療薬または服用中の薬剤をいつまで継続するべきかについてはコンセンサスがないが、余命や生活機能、QOLなどを総合的に判断して、中止すべきかどうかを考えるべきである。

解説
p.126
領域別指針9脂質異常症

IV

引用文献

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p.127
泌尿器疾患排尿障害

領域別指針

10 IV

過活動膀胱

CQ:高齢者にムスカリン受容体拮抗薬は安全か?高齢者の活動膀胱症状に対してはムスカリン受容体拮抗薬が有効であるが、有害事象の発現に注意が必要である。主な副作用は口内乾燥、便秘、霧視、残尿量の増加等である。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:ムスカリン受容体拮抗薬を使用する際の投与量、投与方法は若年者と同様でよいか?ムスカリン受容体拮抗薬の副作用は用量依存的に上昇する。膀胱選択性の高い薬剤や投与経路の変更で副作用の軽減が期待できる。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:ムスカリン受容体拮抗薬の投与で認知機能は低下するか?ムスカリン受容体拮抗薬は中枢神経系の副作用を及ぼす可能性があり、メタ解析が行われている。経口オキシブチニンは認知機能を低下させる可能性があり、高齢者には可能な限り使用を控える。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:β 3受容体作動薬は高齢者に対して安全か? また、その有効性はどうか? β 3受容体作動薬であるミラベグロンはムスカリン受容体拮抗薬と同等の効果が期待でき、高齢者でも副作用は軽微であるとされているが、心血管系の副作用に注意が必要である。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1

2

3

4サマリー
p.128
領域別指針

10 泌 尿 器 疾 患 : 排 尿 障 害

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患者群

*(すべて対象となる場合は

無記載)主な副作用・理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなどすべての三環系抗うつ薬認知機能低下便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)トリヘキシフェニジル、ビペリデン認知機能低下、せん妄、過鎮静、口腔乾燥、便秘、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控える代替薬:L-ドパエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [8] [9] [10]受容体サブタイプ非選択的α 1受容体遮断薬テラゾシン、プラゾシン、ウラピジル、ドキサゾシンなど起立性低血圧、転倒可能な限り使用を控える代替薬:(高血圧)その他の降圧薬(前立腺肥大症)

シロドシン、タムスロシン、ナフトピジル、植物製剤などエビデンスの質:中推奨度:強[1] [11] [12]

オキシブチニン(経口)オキシブチニン尿閉、認知機能低下、せん妄のリスクあり。口渇、便秘の頻度高い可能な限り使用しない。代替薬として他のムスカリン受容体拮抗薬エビデンスの質:高推奨度:強[1] [13] [14]ムスカリン受容体拮抗薬ソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシン、プロピベリン、オキシブチニン経皮吸収型口内乾燥、便秘、排尿症状の悪化、尿閉低用量から使用前立腺肥大症の場合はα 1受容体遮断薬との併用。必要時、緩下剤を併用するエビデンスの質:高推奨度:強[1] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

薬物リスト
p.129
過活動膀胱の治療薬はムスカリン受容体拮抗薬がその中心であり、かつ使用対象は高齢者が多い。そのため副作用について焦点を当て系統的レビューを行った。非泌尿器科専門医である、かかりつけ医が75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護の高齢者の過活動膀胱を診療するうえでの治療戦略、留意点を述べる。

過活動膀胱(overactive bladder;OAB)の有病率は年齢とともに増加し、60歳以上で13.8%に上ると報告されており、高齢者の診療において珍しいものではない[26]。かかりつけ医においても尿検査、および排尿記録による排尿状態の把握、過活動膀胱症状質問票(overactive bladder symptom score;OABSS)を用いることで、治療介入が可能である。

頻尿、切迫性尿失禁を呈するOABに対しては抗コリン薬を使用することが多い。Beers基準2012では抗コリン薬のうち尿路に作用するものをムスカリン受容体拮抗薬と分類しており、本項でもそのように記載する[1]。高齢者においてもムスカリン受容体拮抗薬は安全で有効であるという報告があるものの[15]、高齢者ではコリン分泌能が低下しており、副作用が顕在化しやすいこと、前立腺肥大症(BPH)や尿路感染、結石などの原疾患の有無や合併症に留意する必要がある[16]。頻尿や尿意切迫には飲水量の過多や夜間多尿が原因による症例もあるため、排尿記録やOABSSで治療効果を評価する。また高齢者では運動機能低下、協調運動不全、認知機能障害などの要因も排尿障害に関与していることが少なくない。過活動膀胱診療ガイドライン[22]では「定時排尿,排尿誘導あるいは排尿動作の補助などの治療を薬物療法以外にも行うべきである」と記載されている。

高齢者のOAB症状に対するムスカリン受容体拮抗薬の有効性は確立している。75歳を超える高齢者への投与でも、有効性、安全性ともに75歳未満と同等であり[23]、虚弱高齢者を対象とした試験でも有効性は変わらない[24]、あるいは認知機能を障害しないこと[25]が報告されており、高齢者のQOLの向上に寄与している。しかし、ムスカリン受容体拮抗薬の有効性は用量依存性に上昇するものの、同時に副作用の頻度も上昇する[17,27]。最も多い有害事象は口内乾燥で、ほかに便秘、霧視、排尿困難、残尿量の増加といった頻度が高い[18]。また中枢神経系に影響する可能性もある[13]。

OABに適応となるムスカリン受容体拮抗薬は従来には、膀胱選択性の低いオキシブチニン、プロピベリンと、近年、膀胱選択性を高め過活動膀胱治療薬として発売されたソリフェナシン、トルテロジン、フェソテロジン、イミダフェナシンがある。このうち膀胱選択性が高く、脳内移行性の少ない薬剤を低用量から開始することで副作用の頻度を押さえることが期待できる[19,25]。経口オキシブチニンは副作用の発現率が高く、メタ解析で認知機能低下のリスクが否定できないため可能な限り使用を控える[14]。一方オキシブチニンは、ゲル剤にすることで代謝産物のプロフィールが変わり有害事象が減少したと報告されている[28]ことから、オキシブチニンの貼付剤は服薬数が多い症例や内服困難症例、あるいは口内乾燥や便秘などの副作用が強い症例に対しては選択肢の1つとなりうる[29]。

米国では高齢者の約50%が1剤以上の抗コリン薬を服用しているという報告がある。抗コリン薬の服用者では非服用者と比較し、何らかの認知機能障害を有している割合が高く[30]、

解説
p.130
領域別指針

10 泌 尿 器 疾 患 : 排 尿 障 害

IV

また3年以上抗コリン薬を服用した場合では認知症のリスクが増加する[31]。ただし、膀胱選択的ムスカリン受容体拮抗薬の長期服用による認知機能への影響は明らかでない。ムスカリン受容体拮抗薬は服薬アドヒアランスが不良であることが知られており、継続率が低い傾向にある[32]。高齢者ではすでに抗コリン作用を有する薬剤を服用していることが高いことから、ムスカリン受容体拮抗薬の併用は口内乾燥などの有害事象が増強される可能性がある。このため、ムスカリン受容体拮抗薬の使用およびその投与の継続に関しては十分な観察が必要である。実際には、服薬状況、認知機能も含めた全身状態、排尿状態の変化、血液・尿検査、残尿測定の定期的な確認が有用である。残尿測定は膀胱用超音波画像診断装置を用いることで非泌尿器科専門医でも簡便に測定が可能である。

β 3受容体作動薬であるミラベグロンは過活動膀胱治療薬としてムスカリン受容体拮抗薬と同等の効果が期待でき、かつ副作用も軽微であると考えられている[33]。このため高齢者や前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia;BPH)を有する男性においても使用が期待される[34,35]。OABに対する新たな治療薬として期待されているが、QT延長や心室性不整脈などの副作用があるため、心血管系の合併症を有する者への使用では抗不整脈薬の服用の確認や心電図を確認し、泌尿器科医、循環器科医との診療連携が必要である[36]。
p.131
前立腺肥大症

CQ:高齢者前立腺肥大症患者に対する薬物治療の第一選択は何か?前立腺肥大症に対する受容体サブタイプ選択的α1アドレナリン受容体遮断薬(以下α1遮断薬)は排尿症状と蓄尿症状を改善する。高齢者に対しても有用かつ安全であり、前立腺肥大症を有する男性患者の排尿障害の第一選択薬である。(エビデンスの質:高、推奨度:強)特に尿閉の既往がある前立腺肥大症患者はα1遮断薬の服用により、尿道カテーテル再留置率を減少できる。(エビデンスの質:低、推奨度:強)受容体サブタイプ非選択的α1遮断薬には血圧低下の副作用があるため、テラゾシン、プラゾシン、ウラピジルは使用を避ける。(エビデンスの質:中、推奨度:弱) CQ:高齢者前立腺肥大症患者に対してデュタステリドは有効か? α1遮断薬の効果が不十分な前立腺肥大症では、デュタステリドの併用で症状の改善が期待できる。また、単独使用でも効果が期待できる。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:高齢者前立腺肥大症患者に対してPDE5阻害薬は有効か?頻尿に対してα1遮断薬の効果が不十分な場合は、PDE5阻害薬であるタダラフィルの併用が症状を改善する。軽症ではタダラフィル単剤でも有効である。(エビデンスの質:中、推奨度:強)亜硝酸薬服用中の患者では使用禁忌である。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強) CQ:高齢者前立腺肥大症患者に対して抗アンドロゲン薬の使用は安全か?抗アンドロゲン薬は心不全や血栓症、糖尿病のリスクを考慮する。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱) CQ:高齢者前立腺肥大症患者に対してムスカリン受容体拮抗薬は安全か?前立腺肥大症による過活動膀胱症状に対しては、ムスカリン受容体拮抗薬をα1遮断薬と併用することで症状の改善が期待できる。(エビデンスの質:高、推奨度:弱)しかし、ムスカリン受容体拮抗薬は抗コリン作用による有害事象、特に前立腺肥大症の場合は尿閉の発現の可能性があるため、単独での処方は控える。(エビデンスの質:高、推奨度:強)使用する場合はα1遮断薬の併用でかつ低用量から開始し、定期的な残尿量の測定が推奨される。

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5サマリー
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領域別指針

10 泌 尿 器 疾 患 : 排 尿 障 害

IV

開始を考慮するべき薬物のリスト薬剤(クラスまたは

一般名)代表的な一般名(すべて該当の場合は無

記載)対象となる患者群(対象となる病態・疾

患名)注意事項エビデンス

の質と推奨度エビデンス

の質と推奨度

受容体サブタイプ選択的α1受容体遮断薬シロドシン、タムスロシン、ナフトピジル前立腺肥大症による排尿障害。尿流量、自覚症状が改善。尿閉の既往がある(尿閉後の使用でカテーテル再留置率が減少)起立性低血圧、射精障害に留意エビデンスの質:高推奨度:強[37] [38] [39] [40]

前立腺肥大症(BPH)の薬物治療における基本薬剤は受容体サブタイプ選択的α1受容体遮断薬(α1遮断薬)である。またムスカリン受容体拮抗薬、5α還元酵素阻害薬、PDE5阻害薬なども併用処方される。これらの薬剤の選択について系統的レビューを行い、特に75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル~要介護の高齢者に対する薬物治療に関して、非泌尿器科専門医である、かかりつけ医が処方する際の留意点について述べる。

BPHは「前立腺肥大症診療ガイドライン」によると、前立腺腫大と尿排出閉塞(bladder output obstruction;BOO)を示唆する下部尿路症状(lower urinary tract syndrome; LUTS)を伴うと定義されている[41]。BPHの診療を始めるにあたり、わが国では一般医向けに「男性下部尿路症状診療ガイドライン」が作成されている[42]。かかりつけ医においてもBPHに対して尿検査、および排尿記録による排尿状態の把握、国際前立腺症状スコア(IPSS)、過活動膀胱症状質問票(OABSS)を用いることで、治療介入が可能である。IPSSが8点以上の場合、もしくは治療介入後も改善しない場合は泌尿器科専門医への紹介を考慮する。

BPHの有病率はわが国におけるcommunity-based studyの結果において40歳代2%、50歳代2%、60歳代6%、70歳代12%と加齢に従って増加した[43,44]。このように高齢者では常に留意する必要がある疾患である。抗コリン作用のある薬剤はBPH患者で尿閉をきたす可能性があるため、高齢者への抗コリン作用のある薬剤の使用には十分な注意が必要である。具体的には本ガイドラインに記載のある薬剤に関しては薬物リストに明示した。

BPHの尿勢低下や夜間頻尿といった排尿症状に対してα1遮断薬が第一選択として使用される[37]。尿閉で尿道カテーテルが留置された既往のある症例では、α1遮断薬投与で再留置率が低下すると報告されている[38]。α1遮断薬は前立腺平滑筋のα1受容体に作用し、その弛緩を促すことで尿流量を増加させるが、副作用として起立性低血圧や眩暈などの循環器系の副作用や射精障害が指摘されている[39]。しかし、アドレナリン受容体のサブタイプ選択性の高い薬剤を使用することで、循環器系の副作用を回避し安全に使用することができる[40,45]。わが国ではサブタイプAに選択性の高いシロドシン、その中間であるタムスロシンが使用可能である。テラゾシンなどの受容体サブタイプ非選択的α1遮断薬は、起立性低血圧のリスクがあり可能な限り使用は控える[1,46]。解説
p.133
α1遮断薬が副作用で使用困難な場合はエビプロスタットなどの植物製剤の使用を検討する[41]。α1遮断薬と比較するとその効果は劣勢であり、エビデンスも乏しいが、安全性は高い[47]。

α1遮断薬の効果が不十分の場合は5α還元酵素阻害薬であるデュタステリドの併用を考慮する。前立腺肥大症診療ガイドラインでは前立腺体積30mL以上での使用が推奨されているが、体積の測定は必須ではない。デュタステリドの使用により前立腺体積は30%程度縮小すると考えられている。α1遮断薬とデュタステリドの併用療法の長期成績性を示したcombAT試験では、併用療法の長期間での有効性が示されたが、単独治療でもα1遮断薬単独よりも有効性が示され、単独治療でも使用可能である。同試験では4%程度に性機能障害が生じるため、使用前に有害事象のインフォームドコンセントが必要である[48]。またPSA値も約50%低下するため、投与前に確認しておく必要がある。抗アンドロゲン薬であるクロルマジノン酢酸エステルは高齢者に対しても安全であるという報告があるが、そのデータは少なく心不全や血栓症、糖尿病に注意が必要である[41,49,50]。ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬のタダラフィルはNOを介した血管拡張作用・平滑筋弛緩作用により血流を改善させ、それに伴い自覚症状を有意に改善することが期待できる[51]。タダラフィル5mgの処方による副作用はプラセボと同等であった[52]。またα1遮断薬との併用でも有害事象は対照群と同等であった[53]。このようにタダラフィルは安全性が高い薬剤であるが[54]、75歳以上の高齢者やフレイル~要介護の高齢者のみでの検討が少ない。PDE5阻害薬は亜硝酸薬を服用している患者では血圧低下を生じるため禁忌である。

高齢者ではBPHによる排尿障害に尿意切迫感を伴うことが多い。α1遮断薬でも改善しない場合は、ムスカリン受容体拮抗薬の併用が検討される[20]。ムスカリン受容体拮抗薬は口内乾燥や便秘などの副作用に加え[21]、BPH患者では尿閉のリスクがある[16]。そのため使用前に残尿量を確認しておくことが重要である。残尿量の測定には超音波による計測が非侵襲的で簡便である。超音波測定が困難な場合は、排尿記録やIPPSを確認し、適宜専門医への受診を検討する必要がある。ムスカリン受容体拮抗薬の副作用は膀胱選択性の高い薬剤を選択することで軽減することが可能である[55]。また、使用に際しては低用量からの開始し、定期的な残尿量の測定が望ましい。近年発売されたβ3受容体作動薬であるミラベグロンは尿閉や口渇、便秘、認知機能低下といったムスカリン受容体拮抗薬に伴う副作用は少なく、ムスカリン受容体拮抗薬の代替薬として有効性が期待される[35]。ミラベグロンは心血管系の副作用に留意が必要であるため、泌尿器科医、循環器科医との診療連携が必要である。

引用文献

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領域別指針

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IV

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p.136
領域別指針

10 泌 尿 器 疾 患 : 排 尿 障 害

IV

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p.137
筋・骨格疾患

領域別指針

11 IV

骨粗鬆症

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、bisphosphonate、SERM (selective estrogen receptor modulator) 、denosumab、vitamin D、parathyroid hormone、calcium、vitamin K、DMARDs (Disease-modifying antirheumatic drugs) 、Steroid、non-steroidal anti-infl ammatory drugs

CQ:ビスホスホネートは上部消化管粘膜障害と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか?経口ビスホスホネートは上部消化管の粘膜障害を起こす可能性があるため、服用法について十分な指導を行い、上部消化管障害を有する患者には慎重に投与する。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強) CQ:ビスホスホネートは顎骨壊死と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか?ビスホスホネートによってまれに顎骨壊死を起こすため、服用時には歯口腔衛生状態を良好に保つ指導を行い、侵襲的歯科治療の際には骨折リスクが高くない場合に休薬を考慮する。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強) CQ:デノスマブはどのような有害事象と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか?デノスマブは低カルシウム血症を起こす危険性が高いため、投与前後に血清カルシウム測定を行い、同時にカルシウムおよびビタミンDの補充を行う。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:SERMはどのような有害事象と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか? SERM (selective estrogen receptor modulator:選択的エストロゲン受容体モジュレーター)によって深部静脈血栓症の危険性が高まるため、深部静脈血栓症高リスク患者では使用を避けるべきである。(エビデンスの質:中、推奨度:強)

1

2

6

4サマリー
p.138
領域別指針

11 筋 ・ 骨 格 疾 患

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

なし。

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

筋・骨格領域においては骨粗鬆症・関節リウマチの2疾患に焦点を当ててレビューを行った。骨粗鬆症・関節リウマチのいずれもが高齢女性に比較的多く、慢性的な経過をたどる疾患である。治療も長期にわたり、かつ多くの選択肢のなかから薬剤を選ぶ必要があるため、高齢者の筋・骨格疾患のなかでも、特に注意を要すると思われる。ここではレビューの結果を踏まえつつ、高齢者における薬物療法上の留意点について述べる。

骨粗鬆症に対する治療薬としては大きく分けてビスホスホネート、SERM (selective estrogen receptor modulator:選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、カルシウム、活性型ビタミンD、ビタミンK、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、さらに近年開発された抗RANKL抗体が挙げられる。女性ホルモンはここでは取り扱わない。

ビスホスホネートは高齢者に対しても強い骨折予防効果があり[1~4]、なかでもアレンドロン酸やリセドロン酸は椎体骨折だけでなく、大腿骨近位部骨折も含めた非椎体骨折予防にも有用であるとするエビデンスがある[5,6]。高齢者に対する安全性も示されている[7,8]。ただ、経口製剤は消化管粘膜刺激作用によって上部消化管の粘膜障害を起こす可能性があり[5,6,9]、消化管からの吸収率も低いため、服用にあたっては十分な指導(起床時コップ一杯の水とともに服用する、服用後30分は飲食禁止で横にもならない)が必要である。食道狭窄やアカラシアのある例では禁忌である。近年、ビスホスホネートによるまれな合併症(顎骨壊死、非定型大腿骨骨折)が指摘された[10~12]。顎骨壊死は、抜歯などの侵襲的歯科治療後に発生しやすいと言われている。そのため、服用時には歯口腔衛生状態を良好に保つ指導を行い、も

CQ:カルシウムはどのような有害事象と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか?カルシウム補充はビタミンDと併用しているか否かにかかわらず心血管系のイベント、特に心筋梗塞のリスクを増す危険性があり、動脈硬化性疾患のリスクの高い患者に対する投与は注意を要する。(エビデンスの質:低、推奨度:弱)

5

薬物リスト

解説
p.139
し侵襲的な歯科的処置が必要となった場合にはビスホスホネートの服用期間や骨折、顎骨壊死のリスクを考え合わせて処置の前後に休薬を考慮する。休薬の期間としては通常、処置の3カ月前から処置後の創傷治癒が確認されるまでである。非定型大腿骨骨折は発生頻度が低いため問題となることは少ないが、長期服用後に鈍痛が出現した場合には、非定型大腿骨骨折を疑って精査を行う。

SERMは骨折予防効果以外にも、浸潤性の乳がんを予防する効果があり[13]、乳がんの高リスク患者に対して良い適応と考えられる。その一方、深部静脈血栓症の危険性を高める点には注意が必要である[14]。

カルシウムとビタミンDは、骨の健康を保つのに必要な栄養素として食事から十分に摂取されることが推奨されているが、摂取が十分ではないと考えられる場合には薬として投与される。ビタミンD単独投与あるいはカルシウムとビタミンDの併用によって高カルシウム血症の危険性が高まるため[15]、血清カルシウム値や尿中カルシウム/クレアチニン比をモニターしつつ投与する。また、カルシウムはビタミンDと併用しているか否かにかかわらず心血管系のイベント、特に心筋梗塞のリスクを増す危険性があり、注意が必要である[16]。なお、ビタミンDには転倒を予防する可能性があり、転倒リスクが高い患者には投与を考慮する[17]。

ビタミンK欠乏状態が骨折危険性の上昇と関連していることが観察研究によって示されて以来、ビタミンKが骨粗鬆症治療薬として注目されているが、その骨折予防効果についてははっきりとした結論が得られていない[18]。

副甲状腺ホルモンは高齢者においても高い骨折予防効果を有し[19]、骨密度が著しく低い、あるいは他の薬剤による骨粗鬆症治療を行っていても骨折を生じた等の重症骨粗鬆症に良い適応があると考えられる。遺伝子組み換え製剤は自己注射用製剤であり、使用にあたっては外来指導が必要である。

カルシトニンは筋注製剤しか用いることはできないが、骨粗鬆症による疼痛を有する症例に対して有効である。

最後に、近年抗RANKL抗体(デノスマブ)が使用可能となった。6カ月に1回皮下注射による投与でよく、骨粗鬆症治療においてしばしば問題となるアドヒアランスを良好に保ちやすい。しかし、低カルシウム血症を起こす危険性が高いため、投与開始前に血清カルシウム値の測定を行い、高値でない限りはカルシウムおよびビタミンDの補充を行う[20]。特に腎機能低下患者において、低カルシウム血症の危険性が高く慎重なモニタリングが必要である。抗RANKL抗体は骨密度上昇効果においても骨折予防効果においても良好なエビデンスが出つつあるが[21, 22]、長期の安全性データは不十分で今後の研究結果が待たれる。

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p.140
領域別指針

11 筋 ・ 骨 格 疾 患

IV

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p.141
関節リウマチ

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、rheumatoid arthritis、osteoarthritis、DMARDs(Disease-modifying antirheumatic drugs)、Steroid、NSAIDs(non-steroidal anti-infl ammatory drugs)

CQ:DMARDsはどのような有害事象と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか? DMARDs (disease modifying anti-rheumatic drugs:疾患修飾抗リウマチ薬)は感染を含めた有害事象の危険性が若年者より高まるため、有害事象モニタリングを慎重に行いつつ投与する。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強) CQ:非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)はどのような有害事象と関連しているか? またその対策としてはどのようなものがあるか?非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)によって、特に高齢者において上部消化管出血の危険性が高まるが、ミソプロストール、プロトンポンプ阻害薬を併用することによって危険性を下げることができる。また、非選択性NSAIDsの代わりに選択的COX-2阻害薬の使用により消化管障害軽減が認められる。(エビデンスの質:中、推奨度:強)また、NSAIDsは腎機能低下も多くみられるため、すべての高齢者で可能な限り使用を控える。(エビデンスの質:高、推奨度:強)なお、アセトアミノフェンはNSAIDsに含まれず、また関節リウマチ患者における有用性、安全性も十分に確立していない。使用にあたってはリスクとベネフィットを考慮し、用量に注意しつつ用いる。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱) CQ:関節リウマチの治療においてステロイドの効果は有害事象の危険性を大きく上回るか? また有害事象の危険性が高い場合どのように用いるべきか?ステロイドは種々の有害事象(骨粗鬆症、感染症、消化管潰瘍、脂質・血糖値上昇、白内障など)を考慮して、その使用は可能な限り短期間にとどめ、またステロイド単剤投与を避ける。一方、ステロイドによる有害事象の危険性が高い患者において、推奨される投与方法に関する検討はなされておらず、個々の患者のリスクとベネフィットを慎重に考慮する必要がある。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱)

1

2

3サマリー
p.142
領域別指針

11 筋 ・ 骨 格 疾 患

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト薬物(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンスの質と

推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

NSAIDsすべてのNSAIDs腎機能低下、上部消化管出血のリスク1 使用をなるべく短期間に

とどめる2 中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールの併用を考慮3 中止困難例では消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど) a.その場合も可能な限り低用量を使用b.消化管の有害事象の予

防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮エビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13]

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

CQ:高齢関節リウマチ患者においても若年者同様DMARDsを早期から開始することが推奨されるか? DMARDsは高齢者の関節リウマチ治療においても有用な薬剤である。メトトレキサートは高い有効性から頻用されるが、高齢者にしばしばみられる腎機能低下によって有害事象が起こりやすくなる。そのため腎機能低下例では低用量で治療を開始し安全性を確認しながら増量する。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

4

薬物リスト
p.143
開始を考慮するべき薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)推奨される使用法(対象

となる病態・

疾患名)注意事項エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

DMARDsメトトレキサート活動性の関節

リウマチの診断がついたとき薬剤の選択は関節リウマチの活動状態や個々の患者の全身状態による高齢者では薬物有害事象や易感染性の危険性が高まるため、治療開始前および開始後定期的にモニタリングを行うペニシラミンは高齢者に対して原則禁忌であるエビデンスの質:高推奨度:強[2] [13] [14] [15]

関節リウマチに対する治療薬としては大きく分けてDMARDs(disease modifying antirheumatic drugs:疾患修飾抗リウマチ薬)、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)、ステロイドが挙げられる。DMARDsはさらに合成(synthetic)DMARDsと生物学的(biologic) DMARDsの2種類に大きく分けられる。合成DMARDsはメトトレキサート、サラゾスルファピリジン、タクロリムスなど広く用いられてきた薬剤を含む従来型(conventional)合成DMARDsとヤヌスキナーゼ阻害薬を含む分子標的型(targeted)合成DMARDsにさらに大別される。生物学的DMARDsにはTNF阻害薬や抗IL-6受容体抗体などが含まれる。

関節リウマチに対する治療としては、早期からの積極的な介入によって関節破壊の進行を抑制し、機能予後の改善が期待されるため、疾患活動性の軽減を目指して、できる限り早期からDMARDsを用いた抗リウマチ治療を開始することが推奨される[13,14]。薬剤の選択は疾患の活動度や治療歴、患者の全身状態によって左右されるが、メトトレキサートはその高い有効性から中心的に用いられることが多いが、高齢者にしばしばみられる腎機能低下によって有害事象が起こりやすくなる。そのため、腎機能低下例では低用量で治療を開始し安全性を確認しながら増量することが必要である[13]。

DMARDsの臨床試験の多くで高齢者は主な対象となっておらずデータは限られているが、高齢者においてもDMARDsは若年者同様有効であると考えられている[15,16]。一方、高齢者は若年者と比較して感染を含めた有害事象の危険性が高まる可能性が指摘されており[15]、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなどのワクチンの接種[17]、潜在性肺結核に対する対応、ニューモシスチス肺炎に対する対策、およびその他の日和見感染症、心血管イベント、悪性腫瘍などに対する定期的な有害事象のチェックが必要である。

メトトレキサートなどの従来型合成DMARDsが効果を発揮するには3~4カ月が必要なことが多く、それまでの期間、橋渡し治療としてステロイドが用いられることがある。ステロイドは速やかに疾患活動性を軽減する効果があるが、種々の有害事象(骨粗鬆症、感染症、消化管潰瘍、脂質・血糖値上昇、白内障など)を引き起こす可能性があるため、その使

解説
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11 筋 ・ 骨 格 疾 患

IV

用は可能な限り短期(6カ月以内)にとどめる[13]。疾患のコントロールは主にDMARDsで行い、ステロイド単剤による治療は避ける。

NSAIDsは非選択性NSAIDs(ジクロフェナク、ロキソプロフェンなど)と選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ)に分類され、関節の痛みに対して補助的に用いられるが、関節破壊抑制効果に関するエビデンスはない。NSAIDsは特に高齢者において上部消化管出血の危険性を高める。選択的COX-2阻害薬を用いる、あるいはプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールを併用することによって、消化管潰瘍の既往のない低リスク患者の消化管障害の危険性を下げることは可能である[10,11]。また、非選択性NSAIDs投与中の消化管潰瘍の既往があるハイリスク患者において、選択的COX-2阻害薬とプロトンポンプ阻害薬の併用は、選択的COX-2阻害薬単剤よりも出血リスクを軽減することができる[12]。しかし高リスク患者(高齢者、ステロイドの併用、抗血小板薬や抗血栓薬の使用など)におけるエビデンスは乏しく、個々の患者のリスクとベネフィットを勘案してNSAIDsの適応を慎重に決定すべきである。また、NSAIDsでは腎機能低下をもたらす危険性が指摘されており、この点からも可能な限り使用を控えるべきである。(腎不全の項p. 95参照)

アセトアミノフェンに抗炎症作用はほとんどないものの、一日最大量を遵守した範囲で安全性が高く評価され従来より鎮痛薬として頻用されてきた。しかしながら、関節リウマチに対してはその有用性を支持するエビデンスは十分ではなく、また安全性の評価も十分に行われていない[18,19]。近年アセトアミノフェンの安全性を疑問視する報告もなされており[20]、今後さらなる研究結果が必要である[21]。

引用文献

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systematic review of observational studies. Ann Rheum Dis 2015; [e-pub].
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IV

漢方薬・東アジア伝統医薬品

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検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、east Asian Traditional Medicine、Kampo Medicine、Chinese Traditional Medicine、Chinese herbal drugs、herb-drug interaction、herbal medicine、medicinal plant、plant components、plant extracts、phytotherapy、phytomedicine、Kampo、Oriental medicine、Japanese Traditional Medicine、Korean medicine、acupuncture、moxibustion

本項の位置づけとエビデンスの質, 推奨度の扱いについて

本項は、高齢者医療における、漢方薬・東アジア伝統医薬品(漢方)について扱う。漢方がわが国では公的医療の一部であり、かつ高齢者医療で実際に広く使われておりながら医学教育は不十分であり、その評価や普及においても公的な取り組みは少なく、不適正使用もまれならずみられる。このため、システマティックレビューによる「推奨リスト」・「慎重リスト」の作成の意義は大きいと考える。

本項のシステマティックレビューの作業工程は、基本的に他分野と同様であり、GRADEシステムに基づくエビデンスの質と推奨度をめざした。しかしながら、漢方は非常に古くから用いられている薬剤であり、専門医にとって適切な使用に基づく有用性が確立している場合が多く、そもそもの薬剤の使用目的も症状などのソフトエンドポイントに対するものが多い。GRADEで重視する無作為化比較試験(RCT)についても、西洋医薬で重視される脳心血管イベントなどのハードエンドポイントを対象としたものは少ないといえる。

このような、システマティックレビューの重要性と、西洋医薬の評価との意義の違いを鑑み、エビデンスの質や推奨度はあえて示さない構造化抄録を提示し、漢方を実臨床で応用する際の参考とすべき「推奨リスト」・「慎重リスト」を本ガイドラインの全体リストと切り離して提示した。漢方を専門としない一般医家が、高齢者に漢方を処方する際に知っておくべき科学的根拠に基づく情報のリストである。
p.147
CQ:高齢者疾患に漢方薬・東アジア伝統医薬品は有効か?システマティックレビューの結果、GRADEシステムに基づく評価が可能であった事象について記載する。1 抑肝散は認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)に伴う行動・心

理症状のうち易怒、幻覚、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力など、いわゆる陽性症状に有効である。2 半夏厚朴湯は誤嚥性肺炎の既往をもつ患者における嚥下反射、咳反射を改善さ

せ、肺炎発症の抑制に有効である。3大建中湯は脳卒中後遺症における機能性便秘に対して有効である。4大建中湯は腹部術後早期の腸管蠕動運動促進に有効である。5麻子仁丸は高齢者の便秘に有効である。6 補中益気湯は慢性閉塞性肺疾患における自他覚症状、炎症指標および栄養状態

の改善に有効である。CQ:高齢者において漢方薬・東アジア伝統医薬品にどのような有害事象があるか?有害事象に関するエビデンスはGRADEシステムにおいては不十分と判定されるが、周知の事実も多く十分な根拠をもっていることについて専門家のコンセンサスとして記載する。1甘草を含む処方は低K血症とそれによるさまざまな病態を生じうる。2麻黄はエフェドリン含有生薬であり、アドレナリン様作用を有する。3 附子は本来、不整脈、血圧低下、呼吸困難などを引き起こす毒性を有するため、

適切に修治加工されたものを用いる。4 黄芩を含む処方は間質性肺炎を生じることがある。一般的にまれな有害事象で

あるが、インターフェロンとの併用では発症頻度が増加するため併用は禁忌とされる。5 山梔子を含む処方を数年、あるいは10年以上使用し続けると、 静脈硬化性大腸

炎を生じる恐れがある。

1

2サマリー
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高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤注:本リストの収録方剤の使用にあたっては本項全体を熟読すること。

薬剤(クラスまたは一般名)推奨される使用法(対象となる病態・疾患名)注意事項参考にした

ガイドラインまたは文献

抑肝散認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)に伴う行動・心理症状のうち陽性症状(興奮、妄想、幻覚など)を有し、非薬物療法および認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬、メマンチン;適応のある病態のみ)による効果が不十分な場合に使用を考慮する。本方剤が無効な場合あるいは緊急な対応を要する例では、リスクと必要性を勘案のうえ、抗精神病薬の使用を考慮する甘草含有製剤であり低K血症に注意する。肝機能障害を起こすことがある。まれに認知症に伴う行動・心理症状を悪化させることがある。主に陽性症状を緩和する薬物であり、陰性症状や認知機能には無効。高齢者では1日投与量の2/3程度から開始すること、レビー小体病で幻視が夜間に集中する場合は1日投与量の1/3を眠前投与でも有効性が期待できること、開始後1カ月ほどで必ず血中K濃度を測定すること[5] [6] [7] [8] [9]半夏厚朴湯 脳卒中患者、パーキンソン病患者に

おいて嚥下反射、咳反射が低下し、誤嚥性肺炎の既往があるか、そのおそれのある場合過敏症(発疹) [14] [15] [16]

大建中湯1. 腹部術後早期の腸管蠕動不良がある場合2. 脳卒中患者で慢性便秘を呈する場合間質性肺炎と肝障害の報告がある(症例数はいずれもまれ) [18] [24]補中益気湯 慢性閉塞性肺疾患など、慢性あるい

は再発性炎症性疾患患者における炎症指標および栄養状態が改善しない場合甘草含有製剤であり低K血症に注意する[25] [26]

麻子仁丸慢性便秘、排便困難全般麻子仁丸は穏やかに作用し、通常高齢者でも下痢などの恐れは低い[17]

高齢者に漢方を使用する際、注意を払うべき含有生薬のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる

患者群(すべて対象となる場合は

無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法参考にした

ガイドラインまたは文献

附子含有製剤八味地黄丸、牛車腎気丸、桂枝加朮附湯など多数コントロール不良の高血圧症患者、頻脈性不整脈を有する患者口の痺れ、不整脈、血圧低下、呼吸障害基本的に少量から開始する[45]

薬物リスト
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甘草含有製剤医療用漢方製剤の約70%が甘草を含有する腎機能の低下した患者、ループ利尿薬使用患者浮腫、高血圧、不整脈など低K血症による諸症状を呈することがある高齢者では一般に通常の2/3量程度で開始すること、少なくとも当初6 カ月は1カ月ごとに血中K値を確認すること。特に甘草含有量の多い芍薬甘草湯、甘草湯、桔梗湯などは基本的に頓服にとどめ、長期投与は避ける[45] [46]麻黄含有製剤麻黄湯、葛根湯など多数コントロール不良の高血圧症患者、虚血性心疾患の患者、頻脈性不整脈の患者、排尿障害の患者エフェドリン、偽エフェドリンを含む減量して使用するか、桂枝湯など麻黄を含まない代替可能な漢方薬処方を考慮する[45]黄芩含有製剤小柴胡湯など多数インターフェロン使用中の患者、肝硬変の患者単独でもまれに間質性肺炎を生じうる。インターフェロンとの併用使用および肝硬変では間質性肺炎が生じやすいインターフェロンと併用しない。肝硬変では使用しない。黄芩含有製剤を使用するときは空咳や息切れなどの症状に注意し、必要に応じて聴診や胸部X 線、採血などの検査を考慮する[45]山梔子含有製剤加味逍遥散など多数長期投与患者(数年〜10年

以上)静脈硬化性大腸炎を生じることがあるとされる基本的に長期投与を避ける。数年にわたり投与する場合は消化器症状に注意し、必要に応じて大腸内視鏡などの検査を考慮する[43]

高齢者に有用性が示唆されるが、わが国での一般的使用が困難な生薬・東アジア伝統医薬品のリスト

薬剤(クラスまたは一般名)有効性のデータ注意事項参考にした

ガイドラインまたは文献

丹芪偏癜廱掫䐈恔囊脳卒中後遺症における自主機能回復や日常生活動作の改善が見込まれる脳卒中発症後72時間以内に投与しても有効性は確認されていない。重篤な副作用は報告されていない[10] [11] [12]加味温胆湯単体でドネペジルにほぼ匹敵しうる認知機能改善作用を有し、またドネペジルとの併用で認知機能や脳血流の改善を認めた甘草含有製剤であり低K血症に注意する。煎じ薬のみ[2]复智散軽度認知障害患者において服用12週後にADAS-cog、NPIおよびregional cerebral glucose取り込みを有意に改善させた黄芩含有製剤であることに注意する[1]
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脂必泰中等度から高度の心血管系疾患リスクを有する患者で血中コレステロール濃度を有意に減少させた重篤な副作用は報告されていない[38] CCH1(人参、乾姜、甘草、附子、大黄)長期要介護高齢者の便秘に有効であった甘草、附子、大黄を含むためそれぞれの有害事象に注意が必要[19]降氵虫清肝イルベサルタンと同程度に収縮期ならびに拡張期血圧を低下させる。さらに5週間の服用で腹囲を有意に低下させた特になし[39]安体威インフルエンザ症状を呈する患者ならびに確定診断のついたインフルエンザ患者において、プラセボと比較して有意に回復を早め、症状重症度を50%改善させた特になし[28]辻花清瘟䐈恔囊オセルタミビルと比較して median duration of illnessならびにmedian duration of viral sheddingが同程度であった。さらに 辻花清瘟䐈恔囊は発熱、咳、咽頭痛、倦怠感をオセルタミビルより有意に早く改善させた特になし[29]复方丹参滴丸ニトロ化合物と比較して狭心症症状を有意に改善させ、心電図所見も有意に改善させた有害事象の発現率は2.4%(内訳不詳)でニトロ化合物(29.7%)より有意に低かった[32] Free and Easy Wanderer Plus脳卒中後のうつ症状をフルオキセチンと同等に改善した甘草含有製剤であり低K血症に注意する[13]消張貼膏肝硬変の腹水を改善させた。貼付剤である有害事象の報告はない。ただし沈香、麝香を含むので高価であろうと考えられる[20]糖足癒膏糖足癒膏は糖尿病患者の下肢の潰瘍を有意に改善させた特になし[21]仙灵骨葆䐈恔囊閉経後の女性において使用6カ月後の腰椎骨密度を有意に改善させた1 年間の使用で有害事象を認めなかった。[22]加味逍遥散functional dyspepsia(FD)を改善する中国からのRCT(文献30)によればFDに有効であったとされるが、日本では一般にすべてのFDに有効とは考えられていない。通常対象となるのは精神的ストレス要因の強いFDである。甘草含有製剤であり低K血症に注意する。山梔子を含有しており、長期投与により静脈硬化性大腸炎を生じる報告があり注意が必要[30]

本領域においては、漢方薬・東アジア伝統医薬品に関し、主に後期高齢者、ないしはフ

解説
p.151
レイルな高齢者全般に用いる医薬品についてレビューを行った。

本項作成にあたり、2013年11月22日の時点で、MEDLINE、Cochrane、医中誌において本高齢者ガイドライン共通の高齢者に関するキーワードに加え、東アジア伝統医学(East Asian Traditional Medicine)、漢方医学(Kampo Medicine)、中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine)、中国生薬(Chinese herbal drugs)、生薬-薬物相互作用(Herbdrug interaction)、生薬治療(Herbal medicine)、薬用植物(medicinal plant)、植物成分(plant components)、植物抽出物(plant extracts)、生薬治療(phytotherapy)、生薬医学(phytomedicine)、漢方(Kampo)、東洋医学(Oriental medicine)、日本伝統医学(Japanese Traditional Medicine)、韓医学(Korean medicine)、鍼(acupuncture)、灸(moxibustion)以上すべてのORをキーワードとして検索したところ、503件(Cochrane 60、MEDLINE 241、医中誌202)の文献が得られた。なお、これらのキーワードは日本東洋医学会がまとめた「漢方治療エビデンスレポート」(https://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/index.html)に準拠している。これらの抄録から内容を検討し、対象をメタ解析もしくはランダム化比較試験に限定、さらに薬物治療以外のもの(鍼灸など)、銀杏の葉、タイハーブなど漢方・中国伝統医学以外の生薬、日本において文献が入手困難であるもの、生薬抽出液静注など国際的に応用困難と考えられる治療法、明らかな出版バイアスがあるものを除いたところ、57件(Cochrane 12、MEDLINE 45、医中誌0)が抽出された。これに直近の論文など7本のハンドサーチ文献を加え、最終的に64件の論文についてその全文を読み、構造化抄録を作成した。

本項の内容は、対象疾患が多岐に渡ること、また日本国内で使用可能な該当医薬品が医療保険適用のものと非保険適用のものがあること、さらに輸入により入手可能なもの等が含まれることから分類が複雑となる。そこで上記で作成した構造化抄録に基づき、「高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤のリスト」、「高齢者に有用性が示唆されるがわが国での一般的使用が困難な生薬・東アジア伝統医薬品のリスト」を作成した。また上記のようなエビデンス評価とは別に、厚生労働省から出された「使用上の注意」ほか伝統医学の知見、薬理学の知見など種々の根拠に基づいて「高齢者に漢方を使用する際注意を払うべき含有生薬のリスト」を作製した。なお「高齢者に有効性が示唆されるわが国の医療用漢方薬のリスト」、「高齢者に有用性が示唆されるがわが国での一般的使用が困難な生薬、東アジア伝統医薬品のリスト」作製にあたっては、本ガイドラインで採用されたMinds2014におけるmodifi ed GRADEに従ってそれぞれの方剤のエビデンスの質(Quality of Evidence;QoE)、推奨の強さ(Recommendation Strength;RS)を定め、それらを参照して作業を行った。しかしながら、われわれの提案したQoE、RSは、ガイドラインパネルの無記名投票において規定の80%の賛成に達しなかった。そのため、本項のリストではQoE、RSについては記載を避ける。

重要な点として、「高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤のリスト」、「高齢者に漢方を使用する際注意を払うべき含有生薬のリスト」はそれぞれ「使用すべきもの」、「禁忌」という意味ではない。これらはどちらも漢方方剤運用の際のスクリーニングツールに過ぎないのであって、両者はしばしば重複する。実際、「有用性が示唆されるリスト」に挙げた方剤中、抑肝散、補中益気湯は「注意を払うべき含有生薬のリスト」に挙げた甘草を含む。むしろ両リストは、相互に比較参照されるべきものである。「有用性が示唆される」方剤の
p.152
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IV

実際の運用については、後に述べる「方剤解説」を参照されたいが、要するに臨床の現場では、個々の患者の病態に応じ、それぞれの方剤について、本項全体を熟読し、リスクとベネフィットを勘案して使用していただくことになる。

全般的有効性

漢方、伝統中医薬品など東アジア伝統医薬品は、多様な高齢者の病態のうち、少なくとも認知症(軽度認知障害を含む)における認知機能[1,2]、認知症の行動・心理症状 [5~9]、脳卒中後遺症(日常生活動作) [10~12]、うつ[13]、誤嚥性肺炎[14~16]、慢性便秘[17~19]、肝硬変の腹水[20]、糖尿病における下肢の潰瘍[21]、骨粗鬆症[22]、腹部外科手術後の合併症[23,24]、インフルエンザの予防[27]と治療[28,29]、機能性胃腸症候群[30,31]、狭心症[32]、高脂血症[33~38]、高血圧[39]に対し有効性が報告されている。

しかし今回、本ガイドラインが日本国内向け、かつ漢方を専門としない一般医家向けであることに鑑み、中成薬、煎じ薬、生薬などは一般医家の運用には適さないため、日本国内で医療用医薬品として普及しているもののみを「高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤のリスト」とした。

現実の高齢者医療においては、すでに多数の薬剤が使われていることがほとんどである。今回収集した資料も、なんらかの西洋医学的治療に追加投与した形での治験が行われているもの、漢方薬のみを未治療群と比較したもの、漢方薬と既存の西洋薬との非劣性試験を行ったものが混在している。漢方薬と西洋薬は実際ほとんど併用されているが、その相互作用について知られていることはきわめて少ない。前回2005年の本ガイドライン初版においてはCYP3A4阻害作用の点から基礎的データによって予想されうる相互作用について記載したが、その後、本項分担者等の日常臨床においてそうした相互作用は経験されず、それに該当する臨床報告も見当たらなかったため今回は削除した。したがって一般論を述べるにとどまるが、漢方薬の使用にあたっては、高齢者における該当疾患に対する西洋薬物(他の領域を参照)とのバランスを考慮しつつ、場合によっては漢方を熟知した医師に相談の上、使用することが望ましい。

特に強調すべき点として、漢方方剤はその一つ一つがすでに複数の生薬の合剤であることが挙げられる。その配合は歴史的に確立したものであって、各々の方剤としての有効性、安全性については一定の信頼性が期待できる。しかし複数の漢方方剤の併用については、漢方医学そのものを学習し、方剤の生薬構成を熟知して行われるべきである。今回いくつかの漢方方剤を「高齢者に有用性が示唆されるリスト」として挙げたが、漢方方剤の複数併用に関しては、下記の方剤解説中に取り上げたごく少数の例以外、一般的には慎重でなければならない。

「高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤のリスト」解説

今回、高齢者に有用性が示唆される医療用漢方製剤として抑肝散、半夏厚朴湯、大建中湯、麻子仁丸、補中益気湯を選択した。推奨される使用法、注意事項はスタートに示したとおりであり、同リストの記載は今回収集したエビデンスに厳密に基づいている。しかし漢方
p.153
に必ずしも詳しくない一般臨床医が、これらの方剤を実用的に活用するためには、リストの表記だけでは不十分であると思われる。以下、臨床応用の一助として実用的な解説を加える。ここでは直近のエビデンスに加え、数多くの人々の経験が歴史的に蓄積された伝統医学的知見にも依拠している。漢方医学が経験的伝統医学である以上、その具体的運用に際しては、現在得られている断片的なエビデンスだけでは不十分で、このような説明も必要であることを理解されたい。(1) 抑肝散

本方剤が認知症の周辺症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD)に有効であることを初めて報告したのは原敬二郎であるが[40]、2005年に単盲検無作為化比較試験の結果[5]が報告されるなどの経過を経て、徐々にその効果が広く認知されるようになった。BPSDのなかでも易怒、幻覚、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力など、いわゆる陽性症状に有効であり、うつ、不安、悲哀、無動、食欲不振といった陰性症状には無効であるのみならず、症状を増悪させることすらある。レビー小体病の幻視もよく改善する[5,41]。こうしたことから近年ではさらに、術後せん妄の予防、ICUせん妄の改善などへ応用範囲が拡げられつつある。

日本で考案された関連処方に抑肝散加陳皮半夏がある。抑肝散の適応となる易怒を伴うBPSDで、さらに食欲低下、抑うつ傾向を伴う人に用いる。なお、陳皮(温州ミカンの皮を乾燥させたもの)にはアルツハイマー病改善効果が期待されるNobiletinが含まれており、今後の展開が期待される[42]。

抑肝散使用上のコツとして、高齢者では基本的に1日常用量の2/3程度、分2から開始すること、レビー小体病で幻視が夜間に集中する場合は1日常用量の1/3程度、眠前投与でも有効性が期待できること、開始後1カ月ほどで必ず血中K濃度を測定することなどが挙げられる。服薬拒否や嚥下障害があるときにはオレンジゼリーに混ぜると比較的服薬が容易となる。効果は服用1~2週間で現れ、4週間程でプラトーに達するので、それ以上使っても変化がみられないときは、他の治療に変更する。BPSDが治まれば漸減して止める。甘草を含んでおり、80歳代の患者を対象とした報告で低K血症が約6%発症している[41]。(2) 半夏厚朴湯

原典である金匱要略には「女性が、あぶった肉片が喉につかえるような感じを訴えるとき、この薬を使う」という謎めいた解説がなされている。現代では、これは咽喉頭異常感症、精神科で言う「ヒステリー球」のことと解釈されている。実際、抑うつが強い身体表現性障害の人に良く使用される。漢方の抗うつ薬の1つとも解釈できる。しかし半夏厚朴湯は去痰薬としても使用される。つまり「つかえる感じ」がするときだけでなく、現実に痰が喉につかえていても、この薬は使える。

そこで、誤嚥性肺炎の既往をもつ患者における半夏厚朴湯の嚥下反射に対する影響をRCTで見たところ、有意に嚥下反射を改善した[14]。またパーキンソン病患者でも同様に嚥下反射の改善がみられた[43]。さらに咳反射も改善することがわかった[15]。そこで誤嚥性肺炎の既往を有する高齢患者に12カ月の前向きRCTを実施したところ、半夏厚朴湯は有意に肺炎の発症を減少させただけでなく、自力経口摂取の維持にも有効であった[16]。
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半夏厚朴湯の良い適応となるのは咽頭の嚥下反射、咳反射の低下が原因で生じるmicro aspirationが主体の患者である。胃腸の蠕動運動が低下し、胃食道逆流が原因で生じる誤嚥には、半夏厚朴湯だけでは対応しきれない。この場合は茯苓飲合半夏厚朴湯ないしは六君子湯を用いる。さらに、腸管ガスが充満し、便秘もひどく、食物が下に輸送されず逆流が起きる場合は、大建中湯と併用する。1日常用量、分3から始め、約2週間で効果が出るのでその後は1日常用量の2/3、分2に切り替えて継続する。半夏厚朴湯が有効なのは服用している間だけであり、経験的にではあるが中止後約2週間で嚥下障害が再発する。有害事象としては過敏症とみられる発疹の報告が数例あるのみで、きわめて安全に使用できる薬剤である。

ところで、そもそも嚥下反射が低下した患者に本方剤を服用させるときどうすればよいか。ゼリー、ヨーグルト、ペースト食に混ぜる、お湯に溶いた後とろみ剤を混ぜる、その他患者が口にできるものに混ぜるなど、服用方法を工夫する。このような場合、「食前投与」等という指示にはこだわらない。(3)大建中湯

外科領域では漢方医ならずとも日常的に用いられる薬の1つとなった大建中湯であるが、薬理的報告がきわめて多いわりに、臨床のエビデンス構築は遅れていた。Takayama Sらは大建中湯が上腸間膜動脈の血流を増すことを明らかにしており[44]、さらに2014年、Numata Tらが脳卒中後遺症の機能性便秘患者に対するRCTを行い、その効果が臨床的にも一定のエビデンスをもつことが立証された[18]。そして2015年になって、ようやく腹部術後早期の腸管蠕動機能改善に関する二重盲検RCTのエビデンスが報告された[24]。

大建中湯の本来の使用法は、原典である金匱要略の記述をそのまま紹介するのが最もわかりやすい。「胸が大いに冷えて痛み、嘔吐して飲食できない。腹の中も冷え、腸が内側からつき上がって外からもその上下するのが見える。腹痛が激しく人に触れさせないものは、大建中湯で治療する」。この記載がイレウスにきわめて近似しているところから、従来腹部術後のイレウス予防に広く用いられている。腹痛で腹を触れようとすると痛がって触れさせない、というのは大建中湯を用いる際に1つの目安になる。高齢者の処方量は1日常用量の2/3、分2ないし1日常用量、分3である。(4) 麻子仁丸

便秘は高齢者、特にフレイルな要介護状態の高齢者において、最も日常的に難渋する病態である。現在下剤として広く使用されている薬剤は、グリセリン浣腸、センナ製剤、大黄末、酸化マグネシウム、ピコスルファートである。これらはいずれもEBMの観点からみた「高いエビデンス」はもたないが、古くから下剤としての効果が認識されており、臨床の場において定着している。だが、高齢者、とりわけ要介護度の高いフレイルな高齢者においては、これらすべてを使用しても排便が起こらず、頻回の摘便を要する例は少なくない。これは患者本人のみならず介護者、看護者にとっても大きな負担となっている。

麻子仁丸は、古くは紀元2世紀に書かれた医学書(傷寒論、金匱要略)にも記載があり、すでに長い臨床応用実績をもち、実際、高齢者の便秘に適した方剤としてしばしば用いられている。また、平均年齢30歳の人を対象としてではあるが、下剤として二重盲検RCTが行
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われている。本ガイドラインが高齢者医療に関するもので、その高齢者医療の現場において便秘がきわめて日常的難題であることを考えると、治験対象が一般成人であったことを考慮してもこの方剤は推奨される。

高齢者に麻子仁丸を用いる際、まず1日1回、眠前1包から開始する。通常、これで十分な効果が得られるからである。麻子仁丸は瀉下作用をもつ大黄を含む方剤だが、1包あたりの大黄の量はメーカーによって多少違いはあるものの、おおむね1g程度である。製造過程で煎じていることを考慮すると、そこに含まれるセンノサイドの量は一般に用いられる大黄末1gよりさらに少ない。それでも効果があるのは麻子仁(麻の種)、枳実(橙の実)など他の生薬が腸管蠕動を刺激し、油性成分で便を滑りやすくして排便を助けるからである。大黄の量を減らし他の生薬の薬効を加えることにより、自然で痛みのない排便を得ることができる。もし1回量で薬効が不足なら1日常用量の2/3を眠前に1回で服用するか、朝晩分2でもよい。麻子仁丸を用いる1つの目安は、下剤を使わないと便が兎糞状になるかどうかである。腸管ガスが多いときは大建中湯と併用する。(5) 補中益気湯

この方剤の意図するところは、胃腸の消化吸収機能を強化し、栄養状態を改善し、同時に免疫力を回復させ、慢性炎症の治癒を促進させるところにある。したがってCOPDに限らず、胃腸が虚弱で免疫力が低く、炎症性疾患や感染症が治癒せず長引くときにも使用できる。高齢者にしばしば見かける病態として、繰り返し発熱して感染症が疑われ、背景に栄養不良、免疫力低下があることが想定される場合、この方剤を用いる。補中益気湯にはCOPDの栄養指標、炎症指標を改善させたとするデータが2本あったが、本項担当者の評価によるエビデンスの質はいずれも不十分であった。しかしこうした効能効果をもつ薬剤は西洋医学には存在しないので、あえてこのリストに加えた。

「高齢者に漢方を使用する際注意を払うべき含有生薬のリスト」

今回このリストに示したものはすべての高齢者に対し全般的に禁忌となるものではなく、表中に示した「対象となる患者群」においてそれぞれ有害事象を考慮すべきものである。漢方薬の有害事象の有無や程度を見るためのRCT等を期待するのは、倫理的観点から現実的でない。したがって、これらについてエビデンスの高い文献は存在せず、典拠となる文献は日本国厚生労働省の指導に基づく各方剤添付文書の「使用上の注意」である。その内容は伝統医学の臨床経験および基礎的データ、ならびに症例報告など雑多な内容を総合したものであり、GRADE基準ではエビデンスの質はすべて「不十分」に該当する。しかし、これらの有害事象ないし注意点が漢方薬に存在することは臨床上否定し得ず、その把握は漢方薬・東アジア伝統医薬品を運用するうえで欠かせない。よってこのリストを作成し、5種類の生薬(甘草、麻黄、附子、黄芩、山梔子)を挙げた。これらの生薬の少なくとも1つを含む漢方方剤は、わが国で用いられる医療用漢方エキス製剤中、実に8割を占める。当然これらの生薬にはそれぞれ薬効があり、それなりの必要があって加えられているものである。すなわちこのリストの意味するところは、およそ漢方薬・東アジア伝統医薬品はみな薬であって、何らかの効果がある以上、副作用ないし不適切な使用による有害事象が起こるおそれがあ
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り、そうした知識を正しく把握して使うべきだと言う当然の指摘に帰着する。

「高齢者に有用性が示唆されるが、わが国での一般的使用が困難な生薬・東

アジア伝統医薬品のリスト」

日本国内で医療用漢方製剤として使用される医薬品以外で、高いエビデンスを有する漢方薬・東アジア伝統医薬品は全部で16種抽出され、うち13種(80%)は中医学の情報に基づいていた。ここに挙げる先進的中成薬のなかには、英語の販売サイトを通じて世界的に広く利用されているものもあり、日本からも容易に患者が個人輸入することができる。したがってこれらについても、医師は一定の知識を有していることが望ましい。そこで情報提供の意味でこのリストを作成する。特に注目すべき方剤に関して簡単に説明する。

丹芪偏癜掫廱䐈恔辻囊(danqi piantang jiaonang)は世界中に販売されており、メタ解析および複数の二重盲検RCTが脳卒中後遺症による自主運動機能低下や日常生活動作障害を回復させることを示している[10~12]。また辻花清瘟䐈恔辻囊はオセルタミビルと比較してインフルエンザに対する抗ウイルス効果が同等であり、かつ症状改善効果はオセルタミビルを有意に上回っていた[30]。

加味逍遥散はわが国でも多用される方剤だが、今回の検索で該当した中国のRCTでは機能性ディスペプシアに対する効果をみており、わが国の日常臨床とはやや異なる使い方であったので、「高齢者に有用性が示唆されるわが国の医療用漢方製剤のリスト」には入れずこのリストに記した。また煎じ薬の加味温胆湯が抗認知症作用を有することは、わが国から出たRCTで証明されており、その薬理機序も解明されているが、一般臨床医にとって煎じ薬を処方する機会はまずなく、その運用には漢方の専門的知識を有する。そこでこのリストに入れた。なお生薬は農産物または天然物であるためその品質保持が問題となるが、ここで引用した文献では各国薬局方とGCPに基づき医療用医薬品として認められた生薬を用いており、品質については一定程度担保されているものと考えられる。

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IV

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topics/2006/11/dl/tp1122-1d01.pdf
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在宅医療

領域別指針

13 IV

CQ:多剤内服は在宅高齢者の有害事象と関連するか?多剤内服は在宅高齢者の有害事象の発生と関連する。(エビデンスの質:不十分、推奨度:強) CQ:処方内容の見直しはベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の減薬に寄与するか?処方内容の見直しはベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の減薬に寄与する。(エビデンスの質:低、推奨度:弱) CQ:ベンゾジアゼピン系薬剤は在宅高齢者の転倒リスクを高めるか?ベンゾジアゼピン系薬剤は在宅高齢者の転倒リスクを高める。(エビデンスの質:低、推奨度:強) CQ:抗コリン作用を有する薬物は在宅高齢者の有害事象発生を高めるか?抗コリン作用を有する薬物は在宅高齢者の有害事象発生リスクを高める。(エビデンスの質:不十分、推奨度:弱)

1

2

3

4サマリー
p.160
領域別指針

13 在 宅 医 療

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト

薬物(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の

場合は無記載)対象となる患

者群* (すべて対象となる場合は

無記載)主な副作用・

理由推奨される使用法エビデンス

の質と推奨度参考にした

ガイドラインまたは文献

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下長時間作用型は使用すべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用すべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限るエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [3] [4] [5] *対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp.22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

在宅医療における薬物療法のエビデンスは不足しており、網羅的に把握するにはなお多くの問題点が存在する。その理由としては、1 在宅医療(Home CareあるいはHome Medical Care)という独立した臨床領域が確立され

ておらず、これまでに得られているエビデンスの多くは地域在住高齢者を対象とした研究結果に基づいており、訪問診療・介護サービスを必要とする在宅療養高齢者のみを対象とした研究結果を集積することが難しい、2 さまざまな病態を抱えた患者が対象となるため、臓器・病態別のエビデンスが出にくい、などの理由が挙げられよう。しかしながらこの分野における薬物療法の重要性は、今後ますます増大すると考えられ、適切な論拠に基づく指針が求められる。

在宅医療に関するランダム化比較試験による介入研究は、決して多くはない。介入内容については、ほとんど患者記録や処方内容の見直しによる特定の薬剤数の変化、あるいは投薬数減量による事象の変化についての報告である。介入内容は研究によりまちまちであるが、おおむね、内服薬の見直しによる処方内容の変容および薬剤により予測される有害事象の変化をアウトカムとしている。ランダム化比較試験として抽出された6つの報告のうち4つで介入効果を認め、残り2つでは有意な効果を認めなかった。Salonojaらの報告によれ

薬物リスト

解説
p.161
ば、老年内科医による1回の有害事象に関する指導と内服の見直し提案により、12カ月の観察期間においてベンゾジアゼピン系薬剤は35%減少したのに対して、非介入群においては逆に4%増加したとの報告がある[6]。その一方で、Rikalaらは年に一度の投薬内容の見直しのみでは、抗精神病薬および抗不安薬の使用には変化がみられなかったとしている[7]。一方、高齢者の機能予後に大きく影響する転倒と薬剤使用の関連に関して、Campbellらは地域住民を対象としたランダム化介入試験により、抗精神病薬の中止は在宅の運動プログラムによる転倒の減少効果を有意に増強すると報告している[8]。在宅医療の主役を担うのは、主に地域の診療所医師であることを考えると、診療所医師の処方行動への効果的な働きかけは在宅薬物療法の質の向上に肝要である。いずれも非ランダム化試験なので根拠としては弱いが、患者または介護者が処方された薬剤の内容をすべて書き出すことが、1カ月後の服薬遵守率の改善につながったとの報告がある一方[9]、Weberらは電子カルテベースで薬剤師および老年内科医が投薬内容を見直し、薬剤の適正使用を勧告しても、多剤併用の減少には寄与しなかったとしている[10]。

コホート研究においては、不適切処方および多剤併用の影響を検討した報告が全体の半分を占めており、エビデンスレベルが低いとは言え、いずれも予測された有害事象(転倒、救急外来受診、機能予後、入院イベント、遵守不足)の発生リスク上昇と関連することが確認されている[11~13]。新規の処方と患者の認知機能が退院後の有害事象の発生と有意に関連しているとする報告[14]は、退院前に今一度、認知機能評価により患者の服薬管理能力を十分に評価する必要性を示唆するものである。

在宅医療において汎用される薬剤のなかでも、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬および抗不安薬の使用と在宅高齢者の転倒との関連は、よく知られている[15,16]。またAparasuらの後ろ向き調査によれば、定型抗精神病薬は非定型抗精神病薬と比較して、服用開始後60日以内の在宅療養患者の入院リスクを4倍増加させた[17]。抗コリン作用をもつ薬剤を服用する高齢者においては、口渇感と便秘が最も多く観察される有害事象であるが[18]、近年の報告では認知機能低下との関連性が指摘されている[19]。薬剤有害事象としての尿失禁に関しては、末梢性α遮断薬の服用高齢女性においては尿失禁のリスクが4倍以上であり、ループ利尿薬の併用によりそのリスクが倍増することも報告されている[20]。

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13 在 宅 医 療

IV

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p.163
介護施設の医療

領域別指針

14 IV

検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、nursing homes、care homes、long-term care、adverse drug events、ADES、potentially inappropriate medication use、PIM、Beers criteria、polypharmacy、STOPP criteria、START criteria

CQ:介護施設において、薬物有害事象予防のために特に注意を要する点および薬剤は何か?介護施設では、多剤投与が高齢者に適切でない薬物の使用(potentially inappropriate medication;PIM)の処方および薬物有害事象に関連する。介護施設における代表的なPIMとしては向精神薬(抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬/睡眠薬、三環系抗うつ薬など)が挙げられる。これらは不穏・徘徊・尿失禁・転倒・便秘のリスクを増大させるため、使用を控える。a.  定型的抗精神病薬は強い鎮静効果と抗ドパミン作用により転倒・誤嚥のリス

クが高くなるため可能な限り使用を控える。(エビデンスの質:高、推奨度:強) b.  ベンゾジアゼピン系抗不安薬/睡眠薬には耐性や筋弛緩作用などがあるため

可能な限り使用を避け、使用する場合も最低必要量をできるだけ短期間使用に限る。(エビデンスの質:高、推奨度:強) c.  三環系抗うつ薬は可能な限り使用を控え、新たな処方は行わない。(エビデン

スの質:高、推奨度:強) CQ:介護施設において薬物有害事象の頻度が高い薬剤はどれか?介護施設において薬物有害事象の頻度が高い薬剤は、利尿薬、抗精神病薬、NSAIDsである。いずれも汎用性の高い薬剤であるが、利尿薬は低用量の使用にとどめ、適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う(抗精神病薬は前述。NSAIDsは後述)。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:介護施設において重篤な薬物有害事象をきたす薬剤はどれか?施設入所者の薬物有害事象関連の入院および関連死に関与するのは、NSAIDs、ジゴキシン、血糖降下薬、抗精神病薬である。

1

2

3サマリー
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領域別指針

14 介 護 施 設 の 医 療

IV

特に慎重な投与を要する薬物のリスト薬剤(クラスまたは一般名)代表的な

一般名(すべて該当の場合

は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイド

ラインまたは文献

ジゴキシンジゴキシン>0.125mg/日での使用ジギタリス中毒0.125mg/日以下に減量する。高齢者では0.125mg/日以下でもジギタリス中毒のリスクがあるため、血中濃度や心電図によるモニターが難しい場合には中止を考慮するエビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [3] [4]

a.  NSAIDsは常用するべきではなく、短期間また低用量の使用にとどめる。なる

べく選択的COX阻害薬を使用するかPPIを併用する。(エビデンスの質:中、推奨度:強) b.  ジゴキシンは治療効果域(therapeutic window)が狭い薬剤であり、血中濃度

や心電図による定期的な管理(モニタリング)が難しい場合には中止を考慮する。(エビデンスの質:中、推奨度:強) c.  クロルプロパミド、アセトヘキサミドなど第一世代SU薬およびグリベンクラ

ミドは低血糖のリスクが高く、介護施設ではモニタリングが不十分になる可能性があり、使用するべきではない。(エビデンスの質:中、推奨度:高) CQ:病院から介護施設へ入所する際の薬物有害事象に関与する薬剤はどれか?病院から施設入所する際にしばしば薬物有害事象が起こる。抗精神病薬、インスリン、心血管系薬剤の中止・変更に伴う薬物有害事象が報告されている。施設間の正確な薬剤情報伝達が必要である。(エビデンスの質:弱、推奨度:強) CQ:介護施設の薬剤有害事象を減らすのに有効な介入は何か? a.  多職種(かかりつけ医・老年専門医・薬剤師・施設スタッフ)によるケースカ

ンファレンスはPIMを減らすので積極的に行う。(エビデンスの質:中、推奨度:強) b.  向精神薬使用と精神症状に対する非薬物的対処についてのスタッフ教育は

PIM改善に効果がある。施設入所患者のBPSDは一過性である場合もあるため、休薬を試みるべきである。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

4

5

薬物リスト
p.165
薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の場合

は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイド

ラインまたは文献

三環系抗うつ薬アミトリプチリン、クロミプラミン、イミプラミンなどすべての三環系抗うつ薬認知機能低下、せん妄、便秘、口腔乾燥、起立性低血圧、排尿症状悪化、尿閉可能な限り使用を控えるエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [5] [6] [7] [8] [9]抗精神病薬全般定型抗精神病薬(ハロぺリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジンなど)非定型抗精神病薬(リスペリドン、オ

ランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、ペロスピロンなど)認知症患者全般錐体外路症状、過鎮静、認知機能低下、脳血管傷害と死亡率の上昇。非定型抗精神病薬には血糖値上昇のリスク定型抗精神病薬の使用はできるだけ控える。非定型抗精神病薬は必要最小限の使用にとどめる。ブチロフェノン系(ハロペリドールな

ど)はパーキンソン病に禁忌。オランザビン、クエチアビンは糖尿病に禁忌エビデンスの質:中推奨度:強[1] [2] [10] [11] [12] [13]

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬フルラゼパム、ハロキサゾラム、ジアゼパム、トリアゾラム、エチゾラムなどすべてのベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下長時間作用型は使用すべきでない。トリアゾラムは健忘のリスクがあり使用すべきでない。ほかのベンゾジアゼピン系も可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限るエビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [14] [15] [16]スルホニル尿素(SU)薬クロルプロパミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、グリメピリド低血糖とそれが遷延するリスク可能であれば使用を控える。代替薬としてDPP-4阻害薬を考慮エビデンスの質:中推奨度:強[1] [17] [18]
p.166
領域別指針

14 介 護 施 設 の 医 療

IV

薬剤(クラスまたは一般名)代表的な一般名(すべて該当の場合

は無記載)対象となる

患者群* (すべて対象

となる場合は無記載)主な副作用・

理由推奨される

使用法エビデンス

の質と推奨度参考にしたガイド

ラインまたは文献

NSAIDs腎機能低下、上部消化管出血のリスク1.使用をなるべく短期間にとどめる2.中止困難例では消化管の有害事象の予防にプロトンポンプ阻害薬やミソプロストールの併用を考慮3.中止困難例では消化管の有害事象の予防に選択的COX-2阻害薬の使用を検討(セレコキシブな

ど) a. その場合も可能な限り低用量を使用b. 消化管の有害事

象の予防にプロトンポンプ阻害薬の併用を考慮エビデンスの質:高推奨度:強[1] [2] [12] [13] [14] [15] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29]

利尿薬ループ利尿薬フロセミドなど腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常必要最小限の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する。適宜電解質・腎機能のモニタリングを行うエビデンスの質:中推奨度:強[17] [30] [31] [32] [33] [34] [35] [36]

アルドステロン拮抗薬スピロノラクトン、エプレレノン高K血症適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う。特にK 高値、腎機能低下の症例では少量の使用にとどめるエビデンスの質:中推奨度:強[1] [17] [31] [36] [37] [38] [39] [40]

*対象は75歳以上の高齢者および75歳未満でもフレイル〜要介護状態の高齢者(詳細はp. 22参照)

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。
p.167
介護施設では、しばしば適切でない薬物の投与(potentially inappropriate medication use;PIM)や薬物有害事象(adverse drug events;ADEs)が問題になる。なぜなら高齢者は薬物代謝が低下し、薬物療法の対象となる多くの慢性疾患を抱え、特に認知症を合併すればPIMやADEsの原因となる代表的な薬物である抗精神病薬を投与される可能性があるからである。また介護施設はその性質上、長期の入所患者の医療および介護を限られた予算とスタッフの中で行わなければならない[41]。これらはADEsへの対処の遅れ(ADEsの症状が非特異的であったり、患者の自覚症状が明確でなかったり、訴えが十分に伝わらなかったりすることによる)につながり、ときに命に関わるような重大な影響を及ぼす。特に認知症患者では認知症リハビリテーション等の非薬物療法の可能性を探りつつ、薬物療法を行う場合も多職種が連携し、PIMやADEsを減らす試みが必要である。

そこで、「介護施設の医療」領域では、“介護施設”、“高齢者”に加え、個々の疾患ではなく“PIM”、“ADEs”に焦点を当て系統的レビューを行い、その内容を以下に解説する。

Beersらは、1991年PIMに関する基準(Beers基準)を提唱し、PIMのリストを掲げた。彼らは介護施設に入所する1,106名の薬剤投与状況を調査し、平均投与7.2種類の処方を受けていること、また患者の40%が少なくとも1種類の、10%が2種類以上のPIMがあると報告した[42]。Beers基準を用いた欧米の介護施設におけるPIMの頻度は15~70%と幅がある。PIMに関与する要因としてまず、多剤投与(polypharmacy)が挙げられる[43]。Dhallらの介護施設入所者44,562名の検討では、薬剤が多くなればなるほどPIMが増加し、9種類以上の薬剤を服用する群は1~3剤の服用群に比べ、3.5倍であったと報告している。介護施設のPIMには精神症状に対する薬剤が多く含まれることが特徴であり、抗精神病薬・三環系抗うつ薬・長期作用型のベンゾジアゼピンなどが多くの研究でPIMとして挙げられている。ADEsとの関連も多く報告され、不穏・徘徊・尿失禁・転倒・便秘リスクを増大させる[36]。PIMに関する患者側の要因としては、女性・80歳未満・長期入所・低学歴・合併症の数を指摘している。一方、施設側の要因として、ベッド数が多いこと、登録看護師対患者比率が低いこと、看護スタッフの入れ替わりが多いことなどが報告されている[44]。また、介護施設において多剤投与はADEsのほか、薬剤相互作用(drug-drug interactions;DDIs)による副作用の発生により、施設利用中の入院と関係するほか、転倒・骨折、死亡との関連が報告されている[45]。

介護施設者のADEsのリスク因子は、施設の新しい入所、定期服用薬剤が5剤以上、抗菌薬、抗精神病薬、抗うつ薬である[9]。ADEsで最も多かったのが、精神神経系で115例(28.0%)、52例(12.7%)が転倒、49例(12.0%)がアレルギー反応、46例(11.2%)が消化器系、44例(10.7%)が出血、43例(10.5%)が錐体外路症状である。なかでも、ADEsをきたす薬剤として利尿薬、抗精神病薬、NSAIDsが挙げられる[17]。Cooperらはナーシングホームの利用者のADEsを4年にわたり調査し、332名のうち217名に444件のADEsがあったと報告している。この研究では患者1人当たりのADEs発生は1.9+/-1.3件で、ADEsを有した患者では平均服用薬剤は7.8 +/-2.6剤に対して、ADEsのみられなかった群では3.3+/-1.3剤であったと報告している。ADEsの関係する臓器は心血管系が188件、中枢神経系が129件、消化器系が82件など、薬剤

解説
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領域別指針

14 介 護 施 設 の 医 療

IV

相互作用に関する事象は34名、39件で、抗うつ薬で22件、降圧剤で5件などであったと報告している。

また、ADEsにより入院および関連死に関与するような重篤な事象につながる薬剤は、NSAIDs、抗精神病薬、ジゴキシン、血糖降下薬、である。Cooperらは同じコホートで332名の患者のうち52名(15.7%)、64のADE関連の入院があり、最も多かったイベントはNSAIDsによるもので30事象であった[19]。ADEs関連の死亡は4名であり、2名はインスリンによる低血糖が、β遮断薬の併用により副作用の症状がマスクされていた例。また、1名はジゴキシン中毒で血中レベルが8.8nmol/Lに上昇していた。4例目はADEsが死亡の直接原因ではないものの、抗精神病薬関連の骨折後に死亡した症例であった。その他、抗精神病薬投与による骨折(14例)、ジゴキシン中毒(5例)、インスリン低血糖(4例)の重篤な事象を報告している。介護施設入所者の糖尿病治療で経口血糖降下薬投与は、特にモニタリングが不十分になる可能性があるため、クロルプロパミド、アセトヘキサミドなど第一世代SU薬およびグリベンクラミドは使用を避けるべきである。

その他、病院から介護施設へ入所する際にADEsが生じることがある。抗精神病薬、インスリン、心血管系薬剤の中止・変更に伴うADEsが報告されている[46]。Boockvarらはナーシングホームから医療機関に入院し、再びナーシングホームに戻った71入院のうち、薬剤変更に伴うADEsは14例(20%)であった。薬剤変更320事例のうちの14例に当たり、ADEリスクは4.4%(95%CI:2.5-7.4%)であったとしている。これは通常の施設入所者のADEs発生率より高い頻度である(Gurwitzらの28,839名の施設入所者の検討では100人当たり月1.89ADEs[47])。その内訳は精神神経系薬剤の変更に関わるものが4ADEs、2例がそれぞれ心血管系薬剤とインスリン、コルヒチンであった。

PIMの問題に対し、さまざまな介入研究が報告されている。まず、介護施設入所者の薬剤見直しの提言である。システマティックレビューによれば、薬剤有害事象、入院、致死率に対する改善作用はないが、主治医の薬剤処方変更につながり薬剤費用低減効果があるとしている[48]。例えば、Trygstadらの研究では、薬剤見直しの提言に対し、医師は件数の59.8%に同意し、薬剤費用も減少したと報告している[49]。しかしCrottyらは、この提言のみでは患者の健康状態の改善につながる証拠はなかったとしている[50]。

一方、多職種(かかりつけ医・老年専門医・薬剤師・施設スタッフ)によるケースカンファレンスは、PIMを減らす可能性がある[51]。また、向精神薬使用と精神症状に対する非薬物的対処についてのスタッフ教育は、PIM改善に効果がある。システマティックレビュー[52]によれば、スタッフ教育による影響を調べた8研究のうち6研究で処方の質が改善した。抗精神病薬に関して心理学的および社会学的ケアの方法の訓練による効果を検討した結果、抗精神病薬の使用数、量、使用日数が減少した。また、睡眠薬に関して薬剤師主導の教育プログラムを行ったところ、睡眠薬の使用頻度は24%と変化がなかったものの、ベンゾジアゼピン系薬剤の割合が81%から40%に、長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤の割合が62%から22%に減少し、短時間作用型の睡眠薬(ゾピクロン、ソルピデム)に切り替えられて(9%から53%)いた。また21時前に睡眠薬を飲む例が減少した[53]。

また、施設入所患者のBPSDに対しては、薬物療法に頼るだけでなく非薬物療法がPIM
p.169
を防ぐ意味でも検討の余地がある。一般的には抗精神病薬は精神症状の悪化をきたさずに休薬可能である[54]。もっとも、以前、抗精神病薬で周辺症状に効果が認められた患者では、休薬により症状の再燃をきたす可能性があること、また重度の周辺症状を有する患者では抗精神病薬の継続に検討の余地があることに留意する。

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薬剤師の役割

領域別指針

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検索Key Word aged、elder、seniler、older、aging、geriatrics、geriatric assessment、pharmacist、polypharmacy、beers criteria、medication teaching、one dose package、STOPP、START、adverse drug event、adverse drug eff ect、medication brought、adherence

CQ:薬物有害事象を回避するために、薬剤師はどのように関与するのが有効か?薬物有害事象の多くは、過量および過少投与、相互作用、薬物治療のノンアドヒアランスが原因であることが多く、薬学的管理(薬識の確認、残薬確認、薬歴管理、相互作用の確認、処方設計などの薬剤師の包括的な介入)の実施により、未然回避、重篤化の回避が可能となる。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:漫然と繰り返し使用されている薬を、薬剤師が見直すことは有効か?漫然と繰り返し使用されている薬を薬剤師が定期的に「見直す」ことで薬剤数の削減、薬物有害事象や医療費の抑制につながる。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:薬物関連問題に対して、薬剤師はどのように取り組むべきか?薬剤師の処方見直しや薬学的管理の実施により薬物関連問題(処方誤り、薬物有害事象、相互作用等)の発生頻度が低下する。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:用法など複雑な処方に対して、薬剤師が医師に提言することは有効か?薬剤師が処方を見直し、医師に提言することで処方の複雑さを軽減できる。(エビデンスの質:低、推奨度:強) CQ:多剤併用に対して薬剤師が介入することで、医療費および薬物有害事象の発現の軽減に有効か?多剤併用における薬剤師の包括的介入は、医療費削減するとともに薬物有害事象の発現を低下させる。(エビデンスの質:中、推奨度:強) CQ:薬物治療のアドヒアランスを改善するために、薬剤師はどのような関わりが有効か?薬剤師による電話カウンセリングが、薬物治療のアドヒアランスを改善し死亡率を減少させる。(エビデンスの質:高、推奨度:強)

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6サマリー
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特に慎重な投与を要する薬物のリスト

なし。

開始を考慮するべき薬物のリスト

なし。

高齢者は複数の疾患に罹患していることが多いため多剤併用に陥りやすく[1]、服用薬剤数の増加につながる。そのため、薬物有害事象(adverse drug reactions;ADRs)の発現頻度が上昇する[2]。症状としては中枢神経系、電解質異常、消化器症状が7割以上を占め[3]、予防可能な処方誤りなどによる薬物有害事象の報告も多い[3]。さらに、高齢者にみられる薬の問題は薬物有害事象だけではなく、薬剤選択および投与量誤り、相互作用なども含む薬物関連問題(drug-related problems;DRPs)が医療費や死亡率などに影響を与えるため重要な問題となる[4]。高齢者の薬物療法で重要なことは患者の個別性を考慮し、認知機能、薬物治療のアドヒアランス、ADL(activities of daily living:日常生活動作)、嚥下機能、療養環境などを含めた総合的な投与計画が必要であり、薬剤師の職能を発揮するのに最適な分野である[5]。これらに関する薬剤師の包括的な介入を、薬学的管理(薬識の確認、残薬確認、薬歴管理、相互作用の確認、処方設計など)という。

65歳以上の高齢者27,617名を対象とした大規模なコホート研究において、1,523件の薬物有害事象のうち、421件(27.6%)は予防が可能であった。特に重篤な薬物有害事象は予防可能なものが多く(relative risk:2.25、95%CI:1.91-2.65、p<0.001)、その多くは処方誤り

CQ:薬剤師が在宅における薬物関連問題や薬物治療のアドヒアランス向上に対して、訪問薬剤管理指導を行うことは有効か?薬剤師が訪問薬剤管理指導を積極的に行うことは、薬物関連問題の減少、薬物治療のアドヒアランスの向上につながる。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:薬剤師による入院時持参薬の鑑別および薬歴聴取は有効か?薬剤師が入院時持参薬の鑑別および薬歴聴取を行い処方提案することで、処方の適正化が行える。(エビデンスの質:高、推奨度:強) CQ:薬剤師による退院時服薬指導は有効か?薬剤師が退院時に積極的な情報提供を行うことで、薬物治療のアドヒアランスが維持され、再入院回数の減少につながる。(エビデンスの質:低、推奨度:強)

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薬物リスト

解説
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246件(58.4%)、薬学的管理の不足256件(60.8%)、服薬ノンアドヒアランス89件(21.1%)であった[6]。

Krskaらの研究において、薬物有害事象に対して薬剤師が患者へインタビューし、薬物有害事象を抽出し、治療計画を立て、一般開業医へ情報提供を行った結果、薬剤師介入群では問題点の79%を解決しているのに対して、コントロール群では39%のみの解決であり、薬剤師関与群のほうが有意に問題を解決していた(p<0.0001)。薬剤師による患者へのインタビュー後、薬学的管理に関する潜在的な問題を抽出し、問題に応じた治療計画を立て、医師へ情報提供することにより、問題点をより多く解決できる可能性がある[7]。

繰り返し処方を受けている患者に対して薬剤師が患者の状態、疾患や処方を評価し、医師に対して提案を行い、薬物療法の質の向上と医療経済的評価を検証した研究がある。1患者当たりの処方削減数は、薬剤師関与群2.2、コントロール群1.9であり、差異は0.31(95% CI:0.06-0.57、p=0.02)であった。また、1年間で医療費は、コントロール群に対して1患者当たり£61.75削減した。そのなかで、最も多い提案は「中止」であり、薬剤師の効果的な介入は、高齢患者の服薬状況を有意に変化させ、看護者の日常業務に影響を与えることなく、介入に要した費用以上に薬剤費用を軽減することができることを示している[8, 9]。また、薬剤師が繰り返し処方を1カ月ごとに「見直す」ことにより、薬物有害事象の発現頻度に与える影響を調査した研究では、対象患者の12.4%の患者で服薬ノンアドヒアランスの問題、副作用、薬物有害事象、薬物相互作用が起こっており、薬学的管理により1患者当たり18%医療費の削減が可能であった[10]。

薬物関連問題に関しての研究では、薬剤師がコンピューターシステムにて処方の「見直し」を行い、医師に適正化のための情報を提供した大規模な調査研究では、43,007件の警告が発生し、24,266件(56%)について19,368人の医師に連絡し、24%(5,860件)が処方変更された。コンピュータを用いた処方の見直しが有用であったことが示されている[11]。Willochら[12]の研究では、薬物関連問題に対してチーム医療に薬剤師が関与することの有用性を調査している。入院時の薬物関連問題が薬剤師関与群4.4、コントロール群4.2であったが、関与後3カ月で、薬剤師関与群1.2、コントロール群4.4(p<0.01)と減少し、さらに退院後には、薬剤師関与群1.63、 コントロール群2.62(p=0.02)と有意に低下した。薬剤師による医療チームでの議論への参加や薬物療法の管理は、入院中の薬物関連問題を減少させ、退院後も持続することが示されている。また、Murrayらの研究では、心不全患者を対象として、薬剤師が文書と口頭で患者に説明を行い、定期的に連絡を取り、処方内容や市販薬を把握し、電子カルテを利用して医師や看護師と情報共有し、薬物有害事象と薬物関連問題の頻度を調査した結果、心不全のイベントリスクは対照群に比べ34%低下(リスク比0.66、95%CI:0.50-0.88)、薬物有害事象の発現は35%低下(リスク比0.65、95%CI:0.47-0.90)、予防可能な薬物関連問題は48%低下(リスク比0.52、95%CI:0.25-1.09)し、薬剤師による介入が心不全のイベントリスク軽減、薬物有害事象や薬物関連問題を減少させる可能性があることを示している[13]。

薬物治療のアドヒアランスの向上のポイントとして、処方の簡略化が重要であると言われているが、Elliottらの研究において、薬剤師が処方の複雑さを調査し、処方の「見直し」を
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医師に提言した結果、入院時には処方が複雑になる傾向であるが、薬剤師関与群のほうがコントロール群と比較して処方の複雑さの増加が低いことが示されている(2.5 vs. 4.0、p= 0.02 adjusted diff erence 1.6、95%CI:0.3-2.9) [14]。

多剤併用の減少に、薬剤師の介入が有効であるか調査したシステマティクレビューの文献がある[15]。6報のcontrolled trialと1報のRCTにおいて、観察終了時に併用薬剤数が有意に減少し、2報のRCTでは併用薬剤数の増加が少なかったとの報告がある一方、5報のRCTでは、介入において薬剤数の有意な減少が認められなかったとの報告がある。薬剤師が介入することで、薬剤数が減少した研究もあったが、単に薬剤数を減少させるだけではなく、投与レジメンの適正化を図ることが重要であるとしている。一方、Blakeyらの研究では、多剤併用の問題に対して、外来での薬剤師の介入を調査している。高齢者外来において薬剤師が積極的に多剤併用による薬物関連問題に疑義照会を行った結果、98.6%が承認され、平均減少薬剤数はコントロール群0.4剤に対して、薬剤師関与群では3.4剤と有意に減少させ(p<0.001)、薬剤師の介入により年間7,788ドル医療費が削減でき、多剤併用の高齢患者に対する薬剤師による介入が、経済的および臨床効果的にも有用であったことを示している[16]。

Wuらの研究では、多剤併用療法を受けている患者に対して、薬剤師による定期的な電話カウンセリングの効果について死亡率と薬物治療のアドヒアランスを指標にした研究を行っており[17]、介入群は死亡率が41%減少(修正相対危険度0.59、95%CI:0.35-0.97、p= 0.039)、死亡の予防に必要な介入回数は2年間で1人当たり16回であり、多剤併用療法を受けている患者において、薬物治療のアドヒアランスの低下と死亡リスク増加が相関していたことから、薬剤師による電話カウンセリングは、薬物治療のアドヒアランスを改善させ死亡率を減少させていることを示している。

調剤薬局における多剤併用に関する研究では、6剤以上の投薬を受けている65歳以上の患者に対して、薬剤師の介入が薬物関連問題の減少に繋がるか調査した結果、介入から4カ月後に介入群で薬物関連問題が有意に減少した(-16.3%、95%CI:-24.3%、-8.3%)。しかし、使用薬剤数に関しては有意な減少は認められなかったとしている(-4.7%、95%CI:-9.6%、-0.2%) [18]。また、調剤薬局における高齢患者への薬学的管理が有用であるかどうか調査した研究では、薬剤師が複数の情報源を用いて薬物療法に関する問題点を抽出し、患者教育および薬物治療のアドヒアランス向上に対する取り組みを行った結果、薬剤師介入群では、試験中のQOLの指標であるSF-36スコアがベースラインと比較して有意に低下した(p<0.05)。さらに試験開始から6、12、18カ月後の併用薬剤数について、介入群では対照群と比較して有意に低下した(p<0.05)。薬物関連問題の発生件数は対照群と比較し、介入群で有意に低下した(p<0.05)。しかし、平均の医療費に関しては両群間に有意差は認められなかった[19]。さらに、高齢患者に対する訪問薬剤管理指導の有用性について評価した研究[20]では、看護師と薬剤師が在宅療養患者の家庭を訪問し服薬状況を確認し、個別に作成した改善案を医師に提案し12~18カ月(14.9カ月)後に家庭訪問(一部電話)を行った結果、不適切服用薬剤の割合が27.2%から8.9%に減少し、不適切服用患者の割合は77.7%から38.6%へと減少した(p<0.001)。
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薬剤師が入院時に薬歴を聴取し、プロトコールに従って服用薬の内服中止期間などを評価し、必要に応じ多職種と薬剤について協議することで、患者の入院期間中の薬剤の不適切な用量による使用は、対照群(3.21、95%CI;2.89-3.52)、薬歴群(3.30、95%CI:2.98- 3.63)、薬歴+処方介入群(1.07、95%CI:0.9-1.25、p<0.001)と有意に減少する[21]。周術期の薬物療法においては、単なる薬歴管理だけでなく、薬剤師の処方提案が重要である。

退院時の服薬指導に関しては、服薬指導の要点を説明しリストなど文書で渡すことが重要であり、退院後2~3週間ごとに患者宅へ訪問し、3カ月間追跡調査を行った結果、両群間における処方薬剤数に有意な差は認められなかったが、薬識およびコンプライアンスは薬剤師介入群のほうが有意に良好であった。開業医の訪問や再入院もコントロール群と比較して、有意に減少した[22]。

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高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 2015年12月20日 第1版第1刷発行2016年10月20日    第5刷発行

日本老年医学会■編 集 日本医療研究開発機構研究費・

高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班■発 行 日本老年医学会

〒113−0034 東京都文京区湯島4-2-1杏林ビル702電話 03(3814)8104 FAX 03(3814)8604 ■発 売 株式会社メジカルビュー社

〒162−0845 東京都新宿区市谷本村町2−30電話 03(5228)2050 FAX 03(5228)2059 ■印刷所 図書印刷株式会社ISBN978−4−7583−0490−0 C3047 ©日本老年医学会, 2015. Printed in Japan

・転載・複製の際はあらかじめ許諾をお求めください。・乱丁・落丁の場合はお取り替えいたします。
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【全般的事項および総論に関して】1.薬物リストの名称変更と説明追加:今回募集したパブコメにおいて、多くの方から、(パブコメ段階の名称である)ストップのリストに挙げられた薬剤は禁止薬であるとの誤解に基づく「使えなくなると困る」といった意見が、特に抗精神病薬の使用に関して数多く寄せられました。禁止薬と誤解して医師が必要な患者に処方しなくなったり、患者・家族が自己判断で薬剤を中止したりすることによる患者様の不利益を避けるため、作成グループおよび日本老年医学会理事会で検討した結果、本ガイドラインにおける薬物リストの名称は下記の様に変更することとしました。リストの総称:「高齢者の処方適正化スクリーニングツール」(英語名:Screening Tool of Older Person’s appropriate Prescriptions for Japanese(STOPP-J);本ガイドライン中では使用しません)本リストは、(1)特に慎重な投与を要する薬物のリスト、および(2)開始を考慮するべき薬物のリストの2 部に分けております。以上のように名称に変更を加えた上で、・「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」の対象が75 歳以上の高齢者および75 歳未満でもフレイル*1~要介護状態の高齢者であること・適用対象としては慢性期、特に1 か月以上の長期投与であること・利用対象は主に実地医家で、特に非専門領域の薬物療法であること(ただし、薬剤師、服薬管理の点で看護師も利用対象であること)をリスト上部に明記いたしました。さらに、フローチャートを含めたリストの使用方法を追記しました。その中においても一般の方が目にしても自己中断をしないように十分な指導を行うこと、薬剤の評価、変更の各ステップにおいて個々の病態と生活機能、生活環境、意思、嗜好などを考慮して、患者・家族への十分な説明と同意のもと、最終的に直接の担当医が判断することを強調しました。また、患者本人や家族がリストを見て自己中断することのないように、前文の章に「リストを用いる対象としていない方々への注意とお願い」という説明の項目を設けました。その中で、「特に専門的治療を受けている場合、リストに載っている薬剤の使用も専門的見地に基づくことが多いことに留意いただきたい。」という記載をすることで、専門診療科での治療は本ガイドラインに縛られるものではないことの理解を図るようにしました。最終版リストの公開時には、学会ホームページでも一般の方向けの注意を喚起するようにいたします。まだわが国では薬物の長期使用と薬物有害事象発生のデータは乏しく、今後わが国における薬物使用とそのアウトカムとの関連については調査する必要があります。こちらは本ガイドライン作成にあたる課題と展望として、「高齢者の処方適正化スクリーニングツール」の章に追記いたしました。*1 フレイル(frailty):加齢に伴い、ストレスに対する脆弱性が亢進した状態で、筋力低下、動
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作緩慢、易転倒性、低栄養のような身体的問題、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を抱えた要介護状態の前段階を指す。HP 内、当学会からのステートメント参照。

2.本ガイドラインで採用したGRADE システムでは、エンドポイントの強さやエビデンスレベルを評価すべきは総死亡である、というご意見をいただきましたが、我が国の大規模調査(Akishita M, et al. J Am Med Dir Assoc 14:479-484, 2013)および英国の調査によりますと、高齢者医療では、受療側・医療側双方にとって死亡率は必ずしも優先順位の高いエンドポイントではないことが示されております。本ガイドラインに引用した「高齢者に対する適切な医療提供の指針」(当学会HP 参照)にもその点は記載されており、参照いただければと存じます。

3.「有害事象」という用語が不適切というご意見をいただきましたが、学術用語の薬物有害事象とは、ただの有害事象とは異なり薬剤に起因する有害事象として広く使われております。副作用とは主に主作用に由来する高齢者の薬物有害事象についての用語ですし、薬物有害反応という一般になじみのない表現を用いることも適切ではないと考え、薬物有害事象を用いています。

4.前回ガイドラインにあったCYP で代謝される薬物一覧を今回は付記していません。この点については、CYP を介した相互作用が高齢者に特異的なものではなく、薬物の専門書に掲載されている情報であるため、ガイドラインの軽量化を重視して削除いたしました。

5.利益相反(COI)の開示法が不適切であるとのご意見がありましたが、COI 開示にあたっては日本内科学会および関連学会の「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」に基づいて作成された日本老年医学会のCOI の細則(平成24 年6 月28 日改正版)に沿って、作成メンバー、査読者、作成相談者全員より高齢者の薬物療法に関与する企業との間の経済的関係につき、利益相反状況の申告を得ました。日本老年医学会COI 委員会委員長が全員の申告内容を確認し、該当がある申告内容を無記名で抽出した上で、該当がある申告内容のリストをCOI 委員会(申告者を除く)で審査し、ガイドライン作成の上で申告内容に問題がないことを確認しております。さらに、薬物リストおよび各領域のサマリーにおけるエビデンスの質と推奨度の決定に際しては、各項目に関連するCOI の該当がある作成メンバーはその議決に加わらないこととし、議決に参加したメンバーの8 割以上の承認をもって決定としました。このようにCOI が薬物リストおよび各領域のサマリーにおけるエビデンスの質と推奨度の決定に影響を与えないよう細心の注意を払っております。また、このCOI に関する手続きは本ガイドライン冒頭部分に詳述しました。これらのCOI の開示方法は、最近の各学会からの診療ガイドラインと比べて決して劣るものではなく、むしろ最新の考え方に基づいて行われていると考えます。万が一問題が発生した場合に
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は、日本老年医学会COI委員会で各COI開示の内容を再検討していただく体制となっております。

6.「全般的指針」の「薬物有害事象の回避」の中で、薬物投与量を調節するにあたっては推定糸球体濾過量(eGFR)がよい指標となる、と記載しておりましたが、Drug information の多くにはクレアチニンクリアランス(Ccr)を指標とするようにと記載されていましたので、Ccr の推奨と推定Ccr およびeGFR の限界について言及することといたしました。さらに「全般的指針」の「服薬管理・支援と一元管理」の中で、要介護高齢者のアドヒアランス低下と関連するとして紹介した因子はletters to editor の論文を基にしており、根拠が不十分とのご指摘を受け、海外の系統的レビュー2 編を引用文献に追加し、記載も修正しました。

【領域別指針】I.精神疾患<BPSD> 1.重度のBPSD が見られている場合の対処が、本ガイドラインでは困難であるとのご意見がありました。重度のBPSD が見られている場合の対処の方法や指針についての検討が必要であり、「医薬品の適応外使用に係わる保健診療上の取り扱い」においては、社会保険診療報酬支払基金が設置している審査情報提供委員会から、クエチアピン、ハロペリドール、ペロスピロン、リスペリドンに関しては、「原則として、器質的疾患に伴う せん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。」という検討結果が出されていることにも留意した記載が必要であるとのご意見です。これに関しては、ご指摘の通りであり、本文中に「緊急度の高いBPSD に対しては抗精神病薬の使用が慎重に検討される。」以下、抗精神病薬の効果について、日本神経学会の「認知症治療ガイドライン」、厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」、社会保険診療報酬支払基金が設置している審査情報提供委員会の「医薬品の適応外使用に係わる保健診療上の取り扱い」平成23 年9 月第9 次提供事例を引用して加筆いたしました。

2.日本神経学会が監修している「認知症疾患治療ガイドライン2010(コンパクト版2012)」や厚生労働省が出されている「かかりつけ医のためのBPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」との整合性についての検討が不足しているとのご指摘を受けました。このため、日本神経学会の「認知症疾患治療ガイドライン」、厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」、社会保険診療報酬支払基金が設置している審査情報提供委員会の「医薬品の適応外使用に係わる保健診療上の取り扱い」平成23 年9 月第9 次提供事例を引用し加筆いたしました。また、既存ガイドラインとの齟齬を避けるためCQ(クリニカルクエスチョン)
p.183
が既存のガイドラインと重ならないように修正・変更いたしました。現在改訂作業中の認知症関連6学会合同による「認知症疾患治療ガイドライン」との整合性を図るため、作成委員会からも意見をいただきました。

3.領域別に章が分かれていながら対象となる患者群がその領域名の疾患となっていないことについてわかりにくいとのご指摘がありました。これについてはリストの問題点につき再検討を行い、修正を加えたものとしています。

4.漢方薬である抑肝散のBPSD に対する有効性については、エビデンスの質が低いと考えるにも関わらず推奨度が高すぎるというご指摘をいただきました。抑肝散については4つの無作為比較試験のメタ解析の結果が報告されていますが、個々の試験内容の再検討およびCOI なども考慮した厳密な投票によりエビデンスレベルと推奨度について再判定を行いました(総論に記載しましたが8 割以上の賛成を承認といたしました)。その結果、8 割以上の合意には至らず、開始を考慮するべき薬物のリストから除きました。特に慎重な投与を要する薬物のリストおよび開始を考慮するべき薬物のリストに当初含まれていた漢方薬に分類される全ての薬物において同様の結論に達しており、リストから漢方薬は全て外しております。しかしながら漢方薬には長い歴史があり、高齢者にも日常的に使われているという実態があるため、漢方薬の使用について何らかの方針を示すことは必要であると判断いたしました。そのため、特に慎重な投与を要する薬物のリストおよび開始を考慮するべき薬物のリストに準じたリストを作成し、エビデンスレベルおよび推奨度を附記しない形式で漢方薬の章に記載することとしました。抑肝散はこちらの漢方薬の章のリストに含まれる形としました。また、先のガイドライン案では、抑肝散が抗精神病薬の代替治療薬と記述していましたが、抑肝散の投与は一般的に抗精神病薬の投与より前であり、代替薬という記述はふさわしくないと判断し、抑肝散使用上の注意も含めて表記を改めました。

5.高齢化した精神疾患患者の治療に対して配慮がないとのご意見をいただきました。今回本ガイドラインで取り上げました抗精神病薬は、あくまでBPSD に対する使用法の記載ですので、高齢化した統合失調症の薬物療法は対象にしておりません。ご了承いただけましたら幸いです。また若くして発症し、高齢化したうつ病患者に対しては、うつ病の本文中に、「なお本稿は高齢で初発したうつ病を想定している。すでにそれ以前から継続的に治療されているうつ病患者にとっては、治療経過上もっとも適した治療薬が継続されるべきことはいうまでもない。」と加筆いたしました。
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6.糖尿病患者に対して禁忌なオランザピンが糖尿病患者で中止を検討すべき、など高齢者に限らない一般的な記載が混在しており、誤解を招きかねないとのご指摘がありました。本リストは抗精神病薬の使用経験が少ないかかりつけ医を含めてBPSD に対して抗精神病薬を用いることを想定しているため、高齢者でしばしばみられる身体疾患に対して注意を喚起する意味であえて記載させていただきました。ご了承ください。

なお、オランザピンの代替薬として推奨したリスペリドンやアリピプラゾールが、同時に前案の「ストップ」のリストに挙げられているという齟齬がありましたので、修正いたしました。

7.チアプリドも決して安全性が高い薬剤とはいえないため記載をしたほうが良いとのご意見をいただきました。BPSD の本文中に、「チアプリドがBPSD に使用される場合がある。しかし1980年代の報告が主で、かつ実臨床より高用量の試験が多くエビデンスに乏しい。また錐体外路系の副作用のリスクもあり、注意が必要である。」と加筆いたしました。

8.BPSD に対して抗不安薬の使用についても十分な注意が喚起されるべきとのご意見をいただきました。これを受け、BPSD の項では、「高齢者に対するベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用により、過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下などの有害事象がみられることがある。日本神経学会の「認知症治療ガイドライン」では、中等度以降の認知症患者の不安症状に対する使用は推奨されないとされ、認知症の不安症状にリスペリドン、オランザピン、クエチアピンが選択肢として挙げられている」と加筆しました。さらに不眠症の項にも、「なおベンゾジアゼピン系薬剤は日中の不安、焦燥に用いられる場合があるが、高齢者では上述した副作用のリスクがあり、可能な限り使用を控える。使用する場合最低必要量をできるだけ短期間使用に限る。」と加筆しました。

9.BPSD に対するメマンチンのエビデンスレベル、推奨度が引用論文の質から考えて高すぎるとのご指摘をいただきました。これを受けて再検討を行い、メマンチンの記述をCQ から削除しました。また、本文中のメマンチンに対する記述を、「メマンチンがBPSD に効果を認めたとする報告もあり」と修正し、Wilcock GK, Ballard CG, Cooper JA, Loft H. Memantine for agitation/aggression and psychosis in moderately severe to severe Alzheimer's disease: a pooled analysis of 3 studies. J Clin Psychiatry. 2008;69:341-348.を引用しました。

<不眠症> 1.不眠症に関しては、日本睡眠学会が不眠症のガイドラインを出されていますが、本ガイドライン案ではGRADE システムで作成された睡眠学会ガイドラインの推奨内容と異なる結論に至った根拠について説明が必要とのご指摘を受けました。ご指摘のようにガイドライン同士の整合性
p.185
を取ること、そして相違点の説明は現場の混乱を避けるために重要な点です。その点を考慮して睡眠学会ガイドラインを引用しつつ、本文の記載を修正させていただきました。この中で、日本睡眠学会のガイドラインで推奨された非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-drugs)が本ガイドライン案では「中止を検討すべき薬物」にリストされる一方、エビデンス不足から日本睡眠学会ガイドラインでは推奨に至らなかったラメルテオンが唯一の推奨薬剤とされているとのご指摘を受けました。本案ではラメルテオンは推奨薬ではなく、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系薬剤が使用できない場合の代替薬という位置づけで記載していましたが、ご指摘のように高齢者でのエビデンスは十分でないため、代替薬の記載は削除し、本文にもこれらの点を追記いたしました。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-drugs)に関して日本睡眠学会のガイドラインと本ガイドラインの扱いが違う理由は、以下の通りとなります。

本ガイドラインでは、前述しましたように、75 歳以上の高齢者および75 歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者を主な対象としておりますが、1)第3相試験段階でこれらの高齢者は被験者としてほとんど組み入れられていない現状があること、2)既存薬が高齢者に対してどれだけ安全かというCQ に答えるような治験は行われ難いことなどから、より安全性に配慮したガイドラインになっていることをご了承いただきたいと思います。

非ベンゾジアゼピン系薬剤を高齢者に対して特に慎重に使用すべき薬剤として挙げているのですが、その点は日本睡眠学会のガイドラインでも、「高齢者では睡眠薬による不眠症の改善効果のエフェクトサイズに比較して、相対的に副作用のリスクが高い」と記述されており、今回「特に慎重に使用すべき薬剤」とリストの名称を変更したことで、対象とする患者層の違いも考慮すれば、大きく矛盾しないと解釈できます。

今回のガイドラインで特に慎重に投与するべき薬剤に挙げることは、漫然と長期間使用しないことに注意を喚起する意味で重要なことであり、その点はご理解いただけると存じます。本ガイドラインでは、非ベンゾジアゼピンの転倒、骨折リスクについて、50 歳以上のナーシングホームの住人15528 名を対象としたケースクロスオーバーデザインによる検討(Sarah DB et al. Non-benzodiazepine sleep medications and hip fractures in nursing home residents. JAMA Intern Med 2013; 173: 754–761.)と、65 歳以上の1508 名を対象としたケースクロスオーバーデザインの検討結果(Kang DY et al. Zolpidem use and risk of fracture in elderly insomnia patients. J Prev Med Public Health. 2012;45:219-26.) から示されています。RCT ではないのでエビデンス「低」から始め、研究報告の質を吟味し「中」としました。世界的に受け入れられているBeers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults の「American Geriatrics Society 2012 Updated」(J Am Geriatr Soc. 2012 Apr;60(4):616-31)において、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、「Benzodiazepine receptor agonists that have adverse events similar to those of benzodiazepines in older adults (e.g., delirium, falls, fractures); minimal improvement in sleep latency and duration」の記述のもと、Avoid chronic use (>90 days)エビデンス「中」、推奨の強さ「強」となっています。また「American Geriatrics
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Society 2015 Updated」においては、「The non-benzodiazepine receptor agonists are to be avoided without consideration of duration of use because of their association with harms balanced with minimal efficacy in treating insomnia」と投与期間に関係なく避けるべき薬剤と説明され、高齢者に対するPotentially Inappropriate Medication Use in Older Adults のリストの中で、エビデンス「中」、推奨の強さ「強」、で「avoid」と示されております。また、同様にヨーロッパで広く用いられている「STOPP/START criteria」(2015 年に改訂されてversion 2 となっています。Age Ageing. 2015 Mar;44(2):213-8.)においてもHypnotic Z-drugs e.g. zopiclone, zolpidem, zaleplon (may cause protracted daytime sedation, ataxia).として「Drugs that predictably increase the risk of falls in older people」のカテゴリーにおいてSTOPP に分類されています。(なお、STOPP についてはSTOPP criteria medications are significantly associated with adverse drug events という説明がされています。)このBeers 基準とSTOPP/START criteria はいずれも本ガイドラインと同様、高齢者に対する薬物療法の安全性を高める目的で作成されたものです。

このように、対象の乖離とそれによるリスク・ベネフィットバランスの相違が根本にあるため、特に高齢者に限定しない日本睡眠学会のガイドラインと高齢者対象の本ガイドラインとの間で推奨度に相違があっても不思議はなく、矛盾するものではないと考えます。そのうえで、本ガイドラインと日本睡眠学会のガイドラインとの間に推奨内容に齟齬があることは患者や医療者に不安や誤解を与える懸念があるとのご指摘をいただきました。上述のとおり、対象とする患者層の相違とそれによるリスク・ベネフィットバランスの相違、つまり、明らかに本ガイドラインは薬物有害事象のハイリスク群を対象としていることが根本にあります。この点は各章に共通するものであり、上記のようにガイドラインの対象と使い方などを総論部分で詳しく述べるように修正したことで誤解を避けられると考えます。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果については決して否定するわけではないため、本文中に、「非ベンゾジアゼピン系薬剤には、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンがあるが、いずれもω1受容体に選択性が高いことから筋弛緩作用が弱い。短時間作用型のゾルピデムやゾピクロンは高齢者に対する効果が示されている。エスゾピクロンはゾピクロンの光学活性体である。エスゾピクロンについても高齢者の不眠症に対する効果や忍容性が報告されている。このため日本睡眠学会のガイドラインでは、非ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が推奨されている。」と記載しました。

ただし75 歳以上の高齢者に対して慎重な投与を促すことは重要と考えます。以上より、本ガイドラインの内容が日本睡眠学会のガイドラインの内容と齟齬があるとは考えておりません。

ラメルテオンに限らず、スボレキサントについても副作用が生じにくい可能性がある、と記載したことに対する妥当性と実効性について再検討が必要とのご指摘を受けました。ラメルテオンおよびスボレキサントについてのご指摘については、ごもっともと考えます。新規薬剤について
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のCQ は削除し、本文を以下のように修正いたしました。「メラトニン受容体作動剤ラメルテオンは、これまでの睡眠薬とは全く作用機序が異なり、ベンゾジアゼピン受容体作動薬でみられた副作用が生じにくい可能性がある。また高齢者に対する効果もRCT で示されているが、プラセボと比較して睡眠潜時の短縮に有意差を認めないとするメタ解析の報告もある。また本剤は主にCyp450 の(CYP)1A2 で代謝される。このため(CYP)1A2を強く阻害するSSRI のフルボキサミンとの併用は禁忌である。さらに最近オレキシン受容体阻害作用を有するスボレキサントが上市された。海外データでは高齢者の入眠や睡眠持続効果がみられている。ただしラメルテオンやスポレキサントの高齢者に対するデータは乏しく、安全性や有効性についての評価には今後のエビデンスの蓄積が必要である。」ご確認いただければ幸いです。

2.今回のガイドラインではエビデンスの質と推奨度には言及していますが、「上昇する」「副作用が生じにくい」などの定性的な表現が多く、どの程度リスクが上昇するか(相対リスクと絶対リスク)という定量的表現をしていないまま結論しており、記載者のバイアスに対する懸念があるとのご指摘を受けました。確かにその点はあると感じます。ただ先にも述べさせていただきましたが、本ガイドラインの性質上、定量的表現が可能ではない場合があります。日本睡眠学会のガイドラインにもありますように、「高齢者では若年者に比較して睡眠薬の副作用のリスクが相対的に高く、リスク・ベネフィット比が低下することを考慮した薬剤選択、用量設定をすべきである。【推奨グレードA】」に同意いたします。この見解を本文にも引用いたしました。

3.本ガイドラインの適用に伴い、不眠症のように十分な代替薬のない疾患に対する実地臨床における実効性の視点も適切に取り入れる必要があるのではないかとのご指摘を受けました。すなわち本ガイドラインにより薬物の中止を考慮することとなれば、患者および治療医に不安や混乱が引き起こされるのではないかという懸念です。これについては前述の通り、本ガイドラインに示しているものは中止すべき薬剤ではなく特に慎重な投与を要する薬物であり、またそれを明記する形で改訂を行っております。特に慎重に使用すべき薬剤としてあげることで、医師の注意も喚起され、より安全性に配慮した使用につながると考えられ、その結果患者のベネフィットにも通じると考えております。これらの注意点についてはリストの使用法の部分に強調する形で追記しました。

4.さらに本ガイドライン案では、薬剤に代わって睡眠衛生指導や認知行動療法を推奨しておりました。これに対して、(1)睡眠衛生指導の効果は認知行動療法と比較して限定的であり、特に慢性不眠症に対する効果は認知行動療法に劣ること、(2)しかしながら、認知行動療法には相応の知識と技術を要し、実施可能な医療機関はごく限られている、(3)さらに認知行動療法
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は健康保健の適用外である、などの理由により、睡眠衛生指導や認知行動療法を推奨するのは非薬物療法の現状を十分に把握しておらず、実効性に乏しいのではないか、とのご指摘を受けました。本ガイドライン案では、「薬物療法の前に、定時の離床及び就寝、朝方の日光浴、散歩などの適度な運動、午睡時間の制限、就寝前の過剰な水分摂取を控える、アルコール、ニコチンなどの制限、静穏な寝室環境などの睡眠衛生指導を行う。」と記載しております。この点については睡眠学会のガイドラインと矛盾しないと考えております。また、不眠症に対して効果が認められている認知行動療法について紹介することは、安全性の観点から大切なことと考えております。ご指摘の通り、認知行動療法を忠実に実施するには相応の研修が必要ではあることに異存はありませんが、日本睡眠学会のガイドラインにおいても、認知行動療法について「薬物療法と同時に、状況が許す限り、できるだけ早期から心理的・行動的介入も活用することが推奨されている。代表的な介入方法が不眠症に対する認知行動療法である。本ガイドラインでは薬物療法が十分に奏功しない場合のセカンドラインに位置づけたが、第一選択療法として、もしくは薬物療法との併用療法としても有効であることが示されている」と記載されておられます。そこで、貴学会のガイドラインを引用し、「また睡眠時間制限法、刺激制御法、不眠に対する認知の仕方を修正する認知の再構成法などの睡眠に対する認知行動療法が睡眠の持続に有効なことが示されている。認知行動療法の実施には相応の知識と技術を要するとの配慮から、日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」では、常用量で治らない不眠症患者に対して適応を考慮するとしているが、同時に第一選択療法として、もしくは薬物療法との併用療法としても有効であることが記載されている。」と加筆いたしました。

5.本ガイドライン案では前述のように非薬物療法を推奨していながら、具体的な方法論とそのエビデンスや推奨度が記載されていないことにつきご指摘がありました。ご指摘はごもっともでありますが、本ガイドラインにおいて非薬物療法の重要性の評価に関しては主旨から外れると考え、非薬物療法に関するCQ とサマリーは削除いたしました。本ガイドラインにおいて多数の薬剤を慎重に投与すべき薬剤として中止も検討することを推奨していますが、その中止方法についての記載が不十分ではないかとご指摘を受けました。薬物の中には突然中断することによって病状の悪化や反跳作用、離脱症候群などを起こす危険性が高い薬物があることが知られており、それらの薬物を中断するにあたっては病状を観察しつつ徐々に減量することが必要です。そうした薬剤に対する注意を喚起するために本ガイドラインの総論部分にあたるリストの使い方を詳述した章に、中止にあたって徐々に減量が必要な代表的薬物の一覧を表として追記しました。特に不眠症の章では「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を引用しました。

<うつ病>
p.189
1.日本うつ病学会ガイドラインとの整合性の検討がされていないのでは、とのご指摘を受け、同ガイドラインをうつ病の章で引用いたしました。同じくBPSD では、「かかりつけ医のためのBPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」や日本神経学会の認知症治療ガイドラインを、不眠症については日本睡眠学会ガイドラインを引用いたしました。

また、うつ病については、日本うつ病学会が作成された治療ガイドライン「大うつ病性障害の治療ガイドライン: 2013」(日本うつ病学会ホームページ)を参照するべきとのご指摘を受け、 文末に「なお日本うつ病学会が「大うつ病性障害」の治療ガイドラインを発表しているのでそちらも参照していただきたい(http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/)」と加筆いたしました。

2.高齢者の中にも年代に考慮した治療法や病状の個人差についてふれておらず、多様性が十分に配慮されておらずCQ が単純化・一般化されて記載されている、とのご指摘を受けました。本ガイドラインにおいてはうつ病治療を専門としないかかりつけ医が75 歳以上の高齢で発症したうつ病を治療する、という限られた場面を想定しております。また、高齢者における薬物療法という本ガイドラインの性格も考慮して過度に複雑な記載は避け、薬物療法の忍容性や安全性を特に重視した記載とさせて頂きました。しかし、ご指摘の通り多彩な病像、また年代も含めた個人の多様性に対する配慮もうつ病における治療において極めて重要ですので、複雑な症例や重症度の高い症例においてはすでに述べたように専門医への紹介が必要である、と明記させて頂きました。また若くして発症し、高齢化したうつ病患者に対しては、うつ病の本文中に、「なお本稿は高齢で初発したうつ病を想定している。すでにそれ以前から継続的に治療されているうつ病患者にとっては、治療経過上もっとも適した治療薬が継続されるべきことはいうまでもない。」と加筆いたしました。

CQ についても、本ガイドラインの本旨である点に絞り、「高齢者のうつ病に対する抗うつ薬使用上の注意点は?」だけに変更しました。さらに本文中に、「したがって高齢者のうつ病の治療には、心理社会的要因への対応や臨床症状の個人差に応じたきめ細かな対応が重要である。」と加筆いたしました。

3.本ガイドラインのようなエビデンスの評価方法ですと、Randomized Controlled Trial (RCT)を偏重する傾向になり、RCT の少ない古い薬剤のメリットが過小評価され、新規薬剤のメリットが過大評価されるのではないか、とのご指摘を受けました。最初に記載いたしましたが、本ガイドラインの対象は75 歳以上の高齢者および75 歳未満でもフレイル~要介護状態の高齢者であり、利用対象は主に実地医家で、特に非専門領域の薬物療法としております。従って、本ガイドラインでは、うつ病治療を専門としないかかりつけ医が、75 歳以上の高齢で発症したうつ病を治療する場面を念頭においておりますので、忍容性や安全性をとくに重視した内容になっております。とはいえ、ご指摘のとおり三環系抗うつ薬などが治療上必要な患者や主治医に対する配慮も必要
p.190
もありますので、文末に「なお本稿は高齢で初発したうつ病を想定している。すでにそれ以前から継続的に治療されているうつ病患者にとっては、治療経過上もっとも適した治療薬が継続されるべきことはいうまでもない。また自殺念慮や精神病症状を認めるなど重症のうつ病では三環系抗うつ薬がより有効な場合や抗精神病薬の併用が必要な場合がある(日本うつ病学会が「大うつ病性障害」の治療ガイドラインhttp://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/)。このような重症例は専門医に紹介するべきである。」と加筆いたしました。さらに、新規抗うつ薬登場以前に発症し、長い経過の末にようやく寛解にいたったうつ病症例に関してその維持投薬の現状にドラスティックな変更を要求するようなガイドラインではないかというご指摘を受けましたが、この点につきましても、上記の加筆修正内容をご参照いただけましたら幸いです。

そのため、「可能な限り三環系抗うつ薬の使用を控える」ことは、少々強すぎる推奨なのではないか、とのご指摘に関しても、本稿は非専門医を対象にできる限り安全に抗うつ治療を実施できることを念頭に、Beers 基準など海外のガイドラインも参考に作成されております。三環系抗うつ薬の使い分けは大変有用な手段であることは疑いのないところでありますが、非専門医が高齢者に対して安易に使用するべき薬剤でないことはご理解いただけるのではないかと考えております。本ガイドラインと薬物リストは、リストの名称変更と非専門医を対象とすることを明記させていただきましたこと、などで、現場での大きな混乱は回避可能と考えます。

4.ガイドライン案では、ストップのリストにおいて、「三環系抗うつ薬」のみをQT 延長症候群に禁忌としていました。しかしながら、実際にはSSRI であっても三環系抗うつ薬で起こるような重篤な有害作用の報告は国内臨床試験をみてもゼロではなく、2011 年8 月米国FDA は高用量のcitalopram 服用時にQT 延長が生じる危険性に関する警告を出し、2012 年3 月にはQT が継続して500msec を超えている患者には中止すべき、などの改訂を行っていました(医薬品安全性情報Vol.10 No.09 参照)。これらを受け、心毒性についての注意喚起は、三環系抗うつ薬だけではなく新規抗うつ薬でも行われるべきではないかとのご指摘を受けました。これを受け、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」から「心血管疾患」の記述を削除しました。また、高齢者に限らない問題である三環系抗うつ薬とエスシタロプラムのQT 延長症候群に対する禁忌は本文中の記載といたしました。

5.また、新規抗うつ薬であるSSRI については転倒の危険性のみならず、骨折・出血に関しても同様に注意が必要であるとのご指摘を受けました。これを受け、サマリーに、「SSRI も高齢者に対して転倒や消化管出血などのリスクがあり、これらのハイリスク群に対する使用には特に注意が必要である(エビデンスレベル中、推奨レベル強)。またSSRI 使用時は併用薬にも注意が必要である(エビデンスレベル該当せず:推奨レベル強)」と加筆しました。また本文中にも、「低用量の三環系抗うつ薬を処方された場合に比べて、SSRI やそのほかの抗うつ薬(ミルタザピン,
p.191
トラゾドンなど)を処方された高齢者の方が死亡、脳卒中、転倒、骨折などのリスクが高かったという報告がある。またSSRI は上部消化管出血や脳出血のリスクを高めることが報告されている。特に非ステロイド性抗炎症薬や抗血小板薬との併用は注意が必要である。したがって比較的安全と考えられているSSRI だが高齢者に用いる際には副作用に十分な注意が必要である。またSSRI は薬剤代謝酵素チトクロームP450 を強く阻害する場合があり、併用禁忌の薬剤も挙げられている。高齢者は多剤が併用されていることが多いため、SSRI の使用に当たっては併用薬にも注意が必要である。」と引用文献を加え加筆しました。

6.ガイドライン案では CQ1 において、抗うつ薬がプラセボと比較して「65 歳以上あるいは75歳以上の解析で有効性を否定した報告もあり」と記載しています。これに対して、精神科領域では一般に高いプラセボ効果があること、一方でインフォームドコンセントを前提とする現代医療ではプラセボによる治療ができないこと、の2つをあわせて考えれば、プラセボと有意差がないことは臨床上無効であることとは同義ではないため、効果・安全性が理解されている薬物を、有害作用に注意しながら使用することは、不適切とは言えないのでは、とのご意見をいただきました。ご指摘のような問題を避ける目的で本ガイドラインの本旨である点にCQ を絞り、「高齢者のうつ病に対する抗うつ薬使用上の注意点は?」だけに変更しました。本文中にも、「高齢者のうつ病に対しても抗うつ薬は有効である。」と明記いたしました。

7.本リストにおいて「抗うつ薬全般」に対して、「緑内障」を有する患者では緑内障の悪化を理由に、ルジオミールを禁忌薬剤、それ以外の抗うつ薬についても慎重投与としていましたが、エビデンスレベルが低でありましたので、このたびの「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」から緑内障の記述を削除し、本文中のみの記載としました。

さらにリスト中の「前立腺肥大症」を対象として、「症状悪化、尿閉のリスク」を理由に、SNRIであるミルナシプランが挙げられているにも関わらず、SNRI のデュロキセチンは挙げられていないとのご指摘を受けましたが、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」から前立腺肥大症を削除し、多くの抗うつ薬が対象となる前立腺肥大に対する注意は本文中の記載といたしました。

8.SSRI に関係する薬物相互作用について、記載されたほうがよいのでは、とご意見をいただきました。ご指摘のとおり、カナダのCANMAT ガイドラインではセルトラリン、パロキセチンはP糖タンパクの阻害作用もあり、このことによってジギタリス製剤や抗がん剤の血中濃度を上昇させうるため、注意が必要であると記載がありました。これに対し、サマリーに、「SSRI も高齢者に対して転倒や消化管出血などのリスクがあり、これらのハイリスク群に対する使用には特に注意が必要である(エビデンスレベル中、推奨レベル強)。本文に、「またSSRI は、薬剤を消化管腔側に排出し薬剤の吸収を制限しているP 糖蛋白を阻害することが知られている。その結果
p.192
SSRI はP 糖蛋白を基質とする薬剤の血中濃度を上昇させ副作用が出現する可能性がある。」と記載して、日本うつ病学会「SSRI 等薬物相互作用を有する薬剤との薬剤併用に関する注意喚起」平成24 年12 月17 日.(http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/toppdf/SSRIchuuikanki.pdf)を引用文献リストに加えました。

II.神経疾患<パーキンソン病> 1.開始を考慮するべき薬物のリストの抗パーキンソン病薬の対象疾患名を具体的にすべきというご意見をいただきました。こちらについてはL-ドパが対象となる疾患・患者群を、パーキンソン病治療ガイドライン2011 の77 ページを参考に「精神症状あるいは認知機能障害を合併する高齢パーキンソン病患者」としてリストに記載を追加いたしました。

<認知症> 1.認知症関連6学会合同の改訂ガイドラインとの整合性についての配慮に関してご意見をいただきました。まず、すでに発表されている「認知症疾患治療ガイドライン2010」および同コンパクト版、「かかりつけ医のためのBPSD に対応する向精神薬使用ガイドライン」、平成23 年の「医薬品の適応外使用に係わる保健診療上の取り扱い」を引用し、これらのガイドラインの内容と齟齬が生じないように配慮しながらCQ や本文の内容について加筆修正いたしました。現在改訂作業中の認知症関連6学会合同による「認知症疾患治療ガイドライン」との整合性を図るため、作成委員会からも意見をいただきました。

2.コリンエステラーゼ阻害薬の記載について、ドネペジル、ガランタミンおよびリバスチグミンの3剤が使用可能となっていますが、ドネペジルのみが薬品名として挙げられているとのご指摘があり、ジェネリックの普及してきた現状を考えて、本ガイドラインリストおよび本文からすべての商品名を削除し、一般名による記載としました。

3.スタチンによる認知症の危険性についてふれるべきとのご意見をいただきましたが、2012 年に米国FDA がpharmacovigillance data や当時の報告をもとにスタチンの認知機能への影響について勧告を出していますが、その後のRCT を元にしたメタアナリシスにおいてスタチンと認知機能低下について有意な関連をみとめませんでした。スタチンによる認知機能低下についての報告はありますが、一律に注意喚起をするほどのエビデンスには達していないと判断し、リスト・本文には記載はしませんでした。
p.193
4.心不全や慢性閉塞性肺疾患、過活動性膀胱を有する患者にコリンエステラーゼ阻害薬は控えるべきではないかとのご意見をいただきました。コリンエステラーゼ阻害薬の作用機序を考えると、末梢での副交感神経過剰刺激により、1気管支平滑筋の収縮・airflow の悪化、2心拍数・心拍出量低下、3膀胱収縮による頻尿傾向の増悪、が見込まれます。これが臨床的にどの程度問題となるかは、市販後調査での報告頻度やコホート調査などの観察研究により推測されると考えています。心不全・過活動膀胱の増悪についての報告頻度は少なく、一律に注意喚起する程度のものではないと考え、本文中の記載に留めています。慢性閉塞性肺疾患の増悪は、前二者よりも発生頻度は高いと思われますが、一律に注意喚起するほどのものではないと考えました。また認知症とCOPD が併発している高齢者のコホート研究において、呼吸器症状の増悪の発生リスクは、コリンエステラーゼ阻害薬を新たに使用し始めた患者と未使用の患者の間で差がなかった、との報告がなされています。この報告からも呼吸器症状の記載は本文中に留めることとしました。

5.脳血管性認知症患者の認知機能、日常生活動作に対して釣藤散がリストに含まれておりましたが、個々の試験内容の再検討を行った結果、十分なエビデンスレベルがないと判断し、開始を考慮するべき薬物のリストから外し、また本文からも記載を削除しました。

III.呼吸器疾患<COPD>

COPD のストップ薬剤について、テオフィリンや抗コリン系吸入薬が適切でないとするご意見をいただきました。COPD 患者では吸入抗コリン薬は第一選択薬であり、本来なら開始を検討すべき薬剤に含めるべきですが、今回のガイドライン作成におきましては、既にコンセンサスが得られている薬剤はリストアップしないという事で、開始すべき薬剤のリストには載せませんでした。別の方からのご指摘で、実臨床の場では吸入抗コリン薬によって排尿困難もしくは尿閉をきたす方は稀にしか遭遇しないにも関わらず、吸入抗コリン薬の中止を検討すべきか、とありました。今後、前立腺肥大合併COPD 患者様は益々増加すると予想されます。今回、本ガイドライン作成の基本骨格の一つである「一部の薬剤については、十分なエビデンスがなくても、各種ガイドラインを参照しつつリスク・ベネフィットバランスを検討し、作成グループのコンセンサスによってリストに含める」という理念のもとに、一般医家への注意喚起のために前立腺肥大合併COPD 患者では吸入抗コリン薬は当初中止を検討すべき薬剤としてリストアップさせて頂きました(このような事から日本呼吸器学会のCOPD 診断と治療のガイドライン第4 版p68-69 にも記載があるものと思われます)。しかし、御指摘のとおりきちんとしたエビデンスに基づくものではありませんので、検討の結果、吸入抗コリン薬をリストから削除させて頂きました。同様の理由で高齢COPD 患者におけるテオフィリンもリストから削除させて頂きました。
p.194
<肺炎>肺炎球菌ワクチンの引用論文に関して、RCT の引用が適切であるとのご指摘を受け、引用文献を修正いたしました。内容として、肺炎球菌ワクチン接種にあたってはインフルエンザワクチンとの併用が奨められるとの内容になっており、本文中にその内容につき解説することといたしました。

IV.循環器疾患<抗不整脈薬、抗血栓薬> 1.わが国ではアスピリンの否定的な面ばかりが強調されがちですが、少量のアスピリンは脳梗塞の二次予防に勧められると挙げてもいいのではないかとのご指摘を受けました。これに関しては、脳梗塞の2 次予防には十分つかわれており、アンダーユースではなく、開始を考慮するべき薬物のリストにあげる必要はないと考えます。

2.2014 年に発表されたJPPP の結果から、アスピリンをアテローム血栓症の一次予防目的で使

用する事は差し控えるべき、とのご意見がありましたが、そもそもアスピリンの一次予防としての投与に保険適用はなく、(心房細動患者への投与をのぞいて)一次予防目的の使用の現状はオーバーユースの状況ではないと考えております。したがって、今回あえて追記しませんでした。

3.近年NOAC が発売され、本ガイドラインにおいては、日本人高齢者で十分に安全性が評価されていないため、すべてのNOAC の大出血リスクがワルファリンと比べて少なくとも同等以下、と変更したほうがよい、とのご意見をいただきましたが、大規模臨床試験の高齢者のサブスタディとして反映させており、(エビデンスの質: 中, 推奨度:弱)という評価をしています。

4.日本循環器学会などが中心として作成した「心房細動治療(薬物)ガイドライン2013」では、抗凝固薬投与が禁忌となる患者に対する抗血小板薬の使用はレベルC でやめるべきとは決して記載されていないが、本ガイドラインでは原則として投与しないとしています。これにつきましても日本循環器学会のガイドラインではアスピリンをすすめるものではなく、齟齬といえるものではないと考えています。そのため内容の変更は行いませんでした。

<心不全>回答する内容はありません。
p.195
V.高血圧1.140~160mmHg ではエビデンスがないが、140/90mmHg 以上の場合に非薬物療法が良いとする根拠があるのか、とご質問をいただきました。「非薬物療法を積極的に行う」という文章につきましては、実際には十分な非薬物療法が行われていない症例が少なからず存在するという現状を鑑みて、注意を促す目的で記載いたしました。多剤併用による有害事象は中年者以上に高齢者で大きく、積極的に非薬物療法を行った結果として減薬可能であれば、そのメリットは中年者以上に高齢者で大きい可能性がある、という判断で記載いたしました。しかしながら、ご指摘のとおり、文章を連結していることで色々な受け取り方ができてしまう印象がありましした。誤解を与えないように文章を分割し、I度高血圧についての生活習慣修正と薬物療法の対象についてのコメントについては、該当箇所を修正いたしました。

2.誤嚥性肺炎既往患者でのACE 阻害薬の推奨について、一部の薬剤のみが推奨であってクラスエフェクトは証明されておらず、さらに、肺炎の発症予防と咳反射の亢進は直接的には証明されていないのでは、とのご指摘がありました。ご指摘のとおりで、これまで比較的質の高い研究でACE 阻害薬の肺炎予防効果が確認されているのは、perindopril とimidapril です。過去に1,190名の高血圧合併脳血管障害患者を対象として降圧薬として種々のACE 阻害薬、種々のカルシウム拮抗薬および種々の利尿薬の肺炎発症に対する効果について高血圧非合併脳血管障害患者(降圧薬非投与)をコントロールとして比較した論文があり、結果はACE 阻害薬使用群で肺炎の発症が有意に少なかったというものでした(AraiT, et al. Neurology2005;64:573-574)。RCT ではありませんでしたが、肺炎の項目ではこのデータからACE 阻害薬という表記にさせて頂きました。さらに、肺炎を減少させるメカニズムの一つと考えられているサブスタンスPの分解抑制作用は、ACE 阻害薬に共通したクラスエフェクトと考えられます。例えば、エビデンスのない用量に対して、エビデンスのある用量と同様の使用法が認められるのは、メカニズムを考慮した結果であると考えられ、全ての薬剤に高いエビデンスを求めることは、かえってバイアスが生じるとの懸念がありました。こちらは、日本呼吸器学会のNHCAP のガイドラインや脳卒中治療ガイドライン2009、JSH2014 などにおいても、誤嚥性肺炎に対しては「ACE 阻害薬」とのみ記載しており、特定の薬剤には言及しておらず、整合性にも問題はないと判断いたしました。

3.咳反射につきましてはJSH2014 との整合性を考慮して記載いたしましたが、ご指摘のとおり機序に関しては直接には証明されているとは言えず、「咳反射を亢進し」の部分を削除いたしました。
p.196
VI.腎疾患1.本ガイドライン案のストップのリストにおいて、NSAIDs の代替薬としてCOX-2 阻害薬を考慮するとしていましたが、あたかもCOX-2 阻害薬が腎障害のある患者におけるNSAIDs の代替薬というような誤解を招く記載となっていました。これはあくまで消化性潰瘍を有する患者における代替薬となるように記載されるべきであって、腎障害に関してCOX-2 選択性は関係ありません。こちらに関してご指摘があり、推奨薬としてのCOX-2 阻害薬等の記載はなくしました。

2.上記に関連して、代替薬としてアセトアミノフェンの提案もありましたが、アセトアミノフェンはNSAIDs には含まれておりませんが、腎障害に対するアセトアミノフェンの安全性については、一定の見解が得られておりません。アセトアミノフェンもNSAIDs と同様に腎障害のリスクが高いという報告もあり、「COX-2 選択性NSAIDs やアセトアミノフェンについても使用量は最小限にとどめるべきである。」との記載といたしました。

3.ストップのリストにスピロノラクトンが挙げられていますが、他の抗アルドステロン薬についてもあげるべきでは、とのご指摘を受け、リストに記載いたしました。

VII.消化器疾患<便秘> 1.本ガイドライン案の便秘のサマリー中に「代替薬(リスト参照)に変更する」との記載がありましたが、リスト中に代替薬がありませんでしたので、サマリー、リストともに「他の作用機序の緩下剤の使用を検討する。」に変更いたしました。

2.他の領域で処方される薬剤で便秘と関係のあるものに対する記載の扱いはガイドラインで統一することとして薬剤を整理いたしました。

3.リスト中でオピオイドの使用法「2 週間以上使用するときは下剤を併用する」の2 週間以上の根拠が明確でない、がん疼痛ガイドライン(2014)の記載に沿って、「オピオイドを開始するときは、患者の排便状態について十分な観察を行い、水分摂取・食事指導や下剤の投与など便秘を生じないような対応を行う」としたほうがよいのではないか、というご指摘がありました。オピオイドに関しては2008 年のSTOPP/START の中で「慢性便秘患者に下剤を併用せずに2 週間以上の定期的なオピオイド処方は潜在的に不適切である」との表記がなされています。これに従い2 週間以上としましたが、癌性疼痛患者へのオピオイドの使用についてはご指摘のとおりです。本薬剤へのリスト掲載に関しては、他領域の薬剤リストとの整合性、ガイドラインを適用すべき
p.197
対象などにつき再検討した結果、オピオイドを本リストからはずすことといたしました。ご理解をいただきたいと思います。

<GERD> 1.NSAIDs 使用時以外でPPI をスタートに入れるべきものなのかというご意見がありました。観察研究を対象とメタアナリシスなどで、PPI 長期投与による大腿骨頸部骨折やクロストリジウム・ディフィシル腸炎のリスクが高まるという報告がなされています。多くのエビデンスからPPIがGERD 初期治療の第一選択薬であることは確かですが、長期使用についてのリスクがこのように報告されてきていることから、今回PPI を開始を考慮するべき薬物のリストから外しました。

2.長期維持療法にあたっても、難治性逆流性食道炎患者、バレット食道癌のリスクの高い患者、NSAIDs 使用により出血のリスクが高い症例など、本当にPPI が必要な患者を限定する形の表記とし、安易な長期投与は控えるような文章に変更させて頂きました。

3.PPI に関して、「1 年以上」にわたる投与を避ける、の期間の根拠につきご意見をいただきました。低用量アスピリンとの併用においても長期使用したRCT が乏しく、安全性の証明は存在しないのでは、というご意見です。こちらに関しては、JAMA 2006: 27:29472953, Curr Gastroenterol Rep 2008,10: 208-214 などのPPI 長期投与に関する報告を見ますと、1 年以上の投与で大腿骨頸部骨折やクロストリジウム・ディフィシル腸炎のリスクが有意に増加しております。これにより1 年以上の投与は避けるとしておりましたが、本来日本の保険診療では初期治療が8 週間までであること、長期維持療法が保険診療で認められていますが、やはり上記などの有害事象発生のリスクはあるため、前述の通り、症例を限定する形での表記に改めさせて頂きました。

VIII.糖尿病1.メトホルミンに関して、腎障害でなければ高齢者で乳酸アシドーシスが多いとするエビデンスはないため、有用性を考えればストップではないのではないかというご意見をいただきました。ご指摘のように、メトホルミンの主な副作用である乳酸アシドーシスに関して、高齢者でその発症が多いとする研究とそうでないという研究があり、メタ解析でも明らかな増加は認めないという報告もあります。しかしながら、75 歳以上の糖尿病患者においては腎機能が筋肉量減少の影響などにより、予想以上に低下している場合があり、より慎重な投与開始が求められると考えられます。ご意見を検討し、再度文献も追加した結果、推奨レベルは低とし、推奨も弱とさせていただきました。
p.198
2.現状ではまだ高齢者に十分なエビデンスがないにもかかわらずDPP-4 阻害薬が推奨されているような印象があるとのご指摘を受けました。この点についてはシステマティックレビューの一つの問題点かと思われますが、現在SU 薬やメトホルミンがすでに使用されている状況であるならば慎重に投与を継続していただいてもよいかと思っておりますので、そのように本文を修正しました。

3.現時点でSGLT2 阻害薬の有用性・安全性はまだ不明であり、来年夏完成予定の本学会と日本糖尿病学会の合同ガイドラインまで使用法に関して待つべきではないかとのご指摘を受け、検討いたしました。ご指摘のようにSGLT2 阻害薬についてのエビデンスは十分とはいえませんが、「SGLT2 阻害薬の適正使用に関する委員会」から高齢者への投与は慎重に適応を考えた上で開始すること、脱水防止について十分に対策を講じること、利尿薬との併用は推奨されないことなど、注意喚起がなされており、日本糖尿病学会からの承認も得て、記載させていただきました。

IX.脂質異常症回答する内容はありません。

X.排尿障害1.パブリックコメントをいただいた上で改訂するにあたり、改めて本年出版されました過活動膀胱ガイドライン第2版や下部尿路症状診療ガイドライン、前立腺肥大症ガイドラインなどの泌尿器科関連のガイドラインを参考に作成させていただきました。名称などのご指摘についてこれらガイドラインに沿って修正いたしました。

2.薬剤のリストに排尿障害治療薬以外の薬剤を掲載していることにつき、不要ではないかとご指摘いただきましたが、本ガイドラインに採用された薬剤のうち、排尿障害に関する有害事象を持つものも一覧に記載しております。これは他領域でも同様に対応しておりますのでご理解をお願い申し上げます。

3.今回のガイドラインの対象が75 歳以上および75 歳未満でもフレイル~要介護の高齢者で、かかりつけ医が処方することを前提としており、ムスカリン受容体拮抗薬については有害事象への注意が必要な薬剤と考えております。ストップという名前は中止と誤って判断される可能性が高いとご指摘がありましたので、上記のように「特に慎重な投与を要する薬物」と名称を変更いたしました。また、ムスカリン受容体拮抗薬の代替薬については削除いたしました。
p.199
4.他の薬剤についてもコメントをいただきましたが、まずβ3 アドレナリン作動薬については、禁忌は重篤な心疾患を有する患者ですが、副作用はQT 延長の可能性など確かにそれほど多いとは言えません。第III相試験の結果などを考慮すると投与できない症例は非常に限定的であり、リストからは削除してサマリーおよび本文のみの記載といたしました。表現もご指摘に従い修正しています。タダラフィルについてもストップすべき対象者が亜硝酸剤を服用中の者のみと投与できない症例は限定的であり、一方で高齢者の前立腺肥大症に対しても一定の効果は期待できるため、リストからは削除の上、サマリーおよび本文にその旨の記載をいたしました。

XI.筋・骨格疾患<骨粗鬆症>骨粗鬆症に対する中止を検討すべき薬剤のリストがないとのご指摘がありましたが、リストに掲載すべき薬物は今回のレビューでは見出されませんでしたことをご報告申し上げます。

<関節リウマチ> 1.特に慎重な投与を要する薬物のリストにおいて、中止困難例ではCox-2 阻害薬を代替薬としてあげました。しかしながらCox-2 阻害薬も腎障害と関連しているため、リストの記載を「3. 中止困難例では消化管の有害事象の予防に選択的Cox2 阻害薬の使用を検討(セレコキシブなど)」(下線部を追加)と変更しました。同じく代替薬としてNSAIDs 外用薬を挙げましたが、エビデンスが限定的であり、推奨される使用法から削除しました。

2.反対にアセトアミノフェンを代替薬としてあげるべきではないか、とのご意見がありましたが、炎症性関節障害に対するエビデンスは限られていること1)-3)、アセトアミノフェンの安全性に対して疑問を呈する研究結果が近年報告されていること4) から今回は推奨される使用法にアセトアミノフェンは含めませんでした。クリニカルクエスチョンおよび本文にアセトアミノフェンに関する記載を追記しました。

3.高齢者ではペニシラミンは原則禁忌となっている点について記載したほうがよい、とのとご意見を受け、開始を考慮するべき薬物のリストの注意事項に追記いたしました。

(引用文献) 1) Wienecke T, Gøtzsche PC. Paracetamol versus nonsteroidal anti-inflammatory drugs for rheumatoid arthritis. Cochrane Database Syst Rev. 2004;(1):CD003789.
p.200
2) Hazlewood G, van der Heijde DM, Bombardier C. Paracetamol for the management of pain in inflammatory arthritis: a systematic literature review. J Rheumatol Suppl. 2012 Sep;90:11-6 3) Colebatch AN, Marks JL, Edwards CJ. Safety of non-steroidal anti-inflammatory drugs, including aspirin and paracetamol (acetaminophen) in people receiving methotrexate for inflammatory arthritis (rheumatoid arthritis, ankylosing spondylitis, psoriatic arthritis, other spondyloarthritis). Cochrane Database Syst Rev. 2011 Nov 9;(11):CD008872. 4) Roberts E, Delgado Nunes V, Buckner S, Latchem S, Constanti M, Miller P, Doherty M, Zhang W, Birrell F, Porcheret M, Dziedzic K, Bernstein I, Wise E, Conaghan PG. Paracetamol: Not as safe as we thought? A systematic review of observational studies. Ann Rheum Dis 2015 Mar 2; [e-pub].

XII.漢方薬・東アジア伝統医薬品1.漢方薬のエビデンスレベルの評価が通常の評価基準より高いとするご意見をいただきました。そこで、すべての薬物とCQ について、個々の試験内容の再検討およびCOI なども考慮した厳密な投票によるエビデンスレベルと推奨度について研究班において再判定を行いました(総論の冒頭に記載しましたが8 割以上の賛成を承認といたしました)。その結果、薬物のリストに当初含まれていた全ての漢方薬について8 割以上の合意には至らずいずれもリストから削除することといたしました。しかしながら、エビデンス創出に関して、古くから認知されている薬効に対しての検証は行われにくく、症状改善を目指した処方が主であるために他の領域と同様の大規模試験が実施されにくいという状況があります。また、漢方薬には長い歴史があり、高齢者にも日常的に使われているという実態があります。このような背景を鑑み、漢方薬の使用について何らかの方針を示すことは必要であると判断いたしました。そのため、特に慎重な投与を要する薬物のリストおよび開始を考慮するべき薬物のリストに準じたリストを作成し、エビデンスレベルおよび推奨度を附記しない形式で漢方薬の章に記載することとしました。

2.上記に関連し、特にBPSD の領域において抑肝散について推奨度が高すぎるというご指摘をいただきました。前述した通りの理由により、抑肝散は開始を考慮するべき薬物のリストからは外しました。さらに、精神疾患の章の前稿では、抑肝散が抗精神病薬の代替治療薬と記述していましたが、抑肝散の投与は一般的に抗精神病薬の投与より前であり、代替薬という記述はふさわしくないと判断し、抑肝散使用上の注意も含めて表記を改めました。

XIII.在宅医療回答する内容はありません。

XIV.介護施設の医療
p.201
介護施設入所者に関し、転院直後の薬剤変更は行わない、と記載しておりました(CQ4)。これに関し、介護施設においても入所直後から薬剤変更を必要とする入所者が少なからずいる実態を考慮すべきとのご意見をいただきました。サマリー内での「転院」とは病院から介護施設への転院を指したつもりでしたが、説明が不足していました。医療施設間の正確な患者薬剤情報伝達を徹底することが真意なので、以下の「また患者にとって転院は環境の変化を伴うため、転院直後の薬剤変更は行わない」との文言をサマリーから削除しました。

XV.薬剤師の役割回答する内容はありません。

おわりにその他にも具体的な症例提示や薬物関係の資料の要望、今後のガイドラインへ盛り込むべき課題、字句・用語の修正や体裁などの編集に関する指摘をいただきました。これらについてはコメントとその回答としては記載していませんが、すべて貴重なコメントであったことに感謝いたします。