p.206 抽出テキスト
ス,オートファジー障害などが関わっており,極長鎖脂肪酸含有脂質分子の異常蓄積がその要因として考えられている.極長鎖脂肪酸蓄積によるミトコンドリア膜の障害は活性酸素の産生を誘導する.そのため極長鎖脂肪酸蓄積や酸化ストレスは合理的な治療標的となる.極長鎖脂肪酸含量の低下を目的としたロレンツォオイルやネルボン酸4)による食事療法,ならびに脂肪酸延長酵素ELOVL1 の特異的阻害剤5)については,まだ治療効果は確認されておらず,副作用や毒性を考慮した長期的な検討が必要である.高容量の抗酸化剤(α- トコフェロール,N-アセチルシステイン,α-リポ酸の併用)はAMN 患者での血漿中の酸化ダメージと炎症マーカーの値を正常化し,またN- アセチルシステインは骨髄移植後の補助療法として生存率向上の効果が報告されている6, 7).最近,カンナビノイド受容体2のアゴニストが抗酸化ストレス反応を制御するNRF2 因子の活性化を介してALD モデルマウスの軸索変性を抑制し,運動機能を回復することが報告された8).このような抗酸化剤や抗酸化ストレス活性を亢進する薬剤が,症状の軽減や進行の抑制に有効と考えられる. 本疾患ではBBB の透過性の増大が大脳型発症(炎症性脱髄反応)と密接に関連している.ABCD1 機能が欠損した脳血管内皮細胞ではタイトジャンクションタンパク質や接着分子の発現変化でBBB のバリア機能の低下が起こる結果,マクロファージやリンパ球の脳内への浸潤が誘導される.BBB の破綻は大脳型発症に先行して起こることから,BBB のバリア機能を回復させることが一つの治療戦略となる.大脳型患者由来のiPS 細胞から作製した脳毛細血管内皮細胞を用いた解析で,両親媒性ブロック共重合体処理によりバリア機能の改善が認められている9).また,ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostat,ならびに血管内皮増殖因子(VEGF)をブロックする bevacizumab(抗VEGF 抗体)が,大脳型患者の血液脳関門障害に対して部分的で一時的ではあるが改善を示すことが報告されている10, 11).一方,PPARγアゴニストPioglitazone の代謝物で脳移行性のLeriglitazoneがALD モデルマウスの脊髄での炎症反応を抑制して運動機能を回復させた12).最近,このLeriglitazone が初期の成人大脳型患者の病気の進行を抑制したことが報告されている13, 14).今後,BBB のバリア機能を改善する薬剤やPioglitazone から派生した薬物が,大脳型発症の遅延や骨髄移植可能期間の延長に役立つかもしれない. 2) バイオマーカー探索研究 本疾患では遺伝子型と表現型に相関性は認められず,修飾遺伝子,エピジェネティック因子,および環境的要因などが発症時期や重症度に関与していると考えられ,各患者の病型の予測は困難である.したがって,生体試料での病型を規定する因子や予後予測因子の同定は,本疾患の治療を行ううえで極めて重要である.診断に使用される血漿中LysoPC(26:0)量は大脳型発症との相関性はないと考えられている.しかし最近,多数の患者に対する前向きコホート研究により,血漿中の極長鎖脂肪酸含有脂質分子(LysoPC(C26:0),LysoPC(32:0),PC(48:4)