p.28 抽出テキスト
−28− ためには循環器専門医による精密検査が必要な場合もあり,限られた情報量であるFoCUS で疾患をどこまで除外してよいかは慎重に判断する必要がある. 開業医のFoCUS は,その習熟度レベルにより異なる.循環器非専門の内科外来で,標準心エコー図検査をゴールドスタンダードとして,事前に施行されたポケットサイズエコーによるFoCUS の診断精度をみた研究では,熟練者が行うと,感度97%,特異度84%,κ 0.84 であったのに対して,初学者では感度87%,特異度72%,κ 0.58と精度が低下したと報告されている[90].この研究の初学者において,弁の石灰化,胸水貯留,心膜液貯留,肺コメットエコーの一致率はκ 0.91-1.0 と高かったが,左房拡大,右心室拡大,IVC 拡張などの病態ではκ 0.68-0.81と一致率が低かった[90].以上より,FoCUS を行おうとする検査者は,トレーニングコースに参加するなどして,まずはbasic レベルを習熟し,精度よく疾患を診断できるようにする努力が求められる.一方で,循環器外来に紹介となる患者では,熟練者が実施するポータブルエコーでの診断精度は98%との報告がある[91].専門の循環器のクリニックにおいてもポケットサイズエコーは包括的心エコー図検査の必要性を31%減少させ,医療費削減や時間節約に寄与すると報告されている[92].循環器専門の開業医の外来診療では,救急診療と異なり多くは病気の重症度が低く,心エコー図(full study)まで行う必要がない場合も多い.例えば心疾患リスクがない患者さんの期外収縮を疑う動悸の場合は,心電図が正常であればadvanced FoCUS レベルの超音波検査とホルター心電図による評価が行えれば十分な場合も多い. また開業医では病院への通院が困難な高齢心疾患患者のケアを行うことがあり,FoCUS と肺POCUS を組み合わせたPOCUS は,レントゲンによる評価が難しい患者,つまり立位が出来ない,亀背がありレントゲンがよく見えないなどの場面で,肺うっ血や胸水を検出するのに力を発揮する. 米国家庭医療学会(American Academy of Family Physicians:AAFP)が専攻医研修のためのPOCUS の推奨カリキュラムを作成しており,その到達目標としてうっ血性心不全とCOPD 急性増悪の鑑別を上げている.そのようなカリキュラムのため米国の家庭医療プログラムでは超音波研修が実施され,専攻医プログラム終了後に,更に専門性を高めるための超音波フェローシッププログラムも存在する.米国では家庭医が診療所レベルで病態の診断がついた場合,不要な救急外来受診を省略して直接入院させることが可能で,医療費を抑制できるため,家庭医にもその対価が支払われるようである[93]. 期圧の評価に有用なのは,間違いない.三尖弁逆流があれば,三尖弁逆流の連続波ドプラ波形から得られるピーク速度を用いて簡易ベルヌーイ式から肺動脈収縮期圧が推定できる.半定量的な肺動脈圧の推定には,収縮期末期の心室中隔の偏位を評価することが有用である.また,動脈管開存を流れる血流の方向と速度を評価することでも推定が可能である[89]. 心膜液貯留に関してもその診断に有用である[89].複数の心エコー断面を用いることで,確実に観察できる.とくに心タンポナーデでは,救命に影響する検査となるので,スクリーニングの一環として導入してもよい.超音波ガイド下心嚢穿刺は,小児においても有用である.特に新生児の穿刺については,熟練した小児循環器医やトレーニングを受けた小児集中治療科医等が施行するのがよい. また,動脈管開存性を評価するのにも有用で,特に新生児科医が,早産児の動脈管開存評価に用いる.動脈管の血流方向,血流速度,左房/ 左心室の拡大を評価することで,血行動態の把握につながる[89]. 感染性心内膜炎の評価については,小児科,新生児のFoCUS では推奨されない.小児の弁の動きは速く,トレーニングを受け,熟練していないと疣腫の診断には至らないと考えてよい[89]. 9.5 開業医,プライマリ・ケア FoCUS は入院患者,集中治療,救急医療の分野のみならず,外来診療や遠隔医療の分野においても用いられている[3].開業医におけるFoCUS は外来診療,在宅診療の両場面で有用と思われる.開業医の外来診療で主訴の多いものは,動悸,胸痛,息切れである.詳細な病歴聴取と身体所見をとり,必要に応じて胸部X 線検査や心電図などの基本的検査を行い,それらに加えてFoCUS を組み合わせることで,病態の把握に有用であると報告されている[90].FoCUS は身体診察で得られる所見に客観性を持たせて可視化できるため,外来診療に不可欠な身体診察技能の向上にもつながると思われる.積極的にFoCUS を行うことで心不全,急性冠症候群,肺血栓塞栓症,心膜心筋炎など重篤な疾患の早期診断に寄与することが可能である.また内科診療でも脱水がないか,尿が出ない時の尿閉の有無や,腹痛,腰痛時の致死的疾患の除外など必要な場面は多々ある.新型コロナウイルス感染症に対応する発熱外来においても,発熱とともに息切れや胸痛がある場合などにも感染対策を講じながら行うFoCUS が有用である.このようにFoCUSが出来る医師にとっては有用なツールとなるため,basicレベルのFoCUS は内科診療を行うすべての開業医にとって習得が望まれる.一方で,疾患を完全に除外する