p.43 抽出テキスト
1.2.2 ポンプポケットの感染 血液ポンプ植込部に圧痛等の異常を認める場合や, 画像診断上ポンプポケット感染を疑う場合,確定診断は容易ではなく,試験開創を要する場合もある347).感染があれば洗浄ドレナージを行う.血液ポンプ自身の感染(pump endocarditis)は小型の植込型LVADではまれであるが,送脱血管が感染する可能性もある.いずれも適切な抗生物質の長期にわたる全身投与が必要である.陰圧閉鎖療法による感染のコントロール,デバイスの入れ替え353)を要する場合もある.その際血液ポンプ周囲に死腔がある場合は,筋皮弁や大網などの充填が考慮される291, 354). デバイス抜去と準緊急の心臓移植355)も治療選択肢となる.心臓移植に到達できた場合は,菌血症の既往があっても移植後の予後は良好である356). 1.3 右心不全 植込型LVADの普及に伴い,術前には明らかな右心不全の兆候がないにもかかわらず,植込後数週間以上経過してから右心不全が顕性化する症例が存在することが明らかとなってきた.これはlate-onset right ventricular failure (RVF)と呼ばれ,植込型LVADの遠隔期合併症として,現在大きな問題となっている.発症機序としては,LVADによる左室内吸引の結果,中隔が左室側にシフトし,右室の形態が変化することで右心機能が障害された可能性が示唆されている.右心機能障害は,拡張障害,収縮障害のいずれも生じる可能性がある.late-onset RVFを発症すると運動耐容能が低下し,LVADが装着されているにもかかわらず強心薬点滴を要するケースもあるなど,治療上もとくに注意を要する. LVAD植込前の左室拡張末期径(LVDd)が64 mm未満であること80),三尖弁輪径41 mm以上であること357), BUNが高値であること,右房圧/肺動脈楔入圧が高値であること358)などがlate-onset RVF発症の予測因子であったとの報告もあるが,一方で明確な予測因子は存在しないとの報告もあり359, 360),予測因子については今のところ定まったものはない.また,治療法としてもいまだに定まったものはないが,右心不全に伴ってしばしば三尖弁逆流(TR)の増悪を認めるため,TRが重症の場合には三尖弁置換術(TVR)ないし三尖弁輪形成術(TAP)を施行することもある. 1.4 消化管出血 消化管出血は,現在植込型VADとして用いられている定常流型VADに特徴的な合併症(continuous flow pump disease)の1つと認識されている. 発症メカニズムとしては,抗凝固療法,von Willebrand factorの変化に伴う後天性von Willebrand症候群,脈圧の低下に伴う末梢循環動態の変化,血小板機能抑制などがあげられる.海外の報告では18~40%の患者が消化管出血を合併している180, 302, 303, 361-363).一方で2019年9月に発表されたJ-MACS statistical reportでは,primary LVAD症例における消化管出血の1年,2年回避率はそれぞれ95%,93%と海外の報告に比べると高い107). 下血や吐血など臨床症状が明らかな場合,原因不明の貧血があり消化管出血が否定できない場合などは,内視鏡検査を検討する.使用機種や各患者の抗凝固療法,抗血小板療法に対する感受性など考慮のうえ,可能であれば目標PT-INR値を下げ,抗血小板薬の減量や休薬を検討する.その期間中は患者の全身状態(塞栓症の有無),デバイスのパラメータの注意深い監視が必要となる364-366).出血源の病理所見はangiodysplasiaが比較的多いが,shear stressとの関連を鑑み,循環動態が許すようであれば,LVADの回転数を下げることも検討する.出血に対する治療としては,内視鏡的止血術が第一選択となるが,まれに外科的な出血部位の切除を検討する必要がある. 薬物療法としては,小規模研究や症例報告レベルでoctreotide 367),thalidomide 368),ACE 阻害薬/ARB 369), doxycycline 365),desmopressin 370),bevacizumab 371),ジゴキシン372),オメガ酸373)などの有効性が報告されているが,その有効性,安全性についてはさらなるエビデンスの蓄積が必要である. 1.5 大動脈弁閉鎖不全症(AI) 術前に中等度以上のAIを合併する場合,植込型LVAD術後にAIが増悪することが知られているためそのままでは植込型LVAD治療の適応外であるが139, 374),生体弁による大動脈弁置換術を併置することで可能となる.術前にAIを認めない症例でも植込型LVAD装着中新規にAIが生じることも知られている375, 376).このような植込型LVAD装着中のAIは通常拡張期のみならず収縮期にも弁逆流を認め,大動脈基部や大動脈弁の変性などによって実質的に大動脈弁が機能不全をきたした状態である.また,LVAD補助下の特異な血行動態変化が長期間続くことにより,しばしばAIの程度は増悪していく374). 従来のカラードプラ法ではAIの重症度を過小評価してしまうため,近年,送血管血液流出部のドプラエコー波を測定することでAIをより正確に定量化する方法が提唱さ