p.42 抽出テキスト
1.1 脳合併症(梗塞,出血) LVAD植込後の脳梗塞の発生頻度は,急性期に高くいったん低下した後,再び遠隔期に高くなる2峰性を呈する339).急性期脳梗塞は,その危険因子として周術期の低心拍出状態が報告されており,適切な心拍出量の維持が重要となる340).一方で遠隔期脳梗塞の危険因子としては血流感染の存在が指摘されている178).感染を有する患者での慎重な管理が求められる.また,遠隔期の血栓塞栓症予防として,ワルファリンによるPT-INRコントロールは重要で,血液凝固分析装置(コアグチェックXSパーソナル)によるPT-INRの自己測定は,PT-INR値をより安定化させる可能性がある341).脱水状態は脳梗塞の誘因となるので,1日あたりの体重変化が大きい場合には注意が必要である209).発症した脳梗塞に対して脳血管内血栓溶解療法の報告があるが342),梗塞後出血の危険性があるため,脳梗塞後の抗凝固療法は慎重に行うべきである209).また血管内治療に関しては,最近の多施設研究によると75%の症例で再灌流が可能であったが,術後脳出血に注意が必要と報告されている343). 脳出血に関しては致死的となることも多く,頭痛,嘔気などの症状,神経症状,意識レベルの変化時には,緊急頭部CT検査が有用である.脳出血が確認された場合には,その程度によっては早急に抗凝固療法を中和することが出血病巣の進展抑制に重要である344).PT-INR値を急速に低下させるには,プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)の点滴静注が有効であり,ビタミンK,新鮮凍結血漿(FFP)に比べて脳内出血の進展を抑制するという報告もある345). PT-INRを下げて維持する場合,血栓塞栓症が危惧されるが,この場合,ポンプ回転数を上げすぎずに自己弁の開放を促すことが,大動脈弁周囲血栓の予防には有用な可能性 1 遠隔期管理と合併症対策がある.一方で,補助流量の低下は血液ポンプ内血栓のリ スクを上げるので注意を要する341). 1.2 感染症(ドライブライン感染・菌血症, ポケット感染) 1.2.1 ドライブラインの感染,菌血症 ドライブラインの感染予防には,ドライブラインの繊維で被われた部分全体を皮下トンネル内に収める(できるだけ筋肉内を通す)ほうが望ましいとされている209).また,ドライブラインが動くことで皮膚貫通部の皮膚障害,感染につながるのでラインの固定が重要である.手術の際,ドライブラインを皮膚と1~2針縫合し2~3週間固定することでドライブライン出口部の安定が得られるが346),固定部が皮膚潰瘍をきたし感染につながる可能性があるので留意する.ドライブライン出口部の消毒は,創部が安定するまでは毎日行う.感染予防のために,抗菌活性を持つ銀イオン含有創傷被覆材を用いることもある347). 創部の固定,消毒方法の指導とともに,出口部の異常を認める場合には,すみやかに医療機関に連絡するよう患者教育することも大切である209). ドライブライン出口部周囲に発赤,圧痛,全身感染徴候を認める場合は,JAID/JSC感染症治療ガイド2019(日本感染症学会/日本化学療法学会)に基づいて菌血症の診断,起因菌の同定を行い348),培養結果に基づいた抗生物質投与を考慮する.起因菌の多くはブドウ球菌もしくは緑膿菌であり135).エンピリックに抗生物質投与を行う場合は, これらをカバーできる薬剤を選択する.起因菌が真菌, Gram陰性桿菌となった場合はGram陽性球菌に比べて予後不良であり,Gram陽性球菌に対する抗生物質治療では菌交代に対する注意が必要である349, 350).さらに,感染がドライブラインに沿ってトンネルを形成して進行する場合は,外科的デブリードマンを考慮する347).感染の範囲を同定するためにはGaシンチグラフィーやFDG-PET/CTが有用となることがある351, 352).デブリードマン後に陰圧閉鎖療法を用いることで創傷治癒の改善を目指す場合もある. 第5章 在宅治療と遠隔期管理