p.40 抽出テキスト
合もある. 5.9 高血圧 VAD装着術術後はVADによる補助によって心拍出量が増加するため,体血圧が上昇することがある.適切な量の血管拡張薬を用いて体血管抵抗を是正することにより,血圧が適正にコントロールされる場合が多い.過度の血圧上昇はVADの後負荷を増大させて補助流量の低下をきたす場合があり注意を要する.経口摂取開始後は,β遮断薬, ACE阻害薬,ARB,Ca拮抗薬等の適切な降圧薬を用いた血圧のコントロールが基本となる.しかし,術後高血圧の原因として,術後疼痛やストレスも考えられるため,降圧薬のみならず,鎮痛薬や抗不安薬等の使用も考慮される. 5.10 非中枢神経系の動脈血栓塞栓 (ASO含む) 心原性や血液ポンプ由来などの血栓は,四肢や腎臓,肝臓,脾臓,腸管を含む腹部臓器などの非中枢神経系の動脈血栓塞栓症を発生させることがある.診断と治療は一般的な非中枢神経系の動脈血栓塞栓症の場合に準じる. VAD使用中および非中枢神経系の動脈血栓塞栓症発生時には,動脈血栓塞栓症に関連する可能性のある各種因子について適宜評価を行うことを考慮し,問題がある場合には可及的にその対策を検討する. 5.11 静脈血栓塞栓 静脈血栓塞栓症(肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症)は, VAD植込周術期に発生する可能性があるので,予防に留意する.診断と治療は,一般的な静脈血栓塞栓症の場合に準じる313). 5.12 溶血 VAD使用中には,血液ポンプなどに起因するさまざまな要因によって溶血の発生を認めることがある.原因の鑑別診断としては,連続流式VADポンプおよび拍動流式VAD人工弁などの血栓は特に留意する.また,送脱血管の屈曲,狭窄によっても溶血が発生することがある.溶血は貧血やヘモグロビン尿症の発生や,LDH(乳酸脱水素酵素)の上昇などによってモニタリングすることができる.溶血が発生した場合には,その原因を検索するために, CT検査,心エコー検査,VAD駆動状態の検査などの各種検査の施行を検討する.溶血の悪化は貧血の進行のみなら ず,腎臓をはじめとした全身臓器に対する障害を発生する可能性があるので,利尿の促進やハプトグロビンの投与などの治療を検討する.連続流式VADの場合には回転数,拍動流式VADの場合には駆動条件の調整が有効なことがある. 溶血の原因に対しては可及的にその対策を行うことを検討する.VADポンプや人工弁などの血栓,送脱管の屈曲,狭窄などが原因の場合には,溶血の改善が困難であったり,血栓塞栓症などの重篤な合併症に至る可能性があることから,VADポンプや送脱管の交換などの外科的手術などの施行も検討する. 5.13 腎機能障害 J-MACSでは2種類の腎機能障害に分類されている.急性腎機能障害は,術後透析が必要になる腎機能の異常,あるいは血清クレアチニン値がベースラインの3倍を超えた上昇,または5 mg/dLを超えた状態が48時間以上続く場合を指す.慢性腎機能障害は,血清クレアチニンがベースラインから2 mg/dL以上上昇すること,または血液透析を要する状態が90日以上続く場合を指す.術前の患者リスク評価と周術期の血行動態の適正化が腎機能障害発生を予防するのに最も重要である175, 314-316). 血行動態の安定化や利尿薬の適切な投与317)によっても腎機能障害が続く場合は,持続血液濾過透析など血液浄化療法が必要となることが多い318-320).ただし,その場合も原因検索と適切な治療による期間短縮に努める必要がある.腎機能障害の原因が右心不全の場合は,強心薬の持続投与やRVADの導入を考慮する207, 321). 5.14 肝機能障害 J-MACSでは,肝機能障害を“植込後14日以上経過して,肝機能検査値(総ビリルビン,GOT/AST,GPT/ALT)のうち2つが,院内基準値の上限の3倍を超えて増加していること(あるいは肝機能障害が死亡の主原因の場合)”と定義されている.腎機能障害同様,術前肝機能障害,とくに高ビリルビン血症や肝逸脱酵素の上昇は植込型LVAD装着後の独立した予後悪化因子である322, 323).また右心不全に伴う肝うっ血が長期であった場合,肝合成能が低下し血液凝固能異常を呈しており,術後出血に対処するための輸血量が増え,それに伴いさらに右心不全を悪化させるという悪循環に陥りやすい.その予防として,循環血液量の適正化,強心薬などによる右心機能補助,血液凝固因子補充などに