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p.39 抽出テキスト

5.4 大量出血

VAD植込周術期には,術前からの抗血栓療法,他の補助循環の施行などに伴う血小板や血液凝固因子の消費,肝機能障害などによって出血傾向を認める可能性があるので,術前状態の把握が必要である.術後には抗血栓療法を施行するが,それに伴う出血の発生に留意する.

連続流式VADの使用に伴う消化管出血の発生が報告されているので300-306),その発生に留意する必要があり,発生時には内視鏡施行を含む適切な診断,治療法によって診断と止血を図る.消化管におけるArterio-venous malformation形成と消化管出血発生との関連性が指摘されている302).また,von Willebrand因子などの血液凝固関連因子の変化と消化管出血発生との関連性も指摘されているので,そのモニタリングを検討する307-312).

VAD使用中に大量出血の発生を認めた場合,出血原因の診断と適切な治療(輸血療法,出血原因への対処など)を行うと同時に,必要に応じては抗血栓療法のリバースや一部または全部の中断または減弱を検討する.また,出血の危険性が高い外科手術などを行う必要がある場合には,抗血栓療法の一部または全部の中断または減弱やヘパリン投与などへの一時的な切り替えを検討する.抗血栓療法の中断や減弱を行った場合,その後の血栓塞栓症発生の可能性に留意する306).

5.5 心不全

VAD植込後周術期に生じうる,VADの調節では対応困難な心不全は大きく2種類に分けられる.1つは,VADシステム(送血管,血液ポンプ,脱血管など)に不具合が生じて補助流量が十分に得られない状態である.この場合は,左室内腔が拡大してくるのが特徴である.胸部X線像では肺うっ血像が著明となる.もう1つは,右心不全によって右心系から血液が左心系に送られない状態である.このほうが発生頻度が高く,左室は虚脱しており,胸部X線像は明るく肺血管影が減少しているのが特徴である.

治療法としては,エピネフリンやドブタミンなどの強心薬が用いられ,肺血管抵抗も下げるPDE III阻害薬も有用なことが多い.肺血管抵抗を下げるためにNO(一酸化窒素)の吸入も効果的なことがある.これらの薬物療法やVAD調節でも改善しない場合には,RVADも考慮される場合がある.周術期に一過性に必要な場合と長期にわたる補助が必要な場合があり,適切な補助方法を選択する必要がある. 5.6 心筋梗塞

基礎疾患が虚血性心疾患の症例では,血液凝固能が大きく変動する周術期に新たな心筋梗塞をきたす可能性がある.また,VADからの血栓塞栓症として冠動脈に塞栓症をきたし心筋梗塞に至る症例もある.虚血範囲と部位によって自己心に及ぼす影響は個々の症例によって異なるが,VADによる補助のない右心系に梗塞をきたした場合に右心不全症状が出現することがある.

5.7 不整脈

周術期に心房細動が生じた場合,右心機能が十分でない症例では右心不全に至ることがある.このような症例では,電気的除細動や抗不整脈薬による治療が必要となる場合が多い.心室性期外収縮の多発も右心機能を低下させる場合があり,治療を要することがある.心室頻拍や心室細動の際は,VAD補助があるために血圧が保たれ,意識がある場合もある.このような症例にICDやCRT-Dを作動させると強い疼痛を訴えることがある.循環状態が許す場合は,適切な鎮静下に行うことも可能である.しかし,いったん心室頻拍や心室細動が起こると右心機能が障害され,一時的に右心不全となって左室が虚脱することが多い.この状態では心尖部の脱血管が左室壁に吸いつき,これが刺激となって不整脈が解除できない場合もあるため,補助流量を調節して吸いつきを解除してから除細動を試みると有効なことが多い.

5.8 心嚢液貯留

術前に心拡大をきたしていた症例では,VADによって左室が減圧されて縮小した後には,心嚢内に大きな空虚なスペースが発生することとなる.術後,止血が十分に得られてからも,人工血管からの血漿漏出,大量の異物に対する炎症反応,腹膜が空いている場合は,吸引効果による腹水の吸いこみ等によって心嚢液が貯留することがある.また,ワルファリンによる抗凝固療法を開始して,心嚢液が貯留してくる症例もみられる.VADによる左心補助が行われている状態では,心タンポナーデの臨床症状が出現するタイミングが通常の開心術後と違う点に注意が必要である.植込型LVAD装着後急性期は,心尖部からの心エコーによる観察が不十分となりやすく,体表心エコーのみでの心タンポナーデの診断は困難である.胸部X線によるCTR (心胸郭比)の変化や胸部CT,TEEによる検索が有用な場