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p.38 抽出テキスト

はきわめて稀である.ICU管理中にポンプ機能障害が疑われた場合には,まず,流入管位置不良などによる脱血障害と送血人工血管の屈曲,捻れ,圧迫などを考慮する必要がある129, 281-283).その診断のためには,造影CT検査による画像診断と,スワン・ガンツカテーテル検査により血行動態をモニタリングしながら,ポンプ回転数を徐々に増加させるrampテストが有用である284).これらの流入管や送血人工血管で血流障害に対しては緊急または準緊急手術による外科的な修正が必要となる.

一方,ポンプ本体に機能不全が発生している場合には,ポンプ内血栓形成を疑う.その評価は,臨床的な左心不全徴候,LDHや遊離ヘモグロビン値上昇,ハプトグロビン値低下にみられる血液生化学的な溶血所見,ポンプ消費電力値の上昇などのデバイスデータ記録解析を含め多面的に行うことが重要である129).また,上述のrampテスト時における血行動態の変化と心エコー検査による左室内径の変化の有無が診断のために有用である284).ポンプ内血栓に対する治療としては,静脈内抗凝固薬の投与,抗血小板薬の強化,血栓溶解療法も選択されるが,経過中に急激な血行動態の悪化による急性左心不全をきたす場合もあり,症状と検査所見の推移によってはポンプ交換の必要性が生じる129).

上述のポンプ機能不全が診断された場合には,基礎疾患による重症心不全状態を勘案し人工心肺を用いた体外循環下に外科的修復術を施行することを考慮する.手術近接期の場合は,再胸骨正中切開による手術が可能なことが多い.血液ポンプ本体の機械的異常やドライブラインの異常などによる血液ポンプ停止に関しては,第5章1. 遠隔期管理と合併症対策で後述する.

5.2 主要な感染(菌血症・敗血症・縦隔炎)

植込型LVAD適応症例は,術前に肝機能障害や腎機能障害,低栄養状態や高度浮腫などを合併していることが多く,通常の開心術と比較し,術後感染症を合併するリスクが高い174, 175).また,中心静脈カテーテルや肺動脈カテーテル,IABPが術前から用いられている場合もあり,カテーテル関連血流感染症のリスクも高い176).281例に対するHM-II植込の多施設前向き研究では,術後30日までに26例(9.3%)に敗血症を合併したと報告されている285).

術後に発熱や炎症反応の再上昇を認めた際には,一般的な開心術と同様に,創部,呼吸器,尿路の感染,炎症を疑って検査を行うが,血流感染のハイリスク群であるため,抜去可能なカテーテルを早期に抜去するとともに,血液培養も積極的に行うべきである.そのうえで,起炎菌として想定しうるものを十分にカバーできるような広域抗生物質を投与開始し,起炎菌が判明したらその起炎菌に焦点を

絞って抗生物質の見直しを行うことが望ましい286).VAD装着後の菌血症時に推奨される抗生物質投与期間には明確なエビデンスはないが,血流中に人工物を有する状態での血流感染であるため,移植でVADを離脱できるまでなど長期に抗生物質投与が考慮される場合もある287).

術前の全身状態が不良なため,縦隔炎の合併率も高く,除去できない人工物が存在するなかでの膿瘍形成となるため,縦隔炎は致命的合併症となりうる288, 289).創部の腫脹や疼痛,排膿が出現した場合には縦隔炎合併を疑う.診断には造影CT,ドレーン排液や抜去したドレーン先端の細菌培養検査が有用なことがある.縦隔炎の疑いが強い場合には,早急な再開胸ドレナージと除去可能な人工物の摘除が考慮される.VAD装着中の縦隔炎に対して陰圧閉鎖療法が有用で救命しえたとの報告もある289-291).

5.3 神経機能障害(脳梗塞,脳出血等の脳血 管障害)

脳血管障害を疑う何らかの神経学的異常所見が認められる際には,頭部CT検査を施行することによって脳出血やクモ膜下出血,硬膜外血腫などの出血性病変,一過性脳虚血発作や脳梗塞などの虚血性病変を含む鑑別診断を行う.また,抗血栓療法を含む血液凝固に関連する状態を診断するための検査を検討する.

出血性病変の場合には,プロトロンビン複合体製剤,新鮮凍結血漿,ビタミンK,濃厚血小板投与などによる抗血栓療法のリバースを検討することなどを含む,出血性病変に対する治療を施行する292-297).この際,開頭血腫除去術を含む外科的治療法の適応の検討を行う.抗血栓療法の中断や減弱が考慮されるが,その場合,その後の血栓塞栓症発生の可能性に留意する298).

一過性脳虚血発作や脳梗塞など虚血性病変の場合には,適切な抗血栓療法に加えて,虚血性病変に対する治療を施行する.脳血管の血栓による急性閉塞に対しては脳血管内治療の適応を考慮する299).

脳血管障害の発生は,VADポンプ血栓,送脱血管内血栓,左心室,左心房内血栓,脳血管,血液凝固系の問題,抗血栓療法の経過や状態などと関連する可能性がある. VAD使用中および脳血管障害発生時には脳血管障害に関連する可能性のある各種因子について適宜評価を行うことを考慮し,問題がある場合には可及的にその対策を検討する.また,溶血発生の場合には,連続流式VADポンプ血栓が原因である可能性があることから脳血管障害を含む血栓塞栓症発生の可能性に留意する.