p.36 抽出テキスト
異常腱索など脱血管先端部の障害となりそうな構造物を確認する.送血管を装着する上行大動脈の石灰化や動脈硬化を評価する. 左心機能は駆出率が低くても心室壁の揺れによりある程度保持されていることがある.心尖部は反時計方向,心室基部は時計方向に揺れて心拍出を絞り出す254).駆出率以上に日常生活状態や活動量が心機能の目安となることも多い. 左室機能が高度に不良な症例および拡張能が大きく障害された症例では,麻酔導入後開胸前に大腿動静脈から速やかに人工心肺を始める必要がある.重度右心不全を合併している症例では右室補助装置装着も考慮することになる.右室自由壁可動性の程度を確認する255).三尖弁逆流を評価する.中等度以上の三尖弁逆流を認め,弁輪径40 mm以上の拡大がある症例では三尖弁輪形成術を施行する256). 右左シャントがあるとLVAD装着後に逆シャントが生じて循環が成立しなくなる.卵円孔(PFO)開存を調べる.必要ならば攪拌したアルブミンを静注したコントラストで診断する.そのほか心房心室にもシャントがないことを確認する. AIはLVAD装着症例の長期的予後に影響する.中等度以上のAIを認める症例では生体弁置換術もしくは形成術を施行する.大動脈弁軽度逆流でも偏心性の場合には形成術を考慮する.装着術後にカテーテル大動脈弁置換術や生体弁置換術が施行されることもある257). 4.2.2 LVAD装着後 装着後早期にLVAD脱血管の向きを確認する.基本的には脱血管が僧帽弁からの流入方向に向いていることが望ましい.左室長軸像でHM-IIやEVAHEARTは左室前壁中隔方向に向きやすいが,HM-3 やHVADは左室後外壁方向に向きやすい.四腔像では中隔壁に向いていると流入血流が狭窄する可能性がある.先端が乳頭筋や肥厚壁など左室内構造物にあたっていないことを確認する. 送血管は上行大動脈に装着されることがほとんどである.血流が大動脈弁方向に向かっていないこと,狭窄部位がないことを確認する.流速は植込型では80~150 mm程度である.ニプロ体外設置型LVADでは200~400 mm程度となる.脈圧は遠心ポンプのほうが軸流ポンプより若干大きくみられる258). 人工心肺離脱時には左心系の残存空気除去に努める.左室心筋内に浸潤している空気は除去に時間がかかる.左心耳や左房上方壁面の残存空気も多い.送血管に空気が貯留しているときには,上行大動脈からの空気飛来がみられる.右冠動脈に空気が貯留すると,急性右心不全から循環虚脱する可能性がある259, 260). LVAD装着後の人工心肺離脱後は左右心室容量のバランスに留意する.右心不全症例や肺高血圧症例では右室拡大がみられる.三尖弁逆流の程度を評価する.強心薬やNO吸入などで対処する.過剰な末梢血管拡張やLVAD流量増加は左室容積の狭小化からサッキングを生じる原因となる.α作動薬投与やLVAD流量減少で対処する.閉胸時にも左右心室バランスは変化しやすいためTEEでの観察を必ず行う. 僧帽弁逆流が中等度以上みられるときには,容量過剰もしくはLVAD流量不足が考えられる.瀉血もしくはLVAD流量増加で対処する.できれば,術後のICUでもTEEにてモニタして評価診断することが望ましい261). 4.3 体外循環 4.3.1 体外循環管理 心拍動下にて左室心尖部へ血液ポンプを装着すること,また空気を引き込む恐れがあるため左心ベントは挿入されないことが多く,十分な無血視野を得るための脱血カニューレサイズを選ぶ必要がある.通常送血カニューレは上行大動脈へ挿入されるが,LVAD送血グラフト吻合部を考慮し遠位に挿入される場合があり,体外循環開始時やLVAD送血グラフト吻合時の部分遮断時は送血回路内圧に注意する. 体外循環時間,凝固能温存の観点から軽度低体温もしくは常温に近い温度管理とすることが多い.また,開胸操作やポケット作成において,術野外への血液が失われることがあるので注意を要する.術中に輸血を要する場合も多いので,体外循環開始時には有血充填が考慮される.初回手術症例やポンプポケットを必要としない機種においてはそのかぎりではなく,出血量に合わせた輸血量の削減を行う. 術前からカテコラミンに依存している場合は,体外循環開始後カテコラミンの希釈などにより低血圧に陥りやすいため,昇圧薬などで血圧の維持に努める.術後はVADによる拍出量が期待できるため,良好な末梢循環を維持するために温度コントロールに注意する. 血液ポンプを接続後,空気が入った状態で駆動を開始すると,空気がマイクロバブル化し非常に抜けにくくなる.機種によりポンプ本体と送血グラフトの接続時や,送血グラフトと大動脈吻合時などの最終接続部,吻合部の際には体外循環側から脱血を制限し,左室充満させることでしっかりと血液ポンプ本体側から血液を吐出させながら可能なかぎり空気を減らし,接続することが望ましい.