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p.29 抽出テキスト

療法によって重篤化する可能性があり,術前から眼科専門医による十分な治療を受けておく必要がある.さらに,糖尿病性網膜症によって視力に障害を生じた場合,機器管理や日常のケアに影響する可能性がある.この場合,サポートするケアギバーからの支援が求められることになるため,患者およびケアギバーに十分な情報提供を行い理解を得ておく必要がある.

肥満は植込型LVAD術後の生命予後に対してリスク増加にはならないという報告が多くあるが186-188),ポンプ血栓や心不全再入院のリスクになるとの報告187, 188)があり,術前に肥満の解消を心がけることが望ましい.

重症心不全患者に対する栄養管理は,周術期および術後の経過にも影響を与える189).重症心不全患者の35~ 55%に心臓性悪液質が生じるとの報告もある190-192).重症心不全患者のエネルギー必要量は,心臓のエネルギー必要量の増加に伴って,30~50%増加するため190, 193),植込型VADの適応となる重症心不全患者では栄養障害を合併している割合は高い.VAD植込術前および周術期の栄養障害は予後が悪い194-198).簡易栄養状態評価表,Controlling Nutrition Status(CONUT)スコア,予後栄養指標(prognostic nutritional index: PNI)などの一般的な栄養評価を適切に行うことが重要である.経口摂取によって必要栄養量を満たすことができない場合には,中心静脈栄養や経管栄養法などの適応となる.

1.10 精神神経機能

LVAD植込前には睡眠の質の低下,日中の眠気の増大,セルフケア能力の低下を認め199, 200),術後も遷延する場合がある200).LVAD植込前は,疾病や将来の不透明さに対する不安や喪失感に伴い,精神的に不安定になり抑うつ的になることがある.また,ときにいらいらや不満を周囲にぶつけることもあり,精神科専門医による精神医学的管理や,専門家によるカウンセリングが必要になる.また,植込型LVADの周術期から遠隔期に至るまで,患者およびサポートするケアギバーはさまざまなストレスを受けることが知られており201, 202),術前から精神科医,臨床心理士,リエゾンナースなどにより,患者やケアギバーが相談しやすい場を設けるなどの積極的な介入を行うことは,術後の精神的なQOL(生活の質)を保つことに寄与する.

植込型LVADの合併症として,脳血管障害による神経機能障害があるため,術前の神経機能評価は必須である.術後に神経機能不全が確認された場合には,それが新しい神経機能不全であるかの判断が必要となるため,神経科医による適切な診断検査および診察により,標準的な神経機能検査を行う必要がある.

1.11 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

緩和ケアは,がんやエイズを対象として発達してきたが, 2014年のWHOの報告では緩和ケアを必要とする者の疾患別割合の第1位は循環器疾患となっている203).重症心不全では緩和ケア導入時期を見極めることはしばしば困難であり,終末期を含めた将来の病状変化に備えるためのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を早期の段階から行うことが重要とされる.ACPとは,患者本人の意思決定能力が低下する前に,患者やケアギバーの望む治療と生き方を医療者と共有し,事前に対話しながら計画するプロセス全体を指し,終末期に至った際に,納得した人生を送ってもらうことを目標とする.ACPによって患者の終末期における希望が反映され,うつや不安を示す割合が低下し満足度も高まることが示されている204).

ACPの1つとして,終末期における事前指示(Advance Directive)がある.終末期において蘇生・延命のための処置を行うか否か等に関して,多職種チームにより患者本人の意思決定支援を行い,事前指示書を作成する.ただし, ACPすなわち“事前指示を決めること”ではなく,患者の価値観,人生観,死生観をケアギバー,医療従事者で共有することがACPの最も大きな目的であり,治療を決めることが目的ではない.

上述の緩和ケア,ACP,事前指示,いずれに関しても植込型LVAD治療に特有なことではなく,stage Dの重症心不全治療の開始とともに始めるべきものである79).植込型LVADが植込型生命維持装置であることを考えると,植込型LVAD装着が必要となった時点で改めて,終末期に至った場合の治療に関してACPを行うことが重要である.患者本人,ケアギバーとACPを行う中で,患者本人の意思が伝えられなくなったときを想定して,終末期に至った場合の鎮痛,鎮静,胃ろうや点滴等による栄養補給,人工呼吸,人工透析,ICD/ペースメーカー,植込型LVADを含む補助循環治療に関して具体的に本人の希望を事前指示にて確認する.

終末期の定義としては,1進行性の身体的・精神的機能低下を認め,日常生活のほとんどに介助を要し,2適切な薬物・非薬物療法を行っているにもかかわらず,QOLの著しい低下を伴い,3頻回の入院あるいは重篤な悪化を繰り返しながらも,心移植や補助人工心臓の適応がなく, 4心臓悪液質を認めるなど臨床的に終末期に近いと判断される場合と2016年のESCガイドラインでは定めている205).これらを参考に終末期の認定には複数の医師,看護師,臨