p.60 抽出テキスト
3.3.3 妊娠中,分娩前後の薬剤 妊娠時に冠動脈瘤内の血栓形成のリスクが非妊娠時より高くなるかどうかについては不明である.妊娠前,妊娠中,分娩前後の抗血栓療法,その他の薬剤については有益性と副作用によるデメリットを考慮しなければならない.副作用として,胎児への催奇形性と分娩時の出血,乳汁への移行が問題となる439). a.抗凝固薬・抗血小板薬i.アスピリン 低用量のアスピリン(60 ~81 mg/日)は母体の血小板凝集を抑制し,新生児の血小板凝集や肺循環には影響を与えない441).冠動脈障害があり抗血栓療法が必要な場合,妊娠中はアスピリン投与(81 ~100 mg)で慎重に経過観察し,妊娠37 ~38 週に中止する437)(推奨クラスI,エビデンスレベルC *). * おそらく安全であると考えられているが,添付文書には分娩 12 週未満は禁忌と記載されているので,説明と同意が必要である439). ii.ワルファリン 催奇形性は用量に依存し,中等量以上(5 mg/日以上)の内服によると報告されている442, 443).第1 三半期には骨,軟骨形成異常,子宮内発達遅延などが生じうる.第2 ~3三半期では,出血性合併症による中枢神経系異常や死産率が上昇する.胎児の臓器が形成される妊娠初期の12 週までと分娩前の34 ~36 週以降は中止する.ワルファリンの中止により,血栓形成をきたす可能性が高い場合は,ヘパリンの皮下注を考慮する437, 439, 444, 445). b.その他の薬剤 ACE 阻害薬は催奇形性があるため中止する446, 447).その他の薬剤については,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にだけ使用する.心機能低下症例では,子宮収縮抑制薬として使用されるβ作動薬の使用については注意する. 3.3.4 心イベント リスクのある患者については,小児循環器科医,循環器内科医,産科医は協力し,個々のケースに応じて心イベントの発症に対して備える体制を整える(推奨クラスI,エビデンスレベルC). a.急性心筋梗塞 心イベントのうち,急性心筋梗塞の発症に強く関連するのは巨大瘤である.成人期川崎病の冠動脈障害による心筋梗塞の頻度は低く,この患者群の妊娠中の急性心筋梗塞の頻度についても不明である438).近年,動脈硬化の若年化, 出産年齢の高齢化がみられ,冠危険因子を複数あわせもつ患者に発症しうる440, 448).妊娠中毒症に伴う合併症の症状との鑑別が必要である.心筋梗塞が発症した場合,予後は心イベント後の血行動態の安定化の有無による440, 449).器官形成期を過ぎた妊娠20 週以降であれば,橈骨動脈アプローチ(TRA)によるカテーテルインターベンションが可能である438).仰臥位となり妊娠子宮が下大静脈を圧迫し,下半身からの静脈還流を妨げ,心拍出量が減少し血圧が低下する下大静脈症候群がみられることがあり,体位に気をつける439). b.不整脈 心筋障害,心機能低下,心筋虚血のある患者では,妊娠後期,分娩時,分娩前後の循環動態の変化に伴い心室性不整脈が出現しうる.第2 ~3 三半期にHolter 心電図による検査を施行し450, 451),非持続性心室頻拍,持続性心室頻拍が出現する場合はβ遮断薬内服などの治療を考慮する451) 今後求められるエビデンス • 川崎病による冠動脈障害をもつ患者の妊娠・分娩に 関連する心イベント発症の頻度と予後. • 川崎病による冠動脈障害と妊娠中の抗凝固療法の必 要性. 3.4 成人患者の診療体制 【要旨】• 内科医,とくに循環器内科医が成人期川崎病の病態 を深く理解することが重要. • 小児科での経過観察後,臨床経過と検査所見を内科 と小児科で共有することが必要. • 川崎病心臓血管後遺症に加え,粥状動脈硬化症を併 発した,より複雑化した病態の出現. 成人期川崎病患者に対する診療が一般内科医中心となっていく現状を鑑み,以下の点での問題があげられる.1内科医の成人期川崎病心臓血管後遺症に対する理解と経験の浅さ,医師以外のコメディカルを含む医療関係者に対する成人期川崎病心臓血管後遺症の情報不足,2成人期川崎病心臓血管後遺症の特殊な病理,病態と,専門医不足,そして,3心臓リハビリテーションなど,効果的な治療法を実践するための連携と施設の充実,などである.