GL検索 v0.1.0
画像は 56 ページを描画したものです
page 56

p.56 抽出テキスト

は無症状である.手技による効果,合併症のリスク,手技の質,成功度を熟慮し,生命予後,QOL の改善につながると判断される場合に施行されるべきである.川崎病という疾患が報告されて50 年を過ぎたばかりであり,この患者群の自然歴,生命予後は不明である.個々の症例について,現時点での最適な方法を選択し,初期成績に加え,遠隔期成績を蓄積していかなければならない.

今後求められるエビデンス

• 川崎病による冠動脈障害をもつ患者の自然予後と,

PCI を受けた患者の長期予後. • ACS 発症患者の長期予後.

b.外科治療

【要旨】• 左前下行枝へのin-situ(左)内胸動脈を使用した血

行再建(推奨クラスI,エビデンスレベルA). • 両側内胸動脈を左冠動脈領域に使用した血行再建(推奨クラスI,エビデンスレベルB). • 回旋枝が低形成で右冠動脈が優位であるときの右内

胸動脈の右冠動脈への使用(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC). • 高度狭窄(90% 以上)を有しrun-off のよい右冠動

脈,回旋枝領域への胃大網動脈の使用(推奨クラスIIa,エビデンスレベルC).

小児期~若年成人の虚血性心疾患においては,川崎病は主要な原因である.成人期の川崎病に伴う冠動脈への外科治療に際しては,とくに冠動脈の狭窄度評価や手術適応については,基本的には日本循環器学会「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版)」に準拠するが,川崎病における特徴は,若年で余命が通常20 から時には50 年と長く,近位側に冠動脈瘤を伴うこと,狭窄が冠動脈の中枢部にあること,などが挙げられる.成人では,成長の要素を加味する必要がなく,橈骨動脈(RA)や大伏在静脈(SVG),1 本のグラフトを複数の枝に吻合するシーケンシャル(sequential)吻合,複数のグラフトを組み合わせて延長したり,Y 型に枝を作成するコンポジット=複合グラフト(composite graft)など,最善のグラフト材料やデザインを選択し完全血行再建を前提として手術方針をたてる. i.グラフトの選択

左前下行枝へのバイパスは,開存性と生命予後への観点から同所(in-situ)内胸動脈(ITA)を使用することが原則である397).とくに川崎病においては,若年で長期開存

が期待され手術リスクも低いことから,動脈グラフトが推奨される398).さらに,多くの観察研究やメタ解析から,回旋枝や右冠動脈にも第二の動脈グラフトを使用することは, SVG より予後を改善する.第二の動脈グラフトとして,右内胸動脈(RITA),RA,右胃大網動脈(GEA)が候補となる.2019 年に報告されたART 研究では,術後10 年間の全死亡,心イベント(死亡,心筋梗塞,脳梗塞)回避において,両側ITA の優位性はなかった399).しかし,川崎病では超長期の術後開存性が求められ,狭窄部位も比較的近位部に多いなど,内胸動脈の必要性,開存するための条件がそろっているため,川崎病におけるCABG では,第二の動脈グラフトとしてはRITA を第一に考慮するべきである.実際に,わが国での両側ITA を積極的に使用した36 年間の治療成績によれば,多枝CABG 後30 年における生存率は91.0% ときわめて良好であった400).狭窄度の評価が唯一の課題といえるが,FFR など近年では精度が向上している.この第二の動脈グラフトの標的枝は,左冠動脈(LCA)領域とするのが一般的である401–405).回旋枝の性状や灌流領域により,右冠動脈への使用も妥当である406, 407).

成人期における川崎病に対するCABG では,RA も選択肢となりうる408).RITA とRA と比較研究では,開存率にはRA とRITA に差はなく,RITA には胸骨創感染のリスクがある.心イベントや生存率については,どちらが優位かは議論が定まっていないことから,RA はITA の状態によっては重要な選択肢となりうる.RA とSVG の比較試験の結果では,RA の開存率はSVG よりおおむね良好だが,SVG では冠動脈の狭窄度に影響されないのに対し, RA は狭窄が90% 未満であると,閉塞やstring sign が生じやすい409).手術時年齢が平均約15 歳,92 例の検討によれば,RA の開存率はSVG より良好で有用であったとしている400).

長期予後の解析から,両側ITA に加えて,第三の動脈グラフトによる予後の改善が認められるとしている410–415).

これには,まずGEA を考慮すべきである.中等度狭窄枝のバイパスに使用した際には,グラフトの血流不足の懸念が生じうるため,適応の選択が重要である.冠動脈枝狭窄が80% 以上416, 417),90% 以上418),右冠動脈近位部の狭窄419),狭窄部の最小内腔径が1.1 mm 以下420),などの報告がある.

SVG の使用は,成人期にも川崎病に対しては推奨されない.静脈グラフトの開存率は,川崎病では,10 年で57% と報告され337),また10 ~12 歳以上の報告では, SVG の開存率は変性の進行が認められ,ITA の開存率よ