p.36 抽出テキスト
1.4.1 β遮断薬 心筋梗塞後の再梗塞や突然死の予防,長期の死亡率の低下を目的に投与される.心筋酸素需要の減少による抗狭心症作用,拡張期冠血流増加,虚血の抑制,心イベントの減少が認められる.ただし冠攣縮が存在すると考えられる状況では,β受容体遮断によるα受容体作用の亢進が冠動脈攣縮を増悪させる危険性がある.抗酸化作用がありα, β遮断薬であるカルベジロールの有用性が成人や小児の心不全で検討されてきた.川崎病患者においてもβ受容体選択性のメトプロロール,ビソプロロールも有効性が示されている287, 290).AHA の川崎病ステートメント2)では,巨大瘤を有する患者に対してはβ遮断薬の予防的投与を考慮するとされている(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC). 1.4.2 Ca 拮抗薬 川崎病の心筋梗塞は安静時または睡眠時にも発症しており,冠攣縮を合併していると考えられる場合がある291).また,成人領域では心筋梗塞後の狭心症や心筋虚血が認められる患者に対しても長時間作用型Ca 拮抗薬のアムロジピンを併用すると心イベントを減少させることが知られているが,その使用はうっ血性心不全や,房室ブロックがない場合に限られる 1.4.3 硝酸薬 遠隔期の冠動脈造影(CAG)における硝酸薬(硝酸イソソルビド)による拡張能の検討では,動脈瘤残存部位と冠動脈瘤消退部位の拡張能は,正常部位の拡張能16 ~ 19% に比べ,それぞれ7 ~8%,11 ~14% と不良であり,内皮細胞機能障害があると考えられ,急性虚血に対する拡張効果は障害の強い病変部ではあまり期待できない.急性心筋梗塞発作の際には舌下,経口で投与を試みる292).長期使用により耐性が生じるため漫然と使用しない. 今後エビデンスの確立が求められるもの 巨大瘤合併川崎病患者に対するβ遮断薬の心筋保護効果. 1.5 血栓溶解療法・再灌流療法 【要旨】• ACS の診断と重症度評価には心電図・心エコーに加 えBNP もしくはNT-proBNP,心筋トロポニン測定を行う(推奨クラスI,エビデンスレベルC). • STEMI や左脚ブロックを伴う急性心筋梗塞に対して は,発症12 時間以内かつ来院から2 時間以内に再灌流療法の実施を目指す.体格的に可能ならprimary PCI が望ましいが,本症の好発年齢を考慮するとprimary PCI が困難な場合には血栓溶解療法が推奨される(推奨クラスI,エビデンスレベルC). 冠動脈障害合併例のおもな死因は,動脈瘤流入部と流出部における狭窄性病変と新鮮血栓による心筋虚血で,とくに直径8 mm 以上のいわゆる巨大冠動脈瘤において血栓性閉塞が生じやすい136).偶発的に無症候性冠動脈閉塞が発見されることもあるが,急性心筋梗塞の発症と死亡は川崎病発症から1 ~2 年以内が多い293, 294).川崎病遠隔期においては,とくに巨大瘤では血管内皮機能異常,血流のうっ滞,凝固・線溶系の異常などの因子があいまって血栓性閉塞をきたすと考えられている287, 295).川崎病心臓血管後遺症CAL に対する血栓溶解療法はエビデンスレベルの高い研究が存在しないため,成人の粥状動脈硬化による虚血性心疾患を対象とした研究成果をおもな拠り所とする. 従来,心筋虚血による病態は心筋壊死の有無により心筋梗塞と狭心症とに分類されてきた.しかし心筋壊死の有無は心筋バイオマーカーの経時的評価を行ってようやく確定するものであることから,迅速な診断・治療を求められる臨床の現場にはかならずしもそぐわない.本項では日本循環器学会が中心となって作成した「急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」159)に準じて,冠動脈内血栓により急性心筋虚血を呈する病態をACS と包括する.ACS の診断と重症度評価は成人のそれと同等であり,心電図上のST-T 変化と心エコーでの局所壁運動の低下,心筋バイオマーカーの上昇,BNP ないしNT-proBNP の上昇などによる.従来心筋梗塞の診断に利用されたクレアチニンキナーゼ(CK)とそのMB 分画(CK-MB)は感度が低く,心筋トロポニンが推奨される. ACS の予後改善には,血栓溶解療法か経皮的冠動脈インターベンション(PCI)かを問わず,十分な再灌流(TIMI3 flow)を得ることが重要である.成人のSTEMIに対する再灌流療法は,発症12 時間以内に行い得た場合にとくに有効であることが知られ,いかに迅速かつ確実に,合併症なく冠動脈血流を回復されるかが重要である.わが国では欧米に比べ,医療資源にアクセスしやすいこともあり,血栓溶解療法を先行させることなく最初からPCI を選択するprimary PCI が一般的である.とくに病院到着から90 分以内のprimary PCI は血栓溶解療法よりも予後を改善するので推奨されている.