p.32 抽出テキスト
栓溶解薬などの心筋虚血に対する直接的な治療と,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),スタチンなどの障害血管に対する間接的な治療に分けて記述する.非薬物療法には,侵襲的治療としてカテーテル治療(バルーン拡張術,ステント留置術,ロータブレータなど)と冠動脈バイパス手術(CABG)がある. 川崎病を含め小児の虚血性心疾患に対する臨床研究は後ろ向き研究や前向き研究でも少数例のものがほとんどで,成人に対するエビデンスを参考に,わが国でも欧米でも2, 266)経験的な治療が行われているのが現状である.しかし,粥状動脈硬化による高齢者の虚血性心疾患の知見が,冠動脈炎のリモデリングによる川崎病の小児・若年成人に外挿できるかどうかは明らかでない.また成人における多くの薬が小児では未承認・適応外となっており,これらの薬剤の保険適用を目指す質の高い臨床研究を発展させるべきである.その基盤として,冠動脈瘤を伴う川崎病患者のレジストリー研究が内外で開始されている. 本ガイドラインでは,未承認・適応外の医薬品・医療機器の使用に関して倫理委員会申請などの必要な手続きは各施設の方針に委ねることとし,わが国では未承認・適応外であることのみを明記する. 1 薬物療法 1.1 心筋虚血に対する薬物療法 心筋虚血の薬物療法の目標は,心筋の酸素供給の増強か酸素需要の減少に分けられる267).酸素供給を増強する薬物には,血栓塞栓症を抑制する抗血栓薬と解除する血栓溶解薬,および冠動脈を拡張する硝酸薬と攣縮を防止するカルシウム拮抗薬がある.抗血栓薬は抗血小板薬と抗凝固薬に大別され,抗血小板薬はACS や粥状血栓など動脈血栓に,抗凝固薬は深部静脈血栓や心房細動時の左房内血栓など静脈血栓に用いられる.酸素需要を減少する薬物には,心拍数や後負荷を低下させるβ遮断薬,カルシウム拮抗薬,レニン・アンジオテンシン系阻害薬などがある. 冠動脈瘤を伴う川崎病では,アスピリンをはじめとする抗血小板薬の投与を基本とし,おもに巨大瘤や心筋梗塞の既往例に抗凝固薬を追加する2, 268).川崎病に対する血栓溶解薬は,冠動脈瘤内に生じた血栓の溶解による心筋梗塞の防止,閉塞した血管の再開通による心機能の改善などを目的に投与される.硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬 は,冠血流の増加や心筋の酸素需要の減少により,川崎病の狭心症に対しても有用と考えられる.レニン・アンジオテンシン系阻害薬とスタチンに代表される脂質異常症治療薬は,障害血管に対する作用もあるので次項で述べる. 1.2 障害血管に対する薬物療法 【要旨】• CAL 合併患者に対し,冠動脈イベントの予防として スタチンを投与する(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC). • CAL 合併患者に対する狭窄性病変出現予防として, ACE 阻害薬,ARB を投与する(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC). 1.2.1 スタチン スタチンにはコレステロール値の制御のみならず,抗炎症作用,抗酸化作用,血液凝固抑制,血栓溶解促進といった多面的薬理作用を有していることが報告されており,血管内皮機能改善作用に関する有効性が広く期待されている269–272).Lactobacilius casei 細胞壁菌体成分(LCWE)による川崎病類似血管炎モデルにて,アトルバスタチンがT 細胞の活性と増殖,TNF-αの産生,MMP-9 の活性化を抑制する273)ことから,川崎病による冠動脈障害に対して修復的な効果を発揮することが期待されている.米国心臓協会(AHA)の川崎病ステートメント2)では,小瘤以上を有する患者に対してはスタチンの予防的投与を考慮するとされている(推奨クラスIIb,エビデンスレベルC).現在,日米で冠動脈瘤合併川崎病患者に対するアトルバスタチンの安全性と有用性を検討する臨床試験が実施されており,その結果が待たれる. 1.2.2 ARB・ACE 阻害薬 動脈瘤の近位,遠位端,または冠動脈瘤が複数個存在する場合には,瘤間に有意な狭窄性病変が形成されることが多々ある.これは,血管再構築の一環として内膜を中心とした肥厚によるものであり,血管壁に局在するレニン・アンジオテンシン系(RAS)の作用に負うところが大きいとされる.アンジオテンシンII は,アンジオテンシンII-1 型受容体を介して,血管平滑筋細胞の増殖肥大,細胞外基質産生促進,酸化ストレス亢進,接着分子や増殖因子の産生亢進,サイトカイン,ケモカインの産生亢進などの作用