p.19 抽出テキスト
瘤内での乱流からエネルギーロスが生じ,狭窄性病変と同様の働きをすることが報告されている120).冠動脈瘤の前後では狭窄が生じやすいことに加え121),瘤自体が血行動態的に狭窄を助長しているともいえる.さらに,瘤内における血流速度の低下と瘤による血管径の増大はずり応力の著しい低下につながり,血管炎に伴う内皮細胞障害に加え血行動態の異常による内皮細胞障害もあいまって,瘤内では著しい血管内皮細胞機能障害が惹起されている122, 123).血管内皮細胞の機能低下は,血管収縮性を亢進させ,抗血栓作用,抗炎症作用,抗線維化作用,抗酸化作用,抗動脈硬化作用などを減弱させる.とくに川崎病後の巨大冠動脈瘤内では血栓形成が一番の問題であり,血小板凝集能および凝固能の亢進,線溶系の抑制などから容易に血栓が形成されることになる119).したがって,川崎病遠隔期の重要な治療目標の1 つは血栓形成予防になる. 2.2 狭窄性病変の評価 2.2.1 FFR 血流予備量比(FFR)は狭窄性病変の遠位部と近位部の圧較差を評価する方法で,塩酸パパベリンやアデノシン三リン酸(ATP)負荷により最大充血となった際の圧較差(圧比)が 0.75 ~0.80 に低下すると,内科領域では,虚血の可能性を含む境界領域として扱われている124–127).治療介入の適応はFFR 0.80 が用いられている127).なお,小児における報告では,FFR 0.75 未満が異常値との報告がある128). 2.2.2 CFR 冠血流量の測定は侵襲的な方法としては心臓カテーテル検査時にドプラワイヤーを用いて行う方法128, 129)と,比較的非侵襲的な方法として13N-アンモニアや82ルビジウム(Rb),15O-水を心筋血流のトレーサーとして用いる心筋血流ポジトロン陽電子放出型断層撮影(PET)による方法130, 131)がある.塩酸パパベリンやATP 等により最大充血させた冠動脈の血流の増加率が冠血流予備能(CFR)であり,成人においては冠動脈の狭窄性病変や冠動脈末梢血管抵抗の評価の指標128–131)となるばかりか,冠動脈疾患の予後と相関するとされる132).CFR の小児での基準値は成人と同等で2.0 以上と報告されている128). 冠動脈血流が定量されれば,血圧を代用して冠動脈末梢血管抵抗が算出されることとなる.PET を用いた報告では,川崎病遠隔期において瘤を有する血管のみならず,瘤が退縮した血管や正常と思われる血管を含めて,冠動脈末梢血管抵抗が正常者よりも高いとされており123, 133, 134),川崎病の血行動態を論じるうえで重要である. FFR とCFR は冠動脈狭窄性病変の評価にともに有用とされるが,多枝病変(multivessel disease)においては時にその評価に乖離を認める.これはFFR が純粋に心外膜動脈(epicardial artery)の狭窄を評価する方法であることに対して,CFR は心外膜動脈のみならず末梢血管の病態も反映するためと説明されている135).また,前述のように川崎病遠隔期において冠動脈末梢血管抵抗が上昇しているのであれば,FFR が実際の狭窄よりも高く評価される可能性があるため注意が必要である. 多枝病変となっている川崎病冠動脈病変(CAL)への治療介入の判断は形態的評価のみならず,FFR やCFR などによる評価も加えた多角的な評価が求められる. 今後エビデンスが求められるもの 川崎病遠隔期におけるFFR,CFR による冠循環評価. 3 長期的予後 【要旨】• 一過性拡張を含む心臓血管後遺症なしとされた症例 に対して,長期的な冠動脈イベントリスクが高いとする報告はまだない. • 冠動脈瘤が大きいほど退縮する可能性は少なくなり, 遠隔期での心イベントリスクも高くなる(エビデンスレベルB). • 冠動脈瘤のリモデリングは長期間継続している(エビ デンスレベルC). • 冠動脈瘤が退縮したとしても血管構造が正常化する ことはなく,血管内皮機能異常やリモデリングは継続し,狭窄や閉塞,時には再拡大をきたすこともある(エビデンスレベルC). 3.1 川崎病CAL 川崎病CAL は拡張性病変から始まる.冠動脈における汎血管炎から正常血管組織が破壊され,脆弱となった冠動脈がその内圧により拡張される.冠動脈の拡張が始まる時期は第11 病日前後136, 137)とされ,まれに急速に巨大瘤化し破裂することもある.冠動脈瘤の破裂は発症1 ヵ月以