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p.65 抽出テキスト

るが,骨格筋症状は乏しいにもかかわらず,高頻度に完全房室ブロックや洞不全などの刺激伝導障害を呈するのが特徴である.また,右房や左房の拡大も認められる筋緊張性ジストロフィーでは,心臓刺激伝導障害をきたすことがあるが,典型的な拡張型心筋症を呈することはまれである.顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーでは,心房性不整脈の頻度が高いが,心筋症の表現型はごく軽度にとどまる. g. アルコール性心筋症

長期かつ多量の飲酒をすることによって発生する中毒性心筋症の1つで,一般的には,1日80~90gの純エタノール換算量(日本酒4~5合,ビール中瓶4~5本)を5年以上にわたり摂取すると発症するとされている.初期には拡張障害,左室肥大を生じ,進行すると左室は拡大,左室壁厚は正常ないし減少し,拡張型心筋症と同様の基本病態を呈する.組織学的には,細胞内小器官の構造変化,とくにミトコンドリアの大小不同・増大,心筋内の脂肪滴などが認められる.禁酒が基本であり,少量でも飲酒により増悪する. h. ミトコンドリア心筋症

ミトコンドリア心筋症は,ミトコンドリア病の1つであり,ミトコンドリアの機能障害によって,心筋症あるいは心伝導障害などの病態を呈する.心筋症のみが前景に立つ場合と,中枢神経系症状などに合併する,いわゆるミトコンドリア脳筋症の部分症として出現する場合がある.ミトコンドリア心筋症に関連すると考えられるミトコンドリア遺伝子の変異(点変異もしくは欠失)は,20種類以上が報告されており,変異の多くが,代表的なミトコンドリア病であるMELAS, MERRF,慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)あるいはKearns-Sayre症候群(KSS)の原因となり,その部分症として心筋症を呈することも多い.また,呼吸鎖酵素などミトコンドリア内で機能する蛋白をコードしている核遺伝子の変異でもミトコンドリア心筋症が起こりうるが,その場合は原因遺伝子を特定することは多くの場合困難である.ミトコンドリア心筋症は,肥大型の病型をとることが多いが,拡張型や拘束型の病型を呈することもある.初期には,心筋肥厚の程度に比べて収縮能が保たれていることが多いが,病期の進行に従って急激に収縮能が低下し,拡張型心筋症様の病態を呈することがある. i. ミトコンドリアDNA遺伝子異常

最も高頻度にみられる3243A>GによるMELASなどミトコンドリア遺伝子異常による心筋症であれば,変異ミトコンドリアが一定のヘテロプラスミー(変異型遺伝子と正常型遺伝子が混在する)比率を超えると疾患が発症する.変異の割合は臓器により異なることから,心筋生検による遺伝子診断,電子顕微鏡による評価が重要である.心臓以外の罹患臓器としては,骨格筋,中枢神経,内分泌腺,消

化管,末梢神経などである.Adams-Stokes症候群や突然死のリスクを有するため,診断当時の心病変は軽度であっても経時的な観察が必要である502). ii. 核DNA遺伝子異常

核DNAでコードされたミトコンドリア呼吸鎖や関連遺伝子の異常によるミトコンドリア病では,その原因遺伝子を同定することは多くの場合容易ではない.骨格筋生検もあわせてミトコンドリア機能異常を評価する必要がある. i. 薬剤性心筋症

薬剤によって引き起こされる心筋障害により心筋症を呈するのが薬剤性心筋症の基本病態である.近年,高齢化を背景にがん患者は増え続け,日本人の2人に1人ががんに罹患するとされるが,さまざまながん治療薬の進歩により治癒も期待できる時代となり,がん患者の生命予後は著しく改善している.

抗がん剤による心毒性としては,古くからアントラサイクリン系のドキソルビシン(アドリアマイシン)やイダルビシン(イダマイシン),アルキル化剤のシクロフォスファミド(エンドキサン)やイホスファミド(イホマイド),代謝拮抗薬のクロファラビン,微小管阻害薬のドセタキセル(タキソテール)が知られていたが,その他分子標的薬を含めた抗がん剤による治療が心血管病発症のリスクとなり患者QOLや生命予後に大きく影響することから,「Cardio- Oncology」という学際領域に発展し,さまざまな体制整備が進められている.欧州腫瘍学会議(European Society for Medical Oncology; ESMO),ESC,米国癌治療学会議(American Society of Clinical Oncology; ASCO)において相次いでガイドラインおよびtask forceが発表された503-506). i. アントラサイクリン系抗がん剤による心筋症

心筋に対する障害が強く,広く使用されている代表的な薬剤はドキソルビシン(アドリアマイシン)である.慢性毒性は蓄積性の心毒性であり,総投与量に比例して出現する.最終投与日から10年を経過しても発症するとされているが,通常は投与後3ヵ月を中央値とした期間内に発症することが多い(表42) 506). ii. トラスツズマブによる心筋症

また,HER2受容体に対するヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)は,予後不良とされていたHER2過剰発現の乳癌患者の予後を著しく改善したが,一方心筋症発症頻度も高い.治療においては心機能のモニタリングが必要である.アントラサイクリン系抗がん剤の併用,前投与は,トラスツズマブ単独より心筋症発症頻度が高い.