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p.58 抽出テキスト

近年,肥大型心筋症患者に対する運動療法の効果を示した論文がKlempfnerら449)とSaberiら450)から報告された.まず,Klempfnerらは20人の肥大型心筋症患者(年齢62 ±3[平均±標準偏差]歳,男性70%)を対象に週2回60分間の監視型運動療法(平均41時間)と自宅でのウォーキングを実施した.対象の心エコーでの主な所見は,左室中隔厚17±5mm,後壁厚12±2mm,左室駆出率53±15%,左室流出路圧格差50±24mmHgであった.また,運動負荷試験の結果では,運動時血圧反応が正常であったものは60%であり,38±19bpmと心拍予備能は低かった.その結果,運動トレーニング中に有害反応は起こらず,50%の患者に慢性心不全NYHAクラス分類が1段階改善した.運動耐容能も4.7±2.2から7.2±2.8METsと有意に改善した(P=0.01).Klempfnerらは,内科的治療を受けている有症状の肥大型心筋症患者でも,監視型運動トレーニングプログラムによって明らかな身体機能改善が見込まれるとした.

さらに,Saberiらは症例数を136人に増やし,無作為化比較試験を実施した.16週間にわたる運動トレーニング群67人(年齢50.4±13.3歳,男性58%)と通常治療群69人に振り分けた.介入群の運動療法内容は,心肺運動負荷試験の結果をもとに,最初は心拍予備能の60%に相当する負荷強度を設定し20分間週3回の有酸素運動から開始し,ボルグ指数11~14 の中程度強度になるように指導した.その後徐々に運動強度と量を増加していき,心拍予備能70%,1回60分週4~7回に増やしていった.16週間の介入の結果,運動トレーニング群は最高酸素摂取量の変化が+1.35(95%CI,0.50 to 2.21)mL/kg/min,通常治療群は+0.03(95%CI,-0.62 to 0.79)mL/kg/minと有意に改善

した.そして,期間中重大な心事故は発生しなかった.

現時点では,肥大型心筋症における競技的運動は避けるべきである.本症に対する運動療法はまだ緒に就いたばかりである.今後はさらに症例数を増やし,長期間にわたる効果や安全性の検討をしていく必要があると思われる.

7.3 妊娠・出産

7.3.1 妊娠・出産における循環動態変化

妊娠・出産時に,循環動態はダイナミックに変化するため,母体心機能予備力が必要とされる.循環血漿量は妊娠28週から32週ごろには非妊時の約1.5倍に増加し,心拍出量も同様の増加を示すが,妊娠前半では主に1回心拍出量が,妊娠後半では主に心拍数が増加することによって,心拍出量の増加が達成される451).器質的心疾患を持つ女性にとって,循環血漿量の増大がピークを迎える30週前後が最も心不全合併の多い時期452)である(図22).また,希釈性に血色素は低下する.分娩時にはさらに心拍出量が増加し,陣痛(子宮収縮)ごとにおよそ300~500mLの子宮胎盤の血液が体循環へと移行する.分娩時の母体出血量は500mL程度であり,妊娠中にもたらされた循環血漿量の増大で補われる範囲である.分娩直後は子宮による下大静脈の圧迫が解除され,急激な静脈還流の増加が起こる.循環動態が正常化するまでに分娩後1~3ヵ月程度を要する.

肥大型心筋症合併妊娠では,このような変動に対し,常に潜在的なリスクを伴うことに留意する.

図22 妊娠中の循環血漿量の増加率と器質的心疾患における心不全好発時期

(%) +50

+40

+30

+20

+10

0

避妊時循環血漿量

妊娠-6週

妊娠7-10週

妊娠11-14週

妊娠15-18週

妊娠19-22週

妊娠23-26週

妊娠27-30週

妊娠31-34週

妊娠35-38週

妊娠39-42週器質的心疾患における心不全好発時期

循環血漿量