p.51 抽出テキスト
6.4.2 血栓塞栓症予防 肥大型心筋症に伴う心房細動は脳梗塞を含めた血栓塞栓症の重要なリスクである273, 363).肥大型心筋症に伴う心房細動患者を対象とした抗凝固薬の血栓塞栓症予防効果を検証した無作為化試験はないが,若年でも塞栓症を生じることがあり,心房細動がみつかった時点で,禁忌がないかぎり抗凝固療法を開始することが推奨される.CHA2DS2-VAScスコアあるいはCHADS2スコアによるリスク層別化は勧められない6, 7). 抗凝固療法としてはワルファリンの使用(PT-INR 2.0- 3.0,70歳以上PT-INR 1.6-2.6)が推奨される273, 365).また,直接型経口抗凝固薬(DOAC)については,肥大型心筋症を対象とした臨床試験は多くはないが,その有用性は期待される366).なお,除細動前後での抗凝固療法の使用については心房細動治療(薬物)ガイドラインに従う6, 7, 364). 6.4.3 心拍数調節 頻脈性の心房細動では,心拍数を抑えることで,血行動態を保ち,症状の改善が得られる.心拍数調節にはβ遮断薬,非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミルやジルチアゼム),あるいはその併用が勧められる6, 7).ジゴキシンは左室流出路狭窄を伴う閉塞性肥大型心筋症に対しては狭窄度を強めることから使用しない.なお,明らかな左室流出路狭窄がなく,中等度以上の左室収縮能低下(左室駆出率<50%)を伴う場合はジゴキシン単独あるいはβ遮断薬との併用が有用かもしれない6, 7). 一方,薬物治療にても十分な心拍数調節がつかない頻脈性心房細動では,房室結節アブレーションとペースメーカー植込みが考慮される6, 7). 6.4.4 洞調律化・再発予防 心不全の増悪など致死的危険が迫っている心房細動,あるいは速い心室拍数が薬物療法に迅速に反応せず,血行動態の破綻を伴う心房細動に対しては心房細動治療(薬物)ガイドライン364)に従い電気的除細動を行う.血行動態は安定し,待機的に除細動を行う場合は,十分な抗凝固療法を行ったうえで電気的除細動あるいはアミオダロンによる薬理学的除細動を行う. 肥大型心筋症で心房細動予防に関する抗不整脈薬あるいはカテーテルアブレーションによる効果を検討した無作為化試験はない.観察研究による報告のみだが,肥大型心筋症に伴う心房細動予防としてアミオダロンに有効性が示されている367, 368).一方,左室流出路狭窄を伴う閉塞性肥大型心筋症に圧較差軽減目的でジソピラミドやシベンゾリンなどI群抗不整脈薬使用が行われるが,心房細動に対す る洞調律維持効果は不明である. 近年,肥大型心筋症に伴う心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の有効性が報告されており,症状やQOL改善に期待されている369, 370).ただ,肥大型心筋症では一般の心房細動アブレーションに比し再発率が高く,洞調律維持には抗不整脈薬併用例が多く,左房径が大きな例は再発が多い369, 370).現在のところ,薬物抵抗性あるいは使用できない例で,左房径が大きくなく,持続の比較的短い心房細動など限られた例においてのみ適応を考慮する.また,Maze手術の有用性も報告されている371)が,その評価には限界がある.なお,肥大型心筋症にWPW症候群を合併し,副伝導路を介した早期興奮を伴う心房細動・粗動には副伝導路に対するカテーテルアブレーションを突然死予防として推奨する. 6.5 特別な病態への対応 6.5.1 高血圧を合併した肥大型心筋症 肥大型心筋症と形態的に類似した疾患の1つとして高血圧性心疾患がある.高血圧性心疾患は血圧の持続高値が原因で左室肥大が進行し,まず拡張能の低下が出現,さらに進行すると収縮能の低下をきたす372).肥大型心筋症様の心臓形態を持つ患者が高血圧症を合併していた場合,高血圧性心疾患により左室肥大が進行したのか,肥大型心筋症に続発して高血圧が合併したかを明確に判別することは困難である373, 374).臨床背景や心エコー法・CMRなどの画像診断,12誘導心電図などを用いて総合的に判断することになる.心エコー検査では左室の最大壁厚が15mmを超える患者の割合や拡張障害が著しい割合が肥大型心筋症に多く374, 375),CMRでは高血圧性心疾患と肥大型心筋症ともにガドリニウムによる遅延造影が見られる症例があるが,後者ではとくに心室中隔右室接合部または左室肥大が最も顕著な部位に観察される例が多いと報告されている376-379).12誘導心電図では,肥大型心筋症では再分極異常,伝導障害,異常Q波などの高電位以外の異常が多く観察される374, 380). 2014年ESCガイドラインに掲載された高血圧性心疾患とHCMの鑑別ポイントを示す(表35) 7).また,わが国の肥大型心筋症の特徴として心尖部肥大型の割合が多いことがあげられるが31),この型の場合は肥大型心筋症を示唆する29, 30). 高血圧性心疾患の進展予防・退縮には厳格な血圧コントロールが有効であるが381-384),閉塞性肥大型心筋症では