p.44 抽出テキスト
ESCガイドラインでは左室壁肥厚は連続変数であることも考慮して7 つのリスク因子からなる計算式(HCM Risk- SCD Calculator)を提案した7).これは年齢,最大壁厚,左房径,左室流出路圧較差(安静時あるいは誘発時の圧較差)の実数値の入力,突然死の家族歴,非持続性心室頻拍,失神の既往の有無の合計7項目を入力することで5年間の突然死推定発生率を提示し,ICD植込みの推奨度を示すものである. この2つのガイドラインは突然死の高リスク患者を同定するためにはきわめて重要で参考となるものであるが,それぞれのガイドラインの限界も指摘されている.2011年ACCF/AHAガイドラインでは,突然死イベントの陰性的中率は高いものの陽性的中率は低く,2003年ACC/ESCガイドラインと比べてもROC曲線の曲線下面積値に改善がないことが報告された312).また,2014年ESCガイドライン に関しても,高リスクと判断された患者のイベント発生率は高いものであったが,突然死相当イベント患者の半数以上は低リスク群と判定されていた313).日本人206人を含むValidation studyでも同様に高リスク群のイベント予測には有用であったが,低-中リスク群と判断された患者からも一定の突然死は生じている314). このように肥大型心筋症の突然死高リスク群の同定(とくにICDの1次予防目的の植込み対象患者の同定)はいまだ十分ではなく,とくに日本人における今後のさらなる知見の蓄積が必要である24, 80, 315).本ガイドラインにおける肥大型心筋症突然死のリスク因子を表29に,ICD植込み適応フローチャートを図20 に示す.これまでに報告された主要なリスク因子のなかでも,「最近の心原性あるいは原因不明の失神」(とくに6ヵ月以内の失神歴はリスクが高いと報告されている)と「左室壁厚30mm以上の著明な肥大」はとくにリスクの高い因子とし,これらのリスクのどちらか1つを有している場合はICD植込み適応(1次予防)とした.また,前述の2014年ESCガイドラインにおけるHCM Risk-SCD Calculatorにてハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)と判定される場合もICD植込み適応とする. 前記以外の主要リスク因子である「突然死の家族歴(第1度および第2度近親者の肥大型心筋症に起因すると思われる突然死)」(注釈:第何近親者までが突然死リスクとなるかについてはいまだ十分な情報がない),「非持続性心室頻拍」,「運動時の血圧反応異常」を複数有している患者,あるいは,これらの主要リスク因子は1つのみであるが修飾因子(「左室流出路閉塞(心エコー検査にて30mmHg以上の圧較差:負荷時も含む)」,「CMRで広範囲なLGE」,「拡張相肥大型心筋症」,「心室瘤」)を同時に有する患者に対してもICD植込み(1次予防)の積極的な適応を推奨す るものとした. なお,ICD治療を受けている肥大型心筋症334人(92%が1次予防)を対象とした観察研究によると,適切作動が8%(年率2.3%)であり,不適切作動が16%(年率4.6%),植込みに伴う合併症が18%(年率5.1%)に認められた316). ICDの適応のみならず管理(不適切作動の回避や長期デバイス合併症の予防など)を慎重に行っていく必要がある. 突然死予防の観点で薬剤治療に関して,アミオダロンは不整脈抑制効果があるものの突然死予防については限界がある303, 317, 318).リスクがある例についてはICDが最も有効である7, 305, 306, 319-321).皮下植込み型除細動器(S-ICD)は,経静脈ICDにくらべ,とくに若年者において有益である可能性があるが,その長期の有効性については検討が必要である322). 肥大型心筋症おける突然死予防の推奨とエビデンスレベルを表30に示す. 6.3 左室流出路圧較差・左室中部圧較差 6.3.1 薬物療法(表31) 適切な薬物療法が行われることで自覚症状の軽減が得られる症例も多いが,その効果の持続性や長期予後改善効果については不明である. 表29 肥大型心筋症患者の突然死リスク因子 主要リスク因子• 心室細動・心室頻拍による心停止の既往• 持続性心室頻拍の既往• 6ヵ月以内の心原性あるいは原因不明の失神• 左室壁厚30mm以上の著明な肥大• 2014ESCガイドライン計算式(HCM Risc-SCD Calculator)にてハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大) • 突然死の家族歴(第1度近親者(両親,兄弟姉妹,子供)および第2度近親者(祖父母,孫,おじ・おば,甥・姪,片親の異なる兄弟姉妹),40歳未満の突然死あるいはHCM診断患者では年齢は問わず,突然死イベントには心肺停止蘇生成功およびICD適切作動を含む) • 非持続性心室頻拍• 運動時の血圧反応異常修飾因子• 左室流出路閉塞(心エコー検査にて30mmHg以上の圧較差:負荷時も含む) • CMRで広範囲なLGE • 拡張相肥大型心筋症• 心室瘤