p.42 抽出テキスト
断薬と同様に陰性変時作用による拡張機能の改善を目的として用いられ,β遮断薬により症状の改善がみられない例においても有用である284-287).しかし,本剤とβ遮断薬のどちらを優先して使用すべきか,併用,単剤のどちらが有効かについて明確なコンセンサスは得られていない.ベラパミルは心筋細胞内カルシウム過負荷を抑制し,弛緩特性を改善し288),弛緩異常の原因となる拡張期のasynchronousな壁運動に対し,左室局所の拡張期asynchronous motionを改善する289, 290).また,ベラパミルは拡張早期の冠血流改善により,運動負荷時の心筋虚血を改善させる291).さらにベラパミルは冠拡張作用,冠スパズムの抑制作用を有し,肥大心の心内膜下虚血を改善させる292).しかし,ベラパミルの陰性変力作用により収縮性を悪化させ,心不全が増悪する可能性もあり注意を要する.ジルチアゼムは,静脈内投与286, 287),経口投与293, 294)とともに,左室等容拡張時間の短縮,最大左室充満速度(PFR)増加,左室圧下降の時定数(Tau)の改善など,拡張機能を改善させ,ベラパミルと同等の自覚症状と運動耐容能の改善295),心筋虚血の改善が認められる296).一方,ニフェジピンを含むジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は末梢血管拡張の伴う左室流出路圧較差の増大297)の他,肺動脈楔入圧の上昇,収縮期血圧の低下298),左室拡張末期圧の上昇299)など,血行動態が悪化する症例が報告され,肥大型心筋症に対する有用性は乏しいと考えられている. β遮断薬,カルシウム拮抗薬,あるいはそれらの併用に よっても肺うっ血が高度で息切れが持続する場合には急性期および慢性期において,低用量利尿薬(ループ系あるいはサイアザイド)の併用が考慮される7, 114).ただし,過度の前負荷の減少に注意が必要であり,とくに閉塞性肥大型心筋症患者では前負荷減少による圧較差増大をもたらすため一般的に用いない. 非閉塞性肥大型心筋症に対するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の有効性については,ヒトHCMで確認された心筋トロポニンTの点変異(Arg92Gln)を導入した肥大型心筋症モデルマウスにおけるARBの心筋線維化抑制効果300)や,アンジオテンシンタイプ1受容体の遺伝子多型(1166の位置におけるadenine/cytosineの置換)が臨床上の心肥大の程度の差異に関連する報告301)から,有効な治療手段となる可能性がある.しかし,非閉塞性肥大型心筋症におけるACE阻害薬/ARBの症状軽減作用や長期予後改善効果は確立されておらず,十分なエビデンスに乏しい.一方,閉塞性肥大型心筋症では,ACE阻害薬やARBのように血管拡張作用を有する薬剤は左室流出路狭窄を増強させる可能性が高いことから,これらの薬剤の使用は望ましくない. 拡張相肥大型心筋症では,薬物治療のエビデンスはほとんどないが,左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)あるいはHFrEFの標準的な薬物治療が推奨される.すな 図19 肥大型心筋症の治療フローチャート *非閉塞性肥大型心筋症で,全く無症状の患者に対する確立した薬物治療はない. 心不全症状(NYHAクラス II-IV) 非閉塞性閉塞性電気的・薬物的除細動心拍数コントロール抗凝固療法 心房細動 治療抵抗性 LVEF≧50% LVEF<50%(拡張相) 薬物治療β遮断薬ベラパミルあるいはジルチアゼムジソピラミドあるいはシベンゾリン非薬物治療外科的治療PTSMAペーシング治療β遮断薬ベラパミルあるいはジルチアゼム利尿薬(低用量) β遮断薬ACE阻害薬あるいはARBミネラルコルチコイド 受容体拮抗薬利尿薬 心臓再同期療法補助人工心臓心臓移植