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p.20 抽出テキスト

5年間に1.0mV以上QRS波が増高する例では,心事故発生の頻度が高いという報告91)もあるが,一方,QRS波の減高をみる例では,心筋の変性,線維化を反映する90, 92).QRS波の持続的な減高は拡張相肥大型心筋症にしばしばみられ,心室内伝導障害や異常Q波が新たに出現すると予後は不良である93). i. 異常Q波ならびに中隔性Q波の消失

異常Q波は,成人例の25~31%に認められる90).異常Q波形成には,中隔の不均等な肥大と心筋変性の2つの成因が推測される.前者は幅の狭い深いQ波を示し,初期中隔ベクトルが左から右方向に向かう場合にはV5,6に,上方向よりであればII,III,aVFにQ波が形成される.中隔に限局した若年肥大例で異常Q波の頻度が高く90),肥大が左室自由壁へ進展するか,中隔の心筋に線維化が生じれば,Q波は減高し消失することがある.また,心尖部肥大型心筋症や右室肥大例では,異常Q波を伴わない94).後者は,心筋の変性,線維化による局所の起電力消失であり, R波の減高とともに新たな異常Q波が出現する.このQ波はV4-6誘導にみられ,拡張相肥大型心筋症に多い. ii. その他のQRS異常

軸偏位は20~30%に認められ,左軸偏位が多い.刺激伝導系の障害を反映する.1~5%にWPW症候群など心室早期興奮が合併し,まれに突然死の原因となる94, 95). c. ST-T変化

ST下降と陰性T波は大多数の症例に認められる.心室肥大に伴う心内膜下心筋の相対的心筋虚血,肥大心筋の再分極過程の遅延に伴う一次性変化,脱分極過程の変化に伴う二次性変化などによる変化と推測される.ストレインパターンが多い.

心尖部肥大型心筋症でみられる左側胸部誘導の高電位を伴う巨大陰性T波はV3~5を中心に,1.0mV以上で対称性を示し,しばしばST下降を伴い,心尖部肥厚の程度が強いほど深くなる.高電位や巨大陰性T波は経過とともに減少,消失することが多く,予後不良の徴候である場合がある96).

ときに,左側胸部誘導,II,III,aVF,あるいはI,aVL誘導に,R波の減高や幅の広い異常Q波を伴うST上昇を認めることがあり,心筋変性の進行が推測される.拡張相肥大型心筋症や心尖部心室瘤合併例にしばしばみられる. d. QT間隔の延長

肥大型心筋症では,しばしばQT間隔あるいはQTc間隔の延長を認めるが97),致死的不整脈の発生と直接関連するとする報告はない.また,12誘導心電図におけるQT dispersionの増大が,致死的不整脈の発生や突然死の予測因子になりえるかについてのエビデンスはない97, 98). 4.2.2 ホルター心電図

心室性あるいは上室性の頻脈性不整脈,徐脈性不整脈など,多彩な不整脈が発生し,失神発作や突然死,心原性血栓塞栓症の原因となる.不整脈の多くは無症状であるため,全例,ホルター心電図の適応となる.欧米のガイドラインでは,48時間以上の記録を年に1回は施行することが勧められている. a. 心室性不整脈の評価

ホルター心電図では肥大型心筋症の50~85%に心室性期外収縮を,20~28%に非持続性心室頻拍を認める99, 100).ほとんどは無症候性で,頻拍レート180/分以下が多く,閉塞性と非閉塞性で出現頻度に差はない.持続性心室頻拍の多くは多形性であり,血行動態の悪化から失神あるいは突然死に至る.他方,持続性単形性心室頻拍は,拡張相肥大型心筋症や左室心尖部心室瘤を有する肥大型心筋症に合併することがある101).非持続性心室頻拍は突然死の危険因子と考えられている99, 100).その感度,特異度はいずれも70%前後であり,陰性的中率は95%以上と高い102)が,陽性的中率は20~25%と低い.小児や若年の肥大型心筋症の突然死例には心室性不整脈のみられない症例も多い. b. 上室性不整脈の評価

肥大型心筋症のホルター心電図では,30~50%に心房性頻脈性不整脈を認め,発作性心房細動の検出率は5~ 15%である102).肥大型心筋症の上室性頻脈性不整脈は予後悪化因子であり,急性循環不全を起こす直前,直後の心電図で上室性不整脈を認めることがある. c. 加算平均心電図

加算平均心電図による心室遅延電位(late potential; LP)の検出頻度は15~30%で,心室頻拍の有無との関連があると報告されているが,有用性に関してはコンセンサスは得られていない103, 104).

4.2.3 運動負荷心電図および心肺運動負荷試験(表13)

運動に関係した原因不明の失神は,突然死のきわめて強い危険因子である.また,運動負荷中に血圧の上昇反応の弱い症例(25mmHg未満),持続的に血圧低下を示す症例,または回復早期に一時的に血圧低下を示す血圧異常反応は,若年例や突然死の家族歴を有する例に多く認められ,突然死の主要危険因子の1つである105, 106).

肥大型心筋症の多くは比較的軽微な症状しか認めないが,実際は運動耐容能が低下している患者も多い.肥大型心筋症1,005例を対象とした心肺運動負荷試験では,最大酸素摂取量が予測値の100%を超える患者が全体の8%, 51~100%が77%,50%未満の患者が15%であった107).