p.19 抽出テキスト
呼吸困難の出現に関連しているものと考えられる.胸痛や胸部絞扼感も肥大型心筋症患者がよく訴える症状である.相対的心筋虚血が原因と考えられる.冠攣縮81)や冠動脈狭窄の可能性もある. 動悸は,不整脈,頻脈,あるいは収縮力の増大に伴う過収縮に起因している.上室性あるいは心室性不整脈に伴う動悸のことも多い.発作性心房細動や持続性心房細動による動悸もあり,ホルター心電図などを用い適切な診断を行うことが重要である.とくに心房細動を合併すると心機能への影響は大きく,また高頻度に血栓塞栓を合併することが知られている82). b.脳症状 立ちくらみ,眼前暗黒感,失神などの脳虚血を思わせる症状は肥大型心筋症患者の重要な症状であり,突然死に至る前駆症候としても重要である83).これらの症状は心室頻拍,心室細動などの重篤な不整脈による場合と84),流出路狭窄による動作時・起立時の血圧低下から起こる脳血流減少による場合がある.左室内腔の小さい患者,左室内圧較差のある患者での発生頻度は高い85).また,血管拡張薬などの禁忌薬の使用時,起立動作時,飲酒時などに好発する. 4.1.2 身体所見 a.視診・触診 肥大型心筋症患者の触診で最も重要な所見は,左室のコンプライアンス低下に伴う強い左房収縮(atrial kick)の触知である.左室拍動とともにdouble apical impulseとして触診できる86).この所見は左側臥位でより明瞭に触診できる.double apical impulseは閉塞性肥大型心筋症患者では頻度の高い所見で,非閉塞性肥大型心筋症患者でもその出現頻度は高い.頚動脈の触診でも二峰脈が触知される(図7). b.聴診 肥大型心筋症患者で最も高頻度で聴取される異常音はIV音である.左室のコンプライアンス低下に起因する左房収縮音であり,とくに収縮能の良好な肥大型心筋症患者で聴取される.また,III音も高頻度で聴取される.非閉塞性の患者でも左室流出路が狭い患者も多く,また駆出速度が速いことから収縮期雑音を聴取することがある. 左室流出路閉塞性の患者での聴診所見の特徴は,心尖部から第4肋間胸骨左縁に聴かれる収縮期雑音である.収縮中期から後期にピークを有する.大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音との違いは頚部への放散はないか,あっても弱いことである.この収縮期雑音は,圧較差を増強させるバルサルバ手技や立位負荷で容易に増強することが重要である.期外収縮心拍でも雑音は顕著に増強する87).左室流出路閉塞性の患者では僧帽弁逆流を合併することが多く,心尖部あるいは腋窩領域で多くの患者では汎収縮期の高調な音として聴取される.左室流出路狭窄の存在は左室駆出時間の延長をもたらすため,IIa音とIIp音の分裂間隔の短縮あるいはIIa音とIIp音の時相の逆転(奇異性分裂)を示すことがある. 心室中部閉塞型での聴診所見の特徴は,心尖部付近での柔らかい収縮期雑音を聴取する程度である. 4.2 心電図 4.2.1 12誘導心電図 肥大型心筋症の75~96%で異常Q波,ST-T変化,陰性T波,左側胸部誘導の高電位など何らかの心電図異常がみられ88),心電図は感度の高い有用なスクリーニング検査である.無症候例の多くは心電図が診断の契機となる.個々の心電図所見は肥大の病型や程度,病期と関連しており,病態把握の助けとなる.一方,その所見は多様でかつ非特異的であり,心電図のみから肥大型心筋症の確定診断,閉塞性・非閉塞性の鑑別はできない. a. P波の異常 左房負荷所見は左室拡張障害による心房負荷を反映する. b. QRS波の異常・QRS波高の増減 高頻度に左側胸部誘導の高電位所見を認める.非閉塞性では,高電位はV5,6よりもV3,4誘導で顕著な例が多い89).左室肥大所見は肥大が心室中隔に限局するよりも,左室自由壁にもびまん性に広がる例や心尖部肥大型心筋症で出現する頻度が高い90).また,右前胸部誘導のR波の増高は中隔肥厚の反映と考えられる. 図7閉塞性肥大型心筋症の収縮期雑音と二峰脈を呈する 頚動脈波CAR 2L