GL検索 v0.1.0
画像は 18 ページを描画したものです
page 18

p.18 抽出テキスト

3 疫学

3.1 有病率

肥大型心筋症の有病率は,対象や調査方法の違いによりばらつきが大きい.厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班が1998年(平成10年)に行った,病院へのアンケートによる全国疫学調査では,全国推計患者数は21,900人,有病率は人口10万人あたり17.3人である.肥大型心筋症患者の男女比は2.3:1と男性が多く,年齢別分布は男女ともに60~69歳にピークを示した64-66).

しかし,肥大型心筋症は無症状で経過する例が多いことなどから,有病率の算出には一般住民コホート研究による推定が必要とされている.世界的にこれまで報告されたコホート研究では,肥大型心筋症の有病率は約500人に1人と推定され,人種差も強くないとされている67-72).

一方で,近年,心エコーやCMRによる画像診断技術が進歩し,さらに遺伝子スクリーニング技術により,診断率が向上し,画像診断と遺伝子異常の検出の組み合わせによって推定することで,実際にはもう少し高い有病率であることが予測されている73).

3.2 予後

1982年(昭和57年)の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は,それぞれ91.5%と81.8%で,約20%の患者が診断後10年以内に死亡していることが報告され74),一概に,予後良好とは言い切れず,欧米での報告でも年間死亡率は4~6%とされてきた75, 76).肥大型心筋症における疾患関連死の主な原因は突然死,心不全死,主に心房細動により起こる塞栓症による脳卒中である.

2002年にわが国で行われた大規模な疫学調査では,肥大型心筋症の年間死亡率は2.8%であり,死因としては不整脈が31.9%,心不全が21.3%であった66).女性患者のほうが男性よりも予後が悪い77).しかし,肥大型心筋症患者の中には,80歳,90歳を超える年齢までほぼ無症状で経過する例も少なくなく,近年の地域在住肥大型心筋症患者の予後に関する検討では,治療法の進歩も相まって0.5~ 1.5%/年程度の死亡率と報告されている78-80). 4 診断と検査

自覚症状や身体所見から,肥大型心筋症を疑い各種検査を進めていく.無症状でも健診などでの心電図異常で疑われる場合も多い.肥大型心筋症が疑われた場合,心エコー検査を行い,心肥大の存在や圧較差の存在を評価する.その後,精密検査を進めていくが,その際,蓄積疾患や心臓外病変を有する全身疾患などを除外することが重要である(詳細は,第3章2.2 肥大型心筋症と鑑別すべき二次性心筋症の項を参照).病態把握,重症度判定を目的とし,CMRや心臓CTといった画像診断,各種全身検索,心臓カテーテル検査(心筋生検含む),遺伝子検査などを進めていく.

4.1 症状・身体所見(表12)

4.1.1 自覚症状

一般的に肥大型心筋症患者は無症候であることも多く,本症に特徴的な症状はないと言ってよい.ただ,左室流出路狭窄では,有症候の場合も多く,治療方針とも関連して重要な情報となる.肥大型心筋症患者の自覚症状は大きく胸部症状と脳症状に2分できる. a.胸部症状

労作時息切れや呼吸困難は多くみられる訴えである.左室拡張障害に伴う左室拡張末期圧の上昇による肺毛細管圧の上昇,また左室内腔の狭小化による低心拍出量などが

表12 肥大型心筋症の主な臨床症状と身体所見

臨床症状(I) 肥大に伴う症状胸痛,息切れ,呼吸困難,動悸(II) 流出路狭窄に伴う症状立ちくらみ,眼前暗黒感,失神(III) 不整脈動悸,立ちくらみ,めまい,眼前暗黒感,失神,突然死(IV) 塞栓症による症状麻痺(四肢,顔面),構音障害,四肢疼痛身体所見(I) 触診左房収縮の触知(double apical impulse,頸動脈での二峰脈) (II) 聴診IV音,III音,II音奇異性分裂,収縮期駆出雑音