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p.9 抽出テキスト

第1章 総論

1 妊娠・分娩の循環生理:妊娠・ 出産における母体の変化

1.1 循環動態の変化(図1)

23, 24)

心疾患を有する女性の妊娠・出産を考えるうえでは,通常の妊娠・出産における循環動態の変動を理解することが重要である25, 26).妊娠・出産における循環動態の変化は,単に体液循環の変化のみによって引き起こされるものではなく,血液学的変化,呼吸機能の変化,内分泌学的変化,自律神経学的な変化の影響も受ける.通常の妊娠・出産では,これらの変化は巧妙なバランスをとりながら維持されている.すなわち,変化の起こる時期,変化の程度,変化が最大となる時期,最大変化をきたしたときの母体側の反応性などによって,さまざまな適応過程をとっている27–29, 29a, 30–32).

妊娠では,コルチゾール,エストロゲン,アルドステロンなどの増加に伴い,ナトリウム貯留が起こるため,循環血漿量は妊娠4 週頃から増加し始め,妊娠10 週頃より増加傾向が顕著となる.その後は妊娠32 週頃には最大となり,正期に至るまでほぼ一定か,緩やかに増加する.通

常,単胎の場合,循環血漿量は妊娠前の40 ~50% 増加する23, 33–35).この循環血漿量の増加は,腎尿細管でのナトリウム再吸収亢進を伴う体内の総ナトリウム量の増大によって引き起こされる.心拍数は妊娠経過とともに増加し,妊娠32 週前後でピークに達し,妊娠前の約20% の増加を示す.一回拍出量は妊娠前期から上昇し,妊娠20 ~24週でピークとなる.これらの変化に伴って,心拍出量も妊娠20 ~24 週にかけて妊娠前の30 ~50% まで増加し,その後は一定の値を保つ34–37).一方,妊娠の経過に伴って,大動脈圧および全身血管抵抗は低下する.とくに子宮,乳房,腎臓などへの血流が増加するため,拡張期血圧が低下する.妊娠後期には増大した子宮による下大静脈の圧迫により,仰臥位で低血圧を引き起こすことがある.肺動脈圧は,肺血流量の増大にもかかわらず,肺血管抵抗の低下により一定を保つ.妊娠中の心機能は,これら前負荷と後負荷の影響を大きく受けているが,通常はその変化に的確に適応している34–39).

分娩中の循環動態は,体位,分娩様式,陣痛,麻酔の程度などから大きく影響を受ける.陣痛に伴う痛み刺激により,交感神経系の緊張が亢進し,心筋収縮力,全身血管抵抗,静脈還流量が増大する.さらに,陣痛に伴う子宮収縮によって,循環血液量が300 ~500 mL 増加する.これら

表1 推奨クラス

クラス I有用性・有効性が証明されているか,見解が広く一致しているクラス II有用性・有効性に関するデータあるいは見解が一致していない場合がある

クラス IIaデータ・見解から有用・有効である可能性が高い

クラス IIbデータ・見解から有用性・有効性がそれほど確立されていないクラス III有用・有効でなく,ときに有害と証明されているか,否定的見解が広く一致している表2 エビデンスレベル

レベル A複数のランダム化介入臨床試験やメタ分析で実証されたものレベル B単一の無作為介入臨床試験や,ランダム化介入でない臨床試験で実証されたものレベル C専門家の意見,ケース・スタディ,標準的治療などで意見が一致したもの