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p.8 抽出テキスト

改訂にあたって

医療の発達の恩恵により,心疾患の予後は著明に改善している.これに伴い,心疾患を有する妊娠可能な女性の数は年々増加している.この数年でとくに大きな変化をみせているのが,これまで成人期に達することの少なかった複雑心疾患の患者群の増加である.すでに臨床の現場では, Fallot 四徴症や大血管転位症などのチアノーゼ型心疾患の術後患者,さらにはFontan 術後患者の妊娠・出産症例に対応する必要性が急速に高まっている.わが国では,心疾患を有する女性の妊娠が総妊娠数の0.5 ~1% に相当し,不整脈などを含めれば,その割合は2 ~3% 程度までに高まるといわれている1, 2).また,新生児医療の進歩に伴い,早期産児の生存率と予後が飛躍的に改善した.このため,妊娠後期の母体の循環への負荷が大きく,合併症が予想される場合は,妊娠を中断して分娩に移行することも可能となっている.妊娠・出産の高年齢化がみられているが,心疾患を有する女性は仮に重症心疾患であっても一般女性と比べて挙児希望が強いことが多く,若い年齢で結婚することも少なくない3, 4).「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン」の初版は,このような医療環境の変化が現れ始めた2005 年に作成された.当時,国内における心疾患患者の妊娠・出産管理はまだ手探り状態で行われており,適切な妊娠・出産管理のエビデンスもきわめて限られた状況であった.このため初版は欧州心臓病学会(ESC)で刊行されていた心疾患の妊娠・出産に関するエキスパートコンセンサス5–10),単行書11–16)をたたき台に作成された.それまで国内では心疾患を有する女性の妊娠・出産に関する専門家は非常に少なく,妊娠・出産が可能であるにもかかわらず避妊を勧められたり,妊娠・出産が非常に危険であるにもかかわらず,妊娠して重大な合併症を生じたりする事例もみられていた.また,妊娠・出産に際して,適切なカウンセリングや治療を受けられない場合も少なくなかった.この点から,初版は有用であり,広く用いられてきたと考えられる.2010 年には部分改訂が行われ,米国心臓協会(AHA)および米国心臓病学会(ACC)の成人先天性心疾患ガイドライン6),さらに,カナダ心臓血管学会(CCS)の成人先天性心疾患ガイドライン7–10)および単行書11–14)を参考に,国内の実情に応じた妊娠・出産管理,カウンセ

リングについても記載された.

現在,国内では毎年1 万人の患者が成人期に達すると推測されている.妊娠・出産の管理を必要とする女性の年齢は若く,その影響はほかの領域よりも早い時期に現れている.Fallot 四徴症患者の妊娠・出産管理はもちろんのこと, Fontan 術後患者の妊娠・出産管理は多くの施設で喫緊の課題である.さらに肺動脈性肺高血圧,抗凝固療法,不妊治療などついて目覚ましい医療改革が進み,ガイドラインの全面改訂を必要とする状況になった.

幸いにして,これまで日本循環器学会や日本成人先天性心疾患学会を中心として成人先天性心疾患患者の妊娠・出産管理について幅広い討議や教育活動が行われてきたため,本領域の重要性は循環器医にも広く関心をもたれるようになってきている.今回2018 年度の全面改訂版には,これらの課題について可能な限り科学的根拠に基づいた記載を行った.しかしながら,妊娠・出産に関する領域はランダム化比較試験(RCT)を実施することがきわめて難しい領域であり,各エキスパートの経験に基づく根拠に依存せざるを得ないことが多い.最新のAHA/ACC 17–19)やESC 20–22)のステートメント,ガイドラインについても加味しながら,わが国における心疾患を有する患者の妊娠・出産管理に役立つ,現時点で考えられる最善の方策の指針としてこのガイドラインを届けたいと思う.

それぞれの手技・治療法に関する,「推奨クラス」と「エビデンスレベル」は,AHA/ACC のガイドラインと同様に記載法した22)(表1,2).しかしながら,いまだにデータが不十分で,専門家も少ない分野であり,倫理的な問題から前向き研究はほとんど行われていない.したがって,ランク付けが困難なことが多いため,かならずしもすべての項目において記載されているわけではない.