p.57 抽出テキスト
Eisenmenger 症候群との大きな違いは高肺血流状態(肺体血流比:Qp/Qs >1)である点である.肺血管拡張薬は総じて高肺血流を助長する可能性が高く,積極的な多剤併用や静注製剤の使用などにより必要以上のPVR 低下を招かないよう注意を払う.体血圧の面から,薬剤の基本的な選択・使用法はEisenmenger 症候群に準じるが,SpO2 > 95% の場合には右左短絡が少ない,すなわち左右短絡主体の高肺血流が示唆されるため,投与量を控えめにする.体液量が最大になる32 週に近づくにつれ,肺高血圧悪化および右心(肺心室)不全増悪が生じる可能性が高くなるため,体重,血中BNP,心エコー所見(三尖弁圧較差)を参考に利尿薬および肺高血圧症治療薬の調整を行う.抗凝固薬に関しては,Eisenmenger 症候群ほど出血のリスクは高くはないが,吐血など重篤な状態に結びつくため, Eisenmenger 症候群と同様に,積極的な抗凝固療法導入の推奨はできない(クラスIIb,レベルC). c. 慢性血栓塞栓症性肺高血圧(CTEPH) 肺動脈の閉塞性障害からPVR 上昇により肺高血圧症となるため,血行動態的にはIPAH に近い.血栓性の器質的狭窄が主体であるが,血栓を認めない部分にもIPAH 様の病変が生じている.高齢女性に発生頻度が高いため,妊娠時に遭遇する頻度は少ないと考えられ,IPAH 同様の管理を行う.ただし,本疾患自体に適応のある薬剤は,sGC 刺激薬のリオシグアトであるため,薬剤選択はリオシグアトが第一選択薬となる(クラスIIa,エビデンスC).抗凝固療法は本来必須であるため,ワルファリンは中止のうえ,妊娠初期からヘパリンでの管理を行う(クラスI,エビデンスC).バルーン肺動脈形成術(BPA)および肺動脈内膜摘除術(PEA)の妊娠時の施行は,専門家の意見のもと救命的緊急時にのみ考慮すべきと考えられる. d. その他の肺高血圧症 肺高血圧症の分類に属するその他の疾患に関しては, IPAH に対する管理法をもとに専門家を含めたチーム医療により個別に対処する.肺高血圧症の分類に含まれていない末梢肺動脈狭窄(PPS)により生じている肺高血圧症に対しては,狭窄部位に対する肺高血圧症治療薬の効果は期待できない.しかしながら,狭窄部位の存在しない部位に生じている反応性の病変に対しては効果を有する可能性はある.原因として先天性風疹症候群,Williams 症候群, Alagille 症候群,Ehlers–Danlos 症候群といった先天性小児期発症のPPS の場合,前もって診断がついていることもある.しかし,成人期発症のPPS の場合,高安動脈炎のような自己免疫性の炎症性疾患に合併する以外のもやもや病や線維筋性異形成といった全身血管障害に合併するほか,原因不明のこともある.妊娠後に肺高血圧症が発症・発覚した場合は,確定診断には肺動脈造影が必須であるため, IPAH,CHD-PAH,CTEPH といった病態と鑑別が困難となる.管理はIPAH と同様となり,多少のPVR 低下を期待しての肺高血圧症治療薬投与は必要に応じて試してみる(クラスIIb,エビデンスC).緊急時の救命的な治療として器質的狭窄部位に対するBPA 施行は選択肢としてあげられるが,経験豊富な医師の判断が必要である. 2.3 治療薬 2.3.1 プロスタサイクリン系薬剤 ベラプロスト120μg(経口分3),セレキシパグ0.4 ~1.6 mg(経口分2),イロプロスト2.5 ~5.0μg(吸入6 ~9 回吸入),トレプロスチニル(経皮・静注1.25 ~2.5 ng/kg/分),エポプロステノール(静注0.5 ~40 ng/kg)がPAHコントロールのため使用可能とされている.前述した用途に応じて薬剤選択を行う.静注製剤は,感染リスクを伴うため基本的には緊急時・重症化時の使用を推奨する. 2.3.2 NO-cGMP 系薬剤 以下の薬剤がPAH コントロールのため使用可能とされている.リオシグアトは,CTEPH にも保険適用されている. • PDE5 阻害薬シルデナフィル60 mg(経口分3),タダラフィル20 ~ 40 mg (経口分1) • sGC 刺激薬リオシグアト3.0 ~7.5 mg(経口分3) 2.3.3 エンドセリン受容体拮抗薬 ボセンタン125 ~250 mg(経口分1),アンブリセンタン10 mg(経口分1),マシテンタン10 mg(経口分1)があるが,胎児催奇形性のため使用禁忌である.入院のうえ,他剤に変更を要する. 2.3.4 その他の薬剤 心不全治療薬および抗凝固薬に関しては,各項(第2 章8. 心不全,第1 章10. 妊娠中の薬物療法)を参照のこと.