p.56 抽出テキスト
に関して,中等度以上の肺高血圧症の場合は,32 ~34週の出産を,それ以下の比較的安定した肺高血圧症の場合は35 ~37 週での出産を計画するが,右室(肺心室)機能やBNP の変動に注意して適切な時期を逸しないようにする. 出産時は怒責を避ける意味でも,体血管抵抗値が低下しないように注意しながら,熟達した麻酔科医師により硬膜外麻酔か脊髄・硬膜外麻酔併用による帝王切開を計画する.症例によっては同様の麻酔下での経験豊富な産科医師による経膣的無痛分娩も可能である.一般的な麻酔による分娩を適用させることは,むしろリスクを高める可能性がある267, 312).出産直後は,静脈還流量の急激な増加による心不全悪化と凝固能の亢進による血栓に注意する.利尿薬投与と抗凝固療法を出産直後から1 週間は入院して行うとともに,産後1 ヵ月は入院時と同様のとくに注意深いケアが必要となる.また,授乳のストレスは避ける方向とし,帰宅後の家族によるサポートの強化を徹底することで,産後母体のストレスによる心不全や肺高血圧悪化を避ける.そして,少なくとも産後3 ヵ月は利尿薬や抗凝固療法の継続と頻回の外来経過観察を行う. 2.2.3 主要な肺高血圧症に対する妊娠・出産時の治療 a. IPAH IPAH の管理を参考に,以下のPAH の管理を行う.基本的には,肺循環・肺高血圧の管理,右(肺)心室不全の管理,抗凝固療法の施行の3 点が重要である.妊娠発覚後,肺血管拡張薬(PAH 治療薬)使用は継続すべきであるが,エンドセリン受容体拮抗薬は催奇形性の懸念があり,ほかの2 系統薬剤(一酸化窒素[NO]- 環状グアノシン一リン酸[cGMP]シグナル伝達[NO-cGMP]系,プロスタサイクリン系)への変更を可及的速やかに行う(クラスIa,レベルC).これについては,入院での変更が望ましい.無投薬患者に対しても,この2 系統薬剤の導入は推奨でき(クラスIIa,レベルC),産後も継続投与とする.一般に,カルシウム(Ca)拮抗薬に関しては成人でのレスポンダーは少なく313),妊娠後の新規導入は推奨できない(クラスIII,レベルC).しかしながら,レスポンダーの継続使用は比較的予後がよいとされ314),推奨される(クラスIIa,レベルC).心不全管理としては,利尿薬を中心に適宜使用を考慮する.抗凝固薬に関しては,妊娠以外の理由ですでに適応のある患者には使用すべきであり,それ以外の症例では個々の利益・リスクを考慮して使用する. b. 先天性短絡性肺動脈性肺高血圧(CHD-PAH) 表34 に示すように,この病態は4 群に分類される308).短絡修復後PAH と小短絡合併(I)PAH に関してはIPAHの指針と同様である. Eisenmenger 症候群に関しては,肺血流がすでに減少している病態であり,体血管抵抗値が低下する妊娠初期の右左短絡増加によるチアノーゼ・低酸素悪化が懸念される.肺高血圧症治療薬のうち,Eisenmenger 症候群の酸素化を改善するとされるホスホジエステラーゼ5 (phosphodiesterase-5: PDE5)阻害薬のシルデナフィル275, 315)もしくはタダラフィル316)の漸増・慎重投与を体血圧に注意しながら行う(クラスIIa,レベルC).可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬のリオシグアトもPDE5 阻害薬と同様に酸素化を改善する可能性があるが,血圧低下を助長してチアノーゼが悪化することもあるため,注意して使用する必要がある(クラスIIb,レベルC).プロスタサイクリン系薬剤は体・肺血管抵抗値を同等に低下させるため,チアノーゼ悪化・血圧低下が全面に出る恐れがあり,やむなく試す場合には少量から注意して導入するが(クラスIIb,レベルC),イロプロスト吸入に関しては血中での半減期の短さから血管拡張効果の肺選択性が比較的維持され,Eisenmenger 症候群においても低酸素を悪化しにくいと報告されている317–319).したがって,プロスタサイクリン系薬剤のなかでは使用しやすい可能性がある(クラスIIa,レベルC).抗凝固療法に関しては,個別の塞栓症の状況から判断するが,Eisenmenger 症候群ではとくに喀血を含め出血のリスクも高く,積極的な導入推奨はできない(クラスIIb,レベルC). 未修復短絡性PAH(非Eisenmenger 化)患者では,表34 第1 群(CHD に伴うPAH)の臨床分類 Eisenmenger 症候群当初は心内外の多量の左右短絡により血管リモデリングが進行し,肺血管抵抗は重篤な上昇を示す.右左または両方向性短絡によりチアノーゼを呈し,赤血球増多と多臓器不全が合併してくる.有意な左右短絡を伴う群(left-to-right shunts)修復手術可能な症例と不可能な症例がある.中等度~多量の左右短絡により,肺血管抵抗は軽度~中等度上昇し,左右短絡の持続でチアノーゼは認めない.左右短絡では説明できない群(PAH with coincidental CHD)小さな心内左右短絡はあるが,肺血管抵抗の著明な上昇には関係がない.臨床像はIPAH に類似している.短絡閉鎖は禁忌である.有意な短絡残存がない修復手術後群(postoperative PAH)先天性心疾患の修復手術後で有意な短絡残存がないものの,術直後から,または術後数ヵ月~数年で肺高血圧を認める.臨床像は進行性であることが多い. (Simonneau G, et al. 2013 308)より) ©(2013) by the American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-college-ofcardiology