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p.55 抽出テキスト

および4 群の慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)そして末梢性肺動脈狭窄による肺高血圧症に関して述べていくこととする.

PAH に属する疾患は,基本的には特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)の治療指針を参考に,原疾患の病態コントロールを行うことが重要となる.そのなかで,短絡性PAHに関しては,原病の先天性心疾患原疾患の治療状況により大きく管理方法が異なるため,さらに詳しく解説する. PAH は増殖性病変による中膜肥厚・内膜肥厚の進行から血管閉塞に至る病態に微小な血栓(塞栓)性の閉塞が加味される病態であり,CTEPH では大きな血栓から波及した多発性の肺動脈閉塞・狭窄が主体となり,血栓性障害がない部分にもIPAH 様の増殖性組織変化がみられる.すなわち,器質的血栓性狭窄の治療やIPAH 同様の薬物治療に加え,抗凝固療法も必須とされる病態である.そして近年,唯一の有効性の高い治療であった血栓内膜摘除術に加えて,きわめて有効な経皮的バルーン拡張術の手法がわが国にて確立し,非常に良好な治療成績を上げている309–311).このような,肺高血圧症をコントロールするための,基本的な治療薬や治療手技の確立をふまえ,患者の妊娠・出産をどう管理するかが今後の重要な課題である.

2.1 妊娠時の肺高血圧症の発見・発症・鑑別

妊娠前から診断がついている場合であれば,次項のガイドに従って管理することになるが,実臨床では妊娠を契機に失神や息切れの顕在化・増悪を生じ,初めて発見される場合もある.ここでは,妊娠後,肺高血圧症が疑われた場合の診断について述べる.方針決定のうえでも診断は重要であり,かならず,肺高血圧症の専門医師と協力して行う.侵襲性が高く放射線被爆を伴う心臓カテーテル検査や,放射性同位元素を使用する肺血流シンチ検査などは,基本的に施行が困難であり,肺高血圧症の確定診断は心エコーの三尖弁(肺心室房室弁)圧較差の値から推定して行うことになる.原疾患に関しては,心エコー検査,呼吸機能検査,各種血液検査により,専門家であればおおむねね見当はつくが,血流シンチが使用できないために,PAH とCTEPHの最終的な鑑別は難しい.また,PAH 内での原疾患の鑑別に関しては,除外的な診断である特発性PAH と短絡性PAH の鑑別が困難である.安静・労作時の動脈血酸素飽和度(SpO2)に加えて,心臓MRI が使用できれば,肺体血流の測定や実際の短絡口の同定から十分な診断が得られるかもしれない.また,1′群の肺静脈閉塞性疾患(PVOD)合併の可能性はつねに考えておく必要がある.合併時は妊娠中期以降の体液量が増加する時期や,肺高血圧症治療薬(肺血管拡張薬)使用時に,肺水腫や肺高血圧の急速

な悪化を生じることがあり,きわめて危険な状況となる可能性がある.これまでのPVOD 合併妊娠の報告はみあたらないため,得られた情報から可能性のある肺高血圧の疾患群を念頭に,管理・治療を行うことが重要である.

2.2 妊娠・出産の管理

2.2.1 基本姿勢

1978 ~1996 年における肺高血圧症患者の母体死亡率は38% とかなり高率であったが31),近年では25% 程度まで低下し,肺高血圧症治療薬による治療を受けた患者であれば16% まで低下するとの報告がある267, 312).IPAH 患者の場合はさらに低く,薬物治療により9% と報告されている. Eisenmenger 症候群患者は,かつては40 ~50% の高い死亡率50)で,1997 ~2007 年時点で改善したといっても, 25% 程度と高率であった267).経口PAH 治療薬の登場後も23% と低下していない312).その他の肺高血圧症の疾患群での死亡率も薬物治療により低下しているが,概ね13%程度の死亡率が報告されている31, 312).こういった病因や重症度を別にしても,肺高血圧症患者における母体リスク・胎児出生率はいずれも許容範囲とはいえない.したがって,カウンセリング時には避妊を徹底させ,妊娠を回避することを推奨すべきである(妊娠は禁忌).仮に妊娠が発覚したとしても,中絶を早期に行うことは,母体リスクを避ける意味では重要な選択肢となる.専門家による十分な説明を行ったうえでも妊娠継続という判断に至った場合には,経験の豊富な施設において必要な専門家を集めたチームを組んで管理することが必要となる.

2.2.2 妊娠・出産時の経過

上昇したPVR による右心不全・肺循環不全の存在のため,妊娠初期の体血管抵抗値の低下に対する心拍出量上昇による血圧維持や妊娠32 週まで増加する体液量増加への適応が十分行えないため両心不全増悪が懸念される.未修復短絡が存在する先天性心疾患を伴うPAH(CHD- PAH)においては,いずれも右左短絡が増加して低酸素・チアノーゼの悪化から胎児の発育にも大きな影響を及ぼす.また,凝固系の亢進から,肺動脈塞栓・血栓のリスクも高く,PAH の増悪の危険がつねに伴うため,抗凝固療法の管理を行う必要も生じる.一方で,これらの疾患は,出血傾向も強いため,抗凝固療法の管理は,注意が必要である.未修復短絡が存在する場合は奇異性塞栓のリスクもあるため,抗凝固療法の必要性はさらに高まる.出産の時期