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p.52 抽出テキスト

1.5.2 妊孕性

a. 生殖機能

Fontan 術後患者は月経異常の頻度が高く,妊孕性が低いとされている289).低酸素血症や慢性の静脈うっ血との関連が示唆されているが,異常のある場合には婦人科での卵巣機能等の評価を行うことがが好ましい(レベルC). b. リスク評価

Fontan 術後患者の妊娠出産に関する指針は確立していない.これまでの大規模な前向き観察研究から3 つのリスクスコア(CARPREG,CARPREG II,ZAHARA,modified WHO 分類)が報告されている29, 29a, 48, 49, 50).modified WHO 分類は,ほかのスコアでは評価し難い重症心疾患群が考慮され,より広範囲の母体のリスク評価に優れている54).しかし,胎児や新生児の合併症のリスク評価を含んでいない.この評価法では,患者のリスクはmodified WHO 分類III となる.I は妊娠による母体の死亡や関連事故のリスク上昇が想定されない.II は妊娠による死亡や関連事故リスクの多少の上昇が予測される.IIIは妊娠により,死亡や関連事故の有意なリスク上昇が予測され,専門家へのコンサルトが必要である.仮に妊娠が継続される場合は,妊娠中,出産,産後の全体を通じて,心臓および産科的な継続的な管理が必要とされる疾患群である.IV は妊娠出産は母体にとってきわめて危険で,死亡率や関連の合併症も高確率である.したがって,妊娠しても中絶が好ましいが,妊娠を継続する場合はIII に準じる.これらmodified WHO 分類の実際の適用の指針によれば,Fontan 術後患者はIII に分類されている.しかし,Fontan 術後患者に限らず,III の母体合併症は12 ~25% とばらつきが大きい54, 290). 1.5.3 妊娠に伴う心血管系応答と妊娠がFontan 循環に 及ぼす影響

妊娠に伴う心血管応答は,体血管抵抗低下,心拍数増加,心拍出量増加,そして酸素摂取量増加である291).運動時の心血管応答とは,循環血漿量増加と動静脈酸素含有格差減少の点が異なる292, 293).

妊娠では,リラクチン,プロゲステロン,プロスタグランジン,エストロゲンなどのホルモン増加より体血管や腎動脈などの血管抵抗は低下し,妊娠初期から中期には血圧は低下する294–297).この血圧低下は圧受容体反射から交感神経が賦活し心拍数は増加,同時にRA 系の賦活により循環血漿量は約50% 増加298),結果的に相対的な貧血となる.妊娠中の酸素摂取量は約30% 程度の増加にとどまり294),運動中よりはるかに少ない.妊娠中は子宮や皮膚血流の増加を伴うが,これら臓器での酸素消費は少なく“ 短絡”様となり,動静脈酸素含有較差は運動とは逆に少ないとされている294).

上記の健常女性とFontan 循環を有する女性で想定される比較を表に示す(表31).Fontan 術後患者では洞機能低下や心臓自律神経異常,とくに副交感神経支配の心拍制御機能の低下から299),その妊娠経過では健常女性で生じる心拍数や心拍出量の増加不良が生じ易い.その他の血圧,循環血漿量や血管抵抗等の変化の異常が想定されるが,その異常の程度について知見はないのが現状である.

1.5.4 妊娠報告

多数例での妊娠・出産の報告を表に示した(表32) 56, 61, 289, 300-302).118 例で255 回の妊娠が確認され,母体の年齢の平均値あるいは中央値は平均24 ~30 歳で,ほとんどはNYHA 心機能分類がI 度(98%)で,平均で2 回

表31  妊娠中における正常循環とFontan 循環の心血管応答の比較

正常循環Fontan 循環

特徴想定される原因

心拍数増加(≈+20%)増加不良洞機能低下,心臓自律神経異常不整脈(頻度) ―高い(上室頻拍)心房負荷,切開創,心筋障害,内因性(相同心)

一回拍出量増加(≈+20~30%)増加不良心機能低下,前負荷不良

血圧低下後上昇(-5~+5%)低下(?)心拍増加不良,心機能低下,前負荷不良心拍出量増加(≈+50%)増加不良心拍増加不良,心機能低下,前負荷不良循環血漿量増加(≈+50%)増加―体血管抵抗低下(≈-30%)低下―