p.50 抽出テキスト
高いが,とくに胎児へのリスクが高い.妊娠・出産に伴う母体の心血管系合併症を約30% に認める259–261).チアノーゼの程度に依存するが,生産児を得られる確率は低い(レベルC)(表29). **** Blalock–Taussig 短絡術:鎖骨下動脈と肺動脈を吻合する 術式である.肺血流減少型心疾患の肺血流を増加する目的で施行する. a. 母体のリスク 妊娠中は,体血管抵抗が低下し,右左短絡が増加するために,一般にチアノーゼは増強すると考えて母体・胎児の管理を行う必要がある.症例や疾患によるが,心予備能が低いため,妊娠中の容量負荷や出産時の急激な循環動態変動に適応できず,房室弁逆流の悪化,心機能低下やそれに伴う心不全の増悪などをみることがある262).しかし,妊娠・出産による母体死亡自体は多くない259–261)(レベルB).血液凝固系異常,血小板減少,血小板機能異常などの出血凝固系異常,さらに血管増生を伴うため,分娩時に大量出血を生じやすいので注意が必要である195)(レベルB). 一方,妊娠後期に生じる凝固機能亢進により,肺血栓症や脳梗塞を生じることがある.深部静脈血栓症は,これらの血栓症の原因となる195).以上のことから,妊娠後期の抗凝固薬使用の適否に関しては意見の統一がなされていないが,妊娠後期に血栓形成予防のためにヘパリンを使用する場合がある. b. 胎児のリスク 胎児リスクは非常に高く,自然流産,早産,死産,子宮内胎児発育不全が多い259–261)(レベルB).高度チアノーゼでは,胎児の発育は阻害される.動脈血酸素飽和度(SaO2)が85% 以下では,生産児を得られる確率は12% とされ,妊娠初期3 ヵ月での流産が多い259–261)(レベルB).しかし,胎児のリスクはチアノーゼの程度だけではなく,本来母体がもっているチアノーゼ性先天性心疾患の重症度や心機能(心拍出量)にも依存する. c. 母体の妊娠・出産時の管理 左室・右室機能,肺動脈圧,心機能分類を妊娠前に十分に評価する.心機能が悪く(駆出率40% 以下),チアノーゼが高度(SaO2 <85%)の場合は,母体・胎児リスクともに高いため,避妊あるいは人工流産することが勧められる258, 259)(レベルB).周産期の血栓塞栓症発生予防として,脱水の予防や補正に加え,妊娠後期3 ヵ月から出産後1 ヵ月は抗凝固療法を行うことがある195)(レベルC).循環動態不安定,ないし産科的適応がある場合は,帝王切開を行う195).妊娠後期から出産時には,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)モニターを行う.経膣分娩の際は,無痛分娩が推奨される258)(レベルC).チアノーゼ性心疾患はIE の高 リスク患者であるため,分娩時や産科的手技・処置の際の抗菌薬の予防投与を推奨する195)(第1 章9. 感染性心内膜炎を参照のこと)(レベルB). 1.4.2 Eisenmenger 症候群 (第2 章2. 肺高血圧症を参照のこと) 肺血流増加を伴う左右短絡疾患や,肺血流増加とチアノーゼを呈する両方向性短絡疾患などに合併する,非可逆的肺血管閉塞性病変である.前者の基礎心疾患には, VSD,ASD,PDA,心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)などが,後者の基礎心疾患には,総肺静脈還流異常症やその他のチアノーゼ性心疾患などが該当する.チアノーゼおよび肺血管閉塞性病変の程度によるが,妊娠・出産のリスクは非常に高い.肺動脈圧/ 体血圧>2/3 の肺高血圧症では,母体死亡の可能性がある195).とくに,肺血管閉塞性病変の進行したEisenmenger 症候群では,母児ともにきわめてリスクが高く,妊娠を続行した場合の母体死亡率は約30 ~50% で31, 263),胎児死亡率も高率(50%)である31, 264, 265)(レベルB).1997 ~2007 年のEisenmenger症候群の妊娠・出産の報告例では,母体死亡率は25% と低下している.最近では8% という報告もあるが266),依然として死亡率は非常に高いと考えるべきである267).このため,Eisenmenger 症候群での妊娠は避けることが望ましい.妊娠した場合も,人工妊娠中絶が推奨される.また,妊娠年齢に達した女性は,避妊を心掛けることが推奨される195)(レベルB). a. 母体および胎児のリスク Eisenmenger 症候群は,チアノーゼ性先天性心疾患と同様に妊娠中にチアノーゼの増強を認め,出血傾向とともに,広範な肺血栓症を発症することがある195, 268, 269).肺血管閉塞性病変を伴うため,肺血管抵抗が固定され,出産時の急激な循環動態変化に対し適応が困難である31, 263, 268, 269).このため,出産時の多量出血(チアノーゼ心疾患に伴う,出血凝固異常のため)により,血圧低下および酸素飽和度低下を生じることがある264).また,肺血栓症と同時に,肺出血を伴うこともある264).母体死亡は,おもに出産後数日か 表29 チアノーゼ性先天性心疾患患者の妊娠に関する 母体・胎児の合併症• 心機能低下,心不全• 出血,脱水• 血栓塞栓形成,奇異性血栓• チアノーゼ増悪• 流産,早期産,死産,低出生体重児(すべてレベルB)