p.49 抽出テキスト
好に修復されているため,妊娠・出産に関する母体の心血管リスクは一般妊娠に近い.ただし,産科および児のリスクは決して低いとはいえないため注意が必要である. 妊娠・出産危険因子は,高度肺動脈弁逆流による右室機能不全,左室機能不全,肺高血圧などであり,心不全の増悪,頻脈性不整脈を伴うことがある.妊娠前の十分な心血管病態の評価が必要である. 高度の右室流出路狭窄を伴う場合は,妊娠前に再手術治療を行うことが推奨される.出産後,大動脈拡大や大動脈弁逆流が進行することがあるので注意する232, 233, 236, 237, 240) (レベルB). 1.3.2 完全大血管転位症修復術後 心房位転換手術(Mustared 手術あるいはSenning 手術後)は,右房血流と左房血流の心房内ルートを作成して転換した結果,右室が体心室を担うため,右室が後負荷(体血圧)に加えて,妊娠時の容量負荷に耐え得るかが,妊娠リスクを決める.また手術時期の遅れた症例では肺高血圧が残存していることがあり,事前の評価が必須である242, 243).心房位転換手術後で,体心室機能が良好,遺残病変が軽度の場合は,妊娠中のリスクはあまり高くはない244–247)(レベルB).しかし,有意な不整脈(22%),妊娠時高血圧(18%),早期破水(14%),切迫早産(24%),早産(31%),低出生体重児(22%)など,産科的合併症も多い248).また,早産や低出生体重児がやや多く,流産率も10 ~29% と高い244–251)(レベルB). 右室(体心室)機能低下,遺残肺高血圧,不整脈などがすでに合併していると,母児ともに慎重な経過観察が必要となる5)(レベルC).妊娠中や出産後に,心不全(16%),右室機能不全(約10%),三尖弁逆流増悪,心房細動を含む上室頻拍(数%),洞機能不全などが起こることがある244–248)(レベルB).また,出産後の心臓移植を含むと,母体死亡を4% 程度に認める249). 心房位転換手術後の予後を大きく左右すると考えられる右室機能低下や三尖弁逆流は,その約半数で出産後も改善しないと報告されている120).ACE 阻害薬の使用は胎児腎毒性と催奇形性の可能性から禁忌であることも管理を難しくする一要因となる5).このため,妊娠前のカウンセリングで十分な情報提供を行っておく必要がある 動脈位変換手術後(Jatene 手術)は,一般に心機能はよく,不整脈も比較的少ないため,妊娠出産にもよく耐容すると考えられる.本術式における中期予後で留意する必要がある肺動脈狭窄,大動脈弁逆流,冠動脈狭窄・閉塞による虚血性病変など存在すれば妊娠におけるリスクとなる.多数例の報告はまだないものの,妊娠・出産に関する比較的良好な結果が報告されている252). Rastelli 手術後の妊娠・出産の報告はまだ多くはないが, Fallot 四徴症の修復術後と同様の注意が必要となる.心機能がよく,右室流出路狭窄が高度でない場合は,妊娠・出産のリスクは高くない253, 254).右室流出路狭窄が高度の場合は,右室機能不全,心室頻拍,心房細動を含む上室頻拍などを生じる可能性が高く,妊娠前に再手術による修復が推奨される.そのため,妊娠前に右室流出路導管狭窄,肺高血圧,右室機能などの評価を十分に行う必要がある.また,妊娠中に左室流出路狭窄が進行することがあるため留意が必要である28). 1.3.3 その他の特異な疾患 これ以外に,両大血管右室起始症255),VSD のない肺動脈弁閉鎖症257)などでの出産の報告がある.基本的には最終到達手術によると考えられるが,右室流出路形成術やRastelli 手術であれば,先述のとおり,妊娠・出産は可能であると考えられる.one and one half 手術では,いまだ経験症例数が少ない.Fontan 手術に関しては後の項目に譲る(第2 章1.5.1 解剖学的特徴と病態を参照のこと). 1.4 チアノーゼ残存例 チアノーゼを呈する先天性心疾患は,妊娠・出産の適応・管理を考えるうえで,肺高血圧が存在するかどうかがもっとも重要なポイントとなる.したがって,本ガイドラインではチアノーゼ性心疾患を以下の2 つに分類して,それぞれの病態やリスク管理のあり方について述べる.すなわち「肺高血圧症のないチアノーゼ性先天性心疾患」と,「Eisenmenger 症候群」である.両者ともに母児の妊娠リスクは非常に高いことが知られている.前者は胎児に高く,後者は母体に高い.現時点においても,チアノーゼ性先天性心疾患の妊娠・出産に関する報告は少なく,多数例での検討もほとんどない.しかし,ESC は,チアノーゼ性先天性心疾患女性の18% が出産を経験していると報告しており258),今後,わが国でも増加してくる可能性がある. 1.4.1 肺高血圧症のないチアノーゼ性先天性心疾患 肺動脈閉鎖・狭窄を伴う,肺血流減少型のチアノーゼ性先天性心疾患が,心内修復術を施行されず,チアノーゼが残存している状態である.肺血流増加のための姑息手術(Blalock-Taussig 短絡術****など)を受けている場合もある.Fallot 四徴症,完全大血管転位症,総動脈幹症,単心室症,三尖弁閉鎖症などが該当疾患である.妊娠・出産リスクは,チアノーゼの程度に依存し,母児ともにリスクは