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p.45 抽出テキスト

有意な大動脈弁逆流以外は,負荷は軽度で妊娠時の問題は少ない.しかし,漏斗部欠損に伴う大動脈弁逆流は進行性のことが多く,機械弁置換術後の妊娠では,抗凝固療法による母体・胎児のリスクが少なくないため(第2 章3. 2抗凝固・抗血小板療法を参照のこと),大動脈弁の変形と逆流の状態によっては,弁置換術を必要としない軽症のうちに,VSD の修復術を行うことが推奨される.高度の肺高血圧症合併例では妊娠は禁忌である(第2 章2. 肺高血圧症を参照のこと).ASD と同様に,modified WHO 分類はクラスII に分類され,問題なく治療されているVSDよりはリスクが高い47).

1.1.3 心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)

心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)は,通常は小児期に手術される.しかし,一次孔型ASD に僧帽弁裂隙を合併する不完全型で肺高血圧症もない例では,小児期を通じて無症状なことが多く,妊娠を契機に発見されることがある.この場合の病態は,ASD に僧帽弁逆流が合併しているにすぎず,多くの場合は妊娠・出産を通じて大きな問題なく経過する.ただし,心房性不整脈の管理が必要となることがある.肺高血圧症合併例では,VSD における場合と同様の管理が必要である.

1.1.4 動脈管開存症(PDA)

短絡量が少なく,肺動脈圧も正常の例では,とくに問題なく妊娠・出産を経過する.modified WHO 分類はクラスI に分類される47).短絡量が多い例では,妊娠経過とともにうっ血性心不全を示す可能性があるため208),妊娠前に経カテーテル的閉鎖術や手術治療を施行しておくことが望ましい.

肺高血圧症例では,妊娠そのものが禁忌である.さらに,本症では肺動脈瘤を合併することがあり,妊娠中や産褥期に,まれに大動脈や肺動脈の解離や破裂を来たす場合がある209).

1.1.5 先天性大動脈弁狭窄症 (第2 章3. 1 弁膜症と人工弁置換術後を参照のこと)

妊婦の大動脈弁狭窄症は,ほとんどが先天性二尖弁に伴うものである210).予後は弁狭窄の重症度によって異なり,軽度から中等度の狭窄では,妊娠期間を通じてなんら合併症を起こすことなく経過する.一方,最近の報告では,中等症以上では,たとえ妊娠の予後が順調であっても,遠隔期に外科的インターベンションが必要となる確率が高くなることが報告されている117).これは,妊娠が中等症以上の大動脈弁狭窄症の自然歴を悪化させる可能性を示すもの

であり,注意が必要である.

高度大動脈弁狭窄は,平均圧較差>40 mmHg,弁口面積<1.0 cm2,著しい心肥大,左室機能低下のある例である.この場合は妊娠の経過とともに,循環血液量と1 回拍出量の増大のために狭窄部の圧較差が増加する.結果として,左室の負担が増加し,肥大した左室心筋に相対的虚血を引き起こし,狭心痛,左心不全,肺うっ血を来たすのみならず,ときに突然死を来たすことすらある211).

高度大動脈弁狭窄症例では母体リスクがきわめて高い.したがって,大動脈弁置換術や経皮的バルーン大動脈弁形成術により,大動脈弁狭窄解除後に妊娠することが推奨される212).機械弁置換術後の妊娠では,抗凝固療法による母体・胎児のリスクが少なくないため(第2 章3. 2 抗凝固・抗血小板療法を参照のこと),妊娠中の抗凝固療法のリスクを回避するために,生体弁置換術またはRoss 手術*が選択肢となり得る.バルーン弁形成術は石灰化や変形の著しい弁には不適であり,また高度大動脈弁逆流を生じる可能性があるため,弁置換術の方がより確実な効果を得られる.万が一,弁狭窄未解除例が妊娠した場合には,きわめて注意深く経過を観察し,症状の出現に注意を払い,心電図や心臓超音波検査を繰り返して,変化を把握する必要がある213).妊娠早期に心症状が強く出た場合には,人工妊娠中絶を考慮する.心電図での新たな再分極(ST–T 変化)の出現や,超音波ドプラ法計測による1 回拍出量の経時的増大が認められない場合などは,注意が必要である.この場合は,安静やβ遮断薬などによる加療が必要となる.なお,高度大動脈弁狭窄症においては,心拍出量は前負荷に依存しているため,出産時の出血による前負荷の低下からショックに陥ることがある.

二尖弁性の大動脈弁狭窄症では,大動脈縮窄症やPDAなど,ほかの異常を合併している可能性もあり,注意深く評価する必要がある.また,大動脈二尖弁は大動脈嚢胞性中膜壊死を伴うとされており,妊娠7 ヵ月目以降に大動脈解離を発症することもある214).妊娠中に大動脈弁置換術を施行した症例報告も散見されるが,母体・胎児への影響は大きい215).

大動脈二尖弁で大動脈径が45 mm 未満の場合, modified WHO 分類はクラスII ~III に分類され,45 mm ~ 50 mm の場合はクラスIII,50 mm 以上の場合はクラスIVに分類される47). * Ross 手術:大動脈弁位に弁を含んだ自己の肺動脈基部を移

植し,肺動脈弁は通常生体組織弁を移植する手術.