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p.35 抽出テキスト

9.2 治療

抗菌薬は,非妊娠時と同様に起因菌の抗菌薬感受性に応じて使用する(抗菌薬の使用方法については,「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂)」185)参照のこと).ペニシリン,アンピシリンは安全であるが,ゲンタマイシン使用は胎児に聴覚障害を生じる可能性があるため,非常に重篤な状況で,利益がリスクを上回る場合のみ使用を検討することを,ESC 20)をはじめ多くのガイドラインが推奨している.2015 年の非妊婦のIE 治療に対するAHA のステートメント190)では,腸球菌に対する治療オプションとしてdouble β-lactam(アンピシリン+セフトリアキソン)もあげられているが,妊婦における多剤併用の効果・リスクはエビデンスがなく不明である.また, ESC の妊娠中の心血管疾患管理ガイドライン20)では,ペニシリン,アンピシリン,アモキシシリン,ダプトマイシン,エリスロマイシン,セファロスポリンは使用可とされているが,国内における妊婦におけるダプトマイシンの使用に関しては,2018 年の時点ではまだエビデンスがなく不明である.

妊娠中の心内膜炎に対する心臓外科手術は流産を生じる可能性が高く,集学的なチームにおいて慎重な検討が必要である.

9.3 予防

経膣分娩後の菌血症の頻度は0~5% と低いが186),中・高度リスク疾患群では感染を起こした場合の重大性と抗菌薬の費用を比較した場合,抗菌薬投与を否定する根拠はなく,また抗菌薬投与のリスクとされる抗菌薬アレルギーはほとんど認められていない20, 184, 185, 190).

以上より本ガイドラインでは,心疾患を有する女性の産科的手術・手技や分娩時の抗菌薬の予防投与の適応を以

下のように考える. • 少なくともIE の高度リスク群においては,分娩時の抗

菌薬の予防投与を推奨する20, 184, 185, 190). • 高リスク以外の心疾患では,IE の発生確率が低いこと

を考慮して抗菌薬の予防投与を強くは推奨しないが,その他の合併症予防などのリスク・ベネフィットの観点から,予防投与を行うことを否定するものではない.以上のような見解を医療従事者から患者に十分に説明することが重要である.そのうえで,予防投薬の判断は個々の症例や妊娠の状況,社会状況によって異なり,実際に診療に携わる産科または循環器担当医や,感染症科医の専門的な判断に委ねることとする.

泌尿生殖器や消化管に対する手術・処置後に発生する心内膜炎の起因菌の多くがEnterococcus faecalis であることを考慮し,分娩時に主として腸球菌をターゲットとした予防投薬を行うことが一般的であるが,Enterococcus faecium はほとんどがペニシリン非感性である.また,近年は黄色ブドウ球菌によるIE も増加している185)ことも念頭におく必要がある(表18).

10 妊娠中の薬物療法(表19 ~27)

妊娠時の薬物療法について表19 ~27 にまとめた.薬物療法における妊娠総合評価の定義は表19,授乳総合評価の定義は表20 に示した.実臨床で使用される場合を想定し,一部で添付文書の記載とは異なる推奨となっている.使用に際しては,それぞれの病態・重症度に応じて適宜判断する必要がある.

表18 抗菌薬の標準的予防投与法

経口投与βラクタム系抗菌薬

アレルギー抗菌薬投与量投与回数備考

可能なしアモキシシリン2 g *1, *2単回処置前1 時間に投与

不可能なしアンピシリン1~2 g単回

処置開始30 分以内に静注,筋注,または手術開始時から30 分以上かけて点滴静注セファゾリン1 gセフトリアキソン1 g処置開始30 分以内に静注,または手術開始時から30 分以上かけて点滴静注

*1 または体重あたり30 mg/kg *2 なんらかの理由でアモキシシリン2 g から減量する場合は,初回投与5~6 時間後にアモキシシリン500 mg の追加投与を考慮する