p.33 抽出テキスト
2006」176)では,抗菌薬以外に生食や等張液を80 mL/ 時で点滴静注し,4 時間を1 つのブロックとして尿量を記録し,2 ブロック連続で40 mL/ ブロック未満の場合は,輸液量に合わせてフロセミドやアルブミン製剤を利用して利尿を図ることを勧めている. 8.1.2 血圧管理 分娩中に降圧治療を行っていた場合は継続し,高血圧脳症や重要臓器障害の予防のため,重症高血圧未満または妊娠前のコントロール域を目標に管理する.重症でも目標血圧域に関しては一定の基準はなく,重症の妊娠高血圧腎症や早期発症型ではより厳重な降圧管理が必要であり,英国National institute for health and care excellence(NICE)のガイドライン177)では<150/100 mmHg,カナダ産科婦人科学会(Society of Obstetricians and Gynaecologists of Canada: SOGC)の妊娠高血圧症候群の治療ガイドライン178)や米国産科婦人科学会(American college of obstetricians and gynecologists: ACOG)の妊娠高血圧腎症の治療ガイドライン179)では<160/110 mmHg を保つことを推奨している.また,降圧療法中は尿量低下にも注意する.高血圧腎症では25% 以上が産後に悪化する可能性があるため179),血圧測定とともに血小板数,AST/ALT,血清クレアチニンなどの血液検査や,in-out balance を測定し,軽症~中等症の場合でも重症に移行しないか注意観察する.HDP に伴う高血圧は,多くは分娩後1 週間以内に軽快するが,重症の場合は2 ~12 週間高血圧が持続する場合がある.退院後に血圧が再上昇し,産後1 週間頃に脳卒中に関連した母体死亡の頻度が高まるという報告もある180).少なくとも産褥12 週までフォローが必要だが,産後12 週以降も継続する高血圧の場合は内科医師とともに管理を行うことを考慮する.降圧薬の選択は,基本的には妊娠中と同様であるが,カプトプリル,エナラプリルなどのACE 阻害薬については少量の乳汁移行はあるものの,その安全性が確認されている. 重症高血圧,産褥子癇,脳出血,腎不全,HELLP 症候群,DIC などの重篤な合併症を危惧する重症妊娠高血圧腎症の場合は,病状と薬理作用に注意して薬剤を選択し,密に血圧を測定しながら投与量を調節する.とくに,ヒドララジンはその反射性交感神経作用と血管拡張作用から,脳出血急性期,過度の頻脈,心臓病合併には禁忌であり,蓄積性薬剤のため使用後は低血圧(収縮期血圧<90 mmHg)に気を付ける.また,ラベタロールは喘息合併の場合禁忌であることは注意する.そのため,高血圧緊急症や子癇発作の場合は,ニカルジピンの点滴静注の方が安全である.ニカルジピンは静注製剤のなかでももっとも半減期が短く,調節性にも優れているので使用しやすい181). 帝王切開後などで非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用する際は,NSAID のプロスタグランジン産生抑制作用により腎障害を起こすことがある.とくに,高度腎機能障害(推算糸球体濾過量[eGFR]<50~60 mL/分/1.73 m)や,乏尿,クレアチニン上昇(≧1.3 mg/dL),血小板減少(<50×109 /L)などを認める場合には使用を避けることが望ましい178, 182).蛋白尿は早期に発症し,重症であるほど残存する期間が長い.産後12 週経過しても残存している場合は,内科医師とともに管理していくことを考慮する183). 9 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎(IE)の発症には2 つの要因が関与する.心臓もしくは血管に感染しやすい部分があることと,菌血症を生ずる感染源の存在である.易感染病変は高速血流のジェット衝撃の加わる部分,乱流,ずり速度の速い部分である.感染リスクの高い心疾患は,心内膜炎の既往,チアノーゼ性先天性心疾患,大動脈肺動脈吻合術後,人工弁などの,合併症発生率や死亡率が高い疾患群である.一方, VSD や僧帽弁逆流の合併した僧帽弁逸脱症などの比較的軽症の疾患群は,欧米ではAHA のガイドライン(2007 年改訂)以降はIE の高リスク疾患から除外されることとなったが184),これらの疾患の心内膜炎発症後の死亡率は決して低くはない.そこで,日本循環器学会の「成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂)」79)と「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂)」185)では,引き続き低リスク群以外のIE の予防投与を行うことを否定するものではないとしている(表16,表17). 9.1 頻度,予後 IE は発生頻度が低い.また,妊娠中の循環血液量が増加することで,心内膜炎による心不全,頻拍,動悸などの症状はマスクされるために診断が遅れることが多い.心疾患全体を対象とした全国調査では,産科的処置後の心内膜炎をわずかながら認めており186),海外の報告では発生率は0.006% 程度とされている187-189).しかし,いったんIE を発症すると,母体死亡率は11 ~33%,胎児死亡率は14 ~ 29% と報告されており187-189),注意を要する.