p.32 抽出テキスト
8 産後の管理,産褥,いかにして 循環器科に移行するか 8.1 分娩~産褥の生理と管理 妊娠中は,循環血液量増加や心拍数増加,凝固系亢進や線溶系低下により,分娩時出血に耐えうる生理的変化が起こっている(第1 章1. 妊娠・分娩の循環生理:妊娠・出産における母体の変化を参照のこと).しかし,分娩時出血によって,循環系は数週間のうちに劇的に変化する.妊娠32~34 週までに非妊時より約40% 増加した循環血液量は,出血などにより分娩直後には約1,000 mL 減少し,分娩3 日目までの体液移動により再び900~1,200 mL 増加し,約4 ~6 週間かけてもとに戻る.赤血球量は分娩後8週までに正常に回復し171),心拍出量は分娩後8 ~10 週の測定で正常に回復したという報告がある172).糸球体濾過量とクレアチニン・クリアランスは妊娠中に増加するが,分娩後8 週までに非妊時のレベルまで減少する. 妊娠高血圧症候群(HDP)の根本的な治療は妊娠の終了であるが,分娩後も影響が残っているため厳重な管理を要する.その際にはHDP の分類別の病態を十分に理解し,合併症の併発リスクを考慮した管理を行う.HDP は,絨毛細胞障害に血管内皮傷害,全身炎症が加わることで起こり,全身の血管透過性が亢進する加重型(superimposed)や妊娠高血圧腎症(preeclampsia),妊娠負荷に対する恒常性の破綻により血圧が上昇する妊娠高血圧症(gestational hypertension),妊娠前から高血圧症のある高血圧合併妊娠(chronic hypertension)の3 つに分けた考え方で管理を行う. 8.1.1 輸液管理 分娩後,数日間は血管透過性の亢進が続き,高血圧に伴う肺静脈圧の亢進や膠質浸透圧の低下などにより子癇や,肺・肝・腎などの重要臓器に機能不全を起こす可能性がある.そのため,とくに分娩後36~48 時間はバイタルサインをモニタリングし,水分出納管理,血液検査,画像検査を必要に応じて行う.軽症HDP の場合であっても,分娩後に重症化する場合もあり注意する. 呼吸不全を伴う急性肺水腫は,重症妊娠高血圧腎症の2.9% に起こり,その70% は分娩後に起きる173).また, HDP に対する過量輸液投与と急性肺水腫発症には強い相関関係があり,5,000 mL 以上での相対リスクが1.9 倍, 10,000 mL で4.0 倍,15,000 mL で9.0 倍にまで上昇するとの報告がある174).とくに,腎機能障害,高度浮腫,胸水・高度腹水貯留,子癇,HELLP 症候群,産科的播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulatioin cyndrome: DIC)徴候またはこれが疑われる症例では,分娩後早期から,1 高血圧に対する降圧療法,2 SpO2 モニタリングのもと利尿薬投与,3 子癇予防のための硫酸マグネシウム投与,4 静脈血栓塞栓症予防のための対応などを検討し,それらを含めた厳重な輸液管理を行う175).利尿薬投与に関してガイドライン化されているものは少ないが,「British Columbia Reproductive Care Program(BCRCP) A 四腔断面像 図5 正常な胎児心臓超音波検査図のシェーマB 三血管断面像 三血管断面像:左前から右後ろにかけて,ほぼ一直線上に並ぶ3 本の血管の断面が描出される.血管径は左前から,大,中,小の順番である. 四腔断面像:心臓が胸郭やや左に存在し,心尖部は左側を向く.心断面積は胸郭断面積の約1/3を占める.左右の心房心室は同等の大きさである. 左 右室左室右房 左房 下行大動脈左下行大動脈 主肺動脈上行大動脈上大静脈