p.22 抽出テキスト
心肥大がみられる86, 91, 92). 拡張型心筋症(DCM)の家族内発症はHCM に比べて少なく,約30% とされている.原因遺伝子としては,αアクチニン,デスミン,タイチン,ジストロフィンなど,心筋細胞骨格や細胞接着分子に遺伝子変異が認められることが多いが,HCM 同様にサルコメア変異も報告されている86, 91, 93)(表11).不整脈原性右室心筋症は,臨床的に右心室に有する心室不整脈を主症状とし,病理組織学的に右心室優位の心筋細胞の変性,脱落と線維脂肪浸潤の増加を示す疾患である.遺伝子異常として,約30% の症例にプラコフィリン2(PKP2)が,またその他に,デスモプラキン,プラコグロビン,プラコフィリン,リアノジン受容体-2,TGF-β3 などの遺伝子変異が報告さている94, 95).ミトコンドリア心筋症は,ミトコンドリアにおけるエネルギー産生障害に基づいて引き起こされるミトコンドリア病のなかで,HCM,DCM,拘束型心筋症,刺激伝導障害などのさまざまな心病変を示す代謝性心筋症である96, 97).一般にミトコンドリア病では,中枢神経障害(精神運動発達遅滞,痙攣,意識消失),筋力低下,乳酸アシドーシスなどの全身症状がみられることがある.ミトコンドリア心筋症は母系遺伝を示すことが多く,無症状の母方家族に変異が検出されることがあり,遺伝学的な配慮が必要である. これらすべての遺伝性心筋疾患においては,妊娠に伴う循環動態の変化により生じる母体および児へのリスクを十分に説明するとともに,児への疾患の繰り返しに関する遺伝的情報を説明する必要がある.なかには,遺伝子変異を有しながら発症しない例や,臨床像との関連が少ない場合も多く,遺伝子診断の判定には慎重を要する場合がある. c. 遺伝性不整脈 突然死の原因となる遺伝性QT 延長(LQT)症候群,カテコラミン誘発多形性心室頻拍,Brugada 症候群,進行性心臓伝導障害,家族性洞機能不全症候群,家族性心房細動,QT 短縮症候群などでは遺伝子異常が明らかとなって いる(第2 章6. 不整脈を参照のこと) 97–100)(表12). QT 延長症候群は,基礎疾患がみられずに心電図上QT間隔が延長し,心室頻拍や心室細動から失神および突然死に至る可能性のある疾患群である.常染色体優性遺伝のRomano–Ward 症候群と常染色体劣性遺伝で難聴を伴うJervelle & Lange–Nielsen 症候群に大別されている.現在までに,カリウムおよびナトリウムチャネル遺伝子を中心として,LQT1-LQT13 まで分類されており,300 以上の遺伝子異常が報告されている98, 101)その内訳は,LQT1(約40%),LQT2(約30 ~40%),LQT3(約10%)とされており,LQT1 ~LQT3 で全体の約90% を占める.一般にLQT1 は運動中や水泳中に,LQT2 では睡眠中の聴覚刺激(目覚まし時計など)により,LQT3 では安静時および睡眠中に心イベントを起こす.遺伝子診断に基づいたリスク診断の可能性と,LQT タイプ別の治療方針の選択が推奨されている102, 103). Brugada 症候群は,右側胸部誘導心電図(V1-V3)にて右脚ブロック様の心電図波形と特徴的なST 上昇(coved型またはsaddle back 型)を伴う,中年男性に多い特発性心室細動の症候群である.責任遺伝子としてナトリウムチャネルαサブユニット(SCN5A)の異常が15 ~25% に報告されている104). カテコラミン誘発多形性心室頻拍は,学童や青年期において運動や交感神経の刺激に伴い心室頻拍から失神や突然死をきたす症候群であり,心筋細胞小胞体のリアノジン受容体(RyR2)の遺伝子異常が報告されている100). 遺伝性不整脈疾患の内服治療の詳細および植込み型除細動器の適応については,日本循環器学会「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」105)を参照されたい.これらすべての遺伝性不整脈疾患においても,妊娠に伴う母体および児へのリスクを十分に説明するとと 表11 遺伝性心筋症の疾患原因遺伝子(続き) 蛋白遺伝子遺伝様式おもな表現型α-ディストロブレビンDTNA AD左室緻密化障害AMP 活性化プロテインキナーゼPRKAG2 AD HCM,WPW 症候群α-ガラクトシダーゼA GLA XR Fabry 病α 1,4- グルコシダーゼGAA AR Pompe 病リソゾーム膜蛋白2 LAMP2 XR Danon 病AD:常染色体優性遺伝,AR:常染色体劣性遺伝,XR:X 染色体劣性遺伝,HCM:肥大型心筋症,DCM:拡張型心筋症,RCM:拘束型心筋症,ARVC/D:不整脈原性右室心筋症(日本循環器学会.2012 86),Kimura A, et al. 2010 87),Landstrom AP, et al. 2010 88) ,Watkin H, et al. 2011 89),Bos MJ, et al. 2009 90),Kimura A, et al. 2008 91),Arad M, et al. 2005 92),Kamisago M, et al. 2000 93)より作表)