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p.17 抽出テキスト

「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン(2011 年改訂版)」

72)に詳細が記

載されているので参照されたい.

3.5.1 遺伝的要因

わが国における先天性心疾患の発生頻度は生産児の1.06% であり73),新生児死亡の原因となる先天性疾患のなかではもっとも頻度が高い.その成因による内訳は,染色体異常(8.2%)や遺伝子病(4.7%)などの遺伝要因によるものが全体の約12.9%,母体の全身疾患,胎内感染,催奇形因子など環境(外的)要因によるものが0.5% であり,残りの86.7% は成因不明の多因子遺伝(多くの先天性心疾患)によると報告されている74).純粋にメンデル遺伝のみで説明できる先天性心疾患は一部であり,大半は胎内での形態形成,生後の発達・発育,加齢に伴う環境要因によって疾患遺伝子の関与の程度が左右され,表現型の多様性と深くかかわっていることが明らかになってきた75).

一方,近年のゲノム医学ならび遺伝子改変マウスを用いた発生工学の目覚ましい発展により,多くの遺伝性先天性心疾患の責任遺伝子が明らかになってきた.その代表的な疾患と,表現型および疾患遺伝子を表 9 に示す74–78).各疾患の臨床像や妊娠・出産における問題点に関しては,第2 章 基礎心疾患別の病態を参照されたい.

3.5.2 環境要因

先天性心疾患の成因として,妊娠中の胎児および母体の環境要因も重要である(表10)

79).妊婦の喫煙は児の

VSD,Fallot 四徴症,ASD,完全大血管転位症の発症の危険因子であることが,妊婦の飲酒は中枢神経系の障害を伴う胎児性アルコール症候群の発症と関連することが報告されている74, 80).また,妊娠早期の風疹ウイルス感染 や,血糖値のコントロールが不良な糖尿病も危険因子である81).全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)やシェーグレン症候群に罹患した妊婦では,抗SSA,抗SSB 抗体が経胎盤的に移行して児に高度房室ブロックが発症することがあり,治療として 1 度房室ブロック段階での母体へのステロイド投与が推奨されている82, 83) . フェニルケトン尿症では,心疾患を発症する危険性があり,妊娠前からの低フェニルアラニン食によるコントロールが必要となる84).また,胎児に先天性心疾患をもたらす可能性のある薬剤として,アンフェタミン,ヒダントイン, トリメタジオン, リチウムが報告されている76, 81).妊婦が摂取するビタミンの過不足も先天性心血管異常と深い関係があり,ビタミンA の過剰摂取は,胎児に心臓流出路障害とともに,中枢神経系,口蓋,胸腺の異常をきたす85).妊婦の葉酸摂取が不足すると,児にVSD な

どの心血管異常をきたすため,食品への葉酸の添加もなされている81).母体の有機溶媒への曝露も,児に房室中隔欠損症,完全大血管転位症,肺動脈狭窄症などさまざまな先天性心疾患をもたらす81).

3.5.3 各疾患群にみられる染色体異常・遺伝子異常

a. 先天性心疾患

先天性心疾患の多くは多因子遺伝と考えられており,メンデル遺伝様式には従わないことのほうが多い.しかし,先天性心疾患をもつ親から生まれる子供たちは,先天性心疾患を繰り返す頻度が高く,一般に比べて3 ~5 倍と考えられている73, 76).さらに,母親が先天性心疾患の場合は,父親が先天性心疾患である場合より2 倍以上高い.このため,心疾患を有する妊婦には,妊娠18 ~20 週に,胎児心エコー法スクリーニングを受けることが推奨される47).

近年,先天性心疾患の原因となる数多くの遺伝子異常が明らかになっているが(表9),先天性心疾患を有する妊婦の場合,子供への再発危険率や可能な遺伝学的検査に関する正確な情報を提供することが重要である.このため,3世代にわたる家系情報(血族結婚,流産・死産の有無)の聴取と,両親の染色体異常を疑わせる身体所見の精査は,基本事項である47).

22q11.2 欠失症候群,Marfan 症候群,Holt–Oram 症候群,Noonan 症候群,Alagille 症候群,Williams 症候群は優性遺伝形式をとり,児が罹患する確率は50% である.

22q11.2 欠失症候群は,先天性心疾患では21トリソミーに次いで2 番目に多く,円錐動脈幹心形成異常(大動脈弓離断,総動脈管遺残症,Fallot 四徴症,肺動脈閉鎖症,大動脈弓異常)の合併頻度が高い染色体異常である.家族内で重症度に差があり,第一世代より第二世代において症状が重く,親の臨床症状が目立たない場合が多い.親に軽症の心疾患,特徴的顔貌,口蓋裂の治療歴,軽度の精神発達遅滞などが認められる場合,22q11.2 の欠失保因者であることが疑われる.そのため,円錐動脈幹心形成異常などの優性遺伝形式をとる心疾患の場合や,家族歴のある妊婦の場合には,児の罹患率を予測するうえで,遺伝学的検査は有用である72, 85).

Marfan 症候群は,結合組織(細胞外マトリックス)異常が原因の遺伝性疾患で,その表現型により診断される.常染色体優性遺伝であるが,25% は遺伝性が証明されず,突然変異で発症したと考えられている71).15 番染色体上(15q21)のフィブリリン1 遺伝子(FBN1)が原因で,変異は1,000 以上報告されており,それぞれの変異は家系や散発例で特徴がある.