p.16 抽出テキスト
3.4 避妊法 成熟女性は誰でも妊娠する可能性がある.成熟していれば未婚・既婚は問わない.年齢や社会的条件にも左右されない.妊娠は許可されて行うものではない.まして,禁止できるものではない. 現在のような個人の価値観の多様性が認知されている社会において,避妊に関するカウンセリングでもっとも重要なことは,母体のリスクによる根拠のみから判断するということであり,カウンセリングを行う人あるいは受ける人の個人的観念にとらわれないということである. 避妊を行うか否か,妊娠・出産を希望するならば,いつ妊娠をするか,時間的に疾患の治療を先行させるか,妊娠・出産を先行させるかなど,以下の項を参照し具体的方法を決定する. なお,Thorne らは,心疾患合併の妊娠・出産のリスクを4 段階にクラス分類している69).また,WHO は,ある避妊法が,ある疾患合併女性に対して適合しているか否かを4 段階にクラス分類している.これらのクラス分類により,どの疾患の女性に対して,どの避妊法を推奨するか参考のうえ検討することができる. 3.4.1 避妊方法の選択 永久不妊方法として,卵管結紮による永久不妊術がある.妊娠の可能性を残すものとしては,子宮内避妊器具,低用量避妊薬,古典的バリア法がある.また,パートナーの避妊法として,精管結紮による永久不妊術やコンドーム法などがある.それぞれに利点, 欠点があるため,避妊方法に関する詳細は,第3 章1. 避妊法に譲る. 3.4.2 避妊法について,疾患面から考慮する事項 以下の5 項目について考慮する. 1 妊娠が危険とされている疾患あるいは状態か否か2 疾患が進行性か慢性的か3 現在の状況と,将来予測される状況を比較して,どち らがよりよいか4 投薬や手術により疾患の状態が改善する可能性がある か否か5 機械弁置換術後などでワルファリンを使用しているか 否か 3.4.3 避妊法について,社会的な面から考慮する事項 以下の6 項目について考慮する. 1 年齢2 既婚か未婚か,未婚の場合は定まったパートナーの存 在,結婚の予定の有無3 生活の安定性3 本人の職業5 生活地域,管理する医療機関との距離6 現在の子どもの数,将来希望する子どもの数 3.5 遺伝カウンセリング 心疾患患者の妊娠においては,心疾患の親子間の繰り返しの可能性など,遺伝学的な知識を正確に伝える必要があり,遺伝カウンセリングの重要性は増している.遺伝カウンセリングを行うにあたっては,対象者本人の自己決定権の尊重,わかりやすい十分な説明の実施,未成年者への配慮,得られた情報の守秘義務の遵守など,基本的人権に関与する事象への慎重な対応が強く求められる.また,遺伝カウンセリングでは,クライエント(遺伝カウンセリングを受ける人)の意思決定を誘導するのではなく(非指示性),意思決定の手助けをする姿勢(支援的態度)が求められる.そのため,心臓血管疾患の遺伝カウンセリングは,遺伝学・心臓病学・疫学の十分な知識と経験をもち,カウンセリング一般の基礎的技術を身につけた習熟したカウンセリング担当者によって行われることが望ましい.カウンセリング担当者はかならずしも医師である必要はないが,当該心臓血管疾患の診療に習熟した専門医との十分な連携が不可欠である.また,染色体異常/ 遺伝子異常症候群を合併した成人先天性心疾患患者には,知的障害や精神疾患の合併も多く,理解力を考慮した適切な説明,および親・配偶者・ソーシャルワーカーなどのキーパーソン同席での説明が必要である. 遺伝カウンセリングの原則は,遺伝関連 10 学会が提案した「遺伝学的検査に関するガイドライン(2003)」70),日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン(2011)」71),また,心疾患系疾患における遺伝カウンセリングのさまざまな留意点は,日本循環器学会の 表8 妊娠の際に厳重な注意を要する,あるいは妊娠を避け ることが強く望まれる心疾患• 肺高血圧症(Eisenmenger 症候群) • 流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄平均圧>40~50 mmHg) • 心不全(NYHA 心機能分類III~IV 度,LVEF <35~40%) • Marfan 症候群(上行大動脈拡張期径>40 mm) • 機械弁• チアノーゼ性心疾患(SpO2 <85%) (Therrien J, et al. 2001 66),Therrien J, et al. 2001 67),Therrien J, et al. 2001 68)より作表)