p.12 抽出テキスト
テップが望ましいか,あるいはその手前の段階の検査,たとえば心エコーやホルター心電図記録,運動負荷試験, MRI などの非侵襲的な検査でよいか,具体的な検査についての情報を提供する.なおかつ,次回の定期検診までに妊娠を考える可能性がある場合には,早めに診察,相談に来るように話をしておく.そして,本格的な結婚前,結婚後などでの妊娠前カウンセリングへと進んでいく.ここでのカウンセリングの内容は,まさしく挙児希望の患者を前にして,妊娠・出産における母体の心疾患に関係するリスクと産科的リスク,胎児リスク,遺伝,将来的展望(母体の心疾患患者としての寿命,就労復帰,経済的自立,保険,社会心理的展望も含む),性行為,育児問題など,具体的になってくる.表3 に妊娠前カウンセリングのポイントを示す17). これらポイントをつねに念頭において,まず患者本人,次に本人がもっとも話を聞いてもらいたいと判断する人(夫・パートナー,家族など)とともに,何度も繰り返し説明し,確認し,情報を共有する.心臓の観点のみならず,産科的・麻酔科的観点からも分娩はいかなる方法となるか,麻酔法や無痛分娩に関する情報,妊娠中はどれくらいの頻度で診察が予定されるか,産科の診察と心臓の診察は同日か,頻度も同じかどうか,入院時期はいつ頃かなどの細部にわたる疑問についても,とくに初回妊娠の場合は時間をかけてわかりやすく繰り返して説明する.2 回目以降の妊娠では,前回妊娠中の経過を体験しているために,自己管 理の点において患者の理解を得やすい.しかし,第1 子の世話をしながら,「第2 子の方が楽である」という一般通念に家族ともどもとらわれた結果,日常生活で無理をしてしまうことが多く,前回に比べて疲労感や動悸などを強く自覚する傾向がみられる.中等度以上のリスクをもつ患者では,世間一般の考えとは逆に,妊娠回数が増えるほど,心機能維持に対するより注意深い配慮が必要となることを,家族にも理解してもらう. 心疾患合併妊娠は,小児期から先天性心疾患で,経過観察中の患児が妊娠年齢に達する場合と,先天性あるいは後天性心疾患が妊娠時に初めて診断される場合とにわけられる.後者では,結婚の前後になって初めて,妊娠に関するカウンセリングが行われることが多い.しかしながら,小児期から経過観察がなされている場合には,妊娠可能年齢となる前後の適当な時期に,生活環境や性格などを十分配慮したうえで,「妊娠した場合」,「避妊する場合」さらには「中絶が必要となった場合」などについて,教育を始めることが重要である.カウンセリングを開始する時期を明示することは困難であるが,日本の性的環境を考えると,たとえば,中学校在学中にカウンセリングを開始する意義は十分にあると考えられる.定期受診の際に,母親(あるいは父親)が同伴しているときは,家族全員で考え,情報を共有することが可能となるため,妊娠に関するカウンセリングを行うよい機会となる.ただし,重要なことは,実生活において妊娠は「許可する・しない」という次元の問題ではなく,本人を中心とした世界で決定されるということである.この原則を自然に受け入れたうえで,生命の危険を伴うほどの高リスク妊娠,あるいはリスクを無視して妊娠を希望する場合など,理想とはいえない状況でのカウンセリングにも対応する.そのためにも,基本路線をガイドラインにより知っておく必要がある.さらに,個々の状況で調整,変則法が生じることは必然であろう. 妊娠後に初めて心疾患が指摘された場合には,心雑音,心電図異常,不整脈などをきっかけに,産科から循環器科へと紹介されることが多く,ここからカウンセリングが開始されることとなる.この時点で可及的速やかに,正確な診断をする必要がある.本人,夫・パートナー,家族らにとって,驚きとショックは大きいため,わかりやすい説明を繰り返し行うなどの配慮を要する.また,心理的なケアも重要である. カウンセリングは,循環器担当医と産科医が中心となって進められるが,必要に応じて,心臓血管外科医,麻酔科医,集中治療室担当医,新生児科医ら,さらに可能であれば妊婦,遺伝といった専門分野のカウンセラーや,助産師, 表3 心疾患患者に対する妊娠前カウンセリングのポイント 1 妊娠中のリスク ・ 母体の心臓リスク・ 母体の産科的リスク・ 胎児のリスク2 産褥~育児期における母体のリスクと注意点 ・ 睡眠不足の影響・ 母乳栄養か人工乳か混合栄養か,これらが母体心臓に与える影響・ 育児のサポート,保育園などをどの程度必要とするか3 母体の将来的心臓予後に与える妊娠の影響4 母体の総合的寿命5 遺伝6 母体の薬剤調整7 母体の心臓と全身状態(就業による疲労のチェック) の調整8 妊娠にむけての計画立案 ※不妊の場合:不妊治療時の注意点など※避妊の場合:安全で効果のある方法を検討(Elkayam U, et al. 2016 17)より改変) ©(2016) by the American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https:/ /www. sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-college-ofcardiology